組織活性化のポイント
組織風土から組織文化へ
1 組織風土は変えられる
組織風土とは、「組織がもつ共通の価値観」と定義することができます。
社員は、規則に明記されていなくても、無意識にその価値観に従って考え行動します。
たとえば、「残業する人は偉い」という価値観が定着している会社では、社員は仕事が終わっても定時に帰宅することをためらうでしょう。
しかし、この会社の社長が長時間残業を問題視して、定時帰宅の大号令を発した場合、社員は最初は戸惑いながらも、定時帰宅のために仕事の仕方を工夫するようになります。
それが繰り返されるうちに、定時帰宅が当たり前となり、これまでとは逆に「残業する人は仕事が遅い」という価値観が定着していきます。
このように、組織風土とはそれぞれの職場の従来の「常識」や「雰囲気」を基に形成されるものです。
社長が「常識」や「雰囲気」を意図的に変えることによって、組織風土も変えることができるのです。
2 組織風土と組織文化
「組織風土」とともに よく取り上げられるのが「組織文化」というキーワードです。
通常、この2つの言葉はあまり区別されることなく使用されていますが、本質的な意味は大きく異なります。
この違いを理解することが重要です。
組織風土とは、何もしない状態で勝手にできあがるものであり、組織文化とは、全社員が一丸となって意図的につくり上げていくものです。
特別なことを何もせずに最適な風土が定着すれば一番よいのですが、実際にはそれはほとんど期待できません。
活力ある組織づくりのためには、成り行きまかせの「風土」に頼るのではなく、自らの意志によって「文化」をつくり上げていく必要があります。
3 組織風土は社長自身がつくってきたもの
自社の組織風土について考えてみると、そこには社長自身の価値観が色濃く反映されているはずです。
会社にとって社長は絶対的な存在であり、多かれ少なかれ、社員たちは「社長の顔色」を伺いながら仕事をしています。
社長の日々の言動とまったく懸け離れた組織風土が醸成されることはまずありません。
現在の組織風土は社長の写し鏡であり、もし、組織風土に問題があると感じたのであれば、社長自身の言動についても真蟄に振り返ってみる必要があります。
創業期にはプラスに作用した組織風土が会社の成長や時代の変化によって、今はマイナス面をもたらしている可能性もあります。
そして、自らの意志で新たな組織文化をつくっていくためには、相応の決意とパワーが必要であることを覚悟しなければなりません。
4 どのような組織文化を構築すべきか
組織文化は さまざまな視点から考えていかなければなりません。その時々の会社の状況や社長の考え方によって、重視すべきポイントは異なりますが、一般的には どのような組織文化を構築したいのかを検討する必要があるでしょう。
それぞれのバランス・優先順位についても考慮する必要があります。たとえば、会社への忠誠心がゆがんだ形で突出すれば、違法行為を「指摘できない」「あえて見逃す」など、法令遵守上の問題を引き起こす可能性もあります。
このような経緯で いわゆる「不祥事」を起こしている会社も少なくありません。
5 組織文化構築の取り組み
好ましい組織文化は一朝一夕に実現するものではありません。
また、組織文化は、直接的にはコントロール不可能であり、次のような取り組みを通じて結果として醸成されていくものです。
基本的な考え方を明確にして共感させる
1 経営理念、ビジョン、戦略を明確にする
自社にふさわしい組織文化を構築するためには、まずは文化の根源ともいえる「経営理念」や「ビジョン」について、社員にはっきりと示すことが必要です。
経営理念とは「自分たちはこうありたい」という会社の存在意義を示したものであり、ビジョンとは「このような姿になりたい」という将来像を描いたものです。
たとえば、「自社商品でお客さまの心を豊かにする」というのが経営理念であり、その理念を貫くことで「5年後には地域一番企業になる」というのがビジョンということになります。
まずは、社長自身が経営理念やビジョンを明確にすることが必要です。
また、ビジョン実現のためには「戦略」が必要です。戦略とは、ビジョン実現のために、自分たちがどのような事業分野で どのような価値を生み出していくかというシナリオです。
「5年後には地域一番企業になる」というビジョンがあったとしても、そのためのシナリオがなければ「絵に描いた餅」になることは明白です。
従来と同じ方法で日々の業務をコツコツと積み重ねていくだけではビジョンは実現しません。
社長は、自社の強みや弱み、市場動向、社会動向、競合動向などを総合的に分析し、ときには「既存事業からの撤退、成長事業へのシフト」などの大胆な決断をしなければならないこともあるでしょう。
これらの基本的な考え方については、全社員にとっていつでも「見える」ことだけではなく、論理的に「理解できる」こと、さらには自分自身の価値観に照らして「共感できる」ことが必要になります。
基本的な考え方が組織文化として定着していない会社では、「理解できる」の段階で止まっていることが多いようです。
この段階では、社員は「情報」としては基本的な考え方を理解していますが、それらはあくまで会社から与えられたものに過ぎず、自ら消化して自分の「行動」にいかそうとは思っていないのです。
2 社員の「共感」を得るために
(1)会社の目標と社員の目標を一致させる
社員から共感を得るためには、経営理念、ビジョン、戦略に従って行動することで、会社だけではなく社員自身も幸せになることをきちんと説明するようにします。
社員は、「自分の能力を高めたい」「給料を上げたい」「より重要な仕事を任されたい」「家族と過ごす時間を増やしたい」などさまざまな要望をもっています。
そして、これらの要望は会社が成長することで十分に実現可能であることを伝えます。
つまり、会社と社員の目標は一致しており、その実現に向けてともに努力することの大切さを理解させるのです。
そのためには、社員自身に自らの仕事や人生について深く考えさせることも必要です。
「こうなったらいいな」という漠然としたものではなく、5年後、10年後の自分の目標を明確にさせます。
そして、その目標を会社成長のプロセスのなかでどのように実現していくかについて、十分にすり合わせを行うのです。
(2)トップ陣自らが体現する
好ましい組織文化にふさわしい行動を社長や幹部陣自らが積極的に体現することも重要です。たとえば、「自由闊達」「変革」「チャレンジ精神」といった組織文化を標榜していても、一部の幹部社員が旧態依然としたやり方にこだわり、新しい提案に耳を貸さないようでは組織文化は一向に改善しません。むしろ、「この会社は有言不実行である」との印象を与え、社員の活力はますます削がれてしまいます。
自社の組織文化にもっとも大きな影響を与えるのは、ほかならぬトップ陣であることを忘れてはならないでしょう。
組織体制を見直す
1 目標を実現するための組織体制
そもそも、なぜ会社に組織が必要かを改めて考えてみると、各自がバラバラで働くよりも組織を使って仕事をしたほうが目標に到達しやすいからです。
組織編成は、それ自体が目的ではなく、会社の目標を達成するための「手段」に過ぎません。
そうであればその目標にもっとも到達しやすい組織編成を行うことが当然の選択となります。
そして、会社の目標は変化していくので、それに合わせて組織体制も最適化していく必要があります。
たとえば、自社が本格的に新規事業を模索している場合には、新規事業の開発部門、実行部門などを独立させて、集中的な取り組みができる環境を整える必要があります。
撤退を予定している事業があれば、当該部門は縮小・廃止していかなければなりません。
また、現業部門だけではなく、経理・人事といった間接部門のあり方にも配慮する必要があります。
自社の現状や将来を見据えて、目標実現のための最適な組織体制を構築することが大切です。
2 会社の成熟度合いに応じた組織体制
会社にはその成熟度合いに応じたふさわしい組織体制があります。創業間もない頃に必要な組織体制と十分に成熟した後に必要な組織体制はまったく異なります。
これを4つの段階に分けて考えると次のようになります。
(1)集中段階
創業社長が立ち上げたばかりの段階であり、会社のすべてについて社長がコントロールしている状態です。
ここで必要なのは、社長の意思決定がダイレクトに伝わるシンプルな組織体制です。
また、次の段階を見据えて、信頼できるマネージャー育成にも着手しなければなりません。
(2)共同化段階
会社組織が機能し始める段階です。
社長が直接関与する範囲は重要業務に限定され、日常業務は部門長を通じて遂行されます。
この段階では、社長の方針が組織全体に行き渡る仕組みづくり、責任と権限の委譲を進めることなどが重要になります。
(3)公式化段階
会社組織が本格的に機能している段階です。
組織は機能ごとに細分化され、階層も増えていきます。
この段階ではできるだけ合理的に組織設計を行うこと、組織間のコミュニケーションを促進することなどが必要です。
(4)精巧化段階
組織体制やルールをマイナーチェンジすることで、より洗練した組織運営をめざす段階です。
この段階では、組織は一応の完成形となる半面、組織の枠組みやルールに縛られるあまり、大胆で創造的な動きは敬遠される傾向が強くなります。場合によっては組織を大規模に再構築する必要もあります。たとえば、自社がようやく組織運営を始めた上記(2)の共同化段階にあるにもかかわらず、いたずらに組織の細分化や階層化を進めると、逆に効率悪化につながることもあります。
自社の成熟度合いに応じた適切な組織体制を検討することが大切です。
人事制度を改革する
1 人事制度の目的
人事制度の目的は、会社が社員に対して、「どのような人材を求めているのか」「どのように人材を育てようとしているのか」「どのような能力・業績・姿勢が評価されるのか」などを明確に示すことにあります。
当然ながら、人事制度のあり方は組織文化に大きな影響を与えます。
合理性や公平性を欠いた人事制度のままでは、好ましい組織文化は定着しません。
また、人事制度を改革することは、社員に対して会社が本気で変わろうとしていることを示す強烈なメッセージとなります。
さらに、人事制度改革を進めるプロセスのなかでは、多くの場合社長自身がまだ気づいていない組織の問題点も浮き彫りになります。
問題点に真撃に向き合うことで、めざすべき組織文化や問題解決に必要な施策もみえてきます。
2 改革の手順
人事制度改革では、「目的の明確化」「わかりやすさ」「公平・公平さ」「社員の納得」などが大きなポイントになります。
これらを実現するためには、次のような手順が必要となります。
1)基本事項の確認と設計
経営理念・ビジョン・戦略を基に、自社に必要な人材像や人事制度の基本方針を決定する。
2)現状把握
アンケートや面談などによって、社員のモチベーションや能力、現状の人事制度への不満などを確認する。
3)ギャップと課題の把握
上記1)、2)を比較し、現状とあるべき姿のギャップ、ギャップ解消のための課題を抽出する。
4)基本設計
課題解決策を盛り込んだ新人事制度の概要を設計する。
5)社員へのフィードバック
新人事制度を社員に説明し、合意を形成する。必要に応じて修正を加える。
6)制度の詳細設計
事評価制度(能力評価、業績評価、態度評価)、賃金制度、昇進昇格制度、人材育成制度などの各種人事制度を設計する。
わかりやすく、制度ごとの整合性が取れていることが大切。
7)制度の導入と検証
実際に制度を導入し、社員のモチベーション向上、人材育成のスピードップ、会社全体の業績向上などの効果を検証する。
必要に応じて制度を修正する。