企業間取引と垂直統合

 垂直統合は、商品・サービス供給に必要な工程の範囲を広げること。水平統合とは、特定の工程を担う複数の企業が一体化することです。

 垂直統合とは、企業グループが、製品やサービスを供給するためのバリューチェーンに沿って、付加価値の源泉となる工程を取り込むことをいいます。水平統合は、バリューチェーン上に定義される特定の工程で、それを提供する複数の企業グループが一体化することをいいます。

 

川下の競争激化も垂直統合の要因

 バリューチェーン上の工程が複数の企業によって構成されていると、企業間取引において牽制関係が生じます。例えば、製造工程である工場は、原材料を安く調達し、製品を高い価格で出荷しようとします。一方、その上流側(川上)の原材料供給業者はより高い価格での納入を望み、川下の卸・小売業者は安価で製品を購入しようとします。

 様々な業界で消費者を起点とする競争激化から、各工程での利幅の確保が難しくなっています。企業グループの中には、牽制関係にある上下の複数工程を取り込むことで、製品・サービスの安定供給や中間段階のコスト削減を図り、利益を確保しようとする動きが加速しました。こうした垂直統合は、古くは、自動車メーカーによる自動車販売会社や部品供給会社の系列化などがあります。近年では、卸・小売業が主導して、上流の生産や原材料調達工程までを一貫して取り込んだSPAの出現、プライベートブランド(PB)商品の開発などが垂直統合によって実現しています。

 

水平統合は企業再編により加速

 水平統合では、同一の製品やサービスを提供する企業が連携することで、規模の経済によるメリットを享受できます。業界再編の流れの中で、M&Aによって水平統合が実現するケースも増えてきました。

 従来、垂直統合され、内部化されていた機能が外部化することで、水平統合が促される場合もあります。流通業での共同配送や製造業でのEMSなどがその例です。

 情報通信、鉄道、電力、郵便などで実施された民営化や規制緩和は、統合されていた複数工程の分離として捉えられ、新たな事業の創出が期待されます。携帯電話事業でのMVNO(仮想移動体通信事業者)、電力事業でのIPP(卸電力事業)などがその例です。

 

 製品やサービスが市場に供給されるためには、バリューチェーンに含まれるすべての活動が実行される必要があり、企業や組織は、バリューチェーンに含まれる活動のうち、自社で行う活動と他企業・組織に依存する活動の範囲を定めなくてはなりません。このうち、企業・組織が自社で行う活動範囲を「垂直統合度」と言い、垂直統合度が広ければ広いほど、事業範囲が大きくなります。
 この「垂直統合」は、同一製品分野において取引関係にある分野への進出を意味しており、企業・組織は、バリューチェーンに含まれる活動を他企業・組織に依存するか、垂直統合により事業拡大を図り自社事業とするかを判断していきます。
 企業・組織が事業拡大を図る際、最も成功可能性が高いのがこの垂直統合度の拡大であり、現存の技術・知識・経験などを活かすことで、マーケティング資源の有効活用ができるほか、現存ブランドとのシナジー効果により市場への浸透を容易にするなど、事業リスク低減にもつながります。

 

垂直統合のメリット

 垂直統合は、多角化戦略と比べ圧倒的にリスクが低く、大きなメリットの傍受できる成長戦略であると言えます。事業領域の拡大による売上向上はもちろんのこと、現存事業とのシナジー効果により利益率の改善やサービスの向上を図ることもできるほか、自社でのコントロール可能領域の拡大や自社裁量領域の自由度が高まることで、マーケティング戦略の多様化を可能にします。

メリット1:仕入れコストの削減による利益率の改善

 内製化することで、外部組織との利害関係が解消され、そこに生じる取引コストの削減から利益率の改善を図ることができます。また、外部組織との力関係により生じる仕入れのリスクや販売のリスクが低減するため、安定した利益率の確保を可能にします。

メリット2:自社裁量領域の拡大に伴う市場競争力の強化

 内製化することで、自社でのコントロール可能領域が拡大することから、市場における自社裁量の自由度が高まります。これにより、マーケティング戦略の多様化が可能となり、市場競争力の強化を図ることも可能となります。

メリット3:新たな市場からの情報入手により事業戦略の多様化が可能に

 垂直統合で川上又は川下への市場が拡大することにより、従来まで入手することが困難であったあらゆる情報の入手が可能になります。これにより、市場にある顕在化したニーズの把握も容易となるほか、潜在的なリクスも予め察知することを可能にします。

 

垂直統合のデメリット

 垂直統合には多くのメリットがありますが、その反面、デメリットも存在します。企業・組織は、事業戦略に基づきメリットとデメリットの双方を測り、垂直統合の可否を判断しなければなりません。

デメリット1:活動集約におけるコスト削減が受けられなくなる

 内製化により一定以上の生産活動を行うことができない場合、規模の経済が働く外部組織に生産活動を依存する方がコスト削減を生み出すケースがあります。このことから、企業・組織は、内製化によるコスト削減と外部組織に生産活動を依存した場合を比較し、慎重な判断を行う必要があります。

デメリット2:事業拡大によるコア・コンピタンスの低下

 事業領域が拡大することで、自社が得意とする専門領域が希薄になり、ブランド力の低下を招くことがあります。また、経営資源の分散が生じることで、特定領域での能力向上が困難となり、結果、市場競争力の低下を招くケースがあります。このことから企業・組織は、自社の経営資源を見極め、中期経営計画を策定するなど、慎重な判断を行う必要があります。

デメリット3:市場にある新製品や新技術を導入しづらくなる

 内製化することで生じる設備投資や経費の増加から、同領域の生産活動においては、たとえ優れた製品であっても、外部組織の生産活動により誕生した新製品や新技術の導入がしづらくなります。結果、従来の活動領域において市場競争力の低下を招くケースがあります。企業・組織は、自社の事業戦略や製品戦略を改めて検証し、自社が目指すビジョン・ミッションに照らし合わせ、慎重な判断を行う必要があります。

 

市場取引における契約方法

 企業や組織が事業運営に必要とする資源の供給を他企業や組織に依存している(または依存していく予定)の場合、企業はその資源の重要性と取引コストの大きさから、その資源を供給する企業との契約方法を決定していきます。

 契約方法は、大きく4つの手法に分けて考えることができるとされています。

スポット市場契約

 スポット市場とは、現物の受け渡しが売買契約の成立と同時になされる市場のことを言います。

 売り手と買い手の合意により、製品又はサービスの取引量・価格・納品時期が決定されていきます。同様または類似する製品、又はサービスの売買が活発に行われることから、優良な売り手が多数存在しており、買い手は良質な製品又はサービスを低コストで仕入れることが可能となります。

完備契約

 完備契約とは、将来起こり得る事態を予め想定し、取引主体の権利と義務を詳細に定める契約を言います。

 契約履行の有無を監視することで契約満了を確認する必要のある契約方法です。将来起こり得る可能性のある、あらゆる事態を予め想定する必要があるだけでなく、契約内容に記された義務が履行されない場合は契約違反として処置する必要があるため、管理・実行共にとても難のある契約方法だと言えます。

逐次契約

 逐次契約とは、一定期間の完備契約を締結し、契約満了後に同様の再契約を繰り返し締結していく契約方法です。

 一定期間を設けることで、将来起こり得る可能性のある不測の事態にも臨機応変に対応できることから、レンタル契約やサービス契約をはじめ ライセンス契約などにも多く採用されている契約方法です。

関係性に基づく契約

 「スポット市場契約」「完備契約」「逐次契約」に加え、組織間の信用や担当者間の信頼関係、倫理の遵守などにより、円滑かつ効率的に遂行されている状況を言います。業務的な契約だけでなく、そこに人間関係が構築されることで各種契約の弱点を補強し、お互いにとって最良の結果を生み出すことができると言えます。

 

他社協業による資源調達「戦略的提携」

 企業・組織が事業運営にあたり重要度の高い資源を他組織に依存している場合、その資源をより良い条件で入手できるよう常に改善を図らなければなりません。資源の獲得には、垂直統合の他、様々な選択肢があり、時間適切迫、投資コスト、投資リスクなどを鑑みたうえで、最良の手段を講じていく必要があります。垂直統合にあたり投資コストと投資リスクが高い場合、資源獲得の改善に向けた選択肢のひとつとして「戦略的提携」があります。

 オハイオ州立大学・経営学部のジェイ・B・バーニー氏が提唱した戦略的提携の定義では「2つ、もしくはそれ以上の独立した組織が、製品・サービスの開発、製造、販売などに関して協力する場合」としております。

 その理論では、戦略的提携を大きく3つのカテゴリーに分類しています。

業務提携

 業務提携とは、特定の分野を限定して複数の企業が、業務上の協力関係を持つことを言います。

 業務提携には、技術開発・技術供与を始め、生産、資材調達、物流、人材交流、販売促進など様々な提携方法があり、相互の企業が経営の独立性を保ちながら、独立した組織をつくらずに契約を通して企業間の協力を図るという特徴があります。

資本業務提携

 資本業務提携とは、業務提携に伴い対象企業に対して資金注入を行い、対象企業の議決権を得る提携手法を言います。

 資本提携により通常の契約よりも堅固な協力関係を構築することが可能となることから、将来に渡り安定的な取引を可能にするだけでなく、垂直統合で生じる様々なリスクを回避することができます。

 資本業務提携には、垂直統合や多角化で生じる時間の短縮をはじめ、製品技術、生産技術、ノウハウ、特許などの技術資源の獲得、工場、設備、生産システム、生産ノウハウなどの生産資源の獲得、販売チャネル、店舗、倉庫、ブランドなどの販売資源の獲得、経営者、技術者、研究者、販売員などの人的資源の獲得など、様々な経営資源の獲得など、多くのメリットを得ることができます。

ジョイント・ベンチャー(JV)

 ジョイント・ベンチャー(JV)とは、複数の企業が相互の利益のために共同で事業を行うことを指しています。また、共同出資により合弁会社を設立し、技術、設備、人材などを提供し合い事業を行うケースもあります。代表的な例として、大規模な建設工事を複数の企業で請け負う共同事業などがあります。

 

企業買収による資源の獲得 「M&A」

 M&Aとは、Mergers and Acquisitionsの略で、合併と買収という意味を持ちます。広義には、複数の企業・組織が一つの目標に向けて協力することを指しており、狭義には、複数の企業がひとつになる合併や企業買収による経営統合のみを指しています。

 日本では、狭義の「企業買収」を指すのが一般的であり、狭義の企業買収は「分割」「買収」「合併」の3つに分類されます。

分割

 企業買収における分割とは、事業に関して有する様々な権利や義務を、新設する法人に移転するか、買収側企業に承継させる手法で、英語ではカンパニー・スプレッド(company split)と呼ばれます。

 分割は、大きく2つの形態に分類されています。
新設分割:

会社を複数の法人格に分社化し、組織・事業・資産を新設法人に移転します。

吸収分割:

 どちらか一方の企業の組織・事業・資産をもう一方の企業が継承します。

買収

 企業買収における買収とは、買収側の企業が経営権を買い取る手法です。

 中小企業のM&Aにおいて最も多く行われる手法で、近年では高齢化による事業継承などでも数多く実施されています。

 買収は大きく2つの形態に分類されています。

事業譲渡:

 企業が運営する事業のうち、一部の事業のみを譲渡します。

株式取得:

 企業の株式の50%以上を買い取ることで、経営権を取得します。

合併

 企業買収における合併とは、2つ以上の企業をひとつの法人格に統合する手法です。

 売却企業は合併されることで消滅し、買収側企業の一部として再スタートを切ることになります。

 合併は大きく2つの形態に分類されています。

新設合併:

 新設法人を設立し、ひとつの新たな法人格として再スタートを切ります。合併に参加した法人は解散し全て消滅します。

吸収合併:

 合併に参加したひとつの法人格にその他法人格が吸収されます。被吸収側の企業は解散し消滅します。

 

M&Aの分類

 アメリカ公正取引委員会では、M&Aを「水平型M&A」「垂直型M&A」「製品拡張型M&A」「市場拡張型M&A」「コングロマリッド型M&A」の5つに分類しています。

同業種・同業態の企業が買い手となる「水平型M&A」

 競合企業の買収が「水平型M&A」にあたります。水平型M&Aの多くが本業へのシナジー効果を見込んで行われ、なかでも「規模拡大」や「エリア拡張」を目的とするケースが大半です。買収により企業規模が拡大することで得られるスケールメリットや、業界シェアを高めることで、プライスリーダーとして市場優位性を得るなど、水平型M&Aでは多くのメリットを獲得できます。また、規模拡大によりブランドの露出度が高まり、認知度向上にも寄与することから、ブランディングへの好影響も期待できます。

製造から販売までワンストップサービスを狙う「垂直型M&A」

 資源の供給企業や販売先(顧客)の買収が「垂直型M&A」にあたります。垂直型M&Aの多くが利益率改善を見込んで行われますが、その他「シナジー効果」「シェアの拡大」「技術力の向上」「サービス向上」「情報の入手」「リスクヘッジ」など、多くのメリットを獲得することができます。その反面、規模の経済が働く外部組織への依存で得られるコスト削減が得られなくなるケースや、事業領域の拡大により自社事業の専門性が希薄化し、ブランド力の低下を招くケースなどデメリットも存在します。

製品ラインナップの拡張から市場シェア獲得を目指す「製品拡張型M&A」

 既存製品を補完する製品ラインを得るための買収が「製品拡張型M&A」にあたります。企業・事業を買収することで、今までにない新たな技術を獲得し、製品ラインナップの拡張から市場シェアの獲得を目指します。

市場拡大から売上向上を図る「市場拡張型M&A」

 現存事業の周辺市場を獲得するための買収が「市場拡張型M&A」にあたります。水平型M&Aとコングロマリッド型M&Aの中間にあたるM&Aで、技術やサービスに一部関連性はあるが、市場が全く異なるケースなどが該当します。自動車メーカーがオートバイメーカーを買収、ユニセックスを市場とする美容室がメンズを市場とする理容室を買収するケース、などが該当します。

異業種進出を狙う「コングロマリッド型M&A」

 買収、被買収企業間に戦略的な関連性のない買収が「コングロマリッド型M&A」にあたります。

 コングロマリッド型M&Aの場合、現存事業とのシナジー効果は見込めないため、事業を多角化することで企業価値全体を高めることを目的に M&Aが行われます。そのため、被買収企業の売却価格と事業の採算性が計られることが大半です。

 

水平型、垂直型のM&A

 水平型M&Aとは、同じ業種、業態の企業同士で行われるM&Aのことです。例えば、製造業の会社であれば製造業の会社を買収し、小売業の会社であれば同じ小売業の会社を買収します。

 水平型M&Aを行うことで、買い手は主にスケールメリットを享受したり、競争力を強化することができます。同業種、同業態の会社を買収して事業規模が拡大することで、原材料や商品の仕入れコストの削減や知名度の向上といった効果を得ることが可能です。
 また、水平型M&Aは、それまで競合していた会社同士で行われることもあるため、お互いの会社の強みを活かして市場における競争力を高めることにもつながります。

 垂直型M&Aとは、同業種の会社間でも、例えば製造や流通、販売をそれぞれ行う会社が統合し、川上と川下の企業がM&Aをすることを言います。

 垂直型M&Aには、原材料を供給する会社など、川上の会社を買収する場合と、最終的な販売を行う会社などの川下の会社を統合する場合があります。

 垂直型M&Aを行うことで、原材料の調達から製造、流通、販売まで一貫した体制を構築することができます。流通や販売の際に他の会社を通すことがないため、その分の手数料といったコストが減り、利益率の増加が見込めます。また、販売など消費者に近い会社を統合することで、消費者のニーズや市場の潜在的なリスクを早く察知することも見込めます。

水平型・垂直型のM&Aに期待されるシナジー効果と目的

 水平型M&Aでは、主に市場の規模を拡大することと業界再編を目指すことが目的となります。M&Aの目的に応じて期待されるシナジー効果が異なります。
 まず、市場規模の拡大を目的として水平型M&Aを行う場合では、買い手は売上の増加というシナジーを得ることが期待できます。買い手がこれまで展開していなかった地域に自社の既存商品を展開する、または売り手の商品を自社の地域に持ち込むことで、売上拡大が見込めます。
 このケースでは、海外市場の獲得を目指すことが多く、クロスボーダーM&Aとなるため、国内M&Aよりも慎重に行う必要があります。

 業界再編を目的とした水平型M&Aにおいて期待されるシナジー効果は、主にコストの削減です。M&Aにより会社の規模が大きくなるため、一括仕入れや物流の統一によるコストの抑制や重複機能の削減による効率が期待されます。また、業界再編では、市場におけるシェアも拡大するため、競争力の強化にもつながります。
 金融業界では、1990年代から2000年代前半にかけて統廃合が進み、重複する地域の営業店や事務センターが削減され、経営企画や内部監査などは共有されました。金融業界に限らず、メーカーなどさまざまな業界において、この業界再編を目的としたM&Aは今後増加していくと見られています。

 水平型M&Aに対し、垂直型M&Aでは、バリューチェーンの強化と新市場への参入が主な目的となっています。

 バリューチェーンの強化の場合では、バリューチェーンの中で弱い部分をM&Aで補うことで、商品やサービスの競争優位性を高めるというシナジーを得ることができます。
 製品は優れているが、マーケティングに注力できていない会社が、優れたマーケティングのノウハウを持つ会社を買収したり、商品の開発に弱い会社が開発力の強い会社を統合するといったケースがあります。

 垂直型M&Aにおける新規市場への参入には、バリューチェーンの川上や川下への事業規模の拡大や、同業種内で異なる事業を行う会社を買収することが含まれます。この場合、製造や流通、販売といったそれぞれの中間コストが削減されるというシナジーを得ることができます。
 また、川上の会社を買収する場合には、原材料や部品の供給を確保し、商品やサービスの安定供給にもつながります。

 

 水平型M&A同じ業種、業態の会社を買収するのに対し、垂直型M&Aは、同じ業界でも川上や川下の会社を統合することを指します。この2つのM&Aは、目的や期待されるシナジー効果が異なっています。
 自社の状況に合わせて水平型M&Aと垂直型M&Aを使い分けて、より大きなシナジー効果を得られるようにしましょう。

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