優良顧客を育てるロイヤルティー・マーケティング

 長引く不況や企業間競争の激化によって、企業を取り巻く環境は厳しさを増しており、中小企業にとって大幅な売り上げ拡大を図るのは難しい状況です。

 このような状況で企業が生き残るためには、売り上げが伸びなくとも利益が確保できる仕組みをつくり、収益性を高める必要があります。

 多くの企業が新たな収益向上策を模索するなかで、注目される企業経営手法の一つに「ロイヤルティー・マーケティング」があります。

 

ロイヤルティー・マーケティング

1 既存顧客の維持を重視

 ロイヤルティー・マーケティングでは、新規顧客の獲得以上に既存顧客の維持を重視します。

 既存顧客の満足度を高めることによって顧客の離反率を下げ、長期的な関係づくりを目指します。

2 顧客を貢献度に応じて区別

 すべての顧客は平等ではないという原則・「顧客不平等論」を是とし、企業の売り上げや利益に多く貢献する優良顧客とそうではない顧客を明確に区別します。

 その際には、顧客を区別する基準となるデータが必要となるため、情報システムを活用して顧客情報の収集と分析が行われます。

3 優良顧客を優遇

 優良顧客に対しては、より多くのサービスや特典を与えるなど優遇する一方、非優良顧客へのそれは少なくします。自社のマーケティング資源をより優良顧客に多く配分し、非優良顧客への配分を少なくします。

 長期間にわたって多くの利益をもたらしてくれる顧客を最重視するマーケティング手法を「ロイヤルティー・マーケティング」といいます。

 

優良顧客は大きな利益をもたらす

 ロイヤルティー・マーケティングでは、すべての顧客を平等に扱うのではなく、優良顧客を重視する姿勢を明確にし、新規顧客の獲得よりも、むしろ優良顧客と長期的な関係を築くことに力を注ぎます。優良顧客との長期的な関係を築くことが より多くの利益を企業にもたらしてくれるからです。

1 優良顧客ほど利益への貢献が大きい

 優良顧客ほど企業への貢献度が高いことを示す法則(パレートの法則)に「20対80の法則」があります。

 この法則の意味は、20%の優良顧客が80%の利益をもたらすことです。

 「20対の法則」は、多くの企業で当てはまることでしょう。

 例えば、アパレル専門店を例にとれば、冬物衣料を11月、12月に購入する顧客は多くの利益を企業にもたらしてくれますが、月のバーゲン時にしか購入しない顧客はあまり多くの利益を企業にもたらしてくれません。

 まさに前者がこの企業にとっては優良顧客といえます。

2 優良顧客の利益率は高い

 通常、新規顧客を獲得するためには「初期コスト」がかかりますが、企業と優良顧客との取引関係が長期間続くと、その後は企業にもたらされる利益は年々増加していきます。

 具体的には、時間の経過とともに次のような利益が発生すると考えられます。

(1)ロイヤル利益

 優良顧客はより多くの関連商品や高単価商品を購入してくれる

(2)コスト節約

 優良顧客は過剰に従業員へ依存しない

(3)口コミの追加利益

 優良顧客は口コミで他人に自社を紹介してくれる

(4)高価格の追加利益

 優良顧客は少々値段が高くてもあまり気にしない(価格に敏感ではない)

 特に、優良顧客の「口コミ」から得られる利益は大きいものがあります。

 ロイヤルティーの高い優良顧客は、周りの友人や知人にその企業の製品やサービスのよさを口コミで伝え、新たな顧客を呼んでくれる伝道者とも言える存在です。

 こうした口コミの効果はチラシやDM以上といえます。

 さらに、中小企業の経営戦略として、自社の商品・サービスなどの情報を無料でメディアに取り上げてもらうプレスリリースがあります。

 メディアに取り上げられることで、商品・サービスだけでなく、自社のイメージや信用力を向上させることも期待できます。

 

既存顧客の維持にかかるコストは新規顧客獲得より少ない

 市場が成熟し企業間競争が激しくなると、企業が新規顧客を獲得することは総じて難しくなってきます。

 チラシ、DM、一時的な値引き、営業費用など、新規顧客の獲得には多くのコストを要します。

 しかし、かけたコストに見合った新規顧客を確得するのは それほどたやすいことではありません。

 それに比べると、既存顧客を維持するためのコストは少なくて済みます。

 既存顧客を維持するコストは新規顧客を獲得するコストの20%で済むといわれています。

 新規顧客を獲得するために多額の投資を行うよりも、はじめに既存顧客を維持し優良顧客へと育成することに投資をしたほうが投資効率がよいといえるでしょう。

 

顧客カード

 ロイヤルティー・マーケティングを導入する際に、顧客情報の入手手段となるのがカードです。

 現在、小売業やサービス業などを中心に多くの企業で顧客カードやポイントカードが発行されており、「顧客がカードを見せれば%割引」といったような割引サービスを行っています。

 こうしたサービスは顧客にとっては大変喜ばしいことですが、どこの企業でもやっているサービスでは、顧客にとって割引を受けることが当たり前になってしまいます。

 割引サービスは、競合他社が行っているから、自社もやらねばならないといった横並び的なものになりがちです。その結果、他社との割引率競争に陥ってしまい、企業収益を悪化させることにつながるケースが多いのです。

 また、カードから得られる顧客情報を十分に活用しきれていない企業が多いことも問題です。

 せっかくカード発行によって顧客情報を収集できる体制を築いたにも関わらず、単にカードが割引の手段としてしか活用されていないケースが多いのです。

 今後は、カードから得られる情報を、いかにして経営に生かしていくかということが重要になってくるでしょう。

 今後、企業がロイヤルティー・マーケティングを導入して成功をおさめるためには、

 (1)ロイヤルティー・マーケティング経営戦略の核として行うこと

 (2)優良顧客への優遇を明確にする魅力的なサービス・特典の提供

 (3)プログラムの仕組みが顧客にとって分かりやすいこと

などが必要になってきます。

 

マスマーケティングからロイヤルティー・マーケティングヘ

1 変わるマーケティング

 ロイヤルティー・マーケティングの概念は、企業と顧客とのひとりひとりの関係づくりが重グされることから、「リレーションシップ・マーケティング」「ワン・トウ・ワン・マーケティング」と言われたり、顧客を企業への売り上げや利益の貢献度に応じて識別することから、「顧客識別マーケティング」などとも言われます。
 高度成長時代以降の日本では、標準化された量産製品を市場の不特定多数の顧客に向けて生産販売するマスマーケティングが主流でした。そこでは、顧客と企業との関係は短期的なものであり、企業は売上高やマーケット(市場)シェアの拡大を追求してきました。
 一方、ロイヤルティー・マーケティングでは、企業は顧客ひとりひとりとの長期的な関係づくりを重視し、顧客が一生涯にもたらしてくれるであろう利益(LTV:顧客生涯価値=ライフタイムバリューの最大化に関心が払われます。
 ロイヤルティー・マーケティングでは、「製品中心から顧客中心へ」「短期の取引から長期の関係づくりへ」「顧客の獲得から顧客の維持へ」「売上高拡大から顧客生涯価値の増加へ」といったように、マーケティングの発想が変わっているのです。

 マスマーケティングは、大量生産大量消費時代には適した方法であったかもしれませんが、消費者ニーズが多様化し、個人が自分自身のライフスタイルを求めるようになった現在、マーケティングもより顧客中心のものへと変わっていかなければなりません。

 

2 ロイヤルティー・マーケティングに学ぶこと

 ロイヤルティー・マーケティングの手法は、主に小売業やサービス業、航空業界などで関心の高いマーケティング手法でした。

 しかし、今ではすべての業界でロイヤルティー・マーケティングの考え方が必要とされています。

(1)優良顧客を重視する

 自社の収益を支えているのは優良顧客です。

 優良顧客は利益率が高く、友人や知人にも自社の製品やサービスを紹介してくれるよきパートナーといえる存在です。

 自社の繁盛を望むなら優良顧客と長期にわたった関係を築くことにエネルギーを注ぐべきです。

(2)既存顧客を維持するコストは新規顧客を獲得するコストより少なくて済む

 新規顧客を獲得することばかりに熱心で、既存顧客が離反していくことに関心が薄いといったことでは、大きなコストの無駄を生んでいることになります。

 たとえて言うなら、底の空いたバケツに水を注ぐようなものです。これでは水はたまりません。

 水をためるためには、既存顧客の維持に力を注ぐ必要があります。

(3)顧客の貢献に報いる

 どの顧客が自社に最も貢献しているかをきちんと把握している企業は少ないものです。

 優良顧客は目立たない顧客かもしれませんが、自社に貢献している優良顧客が誰なのかを把握し、その貢献に報いるべきです。

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