実行力を高めるための取組み

 

実行力のある人材

 社員の育成は、社員個人にとっても企業組織にとっても重要な問題です。

 日本企業の多くでは、OJTを中心として Off-JTも組み込みながら人材育成に取り組んできました。社員の能力開発に加え、その企業組織固有の仕事のやり方を身につけ、組織文化を伝承し、その企業組織内で望まれるが、メンバーとの双方向でのやり取りことが重要なポイントであるとされてきたのです。また、その企業組織の戦略を適切に遂行し、新しい戦略を生み出すような人材を育成することも重要なポイントとなります。そのような中で、近年注目されているのが、仕事に対する「実行力」です。

 この実行力とは、「企業組織のビジョンや戦略の実現のために、リーダーがメンバーとの双方向でのやり取りを通じて、課題一つ一つを具体的な行動レベルに落とし込んで最後までやりぬかせること」と言い換えることができます。

 様々な業界において、その業界のトップに君臨する企業の多くは、単に戦略が優れているがために、その地位にいるのではなく、戦略の内容が妥当であるだけでなく、実行力が優れているのです。

 そのようなトップ企業においては、実行力を高めていくために莫大な労力をかけており、日常的に管理職からのコーチングにそのような要素を盛り込んだり、人事考課における重要な評価項目としたり、階層別に研修を行うなどしているのです。

 

組織で「型」を設計し伝承する

 企業組織における「型」や組織文化の伝承は、かつては日本企業の現場で脈々と行われてきましたが、近年では容易ではなくなってきています。その理由としては、厳しい競争環境の下で仕事の効率を重視するあまり、部下とじっくりコミュニケーションをとることができない、あるいは、存続させるべき「型」が判断できなくなっていることが考えられます。現場の感覚として もっともな理由なようにも見えますが、これでは組織の強みを維持することができません。

 競争が激しい環境下であるからこそ、これからの競争において求められる あるべき仕事の「型」を確立し、それを組織内に組み込んで実践を通じて定着を促し、その型を通じて判断基準としての組織文化を伝承していくことが重要なのです。

 そのような「型」を設計し、社内展開していく際のポイントとしては、以下のような点が挙げられます。

 ・自分の頭で「考え抜く」思考の姿勢とスキルをインプットすること

 ・実際の業務に即した「型」を理解させること

 ・研修(Off-JT)と実務(OJT)を連動させ、定着を図ること

 ・企業組織内での共通言語化を念頭に置き、短期間で一定比率以上が受講するような集中トレーニングを展開すること

 また、学ぶ姿勢を企業組織内に定着させることも重要です。

 互いに学び合う組織では、人が育成されやすい環境ができます。それは、単に先輩が後輩の面倒を見るといった類のものではなく、成功した経験からは、うまくいった理由やそこから学べるものは何か、他で活かせることはないか等を関係者とともに振り返り、組織的学習を徹底することが成果を再現する力を高めていくのです。

 逆に、失敗経験から学び、同じ失敗を繰り返さないようにすることも大きな意味を持ちます。

 こうした組織的学習を当たり前のこととして、企業組織に根付かせていくこともマネジメント層にとって重要な責務なのです。

 

実行力を高める取り組み例

 実行力を高めるための取組みについて、資生堂とジョンソン・エンド・ジョンソンの実例を見ていきます。

資生堂

 資生堂は、創業当初より「書生堂」という別名でも呼ばれていたように、社員の指導や育成に力を入れており、その社風を引き継いで、2006年10月に「資生堂共育宣言」を発表しました。その資生堂共育宣言において、企業倫理や経営ビジョンである「魅力ある人で組織を埋め尽くす」の実現に向けて、これまで同社で培われた人材育成の考え方などをベースに、「資生堂人としての魅力(美意識)」「実行する力(自立性)」「変革する力(変革力)」の3つをキーコンセプトとして、資生堂が求める人材像を設定しています。これらを通じて、社員各個人が自己実現に積極的に取り組む意思を強く持ち、共に育ち合い、育て合い、社員自身の成長と企業の成長が重なり合う企業となるように取り組んでいます。人材育成については、「目標管理に基づくOJT」「公正な評価・処遇」「適切な機会をとらえた研修」「異動・ローテーション」の4つの機能があり、それら4つの機能が有機的に連動することで社員を成長させていく仕組みとなっています。これら4つの機能のサイクルを回しながら、社員に対する意識付けやモチベーションの維持やスキルアップ、成長の機会を社員に適切に与えてキャリア開発を促進し、職場における適切な役割分担や指導などのマネジメントを通じて、計画的な育成を図っています。また、同社では、人材育成方針の具現化と全社の研修機能を統括するため、企業内大学として「エコール資生堂」を開設しており、分野ごとのプロフェッショナルを育てる研修や分野を横断した社員研修や管理職研修に加え、将来の経営幹部養成を目的とした研修等を実施しています。

 エコール資生堂では、社長が学長を、各部門の執行役員が学部長を務めており、それぞれの分野に所属する従業員の育成に責任を持つ仕組みにして、企業組織のマネジメントが従業員の育成に直接責任を負うようにしています。

 

ジョンソン・エンド・ジョンソン

 近年、経営理念を社員に浸透させるために「クレド」を活用している企業が増えてきています。クレドを活用している企業として代表的な企業は、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)でしょう。クレドとは、「信条」を意味するラテン語で、「企業の信条や行動指針を簡潔に記したもの」を指します。同社は、1932年以来連続して増収増益を達成し、平均成長率11%の驚異的な経営で知られています。同社のビジネスの根幹をなす価値観として60年前に制定されたクレドが「我が信条」です。J&Jのクレドでは、社員が果たすべき責任の優先順位を、第一は「顧客」、第二は「社員」、第三は「地域社会」、第四は「株主」として定め、項目ごとに計21の順守すべき事項を明記しています。同社では、クレドの定着を図るために「クレド・チャレンジ・ミーティング」と呼ばれるミーティングを開催しています。毎年、全世界の社員12万人を対象にクレドの実践度合いをチェックする「クレド・サーベイ」を実施し、その結果について、部門・課・グループ単位で点数化します。どこの職場がクレドを順守し、実践しているかが一目瞭然となるのです。この結果に基づいて、職場ごとにディスカッションを行い、問題点を明確化したうえで改善のためのアクションプランを策定・実行し、期末に成果をレビューを行うというプロセスを毎年繰り返すことによってクレドの浸透を図っているのです。また、マネジメントの改善努力を促すために、クレドは人事評価にも組み込まれています。同社では、目標管理制度が導入されており、マネージャ層以上は設定した目標ごとに評価のウエート付けが行われますが、そのうち、クレドに関する目標はウエートが20%を占めています。

例えば、5つの目標を設定した場合、そのうち1つはクレドに関する目標を設定しなければならないとなっているのです。これは、クレドのスコア改善はマネジメント層の重要な業務課題であることを認識させるとともに、その評価結果が報酬にも影響することになることを示しています。同社では、クレドの順守・追求こそがビジネスを成長させ企業組織を発展させる、という過去の経験から積み上げた「成功の法則」を確信しているということができるでしょう。

 

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