苦情対応マネジメントシステム

苦情に対する迅速な対応

1 苦情の発生原因 
 企業にはさまざまな苦情が寄せられます。
 「期待通りの品質・性能ではなかった」「表示が分かりにくい」「注文時の約束を守ってくれない」「アフターサービスがよくない」など苦情の内容はさまざまですが、苦情を一言で表現するならば「製品や付帯サービスに関連した消費者の不満足の表明」といえます。

 苦情は以下のように分類されます。

流通業 苦情発生の例

1.品質・性能・価格  
 「期待通りの品質・性能ではなかった」  
 「品質・性能と比べ、妥当な価格とはいえない」 

2.表示  
 「分かりにくい」「商品が取扱説明書の表示通りではない」 

3.購入時のサービス  
 「注文時の約束を守ってくれない」「応接、接客態度がよくない」 

4.アフターサービス  

 「アフターサービスがよくない」「修理代がかかりすぎる」  
 「修理できない(修理してもらえない)」

そもそも、なぜ苦情が発生するのでしょうか。
 製品やサービスに問題があった場合は苦情を申し入れられるのは当然です。
 消費者は、代金を支払って製品を購入したりサービスを受けるため、購入したものに対して価格に見合う性能などを期待しています。
 その期待と実際の機能や使い心地のバランスが取れていれば、消費者は満足します。逆に、バランスが悪く、期待以下の機能であったりすると、不満を感じ、製品の再購入を見送ったり、苦情につながることになります。

2 苦情対応マネジメントシステム 
 1997年に施行された「PL(製造物責任)法」、1998年に施行された「改正民事訴訟法」、2001年に施行された「消費者契約法」、1999年に一部改正された「訪問販売法・割賦販売法」などによって消費者保護の法制は強化されています。これらの法律により、企業は今まで以上に消費者からの苦情に迅速に対応することが求められています。 
 苦情の内容は実にさまざまであり、その都度適切な対応が必要となります。
 そのため、苦情対応については企業全体でシステム化し、関係するすべての従業員が適切に苦情対応できるよう体制を整える必要があります。その際に参考になる仕組みが「苦情対応マネジメントシステム」です。 
 日本工業規格(JIS)では、2000年2月に「JIS Z 9920:2000 苦情対応マネジメントシステムの指針(以下「指針」)」をまとめています。
 これは指針であるため、「必ず守らなければならない」ものではなく、あくまで任意のルールです。しかし、苦情対応を強化するうえで指針は非常に参考になります。
 顧客満足を高める意味でも、指針を参考に苦情対応の仕組みを構築することは非常に重要でしょう。 

 

基本方針と関連事項の文書化

基本方針 
 苦情対応マネジメントシステムの構築に当たっては、全体的な取り組みの方向性を示す「基本方針」の作成が重要であり、その基本方針に従って細部を定めるという考え方が求められます。
 基本方針の内容は、個々の企業事情によって異なりますが、一般的には次のようなものが挙げられます。

文書化すべき事項 
 指針では、苦情対応マネジメントシステムの文書化に当たり盛り込むべき必要事項を、「文書化すべき事項」「定めもしくは明確化する事項」「考慮または配慮する事項」の3つに分けています。 
 これらすべてを文書化する必要はありませんが、「文書化すべき事項」は必須とし、そのほかの事項は個々の事情を考慮して文書化を検討すべきでしょう。 
    指針に示されている文書化すべき事項は以下の通りです。

1.基本方針書 
 ・苦情対応責任者の任命   
 ・苦情対応責任者の責任と権限の範囲 
 ・組織として対応できる範囲 
 ・苦情対応を無料でできる範囲

2.基本体系書(組織図またはフローチャート) 
 ・組織内部全般にわたる苦情対応職務手順 
 ・苦情対応者に対する支援の手順と組織内との関連

3.苦情原因の除去、是正、予防処置に関する方針書

4.苦情対応手順書 
 ・苦情対応責任者の責任と権限の範囲 
 ・苦情対応者の裁量の範囲 
 ・組織として対応できる範囲 
 ・苦情対応を無料でできる範囲

5.苦情対応記録管理基準書

6.苦情対応記録手順書

7.苦情対応記録開示の対応基準書

フローチャートによる苦情対応の流れ 

 指針に準拠したマニュアルおよび作業書のガイドに沿ったフローチャートと対応要領をまとめます。 
 フローチャートは、消費者の申し出から始まる対応について、消費者部門から社内関係部門までの流れを示します。
 指針の序文に示す、「苦情対応は消費者の基本的権利を尊重しながら、苦情を組織全体の責任として真に受け止め、問題解決に努める」ことがポイントです。

 苦情対応の基本的な手順は次のようになります。

1.苦情の内容および問題点を明確にし、その原因を調査し、経緯・結果を記憶する。 
2.所定の手順に基づいて、解決策を提案し交渉する。 
3.合意した解決策を実施する。 
4.問題発生の直接原因および間接原因に対しての防止対策並びに改善策の効果について検証する。 
5.苦情対策に関連する活動結果を組織の最高責任者に報告する。

1 相談・苦情の受理 
 消費者・流通・ディーラー・行政・マスコミ・消費者団体・病院などからの相談や、苦情を電話や文書などで受理した場合、消費者対応窓口は「苦受付票」を作成します。

2 一次対応 
 相談や苦情の内容を十分に聴き、現状の確認を行います。
 特に身体被害がある場合は、「今どのような状況か、治療を受けたかどうか」などを確認し、治療を受けていない場合は受診を勧めます。

3 対応終了・申出者への回答 
 申し出内容が一次対応または二次対応で解決すれば対応を終了し、申出者へ回答します。

4 苦情通結果の発行 
 申出者を訪問する場合は、一次対応者は必要事項を苦情連絡票に記入し、訪問対応者に伝えます。

5 訪問対応 
 苦情対応のマニュアルに従って、真撃に対応します。
 しかし、事業者として、申し出に対応できる範囲で回答します。
 特に、製造物責任による事故の場合は、申出者の心情を考慮して対応します。

6 苦情連絡票の記入・返送 
 訪問対応の終了後、苦情連絡票に訪問時の状況、苦情品の状況、訪問により解決したか解決しなかったか、今後も訪問を続ける必要があるかないか、苦情品の調査を実施する必要があるかなどを記入し、消費者対応窓口に返送します。

7 二次対応 
 消費者部門は、訪問対応部門による苦情連絡票の回答や、調査部門による調査依頼書の回答の記載内容を参考に、二次対応の判断を行います。 
 判断は次のように行ないます。
a.適切な対応が行われ、終了した場合は対応を終了し、申出者へ回答します。
b.訪問が再度必要である場合は、再度訪問して対応し、苦情内容の理解を深めます。
 この場合、「苦情連絡票」は前回の票に重ね書きをします。
c.調査部門からの調査結果が不満足な場合は再調査します。
 この場合も、前回発行した「調査依頼書」に調査不十分の点を記入し、再度依頼します。
d.訪問対応や調査結果から、当該苦情が重大苦情になりうると判断した場合は、「重大苦情判断」と同様に扱い、対応を行います。

8 調査依頼書の発行 
 一次対応において、解決のためには苦情品の調査が必要となる、あるいは消費者が調査を希望している場合は調査依頼書を発行し、原因の調査を行います。
 その後、二次対応に進みます。

9 コンピューター入力やカード入力 
 対応が終了した時点で、最終的な結果をコンピューターに入力、あるいはカードに記入します。
 これは、データの蓄積とその解析により、製品の開発や不具合の改善に生かすためです。
 単なる記録に留まらず、できる限り消費者の申し出を正確に記入することが重要となります。

事例(流通業) 

1.苦情対策の目的 
(1)迅速、かつ適切な苦情対応を行うことによって、顧客の満足と信頼を得ること。 
(2)苦情情報を有効に活用することで、重大な苦情や多発する可能性のある苦情に早急に対応して、苦情の拡散と消費者に及ぼす被害・損害を可能な限り防ぐこと。

2.苦情対応の原則 
(1)商品苦情は迅速な対応をするため、受付から調査、回答まで一貫して対応することを基本とする。 
(2)苦情情報は、即時コンピューターに入力して、苦情情報を日次で営業本部経由で品質管理部にデータ送信する。
 苦情情報を一元的に集約・管理して、重大な苦情や多発する可能性のある苦情を早期発見・対処するため、すべての苦情情報は即時コンピューターに入力して、1日1回以上、営業本部にデータ送信する。

営業本部は、毎日夜間にすべての苦情情報を品質管理部に送信し、品質管理部にすべての苦情情報を日次で集約する。 
(3)「重大事故」「重要改善苦情」並びに苦情の内容から多発する可能性の高い苦情については、発生の都度、品質管理部にFAXなどで連絡する(支所の受付苦情は、営業本部経由で品質管理部に連絡する)。
(4)苦情回答は、受付から7日以内に回答することを原則とする。
 ただし、微生物検査や外部機関での調査などで時間を要する場合には「中間回答書」などでその旨を連絡する。 
(5)現品をともなう商品苦情については、受付対応部署において確実に代品などの補償処理を行う。
 現品がない場合には、苦情内容により判断し、必要な場合には補償処理を行う。 
(6)すべての苦情情報は、電子媒体などで少なくとも3年間は保存管理して、いつでも過去の苦情情報を検索して参照できるようにする。

3 対応上の緊急性の識別 
 1件1件の苦情・意見はそれぞれ大切なものですが、その中でも「緊急性」のあるものと、そうでないものがあります。
 緊急性のあるものを見落とさないようにし、受け付けたときに対応上緊急性のあるものを「重大事故」、それに準じるものを「重要改善商品」のように区別して対応します。
 これは、受付時の対応のための定義であって、調査結果の判定の定義とは無関係です。

4 重大事故 
 (1)食品による健康被害・有症苦情および損害事故 
 (2)家庭用品による危害・人体被害(有症苦情)・損害事故 
 (3)繊維製品での人体被害 
 (4)消費者の所有財物を損なった場合

5 重要改善商品 
 商品が、原因で重大な事故には至っていないが、早急に改善を要する商品をいう。 
(1)法令(都道府県などの条例を含む)に違反する商品 
(2)自主基準(微生物合格判定基準、繊維製品品質管理基準など)に適合しない商品 
(3)存症苦情・人体被害・危害の可能性の大きい商品 
(4)消費者の所有財物を損なうおそれが大きい苦情 
(5)著しい不快異物の混入や動物類(昆虫は除く)および衛生害虫の混入した商品 
(6)商品仕様が勝手に変更された商品 
(7)製造ロット苦情(製造ロット全体に同様のトラブルが発生する広がりの大きい苦情)

 

苦情(クレーム)対応とマニュアルの作成

苦情(クレーム) 

 昨今の市場環境の変化やお客様(消費者)の意識の変化に伴い、産業界はもとより、国・地方自治体等の行政機関においても消費者保護の機運はますます高まっています。

苦情原因の多くについて

 ・商品知識や業務知識が不十分である

 ・適切なお客様対応やCSに対する理解が不足している

 ・従業員への教育が不十分である 等

主な苦情として

 ・契約内容の説明が不十分(契約内容がお客様の希望と異なる 等)

 ・説明対応が不十分(連絡遅延、説明漏れ 等)

 ・事務手続きの遅延、失念 等

 苦情はあなたに大きなデメリットを発生させます

 ・契約の解除・取消し、次回の不継続

 ・お客様の信用失墜、世間の評判低下

 ・事務業務の増加、時間のロス

 ・損害賠償発生による賠償金の支払い

 苦情の最小化を図るためには適正な業務遂行が欠かせない。

 ・苦情の記録(「お客様生の声「苦情受付簿」の備付け)、自社内での共有化

 ・苦情発生の原因分析(発生させた人の追及であってはならない)

 ・苦情の再発防止策の策定と実行

 あなたの対応がお客様の期待レベルに達していない場合、お客様は不満を感じます。

 不満を感じたお客様のうち、苦情を表明する方は一部であり、背後には同様の苦情・不満(潜在化コンプレイン)を持った顧客が数多くいると考えてよいでしょう。

 

 不満が苦情となってしまってからの対応では対策になりません。

 あなたが気付いていない潜在的な不満・苦情を、顕在化する前に対策を講じることです。
そのための方法の1つが「お客様に聞く」です。

 定期的(年1回)にお客(顧客)様からアンケートを取ります。

 そして、素直に聞くのです。

 私(弊社)はまだまだ未完成な会社です。至らない点がありましたら教えてください。あなた様の素直なお声(不満・苦情・よい点)、ご指摘いただいた点は直に改善いたします。よい点、悪い点なんでも結構です。
 不満を感じるお客様の多くは、苦情を言わずに他社へ契約を切り替えてしまっているのではないでしょうか。

 苦情が発生した場合、誠意をもって解決に当たることはもちろんですが、その苦情が発生した原因を分析し、再発防止を図る必要があります。

 苦情の根本原因が何かを見つけて取り除くことにより、同様の苦情を未然に防止することは、あなたの業務を遂行する上で重要な課題です。
 顧客のクレームや意見に対する考え方や対応が優れている会社は、総じて業績がよく、クレームや顧客の意見に真剣に耳を貸さず、自社の正当性や意見を否定するような会社は、業績が低迷していることが多いといわれています。

 クレームや意見を言われても、真剣に聞かず、「当方は間違っていない」「クレームを言うほうがおかしい」と思っている経営者や責任者は多く存在します。
 しかし、顧客のクレームや意見は市場の正直な声であり、会社業績を向上させるための重要な情報なのです。それを十分に活かさないことは、あなたの業績向上の可能性をなくしているようなものです。

 あなたも商品を購入したり、サービスを受けたりした時に、不満に思ったときどのような対応をしているでしょうか。
 そして、クレームや意見を言った場合は、どのような対応を受けると納得していたでしょうか。

 是非自分の状況を思い出してみてください。

 

クレームの心理

 あなたが、ある温泉ホテルに宿泊して、そのサービスの状況に不満を持ったとします。

 あなたは下記の1と2のどちらの対応をとりますか?

 1 クレームを直接言う。

 2 クレームを言わずにもう二度と来ないと心の中で決めている。

 どちらの対応をとりましたか? 不満の程度にもよりますが、2の対応をとる人が多く、クレームを言う人はとても少ないそうです。

 クレームや意見を言う人は、大きな勇気がいるものです。

 人間は誰でも人に嫌われたくないという意識があるので、ちょっとしたことではなかなか意見を言わないものなのです。

 そのため、2の対応を取ることが多いのです。そのような中であえて苦言を呈する人は、対応により以下の2通りに分かれます。この対応が業績に大きく影響するのです。

 クレームの対応が悪いと、全ての人は二度と来ないでしょう。しかし、クレームの対応が良いと、再度来ようという気持ちになるのです。市場を知るには顧客の声を聞くことが一番なのです。

 そのためにも、クレームだけでなく、顧客の正直な意見を収集することが重要になります。

 顧客があなたの会社をどう思っているのかを知ることは重要なことです。そのためにも、「お客様の声」を定期的に集めることをお勧めします。

 優れた会社は、アンケートをもとに会社の問題点を抽出し、その対策会議を行ない、スピーディーに改善策を立案・実行しています。

 顧客の声にすばやく対応することにより、顧客満足を高めているのです。

実施に際しては、顧客に正直に説明することです。

 アンケートの内容は、「自社のお客様から見て感じたよい点・悪い点、その他どんなことでも結構ですからあなた様の声をお聞かせください。そして、悪い点は改善し、お客様から頼りにされる会社にしてまいりますので、これからも応援よろしくお願い申し上げます。」
 このように簡単な内容でかまいません。

 そして、書いてくださったお客様には粗品を進呈してください。

 よい点・悪い点どんなことでもいいですから書いてもらうことです。

 そうすることで、あなたが今まで気付かなかった自社が見えてきます。
 

有名な話に、ユニクロが全国の新聞一面に「ユニクロの悪口を言って100万円」とキャンペーンを打ちました。

 話題性とお客様の声を聞くという一石二鳥の効果を狙ってのことでしょう。

 企業活動を行う上で、顧客からの意見や苦情は避けられないものです。

 企業は、苦情をなくすための努力はしているものの、苦情をゼロにすることはできません。
 例えば、顧客の勘違いや不可避の事態による配送の遅れなどは、企業努力で対処できる範囲にも限りがあります。

 クレームの多くはほんの些細なことが原因です。

 クレームが肥大化する要因の一つに初期対応があります。

 苦情が発生した場合は、誠意を持って解決に向けた適切な対応を行うことはもちろんですが、その苦情が発生した原因を分析し、再発防止を図る必要があります。
 苦情の根本的な原因は何かを掘り下げ、それを見つけて取り除くことにより、同じような苦情の発生を未然に防止することは、適正な業務を遂行する上での重要な課題です。

 苦情は避けられないものとして考え、苦情が発生した場合に企業に対するマイナスの影響を最小限にとどめるよう、苦情対応規定等を設け、苦情に対する対応方法を発生前にある程度定めておく必要があります。
   
苦情対応規定 

 苦情に対する対応方法を定めたものが苦情対応規定です。

 ただし、苦情対応は、それぞれの従業員が、その重要性や手順を理解して取り組むことが求められます。

 そのため、難解な表現を用いた規定では、従業員はそれを読み、理解しようという意識を持ちにくくなります。

 また、苦情対応は、企業を取り巻く環境変化に応じて、柔軟にそのあり方を見直す必要がでてきます。

 そこで、企業の規則としての苦情対応規定には苦情対応の大枠のみを定め、具体的な苦情への対応方法は別途苦情対応マニュアルで定めます。
   

苦情対応マニュアル

 苦情というと、どうしても「悪いもの」「避けたいもの」というイメージがあり、苦情対応に対して、消極的な姿勢をとってしまうこともあります。

 しかし、企業による不祥事や製品事故などが相次ぎ、企業に対する顧客の目がますます厳しくなっている現在、苦情に対する会社の姿勢についても顧客は大きな関心を寄せています。

 そのため、苦情対応をおろそかにすると、会社のイメージ低下、顧客喪失など会社経営に大きな影響を及ぼす事態になりかねません。
 また、苦情の背景には、会社経営を脅かすような重大な問題が潜んでいることもあります。

 こうした苦情を、初期の段階で察知・分析することなく見過ごしてしまうと、会社として取り返しのつかない事態に陥るケースもあります。

 このように考えると、苦情対応は企業にとって重要な経営課題であり、組織全体で取り組むべきものと認識し、適切に対応していくことが大切となります。

 基本的なマニュアルを作成することは、苦情において以下のような対応効果を高めるためです。

・質の平準化

 誰でも一定の水準の苦情対応ができる

・迅速な対応

 あらかじめ定められた手順に沿って行うことで、迅速に対応することができる

情報の共有

 苦情内容を従業員全員が共有できる仕組みを作っておくことで、次回以降の苦情に応用することができる。

 ただし、マニュアルを作成する際には、

 ・マニュアルを作成することそのものを目的としない

 ・マニュアルに頼りすぎた苦情対応をしない
 
 マニュアルを作成すること自体が適切な苦情対応に結びつくのではありません。

 マニュアルを従業員全員に周知させ、必要に応じて内容を見直しながら運用していくという一連の流れが自社の苦情対応力を高めていくのです。

 こうした点も考慮しながら、中小企業におけるマニュアルの基本的な作成手順とその留意点について考えてみましょう。
   

苦情対応マニュアルの作成手順

 マニュアルの作成・運用は以下の手順が基本になります。

1 苦情対応責任者の明確化

 苦情対応の責任者は誰かということを明確にします。

 責任者を明確にし、苦情が発生した場合に、情報がすべて苦情対応責任者の下へ集まるようにしておくことで、苦情対応の効率的な管理が行えるようになります。

 苦情対応責任者は、社長あるいはそれに近い階層の者が就くほうが望ましい。

 苦情対応への取り組みは、自社イメージを大きく左右することがあります。

 社長自らが苦情対応責任者として率先して苦情対応に取り組むことで、苦情対応を「企業活動における重要な取り組みの一つ」ととらえ、高い意識を持って苦情対応に取り組む姿勢を内外に示すことができます。

 社長自ら苦情対応責任者となり、苦情への対応方針を決定・指示することで迅速な対応が可能となります。

2 苦情対応責任部門の設置

 苦情対応責任部門の主な役割はマニュアルの作成や運用、修正や見直しなど、苦情対応に関するプロセス全体の統括を行うことです。

 マニュアル作成に関しては、実際に苦情対応を行っている現場の従業員の意見をマニュアルに取り入れることで、現実に即した「生きたマニュアル」が作成できます。

 苦情対応責任部門には、顧客からの苦情を受けることが多い従業員(営業、お客様センターなど)をメンバーとして組み入れるとよいでしょう。

3 マニュアルの作成

 苦情対応責任者および苦情対応責任部門が中心となってマニュアルの作成を進めます。

 マニュアルに盛り込む項目は業種によって多少の違いはありますが、基本的には次のような項目を盛り込みます。

(1)マニュアルの目的

 苦情に対する組織の考え方を記載します。

 冒頭にこうした考え方を盛り込むことで、従業員全体の苦情対応に対する意識の統一を図ります。

 ここでの記載内容としては、例えば、「苦情を受領した際には、お客様第一の立場で迅速かつ丁寧な対応を心がける」「お客様からの苦情には誠意を持って対応し、当社の商品・サービスをより適切にご利用いただけることを目指す」などとします。
 この項目は単文でもかまいませんし、複数行に分けてもかまいません。

 ただし、苦情対応に対する組織の考え方を示すものとなるため、できるだけ分かりやすく、従業員全員が共有できる内容にすることが大切です。

(2)苦情対応の具体的な手順

 苦情が発生した場合の対応手順について記載します。

 この項目はマニュアルの中でも核となる部分なので、慎重に検討します。

 具体的な項目としては、「受領」「内容の調査」「対応の検討」「苦情対応の実施」などがあります。

 手順については、

・苦情の受領から終了まで時系列に並べる

・実際の苦情対応例を併せて記載しておく

・「お客様への対応」と「社内の対応」に分けて手順を記載するなど、従業員が苦情対応の流れを理解しやすくなるような工夫が必要です。 

(3)苦情対応報告書の作成手順

 苦情対応報告書は、苦情対応に関する情報を管理するために必要となる重要な書類です。

 ただし、担当者によって報告書の記載内容・項目に大きな差があるようでは、情報を適切に管理することはできません。

 あらかじめ「苦情発生状況」「苦情内容」「苦情原因」「お客様のご要望」「対応」「対応結果」「備考」などを盛り込んだ苦情対応報告書フォーマットを作成しておき、苦情が発生したら、直接苦情対応に当たった担当者に記載・報告をさせるようにします。

(4)苦情のデータベース化の手順

 データベース化の目的は、苦情内容やその対応方法を全社で共有し、苦情の再発防止に役立てることが挙げられます。

そこで、苦情対応者から提出された苦情対応報告書を基に、苦情内容と対応方法などを蓄積します。

 データベース化された苦情情報には、従業員が誰でもアクセスできるようにしておくことが必要です。そうすることで、従業員は以前の苦情対応情報を参考に、よりスムーズな苦情対応を行うことが期待できます。 

4 マニュアルの周知・実施

 マニュアルを作成したら、苦情対応の勉強会などを開催し、従業員全員にマニュアルの浸透を図ります。  

 従業員の苦情対応のレベルアップを図るためには、こうした勉強会を定期的に開くことが理想的ですが、まとまった時間をとることが難しいという場合もあるでしょう。

 そうした場合には、朝礼などの時間を利用して通知するだけでも効果が期待できます。

 1回当たりの時間は少しずつでも、継続して取り組むことが重要です。

5 マニュアルの見直し

 マニュアルを実際に運用した上で、項目の見直しや修正を行います。

 あらかじめ、「3ヵ月ごと」「半年ごと」など、一定の期間ごとに見直しを行うことをマニュアルに記載しておきましょう。

 

マニュアル作成・運用上の留意点

1 マニュアル作成は完璧を目指さない

 マニュアル作成に当たっては、精密に作りすぎないということに注意する必要があります。 

 マニュアルというと、精密なものを作りたくなりますが、マニュアルで多くを規定しようとすると、マニュアル作成に時間や手間がかかる上、従業員が覚えにくく、浸透しづらいなどの問題点が出る恐れがあります。 

 しかも、精密なマニュアルがあると、従業員はすべてマニュアルに従って苦情対応を行うことになります。

 マニュアル通りの対応は、顧客に「機械的な対応」という印象を与えかねません。

 企業に対して苦情を申し出る顧客は、「自分の話を聞いてほしい」「自分が怒っている理由を理解してほしい」と考えています。

 そうした顧客に対して「機械的な対応」をしてしまうと、「本当に悪いと思っているのか」と、余計に顧客を興奮させてしまう可能性もあります。 

 また、従業員がマニュアル通りの対応に慣れてしまうと、マニュアルにない(想定していない)苦情に対して、対応できなくなる恐れもあります。 

 こうした問題を防ぐために、マニュアルには、例えば、

 ・苦情に対する基本的な考え方

 ・苦情が発生したときにどういう手順で対応するのか

 ・苦情対応を終了した後の社内処理はどうするのか

などの基本的な事項についてのみ記載しておき、実際の苦情対応に際しては、従業員にある程度の裁量を与え、柔軟な対応をさせるようにします。 

 もし、運用していて不足などがあれば、その都度見直していけばよいのです。

 もともと簡潔に作ってあるマニュアルであれば、見直しも簡単に行えます。

2 マニュアルは定期的に見直しをする 

 マニュアルは、一度作成したら終わりというものではなく、苦情対応を常に質の高いものとするためにも、定期的に見直しを行うことが重要です。

 現代は変化の時代といわれ、企業を取り巻く環境は、刻一刻と変化しています。

 作成時点では非の打ち所のないマニュアルだったとしても、環境が変化すれば、不都合が出てくる可能性があります。

 作成したマニュアルを見直すことなく使い続けていては、顧客の要求に応え切れなくなる可能性があります。 

 そのため、データベース化された苦情対応の情報や実際に苦情を受ける従業員の意見を、定期的に集約して内容を見直すなど、常に鮮度の高いマニュアルにすることが大切です。

 また、「同業他社の苦情対応事例」などの身近な事例は、適切な苦情対応をするために大変参考となりますが、入手は困難でしょう。

 それより異業種のマニュアルのほうが入手しやすいでしょう。

 日ごろから苦情対応に対するアンテナを張っておきましょう。

 

従業員を評価する仕組み

 どんなにすばらしいマニュアルを作ったとしても、実際の現場で顧客に対応する従業員が、高い意識を持っていなければ意味がありません。

 経営トップは、朝礼や研修などあらゆる機会を使って、従業員に苦情対応の重要性や苦情対応に当たっての心構えなどを伝えていくことが大切です。

 また、苦情対応に対する従業員の高い意識を保つためには、苦情対応を行った従業員をしっかりと評価することも忘れてはなりません。

苦情対応は、対応する従業員にとって大きな負担となるものですが、苦情対応を行った従業員を評価する仕組みが整っている会社は多くはありません。 

 確かに、苦情対応は利益に直結するものではないため、評価の対象となりにくい面はありますが、これでは、従業員に「苦情対応は割に合わない」という意識が生まれても仕方ありません。

 従業員がそうした意識を持つと、苦情対応に対する意識が低下してしまう恐れがあります。 

 こうした事態を防ぐために、苦情対応を行った従業員を評価する仕組みづくりが必要です。

 こうした仕組みとしては、例えば、

 ・半年間の苦情対応件数が最も多かった従業員を表彰する

 ・データベースに蓄積された苦情対応情報から、「参考となる対応」を従業員に選択させ、最も選択された数が多かった従業員に特別手当を支給する

などが考えられます。

JIS規格も参考にする

 苦情対応については、JIS規格「JIS Q 10002:2005 品質マネジメント-顧客満足-組織における苦情対応のための指針」が制定されています。

 この規格は、組織内部における製品やサービスに関する苦情対応プロセスの指針について標準化を行い、生産および使用の合理化、品質の向上を図ることを目的として制定されたものです。 

 同規格には、苦情対応の「基本原則」「計画および設計」「苦情対応プロセスの実施」「維持および改善」などの規定事項のほかに、苦情対応プロセスの構築や維持に大きく経営資源を投資することが難しい小規模企業のための指針、苦情の受け付けおよび苦情のフォローアップをする際のフォーマットなども添付されています。

 マニュアルの作成に当たっては、こうした規格を参考にするのもよいでしょう。

 

マニュアル項目例

(1)マニュアルの目的

 株式会社○○(以下「当社」)が提供する商品・サービスなどへの苦情に対し、適切に対応し、円滑かつ円満に解決するための対応手順並びに留意点について定めるものとする。

(2)苦情対応の手順

 苦情申出者と接する従業員(以下「対応者」)、苦情対応責任者(以下「責任者」)が行う職務は以下の通りとする。

①苦情の受領

・苦情受領時、対応者は苦情申出者の話を十分に聞き、苦情内容とお客様の希望の把握に努める。

・対応者は苦情の内容を責任者に報告する。

・苦情が電子メールや手紙など、直接対話を伴わない手段で行われた場合には、責任者は受領した旨を苦情申出者に通知する。

②苦情内容の調査

・責任者は対応者などに事情聴取を行い、苦情の内容、原因および苦情申出者の状況などの客観的事実の調査を行う。

③苦情対応方法の検討

・責任者は対応者などを交え、適切な苦情対応方法の検討を行う。

・当社のみで対応することができない場合(不当な要求など)には、関係機関へ苦情内容を報告し、協力を仰ぐこととする。

④苦情対応の実施

・対応者は検討された苦情対応を基に苦情申出者に回答する。場合によっては、責任者など第三者を交えて苦情申出者に対応する。

・すぐに回答できないものについては確認後に連絡する旨を伝える。その際には連絡期日を設定しておく。

・苦情申出者への回答は文書を用いるものとする。

(3)苦情対応報告書の作成

・対応者は苦情の内容、対応結果などを苦情対応報告書にまとめ、責任者に提出する。

・責任者は苦情対応報告書を受領し、保管する。

(4)苦情のデータベース化

・責任者は苦情対応の結果を受領し、当該苦情の記録を行い、当社の商品・サービスなどに反映し、再発防止に努めることとする。

(5)マニュアルの見直し

・本マニュアルは、実際の苦情情報を反映させ、6 カ月ごとに見直しを行うものとする。 

 

 クレーム(苦情)対応に限らず、会社という組織を動かしていくにはマニュアルの整備は欠かせない。

 組織における仕組みづくりは、場当たりな行動をなくしていくことで、経営リスクを軽減し、継続した収益をだすために必要なのです。

 「クレーム」というと、できれば避けてとおりたいと思いがちです。できればクレームは無いほうがよいですし、万が一クレームを受けてしまった時は、なるべく上手にお客様をなだめて機嫌を直してもらい、それで一安心と思っている人も多いでしょう。

 しかし、よく考えてみれば、クレームはお客様からの不満の意志表示であり、言い換えれば「こうして欲しい」というお客様からの忠告・ニーズの表現なのではないでしょうか。
 クレームに対する姿勢を今までのようなマイナス思考からプラス思考に変えることによって、貴重なお客様からの忠告の言葉を財産にしていくことができるのです。そのためにも、その場限りの解決を図ろうとせず、クレーム(苦情)に対応するための苦情(クレーム)対応マニュアルの作成が欠かせません。

 

クレームの予防

 クレームの予防対策として『顧客との接点の強化』があります。

 もちろん、『顧客との接点の強化』はクレームの予防策としてだけでなく、営業力の強化、CSにも効果的です。

経営と真理 へ

「仏法真理」へ戻る