苦情対応の基本

クレームの原因

 ・商品知識や業務知識が不十分である

 ・適切なお客様対応やCSに対する理解が不足している

 ・従業員の教育が不十分である  

 ものごとに正しく対応するためには、そうなった原因をつかむことが先決です。

 どうしてこのクレームが発生したのか、その根拠をしっかりつかんで、対応のしかたを誤らないようにしなければなりません。

 初期の段階で失敗すると解決が長びき、たいへんな労力と時間を要します。

 それでは問題を悪化させるだけです。

 

クレームをもちこむ顧客心理

 様々なことが考えられますが、それが正しいかどうかはともかく、クレームを言われるにはそれなりの原因があります。

 ・以前にも同じようなことがあって我慢できなくなった

 ・事務的な対応に対して不満をもっている

 ・その会社自体に対する悪い先入観がある

 ・過剰な客意識からくる怒りをぶつける

 ・損失の大きさ(経済的、精神的)に対する怒りを我慢できない

 不満が高じてクレーム苦情に発展していきます。

 しかし、不満を感じた人のすべてがそれを意志表示する訳ではありません。

 以下の事例ではクレームを苦情と言い換えてみます。

 一般的に不満が苦情となって表れるには潜在的な不満
   ↓ 疑問を持つ(あなたは気づかない)

 顕在化された不満
   ↓ 言葉は柔らかいが、顧客が態度や言葉に表す

 潜在的な苦情
   ↓ 担当者に直接言わず、別の人間や上司に不満をぶつける

 顕在化された苦情
   ↓ 担当者に直接(or 電話で)日ごろの不満をぶつける

 上記のように苦情を持ち込むまでにはプロセスがあります。

 

クレーム(苦情)はお客様を増やすチャンスでもある

 お客様は不満を感じていてもそれを表明してくれる人は約半数しかいません。

 米国のある消費者データでは、不満を感じた人の96%がその不満を口に出して言わないそうである。((米国の調査では、口に出して言うのはわずか4%) そして、96%のうちの94%が再購入しない、というものです。
 マイナスの口コミ効果は、女性に顕著に表れ、中でも主婦においては非常に大勢の人に伝わるというデータが出ているとのことです。

 不満を感じた人が一年間にその不満について20人に伝えると、その話を聞いた20人の一人ひとりが別の20人の人に伝え、それを聞いたさらに一人ひとりの人がまた新たに20人に伝える。

 この行動を5回繰り返すと、なんと320万人に伝わることになります。

 逆に、満足情報の口コミは1年間に5~6人にしか伝わらないそうです。
 もちろん、計算どおりにはならないにしても、悪い話は驚くほどのスピードで広範囲に伝わることは確かです。特に、IT環境下にある今では、話半分どころではないはずです。ましてや、わざわざ電話をしてきたり、どなりこんできたりするお客様はもっと少なく、大半は不満を持ちつつ黙って離れていってしまったり、あなた(会社)にではなく、自分の周囲の人にマイナスのロコミを流したりします。
 このようなお客様に対しては、その不満や不信感をぬぐうチャンスもなかなか与えられません。

 しかし、わざわざ苦情の連絡をしてくださるお客様は、それだけ関心があるお客様であり、迅速・適切に対応することによってファンになっていただくことも可能です。

 一つ一つのクレームを真摯に受け止め、同じ様なクレームの再発を防ぐとともに、クレームをいってこられたお客様には必ず満足していただけるように適切な対応を行なうことが必要です。
 クレームは、「発生したこと」よりも「いかに対処したか」が問題です。

 クレームは、「誰が起こしたか」ということよりも、「何故起こったか」を追求して再発防止に努めるとともに、「適切に対応できたか」が重要となるのです。

 起きてしまったクレームは、もみ消したり、その場かぎりの解決を図ろうとしたりせずに、会社との連携を図り、迅速・適切に対応していきましょう。

 

苦情対応の基本

 苦情対応の基本は、「迅速で確かな対応」と「誠意ある対応」が最重要であることをよく認識しましょう。
 具体的には、次の諸点に留意して迅速かつ誠意をもって対応するようにします。

イ.相手が誰であれ、丁寧な言葉使いを忘れずに

口.相手から問われなくとも、みずから名乗ること

ハ.相手を確認すること。(氏名・住所・電話番号などの連格先)

ニ.相手に極力話をさせ、聞き取ること

ホ.相手の主張の内容をよく確認すること。(5WIH)

へ.余計なことは言わないこと

卜.誤解を招く言葉や、様々な意味にとられかねない言葉は使わないこと

チ.できるだけ平易な言葉を使うように心がけ、専門用語や仲間うちの言葉は使わないこと

 苦情は、「発生したこと」よりも「いかに対処したか」が問題であり、「誰が起こしたか」ということよりも、「何故起こったか」の原因を追求して再発防止を努めるとともに、「適切に対応できたか」が重要となるのです。起きてしまった苦情を場当たり的な解決やもみ消しせずに、会社との連携を図り、迅速・適切に対応します。

 訴訟大国の米国では苦情が苦情にとどまらず、訴訟へと発展するケースが多数あります。

 これは、米国の弁護士がambulance chaser(蔑称で救急車を追いかける人)と呼ばれ、事故現場に駆けつけ被害者に訴訟を持ちかける悪徳弁護士が多数いることも要因となっている。

 わが国では「言いがかり」としか思われないようなことで訴えます。

・猫を電子レンジに入れて乾かそうとした

 「説明書に”電子レンジで猫を乾かしてはいけない”と書いていなかった」という主張が認められて、電子レンジのメーカーは賠償金を支払った。

 通称「猫チン事件」は、日本でも驚くべき実話としてさまざまな論説で紹介され、PL訴訟などに対する備えを説く上で大きな影響を与えてきましたが、実際にはこの事件に該当する判例は存在せず、今では、この話が一種の「都市伝説」または「寓話」であることが知られているそうである。

・ドライブスルーでコーヒーをテイクアウトして、運転しながら飲んでいたら、こぼして軽い火傷をした。

 彼女(老女)はマックを訴え、勝訴しました。

・プールに水を張っていなくて泥棒が落ちて怪我をした。

 泥棒が、学校に泥棒に入ろうとして何故か体育館の屋根を歩き、屋根が弱っていたためそこから体育館の中に落ちて大怪我した。
 その泥棒は、学校側の管理不行き届きを訴えて、結果勝訴しました。

・お化け屋敷が怖すぎると訴えた女

 フロリダ州の女性が、ユニバーサル・スタジオを相手に裁判を起こした。
 同テーマパークのお化け屋敷アトラクション「ハロウィン・ホラー・ナイト」が怖すぎたため、精神的苦痛を負ったという言い分。裁判の結果、彼女は1万5000ドルの慰謝料を勝ち取りました。

 

電話による苦情(クレーム)への対応

 苦情(クレーム)はさまざまな形で寄せられます。電話によるものも少なくありません。
 苦情(クレーム)処理は初動が重要なので、苦情(クレーム)を受けた電話担当者は、相手の怒りを静めながら、正確に状況を把握することが大切です。

苦情(クレーム)の電話を受けたら、まずは誠意をもって謝罪します。時には、相手の発言が紳士的でないこともありますが、そのような時でも感情的にならず、誠意を持って謝罪します。
 こちらがどんな気持ちで謝罪しているのかは、不思議と相手に伝わるものです。

 マニュアルを棒読みしたような感情のこもっていない謝罪は、相手に不快感を与えることもあるので注意が必要です。

 相手の話が長引いても途中で相手の話をさえぎってはいけません。人は誰かに話すことでストレスを発散するので、長く話せばそれだけ怒りも静まってきます。

 また、話を最後まで聞かなければ、相手が何に対して不満を持っているのかが分かりません。

 こうしたことがないように、相手の話を最後まで聞くことを徹底しましょう。 
相手の話を聞き終えた後、今度は電話担当者のほうから質問をします。

 これは正確に状況を把握するための質問なので、事実関係を聞き出してメモにまとめます。

 その際、電話担当者は感情のある人間なので、相手に嫌悪感を抱いたり、逆に強く共感することもあるでしょう。

 しかし、電話担当者はそうした感情から私見を述べてはなりません。
例えば、電話担当者が相手に共感し「全くその通りです。私見ですが、弊社の姿勢に問題が

あると思います」などと発言してしまったら大きな問題です。

 電話担当者は、あくまで私見を述べたつもりでも、相手は企業の総意として認識します。

 また、相手が悪質な場合、電話担当者の私見がインターネットなどを通じて世間に公開されるなど、企業イメージを損ないかねません。

 

事前準備と最低限のマナー

 多くの場合は電話受け付けがクレーム処理の始まりとなります。そのため、企業は電話担当者に電話応対の基本マナーを徹底的に教育しなければなりません。

電話応対の基本は、相手に不快感を与えないこと

 クレーム処理の電話応対で求められる基本マナーは

 ・社名と氏名を名乗ること

 ・常にハキハキと話すこと

 ・「はっ?」「えっ?」といった聞き返し方はしないこと

などです。

 つまり、相手に不快感を与えるような電話応対はしてはならないということです。

 クレーム処理に真摯に取り組んでいる企業は、既に担当者に教育済みのことと思いますが、再度、チェックしてみるとよいでしょう。

 

聞き取りにくい携帯電話からのクレームの応対

 携帯電話でクレームを寄せてくる人も増えてきています。

 電波の状態によっては、声が小さく内容が聞き取りにくいことがあります。

 しかし、電話担当者のほうから「公衆電話でかけ直してください」とはいえません。

 また、相手が出先であれば担当者から別の電話に折り返し連絡することもできません。
こうした場合、多くの電話担当者は自分の話を確実に伝えるために大きな声で話します。

 これはこれで、正しい対応ですが、逆の考え方もあります。

 具体的には、電話担当者が故意に声を小さくして、相手方にも話が聞き取りにくい状況を体感してもらうのです。
 相手が携帯電話の電波が良好でないことを知り、公衆電話などからかけ直してくれれば成功です。

 ポイントは、相手が主体的に別の電話でかけ直す行動に出るように誘導することなのです。

電話だからといって、油断はできない

 電話担当者が電話口で「タバコを吸う」「お茶を飲む」などの行動をしてしまうことがあります。

 電話では相手の表情や仕草を目で確認できません。そのため、電話担当者が油断してタバコを吸ってしまうことがあるのです。

 しかし、相手は、電話担当者がタバコを吸っていることをライターで火を付ける音、普段とは異なる息遣いから察していることが少なくありません。

 これは大変失礼なことなので、このようなことがないようにしなければなりません。

対策

処理案を提示する 

 正確に状況を把握した後は、相手に具体的なクレーム処理案を提示します。

 初回の電話で処理案を提示することはスピーディーなクレーム処理として好ましいといえます。

 ただし、苦情(クレーム)はすぐに処理できる簡単なものばかりではありません。

 また、電話担当者によって対応が異なることも問題です。

 そのため、電話担当者の裁量で処理案を提示できるクレームは、あらかじめマニュアルで定めておき、それ以外のものについては必ず電話を切った後に、改めて処理案を提示するようにしましょう。

 難しいクレームを処理するために必要な時間をかけることは相手に対して失礼ではありません。

 また、一度電話を切る際のポイントは以下の3つです。

 1.相手にとって最善の対策を検討するために時間をもらう旨を伝える

 2.次に電話をする明確な時期を伝える

 3.必ず、こちらから連絡する旨を伝える
具体的には、「かしこまりました。お客様のお話は□□の件ですね。本件につきましては、最善の対応を検討し、○○日までに弊社のほうからご連絡させていただきます」などと伝えます。

 相手から「クレーム処理の担当者なのに、そんなことも判断できないのか。私が話をした意味がないじゃないか」といわれるかもしれませんが、それでも必ず電話を切ります。 

処理案を実行すること 

 相手に提示した処理案を確実に実行します。1分でも遅れてはいけません。

 苦情(クレーム)の内容にもよるものの、処理案が実行されるころには、「処理案を確実に実行してくれるのであれば、今回のことは大目に見よう」と考える人が少なくありません。

 ここでさらにミスをしてしまうと事態は相当に悪化します。

 度重なる失態には次はありません。

社内体制の再チェック 

 苦情(クレーム)は、社内体制に何らかの問題があることをあなたに教えてくれます。

 各段階での担当者および責任者、業務の流れについてもう一度チェックし直し、問題があれば早急に改善します。

 苦情(クレーム)後のチェックをせずに、いつまでも同じ失敗を繰り返しているあなたは、今すぐにその姿勢を改めるべきです。

 

苦情対応のスキルを向上

苦情対応力を高めることの重要性

 苦情というと、どうしても「悪いもの」「避けたいもの」というイメージがあり、苦情対応に対して、消極的な姿勢をとってしまうこともあります。

 しかし、企業による不祥事や製品事故などが相次ぎ、企業に対する顧客の目がますます厳しくなっている現在、苦情に対する企業の姿勢についても顧客は大きな関心を寄せています。
 そのため、苦情対応をおろそかにすると、企業イメージの低下、顧客喪失など企業経営に大きな影響を及ぼす事態になりかねません。

 また、苦情の背景には、企業経営を脅かすような重大な問題が潜んでいることもあります。

こうした類の苦情を、初期の段階で察知・分析することなく見過ごしてしまうと、企業として取り返しのつかない事態に陥るケースもあります。
 このように考えると、苦情対応は企業にとって重要な経営課題であり、組織全体で取り組むべきものと認識し、適切に対応していくことが大切となります。

増加する苦情(クレーム)

 苦情を受けた それはチャンスでもあるが、苦情に対応する慣れがあるのとないのでは、受けるものの心理が表情や言葉となって表面に現れます。すると、同じ会話をしても、怒られるときと許されるときがあるのです。

 さて、そういった場面で、自分がどんな表情をしているのか、また、声のトーンでどんな印象を与えているのか、その状況は自分では見えません。

  プロの歌手は事前に十分に発声練習をして舞台にあがります。

 同様に、苦情であれ、説明であれ、報告であれ、自分の表情作りをして臨むだけで大きな差が生じるのです。

 あなたは、最近怒る人が多くなった、自分の職場へ文句を言われることが増えた、という実感はありませんか? 

 誰もがストレスを抱えているこの時代、ちょっとしたことでイライラしたり、怒ったりする人が急速に増えています。

 その結果、思い違いや言葉の行き違いから、トラブルになったり、さらには苦情に発展したりするケースも目立ってきています。

 「そんなことが」といった、以前なら問題にもならなかったささいなことが、今ではもめごとの原因になっているのです。

 

お客様対応で大切な言葉の選び方

 もとからのクレーマーなどいない。はじめからクレーマーとしてやってくる人は1人もいません。もっといえば、彼らは不平や不満を申し立てる「正当な理由」を持っているのです。

ところが、対応する人間がそれを理解できず、誤った対応や身構えてしまうのです。

 最初から相手をクレーマーとして見てしまえば、どんな対応になるかは想像がつくでしょう。

 表面上はなんとかとりつくろっても、心理的には防御意識が先に立ちます。

 そこで、たとえば、相手の言っていることを疑ってかかる、といった姿勢が伝わってしまうのです。

 また、心理は言葉にも現れますから、相手の気に障るような受け応えをしてしまう、ということにもなるわけです。

 そうなったら、相手の感情も上がってしまいます。

 正当な理由もどこかにいってしまい、感情を一気にこちらにぶつけてくる、という流れになります。

 これがクレーマーの実情です。

 では、クレーマーとなるきっかけはどこにあるのでしょう。

 対応の仕方で何より大事なのは言葉です。

 なにげなく言ってしまったひと言が、相手をクレーマーにするのです。

 苦情になるかならないか、クレーマーをつくるかつくらないか、言葉の選び方次第、使い方次第なのです。

 

「クレーマー」にさせない話し方のポイント

 どんなに怒ったり、感情をむき出しにしたりするような相手でも、こちらの受け応え次第でガラリと変わります。

 たとえば、販売した商品に関して、相手が「不具合がある」と言ってきたケースです。

 売り手としては、まず、「新品なんだから、そんなことあるはずないじゃないか。使い方が間違っているんじゃないの?」と思うのがふつうでしょう。

 そこで、「お客様、そんなことはないはずですが」と対応します。

 気持ちをそのまま言葉にした率直な対応ですが、その率直がいけません。

 相手は何も理由もなく、文句を言いにきているわけではないのです。

 実際、使ってみて不具合を感じたから、そのことを訴えているだけです。

 そこで、いきなり否定の言葉が返ってきたら、誰だって頭に血がのぼります。

 「そんなはずはない? 実際、そんなはずがあるから、ここにきてるんだ! こっちは客だぞ。その言い方はなんだ!」ということになってもなんの不思議もありません。

 対応する側がクレーマーをつくっている典型的なケースといってよいでしょう。

 一方、こんな受け応えはどうでしょうか。

 「それはお困りですね。ご足労をおかけして申し訳ございません。それでは使い方を、一度、ご説明させていただいてもよろしいでしょうか」

 相手の言うことを受け入れ、肯定しています。

 しかも、「お困りですね」と相手の思いに共感する言葉から始めています。

 これなら、相手は説明をじっくり聞いて納得し、「そうか!やっぱり、一から説明してもらってよかった。よくわかったよ。ありがとう」と、感謝の気持ちが強くなり、クレーマーにはならないでしょう。

 お客様への対応には、最初の言葉、一言がきわめて重要です。

 肯定と共感が最大のポイントです。

 「おっしゃることはよくわかります。それではお話をちゃんと伺わせていただきます」という姿勢が伝われば、血相を変えてまくし立てている相手も、一瞬にしてガラリと変わるはずです。

 

言葉のウラに隠れている真意を汲み取る

 もうひとつ、対応で心がけなければいけないことがあります。

 それは、言葉のウラにある相手の心理あるいは真意を読みとることです。

 しかし、これはなかなか難しいのです。

 相手から激しい言葉を浴びせかけられると、気後れしたり、萎縮したり、あるいは、売り手側も感情的になったり ということになりがちです。

 それで冷静さを失い、言葉を表面的にしか受けとれなくなってしまうのです。

 その結果、相手のペースに引き込まれ、言葉の応酬といういちばんまずい展開になるわけです。

 「そうはおっしゃいますけど」「お言葉を返すようですが」

 相手にカチンときたときに、こういった言葉が、つい口からでてしまう、言葉の代表格でしょうか。

 しかし、これは禁句です。

 相手の怒りの火に油を注ぐようなもので、問題はこじれるばかりとなるでしょう。

 言葉のウラに隠れている真意、本音をくみ取らなければなりません。

 

相手の話をじっくり聞いて本音を読み取る

 このケースのように、対応している相手が、必ず本音を言葉にしてくれているとは限りません。

 言葉で語られない本音を見抜くには、かなりの経験を積むことが必要だと思いますが、ヒントはあります。

 ひとつは、相手が訴えていることが、「なぜ、こんなことで文句を」というような、ささいな問題だというケース。

 これはそのウラに何か隠れていると思ったほうがよいでしょう。

 たとえば、「注文した料理がまだこない。いつまで待たせるんだ!」といった場合。

 それほど時間がかかっているわけではないのに、そんなクレームがあったときなどは、自分より後に入店した人の料理が先に運ばれてきたことに怒っている、といったことも考えられます。

 もちろん、料理によって調理時間が違いますから、しかたがないことなのですが、ここはその意を察した一言があると、相手の気持ちはスッと収まるものです。

 「申し訳ございません。調理時間が違いますので、あちらのお客様に先にお出しいたしました。お客様のご注文の品はもう3分ほどでお出しできます」

 いかがですか? 「すみません。もう少しで出ます」という対応との違いは明らかだと思いませんか?

 次のヒントは、声のトーンや大きさです。

 声はときによって、言葉そのものより、その人の心のうちを明確にあらわすことがあります。

 トーンが変わったり、声が大きくなったりしたときは、「あっ、ここが一番に言いたいことかもしれない」という感性のアンテナを働かせましょう。

 何度も繰り返して相手がふれるポイントも本音を知るヒントになります。

 「こんなこと言いたいわけじゃないんだけど」「そこまで言うつもりはないけど」

 こんな前ふりで同じことを繰り返すようだったら、ほぼ間違いなく、その「言いたいわけじゃないこと」「言うつもりはないこと」こそが本音です。

 本音がわかったら、お互いが納得できる着地点を見出しやすくなります。

 ただし、あせってはいけません。

 相手の話は最後までじっくり聞く。

 この姿勢を崩さないことです。

 「よし、本音が見えた」と意気込みすぎ、先を急いで、それに沿った提案をしたら、相手には まだ言いたいことがあった というケースも少なくないからです。

 「その件はそれでよいけど、もうひとつ言いたいことがあって」「これについてはどう考えるのかな」 相手からこんな言葉がでるようでは、対話をまとめようとしたことが、完全な勇み足になります。

 話を聞きながら、こちらが受け取った本音が正しいのかどうかを確認してください。

 「これで十分お気持ちをお話しいただけましたか? 何かほかにございましたら、どうぞおっしゃってください」

 そんな一言で相手が思いのたけをすべて語り尽くしたか、確認するのもよいのではないでしょうか。

 こちらの提案なり、回答なりを示すのはそのあとです。

 本音を読み取ったあとなら、できるかぎり相手の意向を汲む形での対応ができるはずです。

 それで、相手も「この人は私の気持ちをわかってくれた」と感じて、気持ちも一気にほぐれます。

 お互いに打ち解けて信頼感が生まれるといってもよいでしょう。

 最後には、「本当にご迷惑をおかけしました。今後はこのようなことがないように心がけてまいります。今日は貴重なご意見をありがとうございました」と感謝で締めくくれば、万全の対応となります。

 ある調査では、2割の人がつねにいらだちを抱えているという結果が出ています。

 だからこそ、「相手の感情を上手に受け止める技術」「相手の心理を読みながら対話を進める技術」が求められるのです。

 この技術は、対顧客だけでなく、あらゆるビジネスシーンで生かせます。

 なぜなら、もっとも厳しい対応のシチュエーション、怒りを買いそうな対話の局面は、ほかならぬ苦情に対応するときだからです。

 苦情に対応する技術を身に付けたら、どんな状況も恐るるに足らずなのです。

 

顧客タイプ別クレーム対応

クレーム対応に必要な視点

1 重要性を増すクレーム対応

 既に顧客満足(CS)の考え方は世間一般に広く浸透しています。

 そのため、企業に対する顧客の期待は大きくなり、企業に対する顧客の目は一層厳しさを増しています。

 企業活動をするうえで避けられない「クレーム対応」においても、顧客の目は厳しくなっており、クレームに対する企業の姿勢はとても重要視されています。
 クレームへの対応が悪いと、顧客はその企業から離れていくだけでなく、「あの企業の対応は悪い」などと悪い評判(口コミ)を広める危険性があります。

 悪い口コミは、好ましい口コミよりも広がりやすいことはすでにご承知のことでしょう。

 特に近年では、インターネットの普及により、口コミの伝播範囲は広がっており、その影響は無視できません。

 そのため、企業におけるクレーム対応の重要性は日に日に増しているといえます。
 各企業は、顧客からのクレームに適切な対応ができるようなマニュアルを策定し、実践しているところもありますが、それにもかかわらず、クレーム対応に関するトラブルは後を絶たないのが実情です。

 このように、クレーム対応がうまくいかない場合には、

 ・マニュアルがクレーム対応の基本に沿って作られているか

 ・マニュアルに頼りすぎて、画一的な対応になっていないか

という点を再確認する必要があります。

 

2 顧客の視点に立ってマニュアルの内容を再確認する

 クレーム対応の基本は、顧客の視点に立つことです。

 そのため、マニュアルの内容も顧客の視点に立ったものでなければなりません。

 一般的には、クレーム対応は、次のような流れで行われます。

 マニュアルの内容は、この流れを踏まえたうえで、「顧客の視点に立つ」というクレーム対応の基本が含まれていなければなりません。

 クレーム発生 ⇒ クレーム内容とその原因の把握 ⇒ クレーム対応策の検討⇒ 原因の説明と改善案の提示 ⇒ 対応の実施⇒社内へのフィードバック

 

「顧客の視点に立った対応」とは

クレーム発生時

 ・迅速に対応しているか

 ・対応者を理由なく変えたり、顧客をたらい回しにしていないか

クレーム内容とその原因の把握

 ・クレーム内容を的確に把握するため、顧客の立場で話を聞いているか

クレーム対応策の検討

 ・顧客の意向をくみ取った対応策を検討しているか

原因の説明と改善案の提示

 ・混乱や不安を招くようなあいまいな表現や態度はとっていないか

 ・「対応できること」と「対応できないこと」を区別し、その理由を提示しているか

対応の実施

 ・対応者が最後まで責任を持って対応しているか

社内へのフィードバック

 ・データベース化など社内にクレーム情報をフィードバックしているか

 ・経営層および従業員間でクレーム情報の共有化が図られているか

 すでにマニュアルが整備されている場合は、上記視点でマニュアルが作成されているか再確認してみます。

3 マニュアルだけの画一的な対応になっていないか

 次に確認する点としては、「マニュアルに頼りすぎていないか」ということです。

 たとえ、マニュアルがよくできていても、「マニュアルだけで対応する」という点がクレーム対応の妨げになっていることがあるのです。

 普段の企業活動を考えてみましょう。

 顧客に対して営業や接客を行う際、マニュアルだけで対応しているでしょうか。

 通常は、マニュアルを踏まえながら、場面や状況に応じた対応を行っているはずです。
 そう考えると、クレーム対応に限ってマニュアルだけで対応するというのは不自然です。

 クレーム対応も、顧客に応じて対応を変える個客対応が必要なのです。

 顧客のタイプや考え方によって、クレーム対応に求められるものは異なるため、こうした個客対応という姿勢がクレーム対応においても欠かせないのです。

 

顧客タイプ別にみるクレーム対応

1 顧客のタイプ

(1)感情表現型

 「感情表現型」とは、喜怒哀楽の感情を前面に出してクレームを言うタイプです。

 感情表現型には、大声で怒鳴るなど感情を前面に出すタイプや、社長や役職者の謝罪を強く求めるタイプがみられます。

①怒りを前面に出すタイプ

 

 「どうなっているんだ!」「すぐに対応しろ!」などのように、語気が荒く、怒った状態でクレームを言うタイプです。

 このタイプの顧客は、感情的にクレームを言うため、対応する側が緊張、委縮してしまうことも少なくありません。

 しかし、対応者が冷静でなければ、クレームを適切に対応することは難しくなります。

 顧客がなぜ感情的になっているのか、ということに気を配れば、緊張したり委縮したりすることなく落ち着いて対応することができるでしょう。

 こうした顧客は、

 ・自分は不当な扱いを受けた

 ・不満をぶつけたい、分かって欲しいという気持ちが強い

と考えられます。そのため、対応者はこうした顧客の気持ちをくみ取ったうえで、クレーム対応に当たる必要があります。
 このタイプの顧客のクレーム対応に当たっては、まず冷静に話ができる雰囲気をつくることに努めましょう。

 感情的になっている相手にマニュアル通りの対応をすれば、かえって不満を増大させかねず、落ち着いて話し合うことは期待できないからです。

 ただし、相手を落ち着かせようと、はじめから「落ち着いて話し合いましょう」などと言葉にするのは逆効果でしかありません。

 ここで大切なことは、顧客の気持ちを尊重し、相手の気持ちに共感することです。

 「おっしゃることはよく分かります。お客様のお話を詳しく伺いたいので、聞かせていただけますか」など、相手の気持ちを尊重して話を切り出せば、顧客は「自分の話を正面から聞いてくれる」という気持ちになり、落ち着いて話をする気持ちになるでしょう。

 さらには、「対応者を替える」「場所を替える」などその場の雰囲気を変えることも、冷静に話し合いができる状態にするには効果的です。

 例えば、上司に取り次ぐ、応接室に移動するなど、場の雰囲気を変えることで、顧客の気持ちが変化することがあります。

 ただし、何の説明もなく対応者が変わったり場所を移動したりすると、顧客に不信感を抱かせ、冷静な話し合いができなくなってしまう可能性があります。

 そのため、「責任者である上司と一緒にお話を伺います」「応接室にご案 内いたしますので、そちらでゆっくりとお話を伺います」など、対応者や場所を替える理由をきちんと説明しましょう。

②「上を出せ」と言うタイプ 

 対応者が謝罪をしても「上司に代わってくれ」「社長じゃないと話にならない」と役職者による謝罪を求めるタイプです。

 こうした顧客は、自分を大切な客と認めて欲しい、扱って欲しいと考える傾向が強いといえます。

 こうした場合、実際に上司や社長が出て謝罪するケースがあるかもしれません。

 確かに、そうすることで顧客の自尊心は満たされるかもしれません。

 しかし、クレーム対応で、役職者や まして社長が頻繁に出て謝罪するのは、対応方法としてはあまり好ましくありません。

 こうした場合には、対応者を明確にして最後まで責任を持って対応することが重要です。

 対応者は「私はこの会社でお客様からのお話を受ける責任者であり、あなたのお話は私が責任を持ってお聞きします」と顧客に明示することが必要です。

 たとえ役職がなくても、「責任者」が誠実な対応を行えば、顧客の自尊心は満たされ、必ずしも上司や社長が出てくる必要はなくなるのです。

(2)理論型 

 「理論型」とは、一言でいえば「頭のいいタイプ」といえるでしょう。

 感情的な言動ではなく、自分の主張を冷静に話し、もし、企業側の話につじつまが合わない部分や納得できない部分があれば、追及をします。

 理論型には、理路整然と話をするタイプや法律などを基に主張するタイプがみられます。

 

①筋道を立てて理路整然と話すタイプ

 このタイプの顧客は感情的な表現はせず理論的に話を進めます。

 対応者の話につじつまが合わないところがあれば、指摘したうえで理由を求めます。

 場合によっては、「こういう対応をして欲しい」と企業の対応方法まで指定することもあります。

 こうした顧客は、自分の話は正しいと考えている傾向が強いと考えられます。また、(自分の話が正しいから)企業は自分の意見に従うべきだという気持ちが強いともいえます。

 こうした顧客に対応する場合、特に注意すべきことは、

 ・顧客と議論をしない

 ・あやふやな態度を取らない

ということです。

 顧客と議論したり、ましてや顧客を言い負かすことは、決してクレームの解決にはつながりません。

 顧客は、「自分の話は正しい」という気持ちで話しているため、対応者が積極的に議論をしようとすればするほどお互いの溝を深める結果となる危険があります。

 そのため、対応者はお互いの溝をつくらないように対応しなければなりません。

 具体的には、顧客と「協力して」クレームを解決する方法を見いだす姿勢で対応する必要があります。

 例えば、顧客と意見が食い違ったとしても、「私どもではそのようには判断いたしません」などと突き放した言い方や断定的な言い方は避けるべきです。

 この場合は、「お客様のおっしゃることはごもっともです。お客様と同様のご意見をいただくこともございます。私どもでは、○○と考えておりますが、いかがでしょうか」と顧客の意見を尊重したうえで、協力して解決する姿勢をみせることが必要です。

 「協力してクレームを解決する」という姿勢が顧客に伝われば、お互いの意見を尊重しながら話し合いをスムーズに進めることができるはずです。

 また、クレーム対応の基本として、「確か○○だと思います」などのあやふやな発言は避ける必要があります。

 理路整然と話すタイプの場合には特に注意を払わなければなりません。

  せっかく顧客が「協力して解決しよう」という気持ちを持っていても、こうしたあやふやな対応は顧客の不信感につながります。

 対応者は「すぐに答えられるもの」と「すぐには答えられないもの」を明確にし、「すぐには答えられないもの」については、確認したうえで顧客に回答するという姿勢で対応することが必要です。

②法律や制度を背景にクレームを言うタイプ

 「○○に違反していますよ」「○○に訴えます」などと法律や制度を挙げてクレームを言うタイプです。

 こうした顧客は、

 ・(○○によれば)私は正しい

 ・(○○によれば)企業が間違っているから私の意見に従うべきだ

と考える傾向が強いといえます。

 理路整然と話すタイプと同じように「顧客の話に反論しない」「あやふやな態度は取らない」という点に注意を払う必要がありますが、特に「あやふやな態度を取らない」という点で注意をする必要があります。

 こうしたタイプの顧客は、企業の対応に不備があれば、法律などに訴えることが十分に考えられるため、自社の対応や回答に不明瞭な点があれば、その点をしっかりと確認したうえで顧客に伝える必要があります。

(3)消極型

 「消極型」とは、企業と積極的にコンタクトを取ろうとせず、クレームをあまり言わないタイプのことです。

 消極型には、積極的にクレームを言わないものの、明らかに不利益を被った場合にのみクレームを言うタイプがみられます。

 

①積極的にはクレームを言わないが、場合によってはクレームを言うタイプ

 このタイプは普段はクレームを言いませんが、明らかに不利益を被った場合や、どうしてもほかで代替できない場合など、やむを得ない場合にクレームを言うタイプです。

  こうした顧客は、

 ・本当はクレームを言いたくない(が、やむを得ない)

 ・できることなら争いごとは避けたい

と考える傾向が強いといえます。

 本当は言いたくないが、やむを得ず言うクレームというのは、その顧客にとって相当大きな問題と考える必要があります。

 しかし、このタイプは強く主張することがほとんどないため、企業は対応を簡単に考えがちです。

 たとえ企業がいいかげんに対応を済ませたとしても、顧客は争いごとは避けたいと考え、それ以上謝罪などを要求することは少ないかもしれません。

 しかし、こうした場合、顧客自身の不平や不満は解消されていないため、企業から離れていくことや、「いいかげんな対応をされた」という経験を周囲に話すことは十分考えられます。

 そのため、表面上はクレームが解決されたようにみえても、顧客の気持ちも一緒に解決しなければ、本当の意味でのクレーム解決にはなっていないことを理解する必要があります。

 そこで、まず、「顧客に多く話をしてもらう」雰囲気をつくることが大切といえます。

 顧客があまり話したがらないからといって、対応者が一方的に話すと、ますます顧客は話をしなくなります。

 さらに、顧客を誘導したり、誤った解釈で対応すると、たとえ口にしなくても顧客はさらに不満を持つことになるでしょう。

 そのため、「顧客の話に同意をしながら聞く」「顧客の話を復唱しながら聞く」などの方法で、顧客の話を聞く姿勢を表し、顧客が話しやすい雰囲気をつくることが大切です。

 そのうえで顧客の不満、欲求をくみ取り、丁寧に対応することが必要です。

(4)不満を抱いていても何も言わないタイプ(一番多い)

 会社や店に直接クレームを言う人はごく一部です。

 その理由にはさまざまあるようですが、クレームは労力を使うという点が最も大きな要因と考えられます。

 クレームを言う場合には、会社に自らコンタクトを取る「労力」、会社に自分の意見を伝える「労力」、会社とやり取りをする「労力」、会社と折り合いをつける「労力」など、大きなエネルギーが必要なのです。

 こうしたクレームにともなう労力を考えて、「面倒だからある程度は我慢しよう」「ほかにも製品(サービス)はあるから、そちらに変えよう」と、会社にクレームを言わない顧客は多いのです。

 「こうした顧客は把握できない」などの理由で会社は何も対応をしなくてというわけではありません。

 このタイプは、会社から「黙って離れていく」傾向が強いため、知らず知らずのうちに顧客を失ってしまうかもしれません。

 そのため、例えば、「ご意見箱」を店頭に設置したり、インターネットを利用して、無記名でも会社に意見や質問を言える環境をつくるなど、顧客の声を吸い上げる仕組みを検討することが必要といえます。

 

 ここまでみてきた顧客のタイプ以外にも、さまざまな顧客がいます。会社を脅して金品を要求することなどを目的に、明らかに不当なクレームを言ってくる人もいます。

 そうした悪質なクレームに対しては、場合によっては、警察や専門機関などに相談して対処することも検討する必要があるでしょう。

 

社内のクレームに対する意識

1 クレームはチャンスと考える

 「クレーム」という言葉を聞くと、どうしてもマイナスのイメージがあります。

 確かにクレームは、「突然発生するうえ、迅速な対応を求められる」「顧客が不満を抱えた状態から交渉がスタートする」などの理由から、対応が難しいのも事実です。

 しかし、クレームは、企業にとって必ずしもマイナスに作用するものではありません。

 クレームに適切に対応することができれば、顧客の不満を満足に変え、結果として自社のファンをつくり出すことができるといわれています。

 そのため、クレーム対応者は、「クレームはむしろ自社のファンを増やすチャンスである。

 クレームの対応を嫌がるのではなく、お客様の視点で丁寧に対応しよう」という前向きな気持ちを持つことが必要です。

 前向きな気持ちで対応すれば、嫌々ながら対応をする場合と比べ、その結果には大きな違いが出るといえます。

2 クレーム情報は社内で共有する

 近年、クレームに対する企業の姿勢がより一層問われるようになっています。

 また、顧客のニーズが多様化していることと同様にクレームも複雑化しています。

 この「クレームが複雑化している」という点からみても、マニュアルだけで対応することには限界があるため、個客対応が求められるといえます。

 従って、マニュアルだけに頼ったクレーム対応ではなく、企業全体で個客対応を心がけるという風土が重要なのです。

 そのためには、クレームに関する情報を社内で共有化していくことが不可欠です。

 例えば、クレームが発生した場合、その原因や対応方法などをデータベース化することで、次にクレームが発生した場合、データベースを参考に、より迅速に、かつ的確にそのクレームに対応することができます。

 また、クレーム対応に関するミーティングを積極的に設け、クレーム情報を社内で共有化することで、従業員のクレーム対応に関する質の平準化が期待できます。

 こうした取り組みを通じて、会社全体のクレーム対応の質を向上させることで、顧客満足度を向上させていくことができるのです。

 

食品業界における苦情対応

食を取り巻く環境

 近年、食品による食中毒やBSE(牛海綿状脳症)の問題、食肉の産地偽装事件、残留農薬の検出など、食に関する多種多様な出来事が続き、消費者の食に対する信頼が低下している傾向があります。

 また、最近の例では、大手製菓メーカーで期限切れの食材が使用されていたことが発覚し、品質管理体制のずさんさが露呈するなど、食の品質管理が社会問題となっています。

 食品関連業者は、規模の大小にかかわらず、食に関する規格の認証を受けるなど、さまざまな方法で品質・衛生管理を徹底しなくてはならないことはいうまでもありません。

 しかし、認証の取得だけで品質が守られているとはいえません。

 実際、不祥事を起こした大手製菓メーカーでは、複数の管理規格の認証を取得していたといわれています。

 認証を取得しても、その後の製造過程で管理基準が遵守されていなければ、品質維持はできません。

 また、厳重に注意を払っているなかでも、万が一クレームが発生してしまった際には、適切な対応をとれる体制を整えておくことも求められています。

 

クレーム発生時の適切な対応

 品質管理を徹底しているとしても、販売している食品について顧客から問い合わせがくることがあります。

 それが、食品に対するクレームであった場合、どのように対応することが望ましいでしょうか。

 

ケーススタディ

食中毒に関するクレーム

 顧客から、「購入したレトルト食品を食べたら、下痢になった、食中毒かもしれない」と連絡を受けた。

対応のポイント

(1) 顧客の体調を第一に考える

 「下痢をした」というだけでは、食中毒かどうか、症状の重度などはわかりません。
 場合によっては、腸炎ビブリオ、サルモネラ菌などの可能性もないとはいえません。
 顧客の体を気遣い、医師の診察を受けてもらうことを優先します。

(2) 第三者の分析機関を利用する

 菌の混入の可能性があるケースについては、その分析を自社または第三者の分析機関で行います。
 菌の分析などは、機器の精度が大変重要になりますが、それらの機器を中小企業で所持・メンテナンスをすることは難しいため、第三者の分析機関に依頼して報告書を出してもらうのが一般的です。

(3) 情報の開示

 分析の結果、食中毒の原因となる菌が存在することがわかった場合、トラブルに関するすべての情報を把握したうえで、社告を出すよう手配します。
 内容は、事実関係や回収方法、その費用の負担、送り先などについてで、媒体には新聞を活用するのが一般的です。
 新聞を活用する際には、自社商品のエンドユーザーがどこであるかを考え、それが消費者であれば、購読者数が多い全国紙に掲載することになります。
 一方、業者間取引が多い場合には、全国紙とあわせて専門紙などへの掲載も検討しましょう。
 なお、取引先には、新聞などの社告だけでなく、実際に連絡し、謝罪するとともに今後の対応などを伝えます。
 顧客、取引先のどちらに対しても、誠意ある行動を迅速にとることが大切です。
 新聞以外には、ホームページなども利用して、いち早く問題解決に努めるようにします。

 

異物の混入に関するクレーム

 顧客から、「購入した菓子パンに髪の毛が入っていた」と電話で連絡を受けた。

対応のポイント

(1) 顧客の体調を第一に考える

 クレームを真摯に受け止め、顧客の状況を把握します。
 言い訳をせずに、不快感を与えてしまったことに対して詫び、顧客の体調を気遣い、症状を詳しく開きます。その際、電話代などを考慮して折り返し電話するなどの配慮も大切です。

(2) 原因を分析する

 今回のトラブルの原因を分析するために現物を回収したい旨を顧客に説明し、了承を得て回収します。
 その際には、説明できる範囲で、分析を自社で行うか、または第三者の分析機関で行うかなどの詳細を正直に伝えます。

(3) 対策を説明する

 顧客へ報告する際は、製造工場でのトラブルなどの結果のほか、謝罪、今後の対策を企業の責任者が行います(企業の規模にもよりますが、事の大きさを考慮して、できる限り顧客へ誠意が伝わる人選をします)。
 なお、対策として、検品を2回から3回へ強化するなど、すぐ行えるものや施設の大がかりな清掃をする回数を増やすなどの中期的なもの、さらに新しい機械の導入など、比較的長期的なスパンで検討するものなどがある。
 いずれも、顧客の問い合わせから安全管理を見直す機会ができたことに感謝する気持ちが大切です。

 

アレルギーに関するクレーム

 顧客から、「お弁当の中にある肉のようなものを食べたらアレルギー反応がでてしまった。
 食品表示には、自分がアレルギー反応を起こす大豆について表示されていなかった」とのクレームを店頭で受けた。

対応のポイント

(1) 顧客の体調を第一に考える

 代理の方が来店した場合でも、被害を受けてしまった方の症状を確認。
 場合によっては、その場で救急車を呼ぶ必要性もあるかもしれません。
 まず医師にみてもらうようすすめます。
 その際には、顧客が購入した現物のほか、その食品に使用している食材などの情報を用意しておき、医師に伝えます。アレルギーは、場合によっては生死にかかわる問題ですから、判断を誤らないためにも医師の力をかりましょう。

(2) 厳重な情報表示

 食品に含まれる食材や調味料など、食品衛生法で定められているアレルギーの原因となる品目はもちろんのこと、そのほかに注意が必要と思われる食材についてもできる限り表示するよう心がけます。

(3) 従業員へのアレルギーに関する教育

 食品衛生法では、加工食品について、アレルギーの原因となる特定原材料5品目(卵・乳・小麦・そば・落花生)の表示が義務づけられています。
 ほかにも、可能な限り表示することを勧められている特定原材料に準じる20品目(あわび・いくら・いか・えび・オレンジ・かに・キウイフルーツ・牛肉・くるみ・さけ・さば・大豆・鶏肉・豚肉・まつたけ・もも・山芋・りんご・バナナ・ゼラチン)についても表示を行うようになっています。

 このような知識を、従業員はじめ関係者へも伝え、啓蒙することで、再発を防止していきます。

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