自社の収益構造を確認
中小企業にとってまだまだ厳しい経営環境が続くなか、多くの社長は自社収益改善のためのさまざまな施策を模索し、実践していることでしょう。
収益改善の大きな方向性は「売上増」と「コストダウン」の2つに分けることができます。
そして、この2つの取り組みは会社のビジネスモデルにかかわる根幹部分から、従業員の日々の業務改善までさまざまな段階で行う必要があります。
また、一部の会社ではいわゆる「リストラ」によって人員整理を進めていますが、たんなる人減らしのためのリストラは、将来的に「ジリ貧」に陥る可能性があります。
自社の収益構造を確認する
収益構造とは事業のどの部分にいくらくらいのお金をかけて、最終的に自社はどのくらいもうけるかというビジネスの基本的な枠組みです。
この枠組みが把握できていないと収益改善の方向性を定めることはできません。
経営再建中の日本航空会長の稲盛和夫氏は、就任直後の社内視察を終えた感想として、「この会社は事業運営ができていない。このままでは(比較的経営がシンプルな)八百屋すら経常することはできない」と述べていました。
自社の収益構造が全体として悪化していると考えるだけではなく、どの部分がどの程度悪化しているのか、なぜそのようなことが起こっているのかを詳しく調べる必要があります。
<さまざまな収益構造>
・全社収益構造 全社利益 = 全社売上 - 全社コスト
・部門別収益構造 部門別利益 = 部門別売上 - 部門別コスト
・製品別収益構造 製品別利益 = 製品別売上 - 製品別コスト
全社の収益構造については、決算書などで把握していると思いますが、部門別、製品別などの収益構造は把握できていないことが多いものです。
複数の事業部に貢献する社員や複数の製品製造で使用する機械などもあり、それらを適切に配賦した管理会計の仕組みができている会社は少ないのが実情です。
そのため、「どの事業が、どの製品が足を引っ張っているのか」という部分にまで踏み込めないのです。
また、収益構造は時間によっても変化します。
たとえば、以前は自社に多額の収益をもたらしてくれていた商品であっても、社内外の環境変化によって現在ではよくみると「お荷物」になっていることもあり得ます。
まずは、「現在の基本的な収益構造はどうなっているのか」「それは時間経過によってどのように変化しているのか」など、自社の現状を正確に確認しましょう。
価格とコストのバランス(コストと付加価値)
世の中には用途に応じたありとあらゆる商品が売られており、また、同じ用途の商品でも高額品から廉価品までさまざまな価格が設定されています。
成功している会社では、自社のあるべき収益構造を独自に設定して利益確保を狙っています。
たとえば、ベーカリーでは一斤300円程度のパンを売る店が一般的です。
仮に、材料を120円で仕入れていれば粗利益は180円であり、製造の手間賃や家賃などの経費にさらに100円かかるのであれば、は80円ということになります。
これが一般的なベーカリーの収益構造です。
ところが、世の中には一斤3000円という高額販売で高い利益を上げているベーカリーもあります。
もちろん、このようなパンを買ってくれる層はごくわずかであり、その購買基準も大変厳しいでしょう。
高級店では、「厳選された材料仕入れ」「特殊な焼釜を使って手間暇をかけて焼きあげるなどの製造工程」「自社のパンがいかに安全でおいしいかという告知活動」など、さまざまな部分にお金をかけています。
逆に、物流など商品の品質に直接には影響を与えないコストについては、業者を厳しく選択するなどして徹底したコストダウンを図っているでしょう。
それらが功を奏して一般的なベーカリーとは異なる高い収益構造が可能になっているのです。
自社の収益構造を確認する際には、「いくらで売るか」だけではなく、「どこにどのようにお金をかけるか」、「どの部分のコストを節約するか」を考えることがとても大切です。
また、収益は、ビジネスのそれぞれのプロセスが生み出した付加価値の合計と捉えることができます。
付加価値とは、事業活動を通じて新たに加えた商品の価値のことです。一般的なベーカリーでは120円という材料費(もともとの価値)に対して、自店での製造・販売を通じて価値を高め300円で販売しているのですから、最終的な付加価値は180円です。
高級型ベーカリーで仮に材料費が1000円であれば、2000円もの最終的な付加価値を生んでいることになります。
付加価値増大の方向性
付加価値増大の方向性は大きく分けて2つあります。
第1は、それぞれのステップの質を高めて総合力をアップする方法です。
ベーカリーでいえば、いかによい材料を集めて、顧客が好みそうなおいしいパンを焼き、効率的に販売していくかという力がそれにあたります。
通常型ベーカリーが高級店を志向するのがその典型です。
もうひとつは、付加価値が発生するプロセスを広げていく方法です。
たとえば、高級型ベーカリーが店頭で販売するだけではなく、有料で宅配まで行うとすると、本来的なベーカリーの仕事とは異なる分野にまで付加価値発生の場を広げたことになります。
また、このベーカリーが厳選素材の調達能力をいかして、自分が調達した材料をほかのベーカリーに販売するビジネスに参入したとしたら、これも新たな付加価値発生の場を獲得したことになります。
収益構造改善を検討する際には、あらかじめ想定した守備範囲の質をいかに高めていくかということだけではなく、守備範囲をどこまで広げられるかという発想も必要です。