経営理念、経営ビジョンを明確にする

戦略は企業の意思決定の指針と重要なものですが、企業には経営戦略以外にも指針となるものがあります。それが、経営理念です。
 経営理念は、企業経営を行っていく上での活動のよりどころ、指針を与えるものです。また、経営理念は戦略策定の際の前提となるもので、戦略の上位概念として位置づけられます。

 

経営理念

 企業経営を行う上での活動のよりどころとなる考え方、経営戦略策定の前提となるもので、海外では「バリュー(価値観)」と呼ばれます。
経営理念は、経営者が企業の運営にあたって、経営の目的を明確化し、その目的を実現するためにその組織が共有すべき価値観を文章化したものであり、社是・社訓として示されている企業も多く見受けられます。

 

経営理念を考える際は、次の3つの視点から検討します。

 

1 存在価値、使命

社会にどんな価値を提供したいか、それが社会にどんな意味があるのか、そもそも自社が何のために存在するのか。

「お客様の健康増進に役立つ」 「楽しい時をつくる」

 

2 経営姿勢

経営を遂行していく上で重んじること(社是に相当)
「創意工夫を重んじる」、「スピードを重んじる組織行動をとる」、「環境にやさしい製品を提供する」

 

3 行動指針

社員一人ひとりに心がけてほしいこと(社訓に相当)

「創造性」 「挑戦」 「相互信頼」 「自己責任」 「報・連・相」

 

 

経営ビジョン

経営ビジョンは、将来への展望を意味し、その企業の目指す将来の具体的な姿(将来の自社のありたい姿)を示すもので、経営者の想いでもあります。

 

経営ビジョンは経営者自身の目標

高い「志」や「思い入れ」が社内で共有化されている企業ほど強い組織です。共通の価値観で組織が有機的に結合し、ベクトルが同一の方向に向いている企業こそ真に強い企業です。
日本でこの経営基本姿勢は「経営理念」といわれてきました。「経営者の夢・理想」「経営者が最も重要と考える姿勢」を社内外に対して表明するものです。
 経営ビジョンは、経営理念、経営基本姿勢に基づき、より具体的に経営者の数年後の目標を示したもので、そこには、近い将来(3~5年)「なりたい会社像」が明示されます。
 現在勝ち組みになっている企業の経営者は、共通して一見実現不可能と思われるような高いビジョンを掲げています。
 ビジョンは、わかりやすく表現されることが望ましく、ビジョンを策定する根底にあるものは、「つぶれない会社」「強い会社」を作りたいという経営者の思いです。これは「旗印」であり、向かうべき「旗印」を立てられない経営者が経営する会社が、勝ち残っていけるはずがありません。

 

 

経営ビジョンの策定は経営者の専担事項

中堅・中小企業において、この経営ビジョンの策定は経営者の専担事項と考えるべきです。このような時代だからこそ、経営者の強いリーダーシップが必要とされます。経営者の思い入れをこのビジョンにしっかりと盛り込み、経営者自身が自らを奮起させる契機とすべきです。
経営者がよく口にするのは、「経営者が掲げるビジョンを実現するのが幹部の役割である」という せりふ であるが、これは一部正しく、一部心得違いです。ビジョン設定の次のステップである企業戦略の設定までは、少なくとも経営者自らが行うべきです。この企業戦略が明確になれば、機能別戦略、事業別戦略への展開もスムーズに進みます。できる経営者は戦略家であり、「儲かる仕組み」を考える力に長けています。

 

 

経営ビジョンの表現のしかた

経営ビジョンは次の3点から表現します。

 

市場、社会でのポジションなど対外的評価

どのように思われたいか

⇒「業界のリーダー」、「優良企業」、「格付けの高い会社」

 

事業運営の将来像

自社の事業をどのように展開していきたいか

⇒「斬新な製品や技術が生まれるような経営を目指す」、「強靭な財務体質を築く」、「労働生産性を日本一にする」

 

組織と人のあり方

組織と人はどういう状態、状況が望ましいのか

⇒「会社に依存しない自立した個人」、「潜在能力よりも発揮能力を評価する」、「選択の自由と結果に対する自己責任」、「仕事を通じた自己実現」

 

創業期のビジョン

 法人を設立し事業を開始するこの時期は、経営資源と呼べるものがほとんどない状態から始まります。経営資金もなければ、設備もありません。人材もいなければ、社会への信用ももちろんありません。あるのは創業者の志と情熱くらいです。
 一方、経営を軌道に乗せるために、しなければならないことは山のようにあります。製造業であれば、製品企画・設計・資材調達、そして試作。製品が完成すれば、営業・顧客対応・納品、そして請求から入金管理、アフターフォローに至るまで、少人数ですべての過程をこなし事業運営を図らなければなりません。

夢や理想を伝える

 経営資源に乏しく、多くの業務を少人数でこなしていかなければならない時期は、気力・体力的にも大きな苦労を伴う時期だと言えます。創業者をはじめ、経営層や従業員が粉骨砕身し一丸となって事業運営を行うには、未来に描く「夢や理想」が必要だと言えます。それは、輝かしい未来であり、大きな夢である一方、実現可能性を秘めた分かりやすい表現で伝えていかなければなりません。

社会的意義を伝える

 民間企業が営利目的であるのは当然のことですが、多くの事業関係者や消費者と関わりながら成長していく社会の一員であることに変わりはありません。だからこそ、夢や理想の中にある、社会との関わり方や社会への貢献をどのような形で果たしていくのか、ビジョンを通し伝えていくことが大切です。多くの企業で、文末に「社会に貢献する」と記載されたビジョンを目にしますが、曖昧すぎて伝わりにくい表現を数多く目にします。社会的意義を伝える際は、短文でも要点がはっきりと伝わる表現を心がける必要があります。

事業ドメインを伝える

 ビジョンは、これから営むすべての事業を念頭に置き、策定していかなければなりません。事業ドメイン(自社が行う事業領域)を無視したビジョンでは、自社の方向性も定まらず、他社との差別化も図れません。また、経営層や従業員の気持ちを一つにすることもできません。

 事業ドメインのあるべき姿をビジョンで表現できれば、経営層の確固たる目標として、また、従業員のモチベーション源泉として、企業の成長に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。

自社の魅力を伝える

 多くのステークホルダーに支えられて事業を営む企業は、自社の魅力をステークホルダーにはっきりと伝えていくことが大切です。ビジョンは、特に、求職者の心にリーチすることで、採用活用に多大な好影響を及ぼします。応募動機の喚起から内定承諾に直結するのです。また、経営資金の調達に不可欠な投資家や金融機関を魅了することで、資金調達を優位に運ぶことができます。自社の魅力が凝縮されたビジョンに多くの可能性と高い魅力を感じるからこそ、人々の心を動かすことができるのです。

ビジョン進化の必要性

 事業が軌道に乗ると、創業期から転換期へと推移していきます。新たな成長段階となるこの時期は、創業時を知らない優秀なメンバーが多く参画してきます。事業では、業務分担や効率化が図られ、専門部署や専任担当者がそれぞれの業務にあたります。また、経営資源にもゆとりが生じ、経営者の視点は、事業拡大や中長期計画の策定に向くことになります。取引先や顧客など、外部ステークホルダーも相当に拡大し、創業期のビジョン見直しを図る必要が生じてきます。

ステークホルダーの変化に対応する

 あらゆる経営資源が不足していた創業期を乗り越え、企業が「転換期」を迎えると、創業当時から計画してきた事業が安定し、今後さらに成長するための新たな戦略が必要となってきます。内部ステークホルダーとなる従業員には、創業期を知らないメンバーが増加し、創業期の「夢や理想」を暗黙の了解で分かり合うことが難しくなっていきます。また、取引先や顧客なども拡大し、新たな事業開発や商談が次々と行われるようになるため、投資家からの新たな投資や、金融機関からの追加融資も必要になってきます。創業期は比較的少数のステークホルダーに向けてきたビジョンですが、転換期ではより多くのステークホルダーに向けたビジョンへと進化させていくことが大切です。

事業拡大に対応する

 安定した収益を生み出すことに成功した事業をさらに深掘りしてみると、創業当初に計画した事業計画と少し異なっていることが多く見られます。これは、事業運営における課題を適時改善し、軌道修正を行ってきた証だと言えます。当初、掲げた目標も目前に迫り、さらに高みを目指す目標設定が必要な時期となっています。これらを踏まえ、実際の市場や顧客、競合他社、自社の製品・サービスの変化と照らし合わせ、拡大した事業を牽引する、新たなビジョンへと進化させていくことが大切です。

市場環境の変化に対応する

 創業期に比べ競合他社も増加し、市場でのシェア争いが以前よりも激しくなっています。また、材料費や運送費などの値上がりに加え、人件費の増加なども生じています。その他、政府による規制緩和もあれば、為替レートの大幅な変動もあるかも知れません。こうした市場環境をしっかりと捉え、当初計画の見直しを図るとともに、新たな計画に合わせたビジョンへと進化させていくことが大切です。

 

転換期のビジョン

 ステークホルダーの変化、事業拡大への対応、市場変化への対応を念頭に、転換期ではビジョンの進化が求められます。

 具体的にどのような点に注意してビジョンの進化を図るべきなのでしょうか。

より現実に即したビジョンに

 手探りで事業を始める「創業期」に策定したビジョンと現実では、実際の事業運営を行っていく中でどうしてもズレが生じてきます。また、創業時には想定していなかった時代の変化や不測の事態が発生し、軌道修正を必要とする事も珍しくありません。ビジョンと実際の事業の乖離をいかにして埋めていくのか、このままでビジョンが達成できるのか、また、ビジョンの達成までどの程度の時間を要するのか、などを現実に照らし合わせて検証し、今後どのような方向へと導いていくべきかを再検討していきます。このでビジョンの再検討を行うことで、新たなステージへと導く確かなビジョンへの進化を図ることができます。

より具体的なビジョンに

 夢や理想をもとに「創業期」に策定したビジョンと実際の事業運営では、大なり小なり現実とのギャップから軌道修正の必要性が生じてきます。転換期には、このギャップを考慮し、今後どのような方向へと導いていくべきか、新たなビジョンを再検討していきます。転換期になると、創業期を共にしてきた気心の知れた社員だけでなく、転換期前後から入社した社員や事業関係者などが飛躍的に増加するため、新たに参画するすべてのステークホルダーが理解できるより具体的なビジョンへと進化を図ることが大切です。

より魅力的なビジョンに

 転換期は、創業期と比べ、社員や事業関係者、投資家や金融機関、顧客や見込み客など、より多くのステークホルダーとの関わり合いが必要となります。創業期にも人を惹きつける魅力的なビジョンが必要なのは同様ですが、転換期には、より現実的かつ具体的にステークホルダーに夢や希望を与え、期待を抱かせるビジョンへと進化を図ることが大切です。また、ありきたりで平凡なメッセージではなく、事業の独自性やユニークさが伝わるビジョンであることも、ステークホルダーを惹きつける大きな要因になると言えます。

創業期からのDNAを継承する

 ビジョンをより現実的、かつ具体的に、そして、魅力的に進化させる一方、創業期からの情熱や信念をしっかりと維持し続けることも大切です。大きな夢や理想を掲げ、起業した創業期の思いを継承していくことで、企業に一貫性が生まれ、やがて自社の企業文化として育まれていきます。まさに、企業DNAの継承です。進化するなかにも一貫性を持たせることで、企業のブランドストーリーが紡がれていきます。

 

ビジョンの浸透

 小規模でスタートする創業期のビジョン浸透は、創業者・経営者が繰り返しコミュニケーションを図ることで比較的容易に社内浸透を図ることができますが、変革期になると、創業期とは比較にならない数のステークホルダーが関与してくることから、進化したビジョンの浸透は容易ではありません。また、複数拠点を展開している場合には、物理的距離や心理的距離も遠くなり、経営者がダイレクトにコミュニケーションを図れる機会も減少します。
 このことを踏まえ、変革期のビジョン浸透には、インナーブランディングを目的とする様々な取り組みが必要となります。

 

ビジョンを明確にすることは、ゴールを決めるということだけでなく、方向性まで決めることにもなるのです。

 

1 あるべき姿を想像する

「ビジョンは最終目的地である」と言うように、その事業のゴールを想像してみます。

そして、そのゴールと事業コンセプトには整合性がなければいけません。

事業コンセプトは事業の枠組みですので、それを実行した先にゴール(ビジョン)があります。よって、事業コンセプトとビジョンに全くつながりがないということは、どちらかがズレているということです。

事業コンセプトだけで成り立たないですし、ビジョンだけでも成り立たないということが分かります。両者をしっかり踏まえてイメージする必要があります。

 

2 具体的に言葉にしてみる

あるべき姿を想像しただけですと、まだ頭の中のイメージであり人に伝えることができません。ビジョンも事業コンセプトと同様に、経営者のビジョンを従業員や社外の人に伝える必要があります。そのため、思い描いているビジョンを言葉にしてまとめてみる必要があります。

ビジョンに共感することによって、従業員のモチベーションが上がったり、取引先が取引を開始してくれたりします。

 

3 数値にできるのであれば数値にしてみる

ビジョンは最終ゴールですので、できるだけ具体的に示した方がよいでしょう。 

言葉だけでなく数値化するとより具体的になります。数値にできるのであれば、数値にしていきます。

注意が必要なのは、ビジョンを数値で表した場合、「事業計画書の後半の数値計画との整合性が必要だ」という点です。これを忘れると、ビジョンと後半の数値計画のどちらを信じてよいのか分からない状態なり、それを読んだ人からの信頼を失うことにもなりかねません。

 ビジョンで数値目標が決定できれば、それを計画に落とし込んで進捗管理もでき、組織としての目標が明確になります。

 ゴールを具体的に示す設定方法には、言葉で表現する定性的な目標と数字で表現する定量的な目標があります。

(1)定性的な目標の設定

 事業でめざす将来の姿を言葉で表現します。「産地にこだわった手打ち蕎麦店を全国展開させる」とか「学生一人ひとりの目標設定にコミットできる学習塾」といった表現でまとめてみましょう。もう少し平易なかたちで、「地域で行列のできる人気店になる」「同業種では地域で一番店になる」といった設定でもよいでしょう。

 起業仲間や従業員と一緒に事業を始めるのであれば、目標を聞いたときに自分も参加したいと思うようなワクワク感があると、一緒に事業する人たちと共感できる目標になります。

(2)定量的な目標の設定

 数字で示す場合は、「売上高○○万円」や「経常利益○○万円」というかたちで具体的な売上高、経常利益などの数値を使って記載します。その他にも、市場全体や商圏における占有率、顧客獲得数、展開店舗数などの項目も考えられます。例えば、「5年後にお店を任せられる店長を育成し、地域に10店舗展開する」といった書き方が考えられます。

 目標は、可能な限り定性的・定量的な目標の2つを設定できるとよいでしょう。

 

ビジョン・目標の設定タイミング

事業計画を書き始めるときは、「ビジョン・目標」の数値がはっきりと決まっている場合もあれば、ぼんやりとイメージしている場合もあると思います。ぼんやりとイメージしている状況でも、一度仮でゴールを決めてみましょう。  
 ゴール地点である「ビジョン・目標」を設定することで、スタート地点である「現状」とのギャップが明確になります。例えば、ビジョン・目標を「売上高3億円」とした場合と これを「売上高3百万円」とした場合では、それぞれ取り組む内容が変わってきます。
 まずは、どれだけの売上を目標にするかを決めるだけでも、具体的な事業内容が明確になってきます。

 

ゴールの決め方にルールはありません。人によって、「無理を承知で、高ければ高いほど良い」という考えもありますし、「達成可能なラインで設定すべき」という考えもあります。
迷った場合には、無理に高い目標を掲げる必要はありませんが、がんばって達成できるような目標がよいでしょう。計画どおり達成できた場合には、経営者自身の達成感やモチベーションの向上にもつながります。
 また、理想とする大きな目標と より現実的な目標に分けて考えることも一つの方法です。金融機関向けに提出する事業計画書であれば、現実的な目標を掲げて実現性を重視した目標設定を優先することも考えられます。

 

 事業ドメインとは、事業の生存領域のことで、他社との競争環境にある市場の中で、その事業がどのような商品・サービス・方法で それらとの競争に対応しうる地位を築けるか、ということを明確化することを言います。

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