ドラッカーからコトラーのマーケティング論へ

 マネジメントにおけるマーケティングの基本的な位置付けを行ったのがドラッカーです。一方、焦点をマーケティングに絞り込み、その体系化に注力したのがフィリップ・コトラーその人に他なりません。いまでは、マーケティングと言えば、ドラッカーよりもコトラーの名が頭に浮かぶのが普通でしょう。

 1931年生まれのコトラーは、シカゴ大学の経済学部を卒業し、マサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学博士号を取得しています。現在は、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学のマーケティング名誉教授の職に就いています。主要な学術誌に発表した論文は100を超え、幾多の最優秀論文賞も受賞しています。また、多数の著書を出版していることでも知られ、マーケティング界の第一人者と目されています。

 コトラーの著書としては、コトラーのマーケティング論を総括した900ページを超える大著『コトラーのマーケティング・マネジメント ミレニアム版』(2001年、ピアソン・エデュケーション)が著名です。この中で、コトラーは、マーケティングを次のように定義しています。

 「マーケティングを最も短い言葉で定義すれば「ニーズに応えて利益を上げること」となろう。 どのような価値を提供すればターゲット市場のニーズを満たせるかを探り、その価値を生み出し、顧客に届け、そこから利益を上げること。 」

 これらは、マーケティングの基本的な定義として理解しておきたいものです。

 ドラッカーが述べた「顧客というものをよく知って理解し」というのは、顧客ニーズをしっかり把握することです。その上で、そのニーズに対応した価値を提供する。これが顧客のニーズにぴったりと当てはまっていたら、その製品はひとりでに売れるでしょう。

 このように、コトラーが言う「ニーズに応えて利益を上げること」とドラッカーによるマーケティングの定義は、基本的に同じことを別の言い回しで表現していると言ってよいでしょう。

 マーケティングは企業の活動から単独して存在するものではありません。あくまでもマネジメント活動の一環としてなされるものです。その上で、「ニーズに応えて利益を上げること」をマーケティングの基本定義として押さえておくべきです。

 

コトラーが提唱するマーケティングの定石を知る

 マーケティングを体系化したコトラーは、マーケティング活動の定石とでも言える基本手順を明らかにしています。

 この基本手順は、それぞれの頭文字をとって、「R→STP→MM→I→C」と呼ばれています。

 最初のステップである「調査」は、文字通り市場調査のことを指します。とはいえ、ただ漫然に市場を調査するわけではありません。ここでの活動は、むしろ市場機会を探索する作業として捉えるべきです。

 市場機会の発見の仕方には色々な方法があります。中でも代表的なのは問題抽出法と呼ばれるものです。これは、市場にある不満や改良の余地を探ることで市場機会を探索する方法です。また、理想法という手法も有名です。こちらは市場における理想的な製品やサービスを考察し、現実とのギャップから機会を考察する手法です。さらに、商品連鎖法という手法もあります。これは、製品の入手から廃棄に至るまでの流れを把握して機会を探る手法です。これらを上手に活用して、市場調査から機会を探ることが重要になります。

 コトラーは、『コトラーの戦略的マーケティング』の中で、「調査せずに市場参入を試みるのは、目が見えないのに市場に参入しようとするようなものだ 」と指摘しています。マーケティングの始めにまず調査あり、この点を理解すべきです。

 マーケティング調査を実行すれば、共通の問題やニーズを抱えるグループが明らかになるでしょう。続いて、こうしたグループに的を絞り、彼らが自然と購入したくなるような製品やサービスを考案する活動が行われます。これが第2ステップにあたる「STP(セグメンテーション/ターゲティング/ポジショニング)」です。

 

ターゲティング・マーケティングの要となるSTP

 かつてモノを作れば売れる時代がありました。こういう時代には、市場全体を対象に製品やサービスを提供する手法がとられたものです。しかし、顧客の嗜好が多様化する中、市場全体を対象に製品やサービスを開発するのは、極めて困難になってきました。その代替として登場したのが「ターゲット・マーケティング」です。それ以前のマーケティングを「マス・マーケティング」と呼びます。

 ターゲット・マーケティングでは、まず市場の中から共通のニーズを持つグループを明らかにします。このように市場をいくつかの大きなグループに区分けすることを「セグメンテーション」と呼びます。

 そして、明らかになった幾種類かのセグメント(グループ)について、そのボリュームや自社の強みなどを検討します。その上で、自社にとって特に有利なセグメントを選び出します。このように、自社の強みを十分発揮でき、彼らを満足させられるであろうセグメントを明確にする作業を「ターゲティング」と呼びます。

 続いて、この絞り込んだターゲットに対して、「顧客にぴったりと合う」ような製品やサービスの位置付けを検討します。これが「ポジショニング」です。これは、競合よりも自社の価値を高く評価してもらうための位置付け作業とでも言い換えられるでしょう。

 例えば、セグメンテーションおよびターゲティングにより、ブランド好きで好みのモノには出費を惜しまない団塊の世代をターゲットに設定したと仮定しましょう。その企業が高品質なモノ作りに強みがあったとしたならば、提供する製品は、品質的にかなり高いもので、値段的にも高価ながら納得のいく価格帯に位置付けることが考えられるでしょう。また、ブランドイメージも、「品質は極めて高いが、価格は合理的」などのポジショニング戦略が不可欠になるはずです。

 ポジショニングの検討では「1番手の法則」と呼ばれるものに配慮すべきです。これは、マーケティング戦略家のアル・ライズとジャック・トラウトが提唱したもので、そのカテゴリーでトップになることが、ポジショニング戦略で最も重要だという考え方です。というのも、顧客はトップの名前はよく覚えていますが、2番手の名前はあまり覚えていないからです。

 このような観点に立つと、再びSTPのセグメンテーションおよびターゲティングが問題となってきます。そもそも、特定したターゲットに自社の製品やサービスを提供して、果たしてトップに立てるかという疑問です。仮にトップに立つことが困難ならば、再度別の角度から市場をセグメントし、その中から自社がトップに立てるターゲットを模索すべきだということになります。

 間違ったターゲットに不適切な製品やサービスを提供しても、ヒットする可能性はほとんどありません。したがって、マーケティング活動において、この「セグメンテーション/ターゲティング/ポジショニング」は慎重に行うべきなのです。

 STPが明確になれば、次にマーケティングの具体的戦術である「マーケティング・ミックス」を検討することになります。

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