営業戦略を立てる際に気をつける点
現状を把握する
これから自社が参入する業界がどのような現状なのかを把握しておく必要があります。「どのような層にニーズがあるのか」「他社はどの程度参入しているのか」「業界が成熟しているのか」など、まずは市場調査を行いましょう。
アプローチすべき層を間違えてしまうと、時間も経費も無駄になってしまいますし、競合他社がいる場合は、他社と同じことをしていても商材をアピールすることはできません。これから市場に参入する場合、どの程度の伸びが期待できるのかという予測も立てやすくなります。
また、他社の現状だけでなく、自社の現状も把握しておきましょう。過去に取り組んできたプロジェクトで成功した例や、問題になっている事柄と照らし合わせておくと、これからの流れや問題になってくるであろう部分が見えてきます。
現状の把握は「効率よく最短の道のりでゴールへたどり着くためのシナリオ」を作るようなものなのです。
自社の強み・弱みを把握する
市場調査を行ったら、次に考えるべきことは「他社に比べた場合の自社の強み、弱みは何か」を把握することです。
他社より優っている部分はアプローチする際の大きな武器となります。詳細に理解しておき、比較しながら商談をすると、顧客も納得しやすいので早期の契約締結に繋がりやすくなります。
一方、自社の弱みも把握しておきましょう。あえてデメリットを顧客に伝えることは、マイナスになってしまう気もするでしょうが、顧客にとっては把握しておきたい重要な部分なのです。場合によっては、信頼感を得ることもできますし、このデメリットを利用した戦術で商談を有利に進めることも可能になるのです。
具体的な方針を決める
営業戦略の大きな骨組みができてきたら、次は更に具体的な方針を決めていきましょう。あまりに壮大な夢のような目標は現実的ではありませんし、逆に簡単に目標達成できてしまうようなものでもチームの意欲が下がってしまいます。
営業目標は「少し高め」くらいに設定しましょう。達成実現が夢ではないと感じられる程度が、事業の発展や社員一人一人の成長に繋がります。
また、実際に実行する事柄はたくさんあればある程良いという訳ではありません。あくまで、効率的にプロジェクトを進めるためのものですから「とりあえず入れておこう」より「どれが効果的か」という視線で選んでいく必要があります。
見込み客を育てるという視点を忘れない
市場調査をした際に、セグメンテーションと呼ばれる「顧客のニーズを細分化」する作業を行いターゲットを絞り込みますが、この時点で「この顧客層はニーズがないだろう」と考えていた層が将来的に顧客になることもあります。
例えば、商材が「白髪染めの薬剤」だった場合。現在必要のある層は「30代以上の男女」が大半ですから、ターゲット層をそのように設定するでしょう。しかし、30代以上でも白髪が生えていない人もいますし、20代で今は必要なくても、将来的に必要になる人は大勢います。「すぐに買ってもらうことはできないけれど、いつか必要になるだろう。その時に自社商材の購入に繋げていけるようにしよう」という考え方も必要です。
将来顧客になるであろう「見込み客」には3つのプロセスがあります。
まず、自分の中(もしくは自社内)で、何かしらの課題が発生した時、これを解決しようと商材を調べたり、興味をもったりする段階が1つ目です。「認知、興味」の段階です。「白髪染め」で例えるならば、黒髪にチラホラと白髪が目立ち始めた頃です。
2つ目の段階では、顧客が積極的に情報収集を始め、競合他社を含むパンフレットを取り寄せたり、商談を行ったりします。「比較、検討」の段階です。白髪染めの成分を調べたり、価格を比較しているような時です。詳しく話を聞いたりすることで、より購買意欲が高まるため、クロージングを行うことも可能です。
最後の3つ目は、いよいよ「導入、評価」の段階です。比較検討したうえで、最も課題の解決に対応できると評価された商材が導入されます。自分がイメージする仕上がりに一番近い白髪染めが購入されるわけです。
このように「今は必要なくても、時間の経過とともに顧客が必要性を感じ始める」こともあるので、「見込み客を育てていく」という視点を忘れないようにしましょう。
アジャイル思考が営業戦略の実行力を高める
営業戦略の立案において、戦略実行の確実性とスピードを高めるために、アジャイルの概念を織り込むと効果的です。
1 営業戦略の実行局面で生じる問題
営業戦略は、営業の現場で確実に実行され、かつ、PDCAを通じて不十分な点を継続的に改善しない限り、戦略実行の成果を十分に出すことは難しいものです。
一方、企画した営業戦略を完全な形で一度に実行させようとしても、現場で適応しきれず不完全な状態のまま、一部の活動だけを実行することで期待する効果が出ないことも少なくありません。
以下にあるような戦略実行が不完全な状態に陥ってしまうリスクをどのように回避すればよいでしょうか?
・戦略に対する理解や受入れ(アクセプタンス)が不十分なままとなる
・包括的な戦略要素の一部しか実行されない
・戦略に即していないプロセスでKPI目標の達成のみを追求してしまう
・戦略実行の効果をチェックしたり、フィードバックを受ける機会が少なく、戦略の実行レベルが低いままとなる
・戦略の実行に必要な能力がなかなか習得されず、戦略実践力が高まらない
2 アジャイルの概念を用いた営業戦略
アジャイルの概念は、2000年以降、要求仕様の変更に柔軟に対応できるソフトウェア開発手法として広く知られるようになりました。今日では、新たな価値を生み出す多様な業務に適用され、サービスやプロセスを速やかに創造するための活動原則として広く普及しつつあります。
アジャイルソフトウェア開発宣言(アジャイルマニフェスト)に示される4つの価値原則を営業戦略開発の活動にあてはめると、以下のように解釈することができます
プロセスやツールよりも個人との対話
戦略をプロセスやツールに落とし込むのみではなく、戦略を実行する現場メンバーの意向や課題を把握して実行策を講じることが重要となります。
さらに、実行した戦術のフィードバックを顧客から集め、戦略実行の課題を特定することが肝要です。
包括的なドキュメントよりも動くソフトウェア(サービス・プロセス)
戦略は文書化するだけでは意味がありません。戦略を現場が実行して結果を生み出す活動そのものを成果物と捉えるべきです。戦略を実行した状態をつくることがプロジェクトの目的です。
契約交渉よりも顧客との協調
戦略の実行を通じて顧客価値を確実に提供するためには、顧客と協力して価値を共創する関係性を創ることが理想です。
顧客から気軽にフィードバックを受けることで真の顧客価値を把握することが可能となります
計画に従うことよりも変化への対応
顧客ニーズや競合の製品・アプローチは常に変化し続けます。これらの変化に柔軟に適応するために、いつのタイミングでも計画を速やかに見直すことのできる組織活動が求められます。
3 アジャイル思考を活用した営業戦略の立案・実践方法
営業戦略を速やかに実行に移すためには、1ヵ月程度の期間で戦略企画を実行に移し、顧客のフィードバックを獲得するところまでを1つの活動サイクルとして運用します
アジャイル型の戦略実践活動においては、営業戦略を幾つかの区分できる戦略テーマに分けて優先順位を付け、一定期間の活動サイクル(通常2週間程度から数ヵ月)で計画実行から活動成果の検証までを完了できるように活動テーマの絞り込みを行います。
例えば、営業戦略の中で、「既存顧客のリモートワークにおける課題を対象としたソリューション営業」を実行する場合、以下のようないくつかの活動テーマに分割することができます。
・ソリューション営業の標準モデル(例えばSPIN話法など)の導入
・ソリューション営業スキルの教育
・リモートワークの課題を抽出するためのフレーム(ヒアリング項目)の作成
・顧客との対話を支援するツールの作成
・収集した顧客情報の記録と分析プロセスの導入
・収集情報を基にした課題の特定サイクル(定例ミーティング)の決定
・アプローチから商談化への有効性の評価
ここから優先順位を決めてチーム毎の活動サイクルにテーマを割り振って実行体系(プロセス、リソース)の具現化を進めて行きます。
活動サイクルを繰り返して、徐々に戦略に関する活動テーマを積み上げていくことで、営業戦略の実践レベルを高め、徐々に顧客提供価値を拡大させていきます
このようなアプローチによって、一つ一つの戦略要素を本質から反らさずに速やかに具現化し、PDCAを確実に運用する体制を創ることができます。