組織文化
組織文化とは、「組織構成員の間で共有されている信念や価値観」と定義されます。
企業の構成メンバー間で共有された価値や信念、思考様式や行動規範など、企業内に根付く文化のことです。企業運営において集団の中で培われた価値観であり、各メンバーが相互作用しながら形成され、企業と社員の間で共有されていくことから、企業経営や事業活動においてあらゆるシーンで影響を与えます。
時には、強いリーダーシップを持つ経営者や創業者の考え方や生き方、メッセージや個性が企業内に語り継がれ、企業文化に大きな影響を与えることもあります。
組織文化は「可視化しづらい」「外部組織の影響や自社組織の状況で変化する可能性がある」など、具現化が容易ではない特徴があるため、メンバー間でのばらつきに大きく差が生じることが難点として挙げられます。そうした特徴のある企業文化ですが、社員の言動が外部の企業イメージに直結し、企業活動に多大な影響を及ぼすことから、いかにしてメンバー間のばらつきを小さく留めるかが重要なポイントです。
「組織文化」「企業風土」「社風」
「組織文化」との類義語に「企業風土」や「社風」があります。
組織風土
「風土」とは、その土地の気候、地勢、価値観などを表します。
したがって、組織風土が示すのは組織の風土、すなわち組織に根付いている性格や精神感のことです。
すでに根強く組織に紐づいている「性格・気質」のようなものなので、簡単に変えることが難しいのが組織風土です。
例えば、企業に「顧客を大切にする組織風土」が染み付いているならば、急激に利益至上主義の組織風土に変えるのは困難です。
逆に、インセンティブ制の利益至上主義の組織風土が染みついている企業に対し、「社員同士が協力し合う風土を作り上げよう」と伝えたところで導入には時間がかかることでしょう。
組織風土は「性格」のため、社員の動機付けとも深く関わっているため、急激に外部から組織風土を変えようとする力が働ければ、社員は会社から離れてしまうこともあります。
組織風土と組織文化の違い
組織風土と組織文化の違いは「性格」と「価値観」です。組織風土は性格のため、容易に変えることはできません。長い間少しずつ変化し、培われてきたのが組織風土です。
一方、組織文化は価値観と言い換えられます。価値観は、時代や競合によって変わるのは日本史が指し示す通りです。
社風とは
組織風土や組織文化が会社全体の性格や価値観を指すのに対し、社風は従業員から会社をみた際に感じる会社の雰囲気のことです。
例えば、「和気藹々とした社風」は、会社の性格や気質、あるいは価値観が「親しみやすい」のではなく、従業員同士が互いの関係性に注目した際に交流が深いように感じれられるという意味です。
ただし、社風は、組織風土、組織文化から影響を受けるため、社風と組織風土は完全に独立しているわけではありません。
組織文化の定義
組織文化とは、「従業員間で共通認識されている信念や前提条件、または社内ルール」を指しています。「文化」の持つ元々の意味は「世の中が開けて、生活水準が高まっている状態」「人類の理想を実現していく精神の活動」「技術を通して人間の生活目的に役立てていく過程で形作られた生活様式及びそれに関する表現」などになります。これを人間に置き換えると、「行動原理となる価値観」などが当てはまると考えられることから、企業・組織内での経験により変化しながら形成され、成長していくものであると言えます。
企業風土が外部の影響を受けにくい性質を持つのに対し、企業文化は、外部の影響を受け変化・成長していく点に大きな違いがあると言えます。さらに、これを企業に置き換えて考えると、企業文化とは、「組織体制や教育制度」などが該当し、主に「仕事の価値観」など、社員の就業姿勢に多大な影響を与える要因が当てはまると考えることができます。
企業風土の定義
企業風土とは、「従業員間で共通認識される独自の規則や価値観など」を指しています。
「風土」の持つ元々の意味は、「その土地の気候・地質・景観などに見られる(住民の生活や文化に深く働きかけるものとしての)環境」「人間の文化の形成などに影響を及ぼす精神的な環境」などになります。これを人間に置き換えると、長年培ってきた「性格や気質、そして考え方や癖」などが当てはまると考えられることから、外部の影響などで変化させるのは容易ではないと言えます。さらに、これを企業に置き換えて考えると、企業風土とはも「企業の基本的な考え方や指針」などが該当し、主には「評価制度」など社員の環境に多大な影響を与える要因が当てはまると考えることができます。
社風の定義
社風とは「社員が感じるその会社の雰囲気や特徴」を指しています。
企業・組織内での人間関係による労働環境や空気感など、感覚的な要素が強くなると言えます。これを人間に置き換えると、「人柄」などが当てはまると考えられ、さらに、これを企業に置き換えて考えると、社風とは「企業・組織内の人たちが持つ雰囲気」などが該当すると言えます。感覚的な表現となりますが、「明るい、穏やか、元気、仲良さそう」などが挙げられます。
組織風土の要素
組織風土を深く理解するためには、2つの要素について理解しておく必要があります。
・ハード要素
・ソフト要素
ハード要素
組織風土のハード要素とは、経営者が積極的に関わることができる、会社の根本的な制度のことです。
組織風土の要素として挙げられるのは以下の通りです。
・企業理念
・中期経営戦略
・人事考課
・就業規則
・コーポレートガバナンス
組織風土の要素として挙げられるのは、会社の末端の規定などではなく、会社運営の根本となる制度です。
組織風土を変化させるには比較的時間を要しますが、上記のハード面を変化させることで、変化が生まれることがあります。
ソフト要素
ハード面が経営者が関わらなければいけない根本的な要素だったのに対し、ソフト面とは従業員のひとりひとりの行動で変わるものを指します。
・ローカルルール
・判断基準
・チームワーク
・責任の所在
組織風土を変えるためには、ハード面を変更させることも大切ですが、従業員のボトムアップからの突き上げでも変化することがあります。
組織風土改革の成功事例
キリンビールホールディングス
現在では社内全体として、「顧客第一」という組織風土が培われていますが、かつてはそうではありませんでした。
キリンビールは2001年「新キリン宣言」を発表。顧客視点に立った商品開発に力をいれることにしましたが、社内の責任転嫁の風潮、ヒット商品が出ると安心してしまう組織風土が長く蔓延っていました。
こうした状況を打開するために、2015年から経営者と若手社員、労働組合を巻き込み対話集会を実施。当時の社長は延べ900人以上と対談を重ねたとされています。
当時の地道な組織風土改革の結果、現在のキリンビールの「顧客視点」が組織風土として定着したと言われています。
現在のキリンビールは、「お客さまが主語のマーケティング」を大切にしています。
例えば、マーケティング戦略を立案する際には、ポジショニングを利用して、競合が少ない場所を狙うのが一般的ですが、キリンビールのマーケティング戦略では、「そこに顧客のニーズがあるのか?」を第一に考えます。
このように、組織風土改革には地道な経営者の努力が必要になります。
メルカリ
メルカリでは、以下3つのバリューを大切にしています。
・Go Bold(大胆にやろう)
・All for One(全ては成功のために)
・Be a Pro(プロフェッショナルであれ)
社員が上司判断を仰げない際には、上記の理念に基づき意思決定をするように徹底されています。
メルカリのミッションは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」。
ミッションを社内で共有、バリューが徹底された例として挙げられます。
組織文化の形成要因
組織文化を浸透させ、揺るぎない企業文化を形成するためには、価値や信念、思考様式や行動規範など、メンバーの企業理解度を深め、メンバー間でのばらつきを最小限に留めなくてはなりません。企業文化の形成に関わる要因には、「近接性」「同質性」「情報の遍在性」「帰属意識」などがあり、これらの要因を強めていくことで、強い企業文化を形成しやすくなると言えます。
近接性
近接性とは、近づきやすさを示す概念で、メンバー同士が物理的に近くにいる度合いを指しています。
メンバー同士が同じ空間を共有し、どの程度接するかにより考え方の共通化や相互理解が促進されることから、近接性が高いほど企業文化は形成されやすいと言えます。テレワークやリモートワークが進む現代において、いかにして近接性を高めていくのかが課題となります。
同質性
同質性とは、二つ以上ものの質が同じであることを示す概念で、メンバー同士の性質や特性が似ている度合いを指しています。
この「質」は、それぞれが有する「個性」や「基本的な考え方」と捉えることができることから、企業が自社にあった同質性を持つ人材を採用することで、企業文化が形成されやすくなると言えます。価値観の多様化する現代において、いかにして同質性を高めていくのかが課題となります。
相互性
相互性とは、相互関係がある性質、または相互に作用があるような状態を表しており、特に、相互に他を補うような関係性を示す概念で、仕事の相互依存度を指しています。
日常業務において、相互関係を必要とすればするほど、調整の必要性から考え方などの共通化が生じてくると言えます。技術職と営業職、管理職と技能職など、立場の異なるメンバー同士のコミュニケーションをいかにして図るかが課題となります。
情報の遍在性
偏在性とは、広くあちこちに行き渡って存在することを示す概念で、情報が1箇所に集中せず、広く満遍なく行き渡っていることの度合いを指しています。
情報は人から人へ、またはネットワークを介して拡散していくことから、どのようなコミュニケーション・ネットワークを持つかが強く影響を及ぼします。いかにして社内のコミュニケーション・ネットワークを築くかが課題となります。
帰属意識
帰属意識とは、自分が属している集団の一員であるという意識のことです。愛社精神とも言い換えることができます。
会社が自分のことを大切にしてくれている、会社のメンバーとの良好な人間関係が保てているなど、主に人間関係が強く影響を及ぼします。社内イベントなどの行事を共有することで帰属意識を高めることができると言えます。
人が集まっても、バラバラに行動していたのでは組織と呼ぶことはできません。
明示的あるいは暗示的な行動のルールに従い、一定の目的に向かって意識を合わせて行動することによって、人の集まりは組織として機能するようになります。
そのような行動ルールの中でも、特に何について価値を見出すかという価値観が共有されている場合、それは組織文化と呼ぶことができます。
組織文化が明示的に表現されることはありませんが、その組織のメンバーであれば時間の経過に合わせて受け入れるようになり、自覚することなく組織文化の中で行動するようになります。
組織文化の持つ影響力はとても大きなものであり、カリスマ経営者の能力を超え、時間とともに強化されていきます。
そして、組織文化によって、組織メンバーが価値をいかに見出すかやいかに価値を創造するかが規定されていきます。
組織文化は企業組織の経営に対してどのような機能を持つのでしょうか。
1 意思決定や行動の迅速化
組織文化があることによって、ある事柄をどのように解釈すべきか という判断基準を組織メンバーは持つことができます。
判断に迷った時に組織文化によって示された判断基準に従うことによって、メンバーは問題解決ができます。
価値判断の基準が組織内で合意され、共有されているので、ある程度手順を踏めば意思決定を行うことができ、様々な案件を扱う上で効率がよくなります。
もちろん、組織文化に従えば自動的に問題を処理できるというわけではなく、あくまでも価値判断のときの拠り所になるということです。
判断の拠り所があるということは、ルーチンワーク的な仕事をこなす時よりも、不測の事態や難しい判断を伴うような場面でより強みが発揮されます。
例えば、リッツカールトンではクレドと呼ばれるカードに企業としての価値観をまとめて、従業員一人一人に配っています。
従業員は、常にクレドに記載された価値観を判断基準として行動することによって、顧客に対して上質のサービスを提供することができているのです。
2 凝集性の向上と自由の付与
企業組織は、組織文化に基づいて行動することによって、組織一丸となって意思決定を行い、行動することができます。
組織文化に反する、価値観に合わない意見は取り上げられることがなくなり、組織としての求心性を維持しやすくなります。
そして、組織文化に従って行動している限りは、行動の自由度も高まります。
組織文化に従った行動であれば、細かいルールによって行動を制限する必要はないからです。
その分だけ、組織メンバーの裁量の余地は広まり、弾力的に行動できるのです。
将来のことを100パーセント完璧に予測することは不可能であり、事前に完璧な対策を準備することはできませんが、組織のメンバーが一定の価値観に従って行動できる規律を持つことが重要と言えるでしょう。
3 知恵の結晶
組織文化は、長期間にわたって組織メンバーの行動基準となっており、メンバー個人の能力以上の確かさを持っています。
組織文化とは、その組織で働いてきた人たちの知恵の結晶であるわけです。
このような知恵は、数多くの人々の経験に基づいたものであり、長い時間をかけて洗練されてきたものです。
組織文化に従って考えることは、多くの人の経験に裏付けられた確かさを持って考えることということができるのです。
組織文化の実務面での効果は以上のようなものがあります。
組織メンバーが組織文化に従った行動をとることによって、結果としてその組織の持つ外部環境への適応力が高まっていくことになります。
心理的な拠り所としての効果
次に、心理的拠り所としての組織文化について考えていきます。
企業の業績が向上し、企業市民として尊敬されるような文化を持つ組織に所属しているということは、そのこと自体が誇りとなります。
そして、メンバーは、優れた組織のメンバーであること自体を誇りに感じるとともに、自分自身も優れた人材であるという感情を抱くようになります。
このような感情は、メンバーのモチベーションを高め、積極的に仕事に取り組む態度を形成するのに役立ちます。
一般に、自己に対する肯定的な感情は積極的な行動の要因となります。
そして、その行動の結果が好ましいものであれば、さらに行動は強化されるようになります。
仕事を通じて一度自信を持つと、次の仕事もできるように思えるようになります。
このようにして、組織文化は組織メンバーの心理的な拠り所として機能を果たしているのです。
企業文化形成のメリット・デメリット
企業文化は可視化しづらい故に、そのメリットやデメリットが理解しづらいものであると言えますが、企業文化が形成されていることで、社員共通の指針として日常業務のあらゆるシーンにおいて機能することから、多大なメリットがあると言えます。一方、悪しき企業文化はマイナスに働き悪循環を及ぼす可能性もあることから注意が必要です。
メリット1:チームワーク強化
多くの企業が成長過程において「意思疎通」や「チームワーク」に課題を抱えています。これは、社員数が増え、業務そのものや部署が多様化することで、情報共有が行き渡らなくなることから生じるコミュニケーション不足による要因が多くを占めていると言えます。そこに明確な企業文化があれば、社員は企業文化に基づく判断基準を共有し、同じ目標に邁進できることから、たとえ人数が多くとも一体感のある強い組織形成を図ることができます。また、同じ目標を有することで、社員間の情報共有やコミュニケーションが活性化し、チームワークの強化を生み出すことができます。
メリット2:パフォーマンス向上
「企業として何を重視するべきか」の指針が企業文化として根付いていることで、日常業務における判断が迅速化するばかりでなく、社員の自発的行動の促進につながると言えます。また、「常に挑戦する企業文化」が根づく組織では、課題に対し常に挑戦する姿勢での言動やアイデア提起が行われ、「保守的な企業文化」が根づく組織では、課題に対し常に保守的な言動が為される傾向があると言えます。いずれにせよ、「会社のために何ができるか」をそれぞれが考え、迅速に判断・行動し、組織の活性化とパフォーマンス向上を図るには、企業文化は不可欠であると言えます。
メリット3:離職率の低下
ポジティブな企業文化が浸透し、企業の運営方針と社員の意思疎通が図れている組織であればあるほど、社員のモチベーションが高いと言えます。また、そうした社員は仕事への不満も少ないため、退職しにくい傾向があると言えます。ポジティブな企業文化の浸透した組織では、社内の議論も活発な傾向があり、他社との差別化に向けた様々な取り組みが円滑に進むことから社内も活性化します。それにより、優秀な人材の定着率も向上すると言えます。そして、優秀な人材の定着は企業の成長に相関することから、ポジティブな企業文化は企業の成長を促すと言っても過言ではありません。
企業文化形成のデメリット
企業文化の浸透がデメリットを生じるケースも考えられます。あくまでもネガティブな企業文化の浸透が要因となりますが、代表的なケースでは、「前例や従来の思考に捉われるばかり、イノベーションが起こりにくくなる」「企業文化が合わない人、企業文化に捉われない新たしい発想を持った人材が排除されてしまう」などが挙げられます。企業文化は、あくまでも「改善」に向けたポジティブな文化であるべきことを念頭に、企業文化に捉われすぎず、状況に応じた柔軟な対応を行うことが大切です。
企業文化の構成要素
企業文化は一朝一夕には成り立たず、多くの要因と積み上げてきた時間により形成されていきます。ここからは、企業文化を形成する5つの構成要素を載せます。
1 ミッション(企業が果たすべき使命)
企業におけるミッションとは、「企業が果たすべき使命」であり、「存在意義」を指しています。企業は、社会に対し果たすべき役割を持ち組織されており、事業を通し何を成し遂げたいのか、社会にどのような影響を与えていくのか、また、どのような価値を提供していくのかを示さなくてはなりません。ミッションは、社内へのメッセージ性が高く、社員の意思形成にも多大な影響を及ぼすことから、企業文化の構成要素の中で最も重要であると言えます。
2 ビジョン(企業の目標)
企業におけるビジョンとは、ミッションを成し遂げた先にある「実現したい未来」を指しています。存在意義という普遍的な定義を有するミッションに対し、ビジョンは、中長期的な視点で定める将来像であるため、変則的であるとも言えます。多くの企業で定められているビジョンですが、企業文化の形成に寄与しづらい、曖昧で複雑なビジョンが定義されているケースが多く見受けられます。ビジョン策定において大切なのは、すべてのステークホルダーに簡潔で明確かつ魅力的に伝わること。この1点に留意して、機能するビジョンを策定することが大切です。
3 バリュー(社員に求める価値観)
企業におけるバリューとは、組織にとって「何が重要か」を示す評価基準を指しています。バリューは、企業にとって重要な判断基準や考え方の指針を示しているため、ビジョン達成までのプロセス(日常業務)に多大な影響を及ぼすと言えます。このことからバリューは、社員全員が理解しやすく明確かつ具体的な言葉として、共感できるメッセージを掲げることが大切です。
4 人材
策定した企業のミッション、バリューを実行し、ビジョン達成に向け活躍するのは、自社で働いてくれる社員に他なりません。また、ミッション、ビジョン、バリューに共感し、日夜尽力してくれる社員がいてこそ、企業文化は形成されると言えます。企業経営・運営にとって最も重要なのは人材であることを理解し、人材を大切にすることが企業文化形成の第一歩であると言えます。
5 立地
地域・地区にはそれぞれ文化・風土が根付いていると言えます。東京では、ファッションのトレンドやクオリティの高いデザイン性が地域ブランドとして根づく「南青山」、高層ビルが立ち並び、あらゆる大手企業が集結する「丸の内」、先進的なIT企業が集結する「渋谷」などが挙げられます。どこにオフィスを構えるかは、どのような企業文化を形成したいのかに直結すると言っても過言ではないため、場所選びも重要な要素の一つであると言えます。
悪しき組織文化がいったん根づいてしまうと、組織自体の存続も危うくなってしまいます。
悪しき文化によって内部が乱れ、誰もが自分勝手に行動するようになってしまうことがあります。
また、顧客に目を向けることや顧客の要望に応えることよりも、組織内で生き残っていくことを優先し、社内政治に走ってしまうようなケースもあります。
このような状況が外部へ伝わってしまうと、企業のイメージは低下してしまい、結果としてその企業の製品やサービスが市場からの支持を失ってしまうことになります。
組織文化を生み出し維持していくための8要素
組織文化はどのようにして生まれ、維持されていくのでしょうか。
組織文化を生み出し、維持していくための要素には次のようなものがあります。
・創業者の意志
組織文化の形成に大きな影響を与えるのは、その組織を作った人間です。
創業者は自らの志を実現しようとして組織を作り、その想いはメンバーの間で共有されます。
複数の人間がある目的を達成しようと濃厚な時間を過ごして社会関係を構築する過程の中で特定のものの見方や考え方が形成され、組織文化が生まれていきます。
・トップ・マネジメントの行動
新しいメンバーは、トップ・マネジメントの言動によって組織文化の洗礼をうけます。
とりわけ、創業者が現役で活躍している場合、創業者自身の個性や考え方が組織文化に直接反映されており、創業者の一挙手一投足が組織文化に影響を与えていきます。
・採用
採用時の判断のポイントは、社会としての組織におけるメンバーの特性が重要となります。
新しいメンバーは、組織社会の一員としての振る舞いが期待されているのです。
新しいメンバーが、もし組織が持つルールである組織文化を受け入れられないのであれば、他のメンバーと違った行動をとりかねないし、1人でも組織文化を受け入れられないのであれば、組織の協働システムが機能しなくなってしまう可能性があります。
新しいメンバーが組織文化を受け入れることができるのであれば、協働システムは機能しやすくなり、組織文化はより強固なものになっていきます。
また、採用によって組織文化を変革することも可能です。
組織文化を受容できるかは重要な判断ポイントですが、組織が沈滞している場合や組織文化が外部環境との整合性を持たなくなった場合には、組織文化自体が組織の成長を阻害することになります。
このような状況に陥ってしまった場合には、採用の際に組織を変える意欲や力量を持った人材を採用することによって、組織改革を行っていく必要があります。
典型的な例としては、外部からトップを招いて組織改革を実行することです。
この場合の組織改革とは、それまで組織の間で共有されていた価値観を壊し、組織文化を変えていくことを意味しています。
・行動モデル
トップ・マネジメントに限らず、ベテラン社員の行動をモデルとすることによっても組織文化は強化されます。
モデルが増えることによって、必然的に組織の中での立ち居振る舞いに一定のパターンが生まれてくるのです。
組織に新しく入ってきたメンバーは、こうした先輩社員を行動モデルとすることによって、組織文化を確実に身につけていくのです。
・エピソード・神話
エピソードとは、過去の出来事について語り継がれたものです。
創業間もないころの創業者の苦労話や、組織が危機的な状況に陥った際にどのようにして難局を乗り切ったかといった話のことです。
過去の出来事によって、現在の組織の在り方や組織のメンバーの行動の在り方を規定しようというものです。
また、過去の出来事のうち、組織メンバーの頭の中に強固に植えつけられたものである場合、これを「神話」と呼ぶことがあります。例えば、在職中営業トップ成績の座を一度も譲らなかった営業社員を神話化することが挙げられます。
このようなエピソードや神話によって組織が何に価値を置いているかを学ぶことができるのです。
・儀式
儀式も組織の価値観を伝えるのに役立ちます。
日本企業の多くでは、かつてに比べて減少したとはいえ、今でも朝礼という儀式が行われています。
朝礼では、社訓を唱和することにはじまり、その後で上長から一日の連絡事項が伝えられます。
こうした儀式を毎日毎週繰り返すことが重要です。
繰り返されることによって、価値観が強化され、一人一人のメンバーの中に定着していくのです。
一般的に、一緒になって何かをするということを繰り返すことによって仲間意識が醸成されます。
そして、仲間意識が醸成されると、同じ価値観を共有しやすくなります。
儀式は、エピソードに比べて、マネジメント側の意向が明確に表現されます。
組織文化のベースとなる立ち居振る舞いを教えることを目的としているともいうことができます。
・社内用語
ある程度歴史のある組織では、ほとんど例外なく独自の言語を発明し、共有しています。
組織に独自の言葉を使うということは、独自の世界観を示すことになります。
このように、社内用語は組織の文化を象徴するものである。
一般的に、隠語は仲間同士の結びつきを強める効果があります。
いわゆる若者言葉は、大人の間ではほとんど理解不能であっても、使っている若者の間では通じる言葉として積極的に使われたりします。
また、略語がコミュニケーションの速度を上げるのに使われることもあります。典型的なものとしては、長い組織名を短縮して表現する例があります。
直接的に表現することがはばかられる場合には、メタファーが用いられることもあります。例えば、本社機能が丸の内にある場合、支店のメンバーは「丸の内(=本社)の指示だからやるしかない」という言い方をすることがあります。
社内用語は使えば使うほど、組織の凝集性が高まってくるのです。
・評価
人事考課の項目に組織文化に直接的に関連する項目があると、当然ながら組織メンバーの意識や行動に影響を及ぼします。
例えば、ただでさえ慎重な行動を求められる組織において、評価の仕組みが減点方式であれば、ますますリスクを取って新しいことに挑戦しようというメンバーは出てきにくくなることが考えられます。
望ましくない組織文化を変えようとする場合には、評価制度や評価項目を変えることが有効となることもあります。
本当の意味で組織文化が身についているかどうかは、その組織文化を伝えるレベルに達しているかどうかで決まってきます。
組織文化を理解するだけでなく、具体化できることが一人前の組織人としての条件です。
次の世代に伝えるというプロセスができてこそ、組織文化を維持することができます。
組織は静的な存在ではなく動的な存在です。
常に求心力を持って行動を起こさないと、組織自体が崩壊してしまいます。
組織文化を身につけるとは、次の世代に文化を引き継ぎ、組織を存続させ続けていくことを目的としているということができます。
良き組織文化
組織文化は、組織内の社会的メカニズムから発生したものですが、組織の経済活動に大きな影響を与えます。
実効性のある戦略を立案するためには、「良き組織文化」を持つ必要があることを理解しておかなければなりません。
「良き組織文化」とはどのようなものでしょうか。
本来、文化については良い悪いという視点はなく、どちらがよいかは個人の好みの問題であります。
ただし、両者に違いがあることは認める必要があります。ここで使用している「良き」という言葉には、第一義的に経済的意味で効用があるということを表しています。
組織の活動は、社会的メカニズムに従うだけではなく、経済的メカニズムにも従っています。そのため、「良き組織文化」とは、経済的価値をもたらす文化ということができます。
組織文化が組織活動を通じてもたらす経済的価値は大きく2つに分けられます。
一つは組織内部の人にもたらす価値、もう一つは組織外部の人に提供する価値です。
組織内部の人にもたらす価値とは、端的には給与・賃金であり、その前提となる雇用を指します。
給与をはじめとする処遇内容に満足すれば、メンバーは仕事に時間とエネルギーを注ぎ、目標を達成できるように努力するようになります。
組織外部の人に提供する価値とは、製品やサービスになります。
消費者やユーザは、製品やサービスに満足して初めて対価を組織に支払います。
消費者やユーザが満足するような製品やサービスを提供できるかは、組織文化に負うところが大きいのです。
たとえ、組織内部のメンバーに対して経済的価値を提供することができていたとしても、優れた戦略を実行して顧客が満足するような製品・サービスを提供することができないのであれば、組織内部で分配するような経済的資源を獲得することはできないのです。
どのような文化が経済的価値をもたらす「良き組織文化」と言えるのでしょうか。
良き組織文化の特徴としては、以下のような3点が考えられます。
1 多様性を奨励する
この数年、日本でも「多様性」「ダイバーシティ」という言葉が盛んに使われるようになりました。
組織においては、多様性を認めるということは組織としての統制を失うというリスクがあります。
しかし、カリスマ指導者の指揮下にある組織は、時に機能マヒを起こすことがあります。
組織メンバーが、指示待ちの受け身の状態となり、自ら考え行動することができなくなってしまうのです。
顧客との直接的なやり取りや、生産現場で生産性向上のための工夫などに取り組んでいる現場のメンバーが問題を発見し、その解決策を考える必要があります。
変化する環境の最前線に立つ社員が自ら考え行動するという意味での多様性を保証し、奨励することによって、環境の変化に対して適切・迅速に対応できるようになります。
また、特定の問題の解決を図る際にも、多様な視点を導入することによって解決速度を速めることができます。
そのため、問題が発生しそれに対応するという場面以外にも、会議の席上で広く多様な意見が交わされることは望ましい状態と言えるでしょう。
2 変化を作る
外部環境が変化した後でその変化に対応しようとするのでは、後手に回った解決策しかとることはできません。
そもそも、企業組織を取り巻く環境は常に変化し続けているので、そのことを念頭に置いて行動する必要があります。
むしろ、自らが進んで変化を起こすことが重要なのです。
変化は、会社組織にとってプラスとなるだけではなく、個人の成長にとっても大きなプラスとなります。
過去の成功体験に甘んじることなく、常に挑戦し続けていくことは組織の活性化にもつながっています。
3 社員を大切にする
多様性や変化を起こしていくのは、組織メンバーである人間です。
人間を大切にしない組織は将来生き残れるかどうかが危ぶまれます。
メンバーが生き生きとして働くことができるからこそ、多様性が生まれ新しい変化が生み出されるのです。
組織メンバーはビジネスのための道具などではなく、ビジネスの果実をもたらしているのはすべてメンバーの営みによるものであると認識しておく必要があります。
以上のように、良き組織文化とは経済的な成果から判断できますが、経済的な成果だけで文化を考えると矛盾にぶつかることがあります。
「会社のためにはできることは何でもする」という組織文化があったとします。
そのような組織文化は組織メンバーのコミットメントの高さを示しており、そのような組織は凝集性の高い組織であるということができます。
凝集性の高さは、企業がある方向へ進もうとする際に大きな力となりますが、進む方向が間違っていた時には、好ましくない結果をもたらすこととなります。
以上から、組織文化に「組織は良き市民として行動しなければならない」という視点を加える必要があります。
これは、組織全体だけでなく、その組織のメンバーひとりひとりについてもあてはまることなのです。
トップマネジメントの役割
このような良き組織文化を守っていくことは、トップ・マネジメントをはじめとするリーダーたちの重要な役割です。
組織文化の維持に力を注いでいる代表的な企業として、GE(ゼネラル・エレクトリック)があります。
GEでは、常にトップ・マネジメントがGEバリューと呼ばれる価値観を浸透させる機会を持ち、GEバリューがいかに優れているかをメンバーに対して説いています。そして、何より、トップ・マネジメントが行動規範となり、全社員の行動モデルとなるように心がけています。歴代のトップが良き組織文化を継承してきたことにより、GEという企業はその強さを維持してきたのです。
良き組織文化が醸成されている企業組織であれば維持していくことが大切ですが、悪しき組織文化になっている企業組織では、そのような組織文化を追い出したり変革していくことが求められます。
組織文化を変えていくことは大変難しいことですが、一定の条件がそろえば十分に可能なものです。
その条件とは次のようなものです。
・属する文化を変えようと先導するメンバーや、文化を強制的に変えようとする外部の人間がいること
・別の文化に好ましい感情を抱き、積極的に受容する人間がいること(今の組織文化のままではだめだと危機感を持つ人間がいること)
企業組織の経営状態が悪化し、外部から新しくトップ・マネジメントを招いた結果、それまでの組織文化から変わってしまうことがあります。
家族主義的な経営を行ってきた企業組織が大胆な人員整理によるリストラを行い、成果主義的な評価制度を導入した結果、組織メンバーの目の前にあるのはノルマであり、組織内の雰囲気は ぎすぎす したものとなってしまいます。
そのような状態となってしまっては、組織メンバーのモチベーションも低下し、企業組織全体としてのパフォーマンスも悪化してしまいます。
このようなケースにおいては、以前の家族主義的な経営に戻すことによって、メンバーは心理的に落ち着きを取り戻し、企業組織として復活することがあります。
成果主義的な経営に基づく組織文化よりも、家族主義的な経営に基づく組織文化が好ましいとするメンバーが多く存在する場合、トップ・マネジメントが家族主義的な経営に回帰することによって、改めて家族主義的な組織文化が受け入れられるのです。
組織文化が揺らいでしまうと組織内に混乱が生じてしまいます。
しかし、混乱の中で再び良き組織文化を定着させていくことがトップ・マネジメントにとって重要な仕事なのです。
組織文化の例:トヨタ自動車
トヨタ自動車の組織文化を表すものとして、「豊田綱領」「トヨタ基本理念」「トヨタウェイ2001」が作成されています。
これらに記載されている内容をまとめると、トヨタ自動車の組織文化の根底には「車づくりを通じた社会貢献(地域・社会の豊かな生活と発展)」「人間性尊重(お互いの信頼と尊重及び一人一人の成長)」という2つの考えがあると言えます。
トヨタ自動車の組織文化の基盤となる「社会貢献のための付加価値の創造」は人の手によるモノづくりを通じて行われます。
そのモノづくりのための方法や機会を作り出していくのは、人の研究と創造や知恵と工夫にあると考えられています。
どんなに立派な建物や設備があり、充分な材料がそろっていたとしても、人がそれらを使いこなしてより良い製品を作ることができなければ意味がないのです。
このように付加価値を想像し高めていくのは人の働きによるものです。
また、人はこうした付加価値の創造による社会貢献のプロセスを行うことによって、自分の能力を高めて成長するとともに、生きがいや喜びを高め豊かな生活を獲得することにつながります。
「人づくり」こそが企業の競争力そのものであり、それを継続的に高めることが、企業の成長となり社会の発展につながると考えられているのです。
そのため、原則的にいったん採用した社員は定年になるまでの雇用が維持されるため、社員は失業の不安から解放されて、会社への強い信頼感と長期的視野の下にほかのメンバーとともに腰を据えて仕事に取り組むことができるのです。
このようなトヨタの組織文化は、GMとの合弁でアメリカに作られたNUMMIの工場でも受け入れられることになりました。
現場のアメリカ人社員もトヨタ生産方式を学び、それを実践していったことにより、日本の工場と変わらない生産性を実現することができ、「NUMMIの奇跡」と呼ばれています。
アメリカでの生産現場では、マニュアル通りの作業が求められ、それができない人材であれば代替はいくらでもいるといった考え方が通常でした。
それに対して、トヨタでは生産現場の人間も一人の人間であり、かけがえのない存在であると考えられ、熱心な社員教育が行われます。
そして、トヨタの長期雇用の維持の原則は、不安定な雇用の下で働いてきた工場作業員たちにとって大変な朗報であり、会社に対する深い信頼感の基礎となりました。その結果として、アメリカ人作業員たちも熱心に仕事に取組み、生産性を向上させることに成功したのです。
しかし、このトヨタの組織文化は合弁先であるGM本体には受け入れられませんでした。
アメリカでは、生産現場のブルーカラーの工場作業員と、本社で働くホワイトカラーの従業員の間では、仕事のしかたや処遇内容で明確な格差があり、ホワイトカラーの従業員は優遇されていました。そのため、トヨタの組織文化にある人間性尊重による平等主義を受け入れることができなかったのです。その後、GM本体は経営不振となり、経営破綻に至ったのは皮肉なものと言えるでしょう。
組織文化は、創業者の意志や想いをベースとしてスタートし、トップ・マネジメントの行動や採用・評価といった社内制度などによって強化され、組織メンバー内での共通の価値観や判断基準となっていきます。
良き組織文化として組織メンバーへ浸透すれば、企業組織を良い方向へ導くことが可能となりますが、環境の変化に適応できずに悪しき文化となってしまい、企業の存亡を危うくしてしまうこともあり得ます。
そのような観点から、現在所属している組織内で共有されている価値観とはどのようなものか、その価値観がメンバーに対してどのような影響を与えているかを一度見直してみるのもよいでしょう。