自分の心に火をつける

上杉鷹山に学ぶ「炭火理論」

 自分を大きく変え、限界突破を図るために大切なのは何でしょうか。

 それは的が定まっていることであり、その的に向け、突き進んでいくトップの「情熱」です。

 ここで、「炭火理論」という話を紹介します。いかにして自分に、みんなに、情熱の火をつけていくか という話です。

 上杉鷹山のエピソードです。

 上杉鷹山は本やドラマで何度も紹介されているので、知っておられる方も多いと思います。宮崎の三万石の小藩出身の鷹山は、上杉謙信を源流とする名門の米沢藩に養子で入り、藩主として、改革を成し遂げるわけですが、当時の米沢藩は会社に例えると、倒産寸前のガタガタの状態でした。

 江戸時代の幕藩体制、幕府と藩の関係は、簡単に言うと、幕府が親会社、本社で、藩が子会社や支店、営業所という関係です。親会社、本社からみて、藩の業績が悪かったら、潰すか統廃合する。米沢藩は財政が悪化し、いつ潰れてもおかしくない、危機的な状態だったわけです。そこに鷹山が養子としてやってきて、弱冠17歳のときに藩主になり、若手の幹部と協力して、改革を行います。

 いつの時代も、どこの組織でもそうですが、改革に対しては、強い反発が起きます。特に、変化を嫌うベテラン、先代からの番頭クラスの反対が改革の行く手を阻みます。

 そんな状態の中、江戸の藩邸で過ごしていた鷹山が初めて、米沢入りすることになりました。そして、一歩、米沢の地に足を踏み入れた途端、こう思ったといいます。

「すべてが死んでいる」

 何が死んでいるかというと、土地が死んでる。家が死んでる。建物が死んでる。山、川、空気が死んでる。何よりも、人の目が死んでる。心が死んでる。

 すべてが死んだような、生気のないところに来て、「本当に改革などできるのだろうか」と愕然とします。

 そのときに、たまたま目の前にあった、灰で一杯のタバコ盆をみて、「米沢というところは、燃え尽きた灰のようなところだ。灰にいくら種をまいたところで、何も育つはずがない。どうしたらいいのか? どうしようもないのではないか?」

 あまりにも厳しい現実を目の当たりにして、絶望してしまいました。

 タバコ盆を見ていると、中にひとつだけ燃え尽きていない小さな炭がありました。その炭の火種を見ながら、新しい炭を1つ横に置きます。そして、息を吹きかけます。しばらくすると、消えかけた火が勢いを増すとともに、新しい炭に燃え移り、新しい火種となって、燃え始めました。鷹山は「これだ」と思います。

 

まず自分の心に火をつける

 「米沢の地は、燃え尽きた灰のようになっている。みんなの心にあるはずの炭が完全に燃え尽きたかのように見える。一見すると、やる気のない、湿った、ぬれた炭になっているかもしれない。でも、自分自身がまず、火種になって、一生懸命一人ひとり、ていねいに火をつけていけば、必ず燃え広がっていくだろう」

 こう思い、協力的な若い幹部に情熱を持って語りました。「まず、みんながそれぞれの心に火をつけてほしい。そして、自分の持ち場に帰って、その火を一人ひとりにつけていってほしい」

 ここからです。改革の火の手が上がったのは。

 もちろん、その後も簡単に改革が進んだわけはありません。紆余曲折がありました。

 上杉鷹山がやったことは、情熱の火をまず燃やす、それを一人ひとりにつけていく。しかも、粘り強く、決してあきらめない。だから実現するのです。

 あなたは、どれくらいの情熱を持って仕事をしていますか?

 情熱は伝染します。炭火のように、強く持続する念いが伝染します。それが「炭火理論」です。

 まずは、誰もが心の中に火種を持っている、炭があるということです。一見やる気のない人、マイナス思考の人は、たくさんいます。火なんかつくはずがない と思うような人もいます。何度火をつけても、なかなかつかない人もいます。それでも、心の奥に情熱の火種、炭があるのを信じられますか? それが大前提です。

 次に、自分の心に火をつけることです。

 火をつけるかどうか。それはあなたの自由です。火をつけるのも自由、火をつけないのも自由。その選択は あなたにかかっています。その際、自分の心に火がつかない理由を、他人のせい、環境のせいにしないでください。

 自分の心に火をつけたら、その火を今度はていねいに一人ひとりに広げていくことです。情熱を持って、夢や理想を語り、具体的な計画を示し、それを実践レベルに落とし込み、ミーティングや目標管理、重点行動シートなどで、日々フォローすることです。

 最後は、持続する強い念いが実現するということです。

 念いは実現します。強い持続的な念いは実現するのです。一時的に念いが強くなることはあります。火が燃えることもあります。これを本当に持続させることができるかどうか、それがカギです。

参考

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