人に気持ちよく動いてもらう「伝え方」の磨き方

上手な伝え方によって相手を動かす

「伝えずに人を動かす」方法とは

 まず、接客中の伝え方について、世界中のVIPと接する機会のあるキャビンアテンダント(CA)に学びましょう。ANA(全日空)のVIP担当には、代々受け継がれている「魔法の伝え方」があるそうです。

 元ANA・CAマネージャーの加藤アカネ氏は、著書の中でこう述べています。

 「普通の人は、正論を言って、相手を動かす。うまい人は、それとなく伝え、動かす。超一流は、伝えずに動かし、しかもこちらを好きになってもらう」

 例えば、飛行機の機内で、お客様が隣の座席の上に手荷物を置いていたとします。あなた(CA)が「手荷物は前の座席の下にお入れください」と注意すると、「手荷物の中身は精密機械だから、横には倒せない」と言われたとしたら、どうしますか。

 若き日の加藤氏は、「安全運航のため、脱出経路の妨げになるものは、すべてなくして離陸しなければならない」という「ルール」を伝えていたといいます。乗客はしぶしぶ前の座席の下に入れましたが、後日クレームの手紙が届きました。

 では、どのようにアプローチすればよかったのでしょうか。

 それは、「お客様、手荷物の収納で、何かお困りですか?」と、まずは相手の気持ちに寄り添い、「理由」を聞くことでした。相手の問題を一緒に解決する「伴走者」になるわけです。乗客が荷物を横の座席に置いている理由を聞いた後、前方や後方にある空間に収納する、手荷物を預かるなど、別の選択肢を提示します。

 つまり、「ルールですから従って下さい」と、こちらの都合や正論を押しつけるのではなく、相手と同じ気持ちになって お手伝いする姿勢を示せば、相手を動かすことができたのです。

 

まずは「自分が知らないことを知る」

 次は、プレゼンや会議などの場で、分かりやすく伝える方法について、ジャーナリストの池上彰氏に学びましょう。

 NHK「週刊こどもニュース」などで、子供にも分かるように、ニュース解説してきた池上氏。彼が主張するのは、「自分が分かっていないと、人に正確に、分かりやすく伝えることは不可能」ということです。

 伝える力を高めるには、まずは自分自身が深く理解することが不可欠です。「素朴な疑問」や「へぇー」と思うようなおもしろいことを探すことが、深く理解する第一歩になるといいます。

 また、池上氏は、自身が編み出した「分かりやすい説明の仕方」として、以下の5つを挙げています。

 (1) 難しい言葉を分かりやすくかみ砕く

 (2) 身近な例えに置き換える

 (3) 抽象的な概念を図式化する

 (4)「分ける」ことは「分かる」こと

 (5) バラバラの知識をつなぎ合わせる

 (4)は、情報の中から必要な要素を取り出し、それを的確に分け、適切な順番に並び換えて伝えることが、「分かる」につながるという意味です。

 (5)は、自分がこれまで持っているバラバラの知識が、頭の中で一つの絵や論理にまとまるように説明するという意味だと言います。

 「分かりやすく伝える」ということは奥が深く、「言うは易く、行うは難し」です。まずは「自分が分からないところ」を素直に謙虚に見つめることから始めることが重要でしょう。

 

しっかりした理念を持つ

 「お客様に組織の価値を伝える」方法について、セブンイレブンを一から築き上げたカリスマ経営者・鈴木敏文氏から学びましょう。

 鈴木氏は、セブン&アイ・ホールディングス社長だった頃、新しいものを生み出すだけでなく、その価値をお客様に伝えるコミュニケーションが非常に重要だと考えていました。しかし、当時のセブングループのPR手法は統一感がなく、単発で終わっており、「ブランドイメージが確立できていない」という問題意識を持っていたといいます。

 鈴木氏は、2009年、アートディレクターの佐藤可士和氏と対談したことをきっかけに、佐藤氏にセブングループのデザインのトータルプロデュースを依頼しました。佐藤氏は、「伝わらないのは、存在しないのと同じ」とよく言っており、鈴木氏の考えに近かったからです。

 セブンブランドのロゴやパッケージのデザインがバラバラだったため、2010年から1年がかりでデザインの統一を行いました。鈴木氏は、佐藤氏の次の言葉にとても共感したといいます。「ブランドデザインは、根底に流れるフィロソフィ(哲学)がないとできません」

 ブランディングとは、ブランドの存在価値を明確化し、伝えること。お客様もロゴやデザインが統一されていることで、売り手のメッセージを感じ取ることができます。

 鈴木氏は、「自分たちのフィロソフィがしっかりしていれば、表面的な伝え方を超えたところで、お客様とのコミュニケーションを結ぶことができる」と述べています。

 組織として最も大切なのは、組織としての理念を固めることであり、それを浸透させることである という意味です。確固とした理念がなければ、その組織の存在価値が分からず、伝えたいメッセージも伝わらないのです。

 このように、「伝え方」といっても、場面によってさまざまな方法があります。一流の伝え方に学び、それぞれの技を体得していけば、より良いコミュニケーションにつながるはずです。

参考

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