自分や組織の力を見極める

   対機説法シリーズ 人生の羅針盤 第111回

何度も失敗しながら体験的に学んでいく

 「自分の能力を見切る」というのは難しいことです。

 失敗しないと、人は自分の能力の限界が分かりません。しかも、一度失敗したぐらいでは懲りず、二度、三度と失敗を繰り返して、やっと、「これが自分の限界なのかな」と思うのです。

 失敗する前に分かる人は、賢すぎて、人間とは思えないほどです。たいていの人は、失敗でもしないかぎり、自分の能力の限界は分からないのです。

 また、組織に関しても、会社の方針、あるいは社是、社訓を見て、「これで行けば、この会社は十年でつぶれる」というようなことは、なかなか分かるものではありません。

 松下幸之助など、神のような大経営者が、五年前や十年前にできた会社の経営を見たら、「これはおかしい」と、すぐに分かるのでしょうが、同じようなところを走っている人には、それが分からないのです。

 下手なコンサルタントに聞いても、正しいやり方とは反対のことを言われ、そのとおりにやって会社がつぶれたりします。それほど、見識というものは得がたいものなのです。

 見識を得るためには、何度も失敗しながら、体験的に学んでいかなくてはなりません。

 

ときには体験主義は効かないことがある

 見識を得るための方法として、もう一つ、「知識として学んでいく」という方法もあります。

 自分一代で会社をつくり発展させた人は、どちらかというと、体験主義的に物事を考えることが多いようです。自分の経験を智慧に変え、それに基づいて判断をして、「これで間違いはない」と考えるのです。

 しかし、会社が大きくなったときや外部環境が急変したときには、体験主義は効かないことがあります。

 たとえば、「BSE(狂牛病)が発生する」ということは、予想外の出来事です。しかし、牛肉を扱う会社は、それによって、牛肉が手に入りにくくなったり、牛肉を食べる人が減ったりして、打撃を受けることになります。

 こういう新たな問題には体験主義がほとんど効きません。自分が過去に体験してきたことでは突破不能なのです。

 したがって、普段から国際情勢や最新の科学に関する情報を得ておかなくてはなりません。そして、何か問題が生じたときには、「この問題が当社の商売に波及したならば、どう対応するか」ということを、何カ月も前に考えて、事前に手を打つ必要があります。

 その意味では、自分が「強み」として持っている知識のほかに、これまで自分が知識を持っていなかった領域でも知識を持たなくてはいけないのです。

 国内の小さな企業であっても、国際的な出来事の波風を受けることがあるので、経営者は、国際情勢や外国の問題についても一生懸命に勉強し、見識を広げなくてはなりません。

 また、自分よりも進んだ人たちについて勉強することも大事です。偉大な経営者など、昔の人たちの考え方を学ぶのは当然のことです。

 自分の体験だけから学ぶことには限界があります。新たな知識を求めて勉強しつづけ、視野を広げて情報量を増やすことが必要です。これを避けてはいけません。

 

これまでのやり方を捨てていく

 経営者のなかには、「これまでのやり方に間違いはない」と言って、新しいやり方を否定する人も多いのですが、こういう体験型の人の場合は、事業を大きくしないことが大事です。「老舗を守る」というようなスタイルで規模を確定すれば、それでもやっていけるのですが、拡張欲を持ったら崩壊します。

 規模を拡張したければ、そのための知識や能力を自分で持つか、あるいは、そういう知識や能力を持った人を採用して、幹部や側近にしなくてはいけません。そうでないかぎり、必ずつぶれます。

 ただ、自分にない知識や能力を持っている人と一緒に仕事をするのは、なかなか難しいことであって、ケンカになる場合もよくあります。

 自分にないものを持っている人と仲よくやっていき、組織をまとめ上げるには、かなりの度量が要ります。度量があれば、ある程度はやれます。しかし、相手の言うことに聴く耳を持たないと、やがてケンカになり、優秀な人を使いこなせなくなって、結局は無駄になるのです。

 「自分の能力は、ここまで」と見たならば、その範囲内で経営するのもよいでしょうが、それでも、「もっと拡張したい」と思うときには、知識を増やすなど、自分自身の能力アップのために努力し、また、自分にないものを持っている人を補わなければなりません。そして、過去の成功体験を忘れ、これまでのやり方を捨てていかなくてはならないのです。

 基本的にはイノベーションのレベルの問題です。「どこまでイノベーションできるか。どこまで脱皮して変わっていけるか」ということも、能力の一つなのです。

参考

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