伝達力の強化

「伝えたいこと」と「伝えるべきこと」の違いを理解する

1 相手とのギャップを理解する
 営業に限ったことではないが、人に何かを伝えようとするとき、気をつけなければならないのは、「自分が伝えたいこと」と「相手が知りたいこと」には、多くの場合ギャップがあるということです。

 とある例でいうと、営業担当者は、新商品の特徴であるパッケージの工夫について熱心に伝えようとしましたが、仕入れ担当者が知りたかったのは、その商品が店に利益をもたらすかどうかでした。営業担当者はこのギャップに気づかずに「自分が伝えたいこと」ばかりを話してしまったために、仕入れ担当者に興味を持ってもらえなかった。

2 「相手が知りたいこと」をきちんと考える
 相手に何かを伝える際の基本は、「相手が知りたいこと」に答えられるような情報を伝えるということにあります。 
 しかし、初対面の相手に対するときなど、「相手が知りたいこと」が何なのか分からないこともあります。このような場合には、相手の立場であれば一般的に興味を抱くであろう事項を考えます。例えば、小売店の仕入れ担当者であれば、「商品の売れ行き」「価格などの取引条件」は気にするであろうと考えられます。 
 また、相手の立場や伝える内容にかかわらず、多くの人が気にするであろう事項の組み合わせを自分なりのパターンとしてまとめておき、相手の情報がないときに使用するのもよいでしょう。
 例えば、「メリット」「デメリット」といったことは多くの人が気にする事項といえます。ただし、これらはあくまで「相手が知りたいこと」が特定できないときの手段です。一般的に、興味があるであろう情報を伝えて相手の反応を見ながら、その人が実際にどういった点に興味を持っているかを確認しながら修正していくことが重要です。そして、「相手が知りたいこと」が分かれば、それに答える情報をまとめることで、より効果的に物事を伝えられるようになります。

 

伝えるべき内容を整理する

1 まずは方針を明確にする
 まず すべきことは、「何のために誰に何を伝えるのか」ということを事前に明確にしておくことです。これは、相手に何かを伝えるに当たっての方針といえるものです。

(1)何のために 
 人に何かを伝えるときには、何のために伝えるかという目的を明確にしておく必要があります。これは、目的によって伝えるべき内容が変わってくることがあるからです。 
 営業担当者の目的が「商品の特徴を知ってもらう」ことであれば、パッケージの工夫について熱心に説明するのもよいかもしれません。しかし、営業担当者の目的は商品を知ってもらうだけではなく、小売店で商品を取り扱ってもらうことにあります。それならば、仕入れ担当者が商品の購入を決定する際にどのようなポイントを重視しているかを把握し、まずはそのポイントに絞って説明を行ったほうが購入にいたる可能性が高いのは明白でしょう。逆に、パッケージの工夫については、仕入れ担当者には詳細な説明をする必要はないかもしれません。

(2)誰に 
 誰に伝えるかが明確でなければ、「相手が知りたいこと」が何かも分かりません。同じ商品を案内する場合でも、購買決定に当たって価格を重視する仕入れ担当者もいれば、商品の機能(ここでは食べやすさ)を重視する仕入れ担当者もいます。ほかにも、メーカーによる販売支援の有無、陳列のしやすさなど、人によって重視するポイントは違います。また、一般消費者に商品の説明をする場合であれば、仕入れ担当者に案内するのとは全く別の視点が必要になるでしょう。 
 このように、伝えるべき内容を決定する上で、誰に伝えるかをできるだけ明確にしておくことが重要です。

(3)何を 
 (1)、(2)を踏まえた上で、伝えるべきポイントを明確にします。 
 商品の小売店への導入を目的に、価格を重視する仕入れ担当者に案内をするのであれば、価格などの取引条件を中心に説明を組み立てることになるでしょう。当たり前のことのようですが、あえて明確に言葉にしておくことで、より強く意識することができ、気がつくと内容が「自分が伝えたいこと、伝えやすいこと」になっていた、ということを防ぐことができます。「何のために誰に何を伝えるのか」という方針は、できるだけ具体的に考えておく必要があります。そうでなければ、方針があいまいになってしまい、ギャップが解消できない可能性があります。例えば、「営業のために小売店の仕入れ担当者に商品の特徴を伝える」では、具体的なことは何も分かりません。これでは営業担当者は、結局パッケージの工夫について説明をして帰ることになるでしょう。そうではなく、「○○スーパーに商品を導入してもらうために、価格を重視する担当の△△さんに、価格をはじめとした取引条件の優位性を中心に商品の説明をする」とすると、方針が明確になります。

 

2 具体的に何を伝えるか
 「何のために誰に何を伝えるのか」という方針が定まったら、それに沿って具体的に伝えるべき内容を考えます。
 ここで大事なのが、相手の立場になって考えること、つまり、「相手の知りたいこと」は何かを考えるということです。 
 伝えるべき内容を考える際は、以下のようなステップで進めていきます。
(1)自分の目的を、相手の立場で問いにする
(2)「相手が知りたいこと」を問いの形で挙げる
(3)問いに対する答え(=伝えるべきこと)を考える
(4)答えを支える根拠となる情報をそろえる 
 なお、これらは図にしながら進めていくことで、自分が伝えようとしている内容が方針からずれていないか、伝えるべきことにモレがないかといったことが確認しやすくなります。

(1)自分の目的を、相手の立場で問いにする 
 効果的に物事を伝えるためには、相手の立場で考えることが重要です。そこで、まずは自分の意見を相手の立場で検討するつもりで問いを立てます。自分が「商品を取り扱ってもらいたい」と考えているのならば、相手の立場に立った問いは「この商品を取り扱うべきか」となるでしょう。

(2)「相手が知りたいこと」を問いの形で挙げる 
 (1)で問いを立てたら、次に、その問いについて是か非か判断するために どういった点が気になるかを考えます。この「気になる点」が「相手が知りたいこと」です。 
 「相手が知りたいこと」は、例えば「取引条件」などのように単語で表すのではなく、「利益はとれるか」など、具体的な問いの形で考えるとよいでしょう。
 問いの形にすることで、より相手の立場を意識して考えることができます。

(3)問いに対する答え(=伝えるべきこと)を考える 
 具体的な問いができたら、その問いに対する答えを考えます。この問いに対する答えが「相手に伝えるべきこと」です。

(4)答えを支える根拠となる情報をそろえる 
 (3)の答えは、「なんとなくそう思う」などというものでは意味がありません。説得力を持たせるためにも、答えは「なぜそう言えるのか」というしっかりとした根拠で支えられている必要があります。 


3 全体の見直し
 (2)で導き出した「相手に伝えるべきこと」に妥当性があるかどうかを確認するために、(3)の答えが(2)の問いだけでなく、(1)の問いに答えられる内容になっているかを確認します。
 (2)の問いは(1)の問いをより細かなレベルに落とし込んだものなので、(2)の問いに正しく答えられれば、(1)の問いに答えることにもつながるはずです。もしも、答えが(1)の問いに答えられる内容でない場合には、その答えは本来の目的達成にはつながらない、つまり、「伝えるべきこと」ではないといえます。

 内容を確認する際には、以下のような手順で行います。
 まず、(1)の問いに対する回答を想定します(今回であれば、「取り扱うべきである」)。その後、その回答と(3)の答えを見比べて、上から下に対して「なぜ?」(下の情報が上の情報の理由になっているか)、下から上に対して「だから?」(下の情報から上の情報を導くことができるか)との問いかけが成り立つかどうかで確認します。 
 なお、この「なぜ?」「だから?」による確認は、(3)の答えだけでなく、(4)の情報が(3)の根拠として適切かどうかを確認する際にも使うことができます。上下の情報で相互に「なぜ?」「だから?」が無理なく成り立てば、その答えは正しいものであるといえるでしょう。
 上下で「なぜ?」「だから?」が成り立たない、つながりがおかしいなどと感じるとしたら、その情報は答えになっていないということですから、見直す必要があります。 
 なお、通常、上の情報一つに対して、下の情報は複数出てきます。複数ある下の情報のそれぞれについて、上の情報と「なぜ?」「だから?」が成り立つかを確認するようにしましょう。

 多くのビジネスパーソンは、どのように新商品を案内するべきか、すぐに思い浮かべることができるでしょう。これは、新商品を案内するときの「パターン」を持っているからです。ビジネスパーソンとして経験を積むと、「こういう説明をすれば提案が通りやすい」といったパターンが分かってきます。これは効率的に業務を進めるためにとても大事なことです。しかし、そのパターンを使うことに慣れてしまい、誰に対しても深く考えずに同じパターンを使ってしまうことがあります。「新商品の案内であればこの情報を伝える」「企画のプレゼンであればこの情報を伝える」と、誰に対しても同じ案内をするということでは、相手のことを考えた対応とはいえません。
 重要なのは、そこで「伝えるべきことは本当にそれでいいのか」を一度立ち止まって考えているかということです。その場合、まず自分の頭の中にある「伝えるべき内容」を図に描き起こし、伝える相手のことを思い浮かべながら、「伝えるべきことは本当にそれでよいのか」を確認するようにします。
 なお、慣れてくれば図示しなくとも考えられるようになりますが、確認する習慣をつけるという意味でも、最初は図に描き起こしたほうがよいでしょう。改めて確認した結果、やはり伝えるべき内容は変わらない、ということもあるでしょう。結論が変わらないのであれば、この考えるという行為は無駄なことのように思えるかもしれません。しかし、重要なのは、結論がどう変わったかではなく、きちんと相手に合わせて考えることができたか否かです。この「相手に合わせて考える」という 1ステップを入れるかどうかで、ビジネスパーソンとしての“伝える力”に大きな差が出るでしょう。

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