組織の活性化に欠かせないコミュニケーション能力

コミュニケーション能力は経営の生命線

 コミュニケーション活性化のために、どこから手をつければよいかわからないという人もいます。また、コミュニケーションはたんなる手段であり、技術向上や販売力向上などに比べて改善の優先順位が低いと認識されていることもあります。経営において、コミュニケーション不足に起因する問題が数多く生じます。「社長の言いたいことが伝わらない」「上司の指示が伝わらない」「部門リーダーが部門全体を把握できていない」など さまざまです。コミュニケーションは自然に改善できるものではありません。原因を究明し、改善しない限り今後も問題が発生することは確実です。各社員は、コミュニケーションを通じて自分の行動を決定したり、部下に指示を与えたりしています。
 組織の活力が会社の業績に大きな影響を与えることはいうまでもありません。「最近社員に元気がない」「会社の雰囲気が暗い」と感じた場合は危険信号です。言い尽くされた言葉ですが、企業は「ヒト」です。その「ヒト」の活性化がなくては、単なる集団でしかありません。全社員が結束して共通の目的に向かっていくためには、コミュニケーションの活性化(組織力強化)は経営上の生命線ともいえます。
 コミュニケーションは、会社の目標達成のための単なる手段ではなく、組織力強化を決定づける経営の本質にかかわる問題なのです。経営者であれば、コミュニケーションの重要性は誰しもが感じているはずです。しかし、実際に、「自社に不足しているコミュニケーションとは何か」、「コミュニケーション活性化のためにどうすればよいのか」、の問題意識を強くもっている人は少ないようです。   

 コミュニケーションとは、「空気」のように捉えどころのないものであり、活性化のためにどこから手をつければよいかわからないという人もいます。また、コミュニケーションは、単なる手段であり、技術向上や販売力向上などに比べて改善の優先順位が低いと認識されていることもあります。

 

自社のコミュニケーションを活性化するためのポイント

1 コミュニケーションは経営の生命線

 経営においては、コミュニケーション不足に起因する問題が数多く生じます。「社長の言いたいことが伝わらない」「上司の指示が伝わらない」「管理者が部門全休を把握できていない」などさまざまです。また、問題として表面化していなくても、「コミュニケーション不足で創造的なアイデアが生まれにくい」といった機会損失も起こっているでしょう。そして、このような状況は、今回たまたま起こったわけではなく、以前から起こるべくして起こっています。コミュニケーションは、放っておいても自然と改善することはありません。原因を改善しない限り、今後も問題が発生することは確実です。会社では、さまざまな組織が複雑に入り組んでおり、そのなかで、次のような縦横無尽なコミュニケーションが求められます。

 ・社長と全社員のコミュニケーション

 ・管理職同士のコミュニケーション

 ・組織としての部門間のコミュニケーション

 ・上司と部下のコミュニケーション

 ・一般社員同士のコミュニケーション

 ・パート・アルバイト社員とのコミュニケーション

 ・顧客とのコミュニケーション

 ・仕入先とのコミュニケーション 

 

 社員たちは、コミュニケーションを通じて自分の行動を決定したり、部下に指示を与えたりしています。全社員が結束して共通の目的に向かっていくためには、コミュニケーションの活性化は経営上の生命線ともいえます。

コミュニケーションは、会社の目標達成のための単なる手段ではなく、企業力を決定づける経営の本質にかかわる問題として認識する必要があるのです。

 

2 コミュニケーションの3つの視点

 企業におけるコミュニケーションの活性度は、「量」「質」「迅速さ」の3つの視点で考えることができます。

 第一は「量」についてです。

 これは、社内で いわゆる「報・連・相」などの業務上のやりとりや、社員同士の日常会話などが十分にあるかどうかということです。「社内全体での会話が極端に少ない」あるいは「一般社員同士はよく話すが上下間の風通しが良くない」といった場合は要注意です。

 第二は「質」についてです。

 いかに活発なやりとりがなされていたとしても、「上司の指示がうまく伝わらない」「社内での共通用語のニュアンスが伝わらない」という場合は、質に問題があることになります。

 第三は「迅速さ」についてです。

いかに正確な情報も迅速さを欠いていては価値が半減します。

 コミュニケーションの迅速さを高めるためには、組織形態や指揮命令系統といった仕組みの改善も不可欠ですが、社員一人ひとりに情報伝達の迅速さの重要性を理解させることが大切です。
     

コミュニケーション強化のポイント

 少人数の職場ほど、多忙でなかなかコミュニケーションがとれないといったケースも少なくありません。組織の活性化には、コミュニケーションの方法とその生産性や効率性を高める工夫が大事です。その方法には、ミーティングや日報の活用、気軽にコミュニケーションがとれるオフィスレイアウトなどがあります。
 最も大事なことは、「なぜコミュニケーションをとるのか」といった目的を明確にすることです。やみくもに時間と場所を確保しても、内容のあるコミュニケーションでなければ意味がありません。目的を明確にし、結果として従業員の意識や行動が改善されることが大切です。

1 定例ミーティング

 定例ミーティングは、各人の役割の再認識や目標に対する進捗度合いをチェックし、意見交換や指示を出す・受ける場です。

 目標管理を実際に行う際には定例ミーティングは不可欠です。

ミーティングの効率性と生産性を高めるコツは、

 (1)他人の話は最後まで聞き、正しく理解する

 (2)周りくどい表現ではなく、率直に指示を出したり、意見交換する

 (3)ミーティングで決定した事項は全面的に協力する

などです。

2 日報を活用

 コミュニケーション・ツールとして日報を活用することも有効です。

 部下の日報をチェックし、関心の高さを示すことが人を動かすコツです。日報をベースとした対話を行い、部下の意識・行動改善を図り、営業マン同士で日報を共有することも、お互いに刺激しあったり、意見交換ができるなど有効と言えます。

 組織が日報を管理して、お客様情報として共有化することも大事です。

 

社内のコミュニケーション

 少人数の職場ほど、多忙でなかなかコミュニケーションがとれないといったケースも少なくありません。組織の活性化には、コミュニケーションの方法とその生産性や効率性を高める工夫が大事です。

良好なコミュニケーションの状態

 コミュニケーションが良い状態の第一条件は、意思決定や指示・指導、報告・連絡・相談、談話やあいさつ などの場面によって、「フォーマル」か「インフォーマル」といったコミュニケーション形式をうまく使い分けていることです。

 第二条件は、その形式ごとに、「口頭」または「文書」といったコミュニケーション形態を、それぞれのメリット・デメリットを考慮しながらうまく使い分けていることです。
 口頭によるコミュニケーション、文書によるコミュニケーションが内部でほとんど行われていないケースは、組織として機能していない状態です。逆に、内部コミュニケーションが多すぎることは、会議や面談、稟議書や通知、会話や電話などが頻繁に行われている状態で、内部コミュニケーションに忙殺されて対外的な活動が疎かになります。
 フォーマルに偏りすぎたコミュニケーションは、上司と部下といった縦のコミュニケーションばかりで、同僚や仲間としての信頼関係が弱い状態です。何気ない会話や相談にのったりするなどして人間関係を深め、お互いに仕事をしやすい職場づくりや雰囲気づくりを心がけます。インフォーマルなコミュニケーションに偏りすぎると、形式的なコミュニケーションがあまり行われていない状態になり、組織としては仲良しクラブ的になってしまう。
 口頭でのコミュニケーションに偏りすぎると、記録に残らないなど、管理体制が弱い状態です。口頭のコミュニケーションでも重要な事項は記録に留めます。口頭で済むコミュニケーションと記録に残しておきたい場合とをバランスよく使い分けることが大事です。
 逆に、文書によるコミュニケーションに偏りすぎている場合は、口頭に比べて文書にする方が手間と時間がかかることから、効率が悪いと言えます。意思や指示がリアルタイムで伝わらないなどのデメリットもあるので、口頭のコミュニケーションも活用しましょう。

挨拶はコミュニケーションの第一歩

 元気に、明るく挨拶をされて、気分を害する人はいません。挨拶をするということは、「相手に心を開き、よい人間関係を築きたい」という意思表示だからです。明るく元気な挨拶は職場に活気を与え、良好な人間関係を築くための第一歩となります。社内、社外を問わず、積極的に挨拶を行っていきましょう。

 

コミュニケーションの基本は「質問

 ビジネスパーソンは、社外においては顧客や他企業と、社内においては上司や部下と常にコミュニケーションをとる機会があります。従って、ビジネスパーソンにとって、コミュニケーション力は、最も重要かつ基本となるスキルの一つであるといえるでしょう。

一般的に、コミュニケーションにおいて重要なスキルとしては、論理的思考やプレゼンテーション能力などが挙げられます。ビジネス上のさまざまな判断は、常に論理的思考に基づいて行われなくてはなりません。

 また、その判断を第三者に効果的に伝えるためには、高いプレゼンテーション能力が必要となります。このため、論理的思考やプレゼンテーション能力は、ビジネスパーソンのコミュニケーションにとって重要であるとされているのです。

 しかし、論理的思考やプレゼンテーション能力を発揮する前段階には、相手の意見を正しく理解するという過程があります。人は、それぞれ異なる文脈の形態や語い、会話のリズムなどを持っています。このため、時として、意見を発言する側と聞く側との間のコミュニケーションにギャップが生じてしまい、相手の意見を正確に理解することができない場合があります。
 また、発言される意見は、その人の思考の一部にすぎず、意見の背景には相手の思考が存在しています。このため、発言された意見が必ずしも相手の思考のすべてを正確に表しているとは限りません。従って、相手の意見に接する時、その意見は「理解(理解した)」部分と「未理解(理解できなかった)」部分に分かれます。そして、「未理解」の部分については、不明な点・疑問に思う点・確認したい点などが出てくることと考えられます。相手の意見を正確に理解することは、正確なコミュニケーションをとるための必須条件です。このため、もし「未理解」の部分が解決されないままであれば、たとえいかに優れた理論的思考やプレゼンテーション能力を持っていたとしても、正確なコミュニケーションをとることはできません。
 この「未理解」を解決し、正確なコミュニケーションを図ることを可能とするのが質問です。

 質問は、これらの「未理解」の部分を解消し、相手の意見のすべてを「理解完了」とすることを目的としています。すなわち、質問とは、相手の意見を正確に理解し、正確なコミュニケーションをとるための基本的な手段なのです。

 

質問の種類

 一般的に、質問には 5W1H といわれる「いつ・どこで・誰が・なにを・なぜ・どのように」という疑問詞が付き、これらは性質別に以下の2つに大別することができる。
「なに?」の質問(「いつ・どこで・だれが・なにを・どのように」が含まれる)
 「なに?」の質問は、客観的な物事の情報を問う質問です。このため、その事柄について正しい知識を持っていれば、誰が回答しても同じ答えが得られます。
 例としては、
 ・「今月の売り上げの前年同月比は何%ですか?」
などが挙げられます。

「なぜ?」の質問(「なぜ」が含まれる)
 「なぜ?」の質問は、物事の理由を問う質問です。このため、得られる答えは相手によって異なります。
 例としては、
 ・「なぜ今月の売り上げが減少したのでしょうか?」
などが挙げられます。

 「なに?」の質問と「なぜ?」の質問は、ビジネス上のコミュニケーションだけでなく、すべてのコミュニケーションにおいて用いられています。

この2つの質問は、本質的に異なる性質を持っています。一般的に、「なに?」の質問が具体的な情報を求めるものであるのに対して、「なぜ?」の質問は相手の判断を求めるものとなっています。コミュニケーションにおいては、客観的事実を問う「なに?」の質問と、主観的判断を問う「なぜ?」の質問は、どちらもともに重要です。このため、これらの2つの質問をTPOに応じて使い分けることが、正確なコミュニケーションをとるうえでの鍵となります。

 

質問の進め方

1 進め方の事例

 「A社のB営業所における売り上げが減少している」という条件の下、B営業所の○○所長に対する上司△△部長による質問の進め方を紹介します。

 まず、質問において、「なに?」の質問と「なぜ?」の質問のどちらを使用するかについて検討します。

 個々の状況にもよりますが、一般的には、最初に「なに?」の質問で具体的な情報を取り出し、判断材料が集まったところで、「なぜ?」の質問で問題の本質を探るという方法が多くとられるようです。相手の意見の背景にある具体的な情報は、意見を発言する側である相手の頭の中では既に前提条件となっています。しかし、意見を聞く側にはそれらの情報がないため、そのような前提条件が分かりません。そこで、その後のコミュニケーションを正確にとることができるように、相手の意見を形作っている頭の中の思考を明らかにして互いに共有することが必要であり、そのために具体的な「なに?」の質問をするのです。

 この例では、△△部長は○○所長に対して

 ・「営業所の売り上げが減少し始めたのはいつですか?」

 ・「競合他社のC社が新しく営業所を新設したのはどこですか?」

 ・「他社のうち、どの企業が当社と最も激しい競合状態にありますか?」

 ・「今月の売り上げは前年同月比で何%ですか?」

 ・「営業担当者は顧客に対してどのような販促活動を行っていますか?」

という質問を行いました。

 その結果、「売り上げの減少が始まったのは約6ヵ月前からである」「C社の営業所が、B営業所の担当エリア内に新設された」「当社と最も激しい競合状態にあるのはC社である」「今月の売り上げは前年同月比で85%である」「営業担当者は、すべての顧客に対して、カタログ配布・試供品提供など、精力的な販促活動を行っている」という答えが得られました。

 具体的な情報がそろったら、次に売り上げ減少の原因を探ります。

ただし、この時に、最初から「なぜ?」の質問を用いて、例えば「なぜ売り上げが減少したのでしょう?」という質問をしても、質問が曖昧であるため明確な答えは望めないでしょう。このため、現状をさらに詳しく把握するために、さらに「なに?」の質問を続けます。

 △△部長は○○所長に対して、

 ・「どの商品の売り上げが減少していますか?」

 ・「どのエリアの売り上げが減少していますか?」

 ・「どの営業担当者が担当している得意先の売り上げが減少していますか?」

という質問を行いました。

 その結果、「売り上げが落ちている商品は、定番商品である『商品X』である」「売り上げが減少しているエリアは、C社の営業所が新設されたエリアである」「売り上げ減少に営業担当者による差はみられない」という答えが得られた。

 細かい状況が分かってきた時点で、いよいよ「なぜ?」の質問で原因を探る。

 なお、「営業担当者による差はみられない」ので、この項目に関する質問は除外します。

 「なぜ?」の質問をすると、一般的に相手は何か一つの答えを探し出そうとしますが、最初から一つの答えを選ぶよりも、できるだけたくさんの答えを考え、それらについて取捨選択をするほうが、よりよい答えにつながります。このため、「なぜ?」の質問に対しては、答えを一つに絞らず、できるだけたくさん挙げてもらうことが重要です。

 △△部長は○○所長に対して

 ・「なぜ『商品X』の売り上げが落ちていると考えられますか?」

 ・「なぜそのエリアの商品の売り上げが落ちていると考えられますか?」

という質問を行い、それぞれについてできるだけ多くの答え(売り上げ減少の原因であると思われる要因)を挙げてもらいました。その結果、第一の質問に対しては、「他社のほうが価格が安い」「他社の販促が優れている」「『商品X』自体に訴求力がない」という答えが得られました。

 また、第二の質問に対しては、「C社の参入で自社のシェアが奪われている」「自社の営業担当のスキルに問題がある」「そのエリア内の顧客の需要が低下している」という答えが得られました。

 そして、最後にこれらの一つずつについて検証を進めます。

 第一の質問に対する答えを先に得た情報と照らし合わせた末、以下の理由により二つの答えが除外されることとなりました。

 ・「他社の販促が優れている」 → 自社でも販促に十分力を入れているため

 ・「『商品X』に訴求力がない」→ほかのエリアでは従来通りの売れ行きであるため
 また、第2の質問に対する答えを先に得た情報と照らし合わせた末、以下の理由により2つの答えが除外されることとなりました。

 ・「自社の営業担当のスキルに問題がある」 → 営業担当者による差はないため

 ・「そのエリア内の顧客の需要が低下している」 → ほかの商品は従来通りの売れ行きであるため

 その結果、原因として最も確度が高いと思われるものとして、
 ・「他社のほうが価格が安い」

 ・「C社の参入で自社のシェアが奪われている」

の二つの答えが残り、これらを併せて考えると、「新規に当該エリアに参入してきたC社が、『商品X』と競合する商品を販売し、そのために自社のシェアが奪われている」という仮説がみえてきました。

 この仮説に基づき、B営業所の営業担当者が顧客について調査したところ、やはりC社が『商品X』と同等の性能をもつ『商品Y』を大幅な値引き価格で販売して、当該エリアの顧客に営業攻勢をかけており、このため、B営業所のシェアが奪われていることが判明しました。しかし、B営業所は現時点で既に『商品X』について可能な限りの値引きを行っているため、これ以上の値引きでC社に対抗することは得策ではありません。このため、B営業所は、「メンテナンス体制の充実や商品情報の提供など、『値引き以外のサービスの充実』を図り、加えて他エリアにおいて新規開拓に注力することで、C社に奪われたシェアを取り戻す」という対策を決定しました。対策を立てるうえで仮説を形成するだけの情報は、もともと○○所長が把握していたものです。○○所長の意見に断片的に表れていたこれらの情報を△△部長が質問を通じて引き出して共有化し、問題を抽出して一緒に論理的に思考したことにより、具体的な対策を立てることができたのです。

 ある問題に対して、最初からそのすべてについて解決に取り組むよりも、それらを個々の要因に分解してそれぞれについて考えるほうが、対策が立てやすくなります。このため、質問を進めるうえでは、「なに?」の質問と「なぜ?」の質問を使い分けることにより、相手の意見から細かい情報を取り出し、問題をブレークダウンすることが重要となります。

2 「してはいけない」質問

 質問は相手の意見を正確に理解するためのものです。しかし、問うことにより、逆に相手の意見を正しく理解することを妨げてしまう質問があります。これらの質問は、いわば「してはいけない質問」であるといえるでしょう。

 以下では、「してはいけない質問」について述べます。

攻撃的な質問

 感情に基づく個人攻撃的な質問です。

 例としては、

 ・「一体、この責任をどう取るつもりなのですか?」などが挙げられます。

 このような質問は、質問の形式をとってはいるものの、実質的には質問ではなく単に相手に感情をぶつけているにすぎません。このような質問に対しては、質問を受けた側は委縮したり反抗心を抱いてしまいます。これではコミュニケーションを図ることはできません。質問は、相手の人格に対してするのではなく、相手の意見に対してするものです。このため、感情を排し、常に冷静かつ論理的に行わなくてはなりません。

あいまいな質問

 内容が具体的でなく、あいまいな質問です。

 例としては、

・「売り上げが減少していますが、営業担当者はちゃんとやっているのですか?」

などが挙げられます。

 「ちゃんと」「しっかりと」などは、一般の会話においてよく聞かれますが、このような言葉は極めてあいまいです。このため、質問を受けた側は、自分が何について問われているのかが分からず、具体的な思考を行うことができません。その結果、このような具体性を欠く質問からは、「確かにいま一つです」「あと一歩なのですが」といった あいまい、かつ、漠然とした答えしか得られません。

 「なに?」の質問、「なぜ?」の質問ともに、質問は具体的な事柄についてしなくてはなりません。

主観的な質問

 質問者の主観に基づいた質問です。

 例としては、

 ・「売り上げ減少は営業担当者の責任だと思われますが、現在、営業担当者に対してどのような商品知識研修を行っていますか?」

などが挙げられます。

 この質問は、「売り上げの減少の原因は、営業担当者(の商品知識不足)にある」という主観に基づいています。このような場合、例えば、売り上げ減少の原因が「他社の値引き攻勢による自社需要の低下」などであったとしても、質問を受けた側は営業担当者(の商品知識不足)に原因があると思い込んでしまい、それに対する対策を考えてしまうことになります。これでは、売り上げ減少という問題の本質は解決されません。

 質問は、主観を排し、常に客観的な視点に基づいて行わなくてはなりません。

問題の本質に関係がない質問

 問題の内部にある本質をすり替えてしまう質問です。

 例としては、

 ・「売り上げ減少にはいろいろな要因が考えられることがよく分かりました。そこで、今度発売される新商品のキャンペーンを展開することによって、売り上げ増加を図ろうと思います。この場合、B営業所ではどのような展開をすべきでしょうか?」

などが挙げられます。

 この場合、「売り上げ減少には いろいろな要因がある」と認識されていながら、いつの間にか議論が「新商品キャンペーンによる売り上げ増加」にすり替えられています。

 もちろん、キャンペーンを行うことによって、売り上げに回復が見込まれるかもしれませんが、主観的な質問と同様、問題の本質が追究されないままになってしまう危険性があります。

 なお、「してはいけない質問」ではないものの、以下の二つの質問は、相手の答えに制限を加えるものであるため、相手の自由な発想を阻害してしまう可能性があります。

 従って、これらの質問をする際には十分な注意が必要となります。

限定的な質問

 相手の答えを限定する質問です。

 例としては、

 ・「売り上げ減少の原因について、一つだけ挙げてください」

などが挙げられます。

選択形式の質問

 幾つかの答えの中から相手に一つを選択させる質問です。

 例としては、

 ・「売り上げ減少に対する対策として、『値引率のアップ』『営業担当者に対する商品知識研修』『販促カタログの作成』が考えられますが、どれが最も効果的ですか?」

などが挙げられます。

 ただし、これまでの過程であらゆる要因について十分な検討がなされ、その結果、具体的な事柄についての確認として相手の答えを限定する質問がなされるのであれば問題はありません。

 

3 質問の留意点

(1)意見を論理的に聞く

 一般的に、人間は頭の中で思考を組み立て、その筋道に沿って相手に分かりやすいように意見を伝えようとします。しかし、会話を通じて相手の意見や態度に即応して自身の意見が変化していき、その結果、意見の整合性が崩れてしまう場合も多々あります。このような場合、意見を聞く側も、相手につられて自分の意見を流されてしまいがちです。互いがそのような状況に陥ると、論理的な質問はできなくなってしまいます。このため、論理的な質問をするためには、相手の意見を論理的に聞き、自分の意見と対比させながら、「何を質問するのか」を常に明確にしておくことが必要となります。

 また、相手が発言をしている途中で質問を差しはさむと、その質問に答えるために相手の思考がいったん中断することとなります。このようなことが度々重なると、相手の思考がこま切れとなり、意見のポイントとなる部分にズレが生じてしまう可能性があります。即時に確認をしなくてはならない問題などを除いては、相手が意見を発言している最中に質問することは基本的には避けたほうがよいでしょう。

 特に、日本語では文末に動詞や否定語が置かれます。このため、発言を最後まで聞かないと内容を正しく理解できない場合があるので注意が必要です。

(2)マナーを守る

質問をする際に守るべきマナーがある。例えば、「なぜそのように考えるのですか?」「何が原因ですか?」「ほかにはどのような要因が挙げられますか?」、などと矢継ぎ早に質問を繰り返すと、その質問が論理的であればあるほど、相手は問い詰められているような気持ちになり、心のガードが堅くなってしまいます。そうすると、それ以上相手から情報を引き出すことが困難になり、正確なコミュニケーションがとれなくなってしまいます。このため、質問をする際には、相手の答えを論理的かつ真摯に受け止め、相手に自分の論理を押し付けることがないよう配慮しなくてはなりません。

 また、いくら論理的かつ具体的であっても、顧客に対して、「~という考え方は改めるべきではありませんか?」といった質問をすると、顧客との間に感情的な対立を起こしてしまうことになります。このような場合は、「~というような考え方もできるのではないでしょうか?」といった肯定的な提案の形式をとった質問が有効です。

 質問とは、相手の意見を正確に理解し、正確なコミュニケーションをとるための基本的な手段です。質問は論理的かつ感情を排して行われなくてはなりません。

 しかし、コミュニケーションの基本は人間と人間との「相互対話」です。これは、会話のうえでは言葉のキャッチボールであり、このキャッチボールをうまく行うためには、自分が相手のボールを正確に受け止めると同時に、相手が受け取りやすいボールを投げてあげなくてはなりません。質問は、相手の意見の本質に迫るものであるため、時として相手にとってはデッドボールとなる危険性を持ち合わせています。このため、質問をする際には、正確であることに加えて、「相手に自分の論理を押し付ける」といったことのないよう、マナーを守って円滑なコミュニケーションをとることが重要であることを、常に念頭に置く必要があるといえるでしょう。

 

なぜ、活性化が進まないのか

(1)社員の改革への意識が低い

 社内コミュニケーションについて、友人同士のコミュニケーションと同様に、「親しくなれば勝手に良くなる」としてあまり重要性を感じていない社員は多いものです。コミュニケーションは、意図的に活性化していくものではなく、後から自然とついてくるものだという認識が強いのです。専門知識や技能の習得に対して、積極的な社員であっても、自分のコミュニケーション改善については なかなか関心が向きません。

 また、実際にコミュニケーション不足を感じることがあっても、それは、自分にではなく相手に問題があると考えてしまうこともあります。そして、自身のコミュニケーションに問題がある人ほど、そのような感覚をもちやすい傾向があるため、改善が進みにくいのです。

(2)具体的な目標や施策が乏しい

 コミュニケーション活性化のためには、「どのような状態をめざすのか」という目標と「そのために何をするのか」という施策を具体的に設定する必要があります。

たとえば、「部門間のコミュニケーション」を考える際には、「それぞれの部門長同士がどのような関係を構築すべきか」「そのためにどのような会議をもつべきか」「日頃からどのような情報交流を行うか」、といったレベルまで踏みこんだ計画づくりが求められます。

(3)ベースとなる感覚のズレが大きい

 人間は、相手に何か伝えるときは伝えたいこと(メッセージ)をいったん言葉に置き換え、相手に伝えます。受け取る側は、その言葉からメッセージをくみ取ります。伝える側は、「伝える側の感覚」でメッセージを言葉に置き換え、受け取る側は「受け取る側の感覚」で言葉からメッセージを推察しています。それぞれの感覚のズレが大きいほど、伝える側のメッセージは相手に理解されにくくなります。

 会社には、年齢、役職、経験、資質などにさまざまな違いを抱えた人が集まっており、コミュニケーションのべ-スとなる感覚はバラバラです。同じ問題に遭遇しても、経験豊富な人とそうでない人では感じ方がまったく異なります。経験豊富だから動じないということもあるでしょうし、問題の種類によっては経験豊富だからこそ事態の深刻さがわかるということもあるでしょう。ひとつの事象について、社員は異なったそれぞれの感覚で捉えるために、その事象がどのような意味をもつのかという共通認識が生まれにくいのです。

コミュニケーション活性化を考える際には、このような感覚のズレを埋めていくための施策も重要です。

(4)情報ツール導入によるマイナス効果が生じている

 本来であれば、コミュニケーション促進の目的で導入されているメールやグループウエアなどが問題をややこしくしていることがあります。

メールは大変便利なツールですが、それに頼りすぎるのも考えものです。隣の席に座っている人に対して「口で言うより気軽だから」とメールで済ますのは おかしなことです。そもそも、限られた文字情報のなかで相手に自分の真意を伝えるのはなかなか大変なことです。口頭で伝えられるのであれば、それに越したことはないでしょう。また、高度なグループウエアを導入して情報の共有化を図っているというケースでは、そのシステム設計や運用が完壁に行われていれば、絶大な効果をもたらすでしょう。しかし、それが不十分であれば、報告者は「きちんと情報をアップした」、閲覧側は「そんな情報は見当たらない」といった、新たなギャップを生じさせる可能性があります。

 各種情報ツールは導入当初の目的に応じて正しく使われているか、システムは正常に作動しているか、運用方法の改善点はないかなど、常に注意しておく必要があります。

 

スキルと仕組み

 コミュニケーション活性化のためには、「社員一人ひとりのスキル向上」と「組織としての仕組み改善」が欠かせません。コミュニケーションスキルを向上させることは、会社全体として必要であるだけではなく、社員個人の能力開発においても不可欠で重要なテーマです。安定的なコミュニケーション実現のためには、個々の社員のコミュニケーションのスキルアップだけではなく、コミュニケーションが組織の隅々まで確実に行き渡るような仕組みづくりも必要です。

ルールづくり

 長期的・安定的なコミュニケーション実現のためには、個々の社員のコミュニケーションスキルアップだけではなく、コミュニケーションが組織の隅々まで確実に行き渡るような仕組みづくりも必要です。

 ・朝礼、会議などトップが定期的に全社員に語りかける場がある

 ・基本動作(挨拶、身だしなみ、整理整頓など)が徹底されている

・報・連・相(報告・連絡・相談)のルールがあり、必要なフォーマットなどが用意されている

 ・会議体系が整理され目的に応じて適切な会議が運営されている

 ・社員のコミュニケーションスキル向上のための研修を定期的に行っている

 ・メールやグループウエアなどのツールが適切に運用されている

 ・一般社員がトップに対して直接に話ができる機会を設けている

コミュニケーション能力(スキル)

 コミュニケーションスキルは、日常的なコミュニケーションを活性化するために、社員一人ひとりが保有しておくべき能力であり、コミュニケーションは社内に限らず、営業場面において欠かせないスキルです。

 

必要なスキルとして

聞く(聴く)力

 ・相手の話を真摯に最後まで聞くことができる

 ・相手の発言の目的(伝えたい、共感してほしい、意見が聞きたいなど)を理解できる

 ・相手が自分の考えを整理できるような相槌が打てる

 ・相手の言いたいことだけではなくその背景や理由も理解できる

 ・自分の必要な情報を聞き出すことができる

 ・自分がどれだけ理解できているかを相手に示し、質問することができる

 ・話の内容だけではなく、話し方、表情などから情報を補足できる

 ・複数の話し手の言いたいことの違いを整理して理解できる

話す力

 ・自分が伝えたい情報(事実・考えなど)を相手に正確に伝えることができる

 ・相手を納得させ、行動に影響を与えることができる

 ・相手が聞きやすい、聞きたいと思う話し方ができる

 ・場の雰囲気に合わせた話し方ができる

 ・要点や全体の構成を整理して話すことができる

 ・想定外の質問に対しても臨機応変に回答できる

 ・会社の方針を自分の言葉でかみ砕いて部下に説明できる

 ・複数の聞き手に対して全体の理解度を確かめながら話すことができる

 社内に安定したコミュニケーションを実現するためには、個々の社員のスキルアップだけでなく、組織全体が習慣として定着するための仕組みづくりが必要です。

 

社員個々のスキルアップ

1 十分な動機づけをする

 コミュニケーションスキルを向上させることは、会社全体として必要であるだけではなく、社員個人の能力開発においても不可欠で、重要なテーマであることを理解させます。

 人事制度(職能資格制度など)と連動させて、職能等級ごとに必要なコミュニケーションスキルを具体的に示しておくことなども有効です。

2 目標を明確にして課題を与える

 自分のコミュニケーションスキルについては、自身では正確に把握しづらいものです。上司は、部下一人ひとりの日常的なコミュニケーションを観察し、改善すべきポイントを指摘します。その際に大切なのは、できるだけ「行動レベル」の目標・課題を設定することです。

 たとえば、上司の指示について理解が浅いままに動いてしまう部下に対しては、「じっくりと考えろ」といった指示だけではなく、そのために具体的に必要な課題を行動レベルまで指示します。この場合は、指示を受けた際に指示受け確認を徹底させ、「納期」「目的」「指示内容」「期待成果」などをシートに記入させるといった課題が考えられます。

3 部陣のコミュニケーションスキルを向上させる

 幹部陣の多くは経営者との付き合いも古く、対経営者に限定したコミュニケーションはほぼ問題なく行われているでしょう。しかし、幹部陣は、経営者とだけではなく、全社のコミュニケーションの要となるべき存在であり、社内でもっとも高度なコミュニケーションスキルを身につけておく必要があります。そのためには、経営者は自ら幹部陣のコミュニケーションスキル向上に向けた教育を行うと同時に、コーチングによるコミュニケーション技法を学ばせることなども必要になります。

 また、幹部陣が自分のコミュニケーションの仕方が適切であるかをセルフチェックし、経営者がそれに対してアドバイスを与える機会を定期的にもちましょう。

 

組織としてのスキルアップの仕組み

1 仕組みがなければ長続きしない

 長期的・安定的なコミュニケーション実現のためには、個々の社員のコミュニケーション・スキルアップだけではなく、コミュニケーションが組織の隅々まで確実に行き渡るような仕組みがなければ長続きできません。

 たとえば、以下の仕組みが必要と考えられます。

共通認識構築の仕組み

 ・トップがコミュニケーション活性化の重要性をはっきりと示している

 ・経営理念、行動規範などについて共通認識ができている

 ・顧客に対してどのような姿勢で接するかについての共通認識がある

 ・それぞれの部門が果たすべき役割についての共通認識がある

 ・役職ごとに果たすべきコミュニケーション上の役割が明確になっている

 ・頻繁に使われる社内用語(専門用語、業界用語)に関して、用語の統一ができており、全員がその定義について共通認識がある

 ・自社のコミュニケーションの問題点と課題について、トップと幹部の間で共通認識がある

 

制度・ルール構築の仕組み

 ・朝礼などトップが定期的に全社員に語りかける場がある

 ・基本的な挨拶(「おはようございます」「お疲れ様です」など)が徹底されている

 ・報・連・相(報告・連絡・相談)のルールがあり、必要なフォーマットなどが用意されている

 ・会議体系が整理され目的に応じて適切な会議が運営されている

 ・社員のコミュニケーションスキル向上のための研修を定期的に行っている

 ・メールやグループウエアなどのツールが適切に運用されている

 ・一般社員がトップに対して直接に話ができる機会を設けている

 

2 仕組み向上のためのステップ

(1)プロジェクトチームの組成

 トップが中心となって、社内コミュニケーション活性化に向けたプロジェクトチームをつくります。幹部陣のなかからプロジェクトリーダーを選び、社内各部門の中堅クラス、一般社員クラスもメンバーに組み込んで全社横断的なチームを組成します。トップは、プロジェクトの重要性を全社員に向けて発信することが大切です。

(2)あるべき姿の明確化

 どのような状態であれば自社としてコミュニケーションが活性化していると言えるのか、めざすべき姿を明らかにします。その際には、一般論としてではなく、自社の業種業態や現状の問題点なども踏まえた形で検討します。たとえば、製造部門と販売部門の連携に問題がある場合は、どのようなコミュニケーションが実現すれば全社一丸となれるのか、といった視点で考えます。プロジェクトメンバーを中心に全社から意見を吸い上げることが必要です。

(3)問題点の明確化

 あるべき姿と現状を比較して、コミュニケーション活性化のための問題点を抽出します。

 「共通認識の構築」や「制度・ルールづくり」が現状でどの程度できているかを確認することなどで、優先順位の高い問題点を明確化します。

(4)課題の設定

 問題解決のために取り組むべき具体的な過大を設定します。

 たとえば、「報連相を徹底する」という課題であれば、具体的にいつまでにどのような報連相を実現するのかについて、スケジュールや満たすべき要件を明らかにします。全社レベル、部門レベル、個人レベルなど、さまざまな階層での課題設定が必要です。

(5)課題の実施と評価

 実際に課題解決に向けた施策を実施します。

 そして、各施策が確実に実行されているか、その結果として自社のコミュニケーションは あるべき姿に確実に近づいているかどうかについて確認して、必要に新たな施策を講じていきます。

 会社にとってコミュニケーションの活性化は最優先課題です。コミュニケーションの活性は、ES(従業員満足)そしてCS(顧客満足)につながり、結果的に営業力の強化となって表れます。

 コミュニケーション不足は、モチベーションの低下、チームワークの乱れ、お客様からのクレームの誘発など、自社にとって最悪の事態を招きかねません。人材が『人罪』になるのか、『人財』となるかは、組織の風通し(コミュニケーション)の良否によって決まるのです。

 

 『コミュニケーションで最も大切なことは、相手の言わない本音の部分を聞くことである。』(P.F.ドラッカー)

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