論理的思考

 論理的思考とは、通常は自分の頭の中で体系的・合理的に物事を考えることを指します。

 もちろん、これ自体は重要なことですが、経営者にとっての論理的思考とは、それを相手に正確に理解させるプロセスも含めて捉える必要があります。

 経営者は、部下や取引先など自分とは異なる さまざまな立場、経験、世代の人々と接して、自分の考えを伝えたり、相手との合意形成を行うことが求められます。自分ではその考えに絶対的な自信があったとしても、相手にわかってもらうためには、客観的な根拠を的確にまとめることや順序立てて説明することなどが必要です。この点が不十分であると、自社の経営幹部陣といくら話しても、「自分の真意が伝わらない」「議論がかみ合わない」ということになりがちです。

 部下の理解力不足を指摘することはできますが、その際にも部下のどのような理解力がどのように不足しているのかをわからせる必要があります。

 また、取引先に対して、自分がトップ営業で相手の会社にとって最適な提案を行っているのに、相手から十分な理解が得られずに最終的な契約に至らないということもあるでしょう。

 社長は、トップとして、自社の経営幹部や取引先などに対して、優れた考えや提案を用意するだけではなく、それを相手に確実にわからせることが求められるのです。

 

論理的に考えるために

1 筋道を立てて考える

 論理的に考えるとは、物事を「筋道を立てて考える」ということです。

たとえば、売上不振が続いている場合には、すぐに「我が社の最重要課題は営業力の強化である」と結論づけたくなります。

 営業力の強化がすべての企業にとって永遠のテーマであることは間違いありません。しかし、それが現時点での「最重要テーマ」と結論づけるためには、そもそもの「経営戦略」や「商品力」など、その他の要因もすべて検討することが必要になります。

 つまり、自分が主張したいことについて、その判断理由や判断の根拠となる事実はどうかを必ず確認しなければならないということです。

 経営者に求められる判断は難解なものばかりであり、最終的には自分の経験や勘に頼らざるを得ない場合もあります。しかし、だからこそ、可能な範囲では できるだけ正確な情報を入手し、論理的に考える必要があります。そのためには、「ここぞ」というときだけではなく、普段から情報収集や情報分析を心掛けておくことが大切です。

 自社業績や業界情報に敏感であるのは当然として、たとえまったくの異業種であっても、急成長企業の記事を読んだときには、「成長要因は何か」「どうやって成長要因を獲得したか」などについて常にアンテナを張り、自分の考えを整理する習慣を身につけるのです。

 

2 三角ロジックを徹底する

 論理的思考の基本としてあげられるのが「三角ロジック」です。

 「主張」「データ」「論拠」の3つの整合性を保つことです。

三角ロジックは論理的思考の基本

(1)主張

 「こうである」「こうすべきだ」という結論、意見、推論
 例)新商品開発に早急に着手すべきだ

(2)データ

 主張を裏付ける客観的な数値や事例
 例)既存商品の売上が減少している 市場規模も減少している

(3)論拠

 データと主張を結びつける理由
 例)新たな事業の柱を育てないと経営が成り立たない

 データや論拠などの現状説明ばかりで明確な主張がなければ、「結局どうすればよいのか」ということになり、主張ばかりでデータや論拠が伴っていなければ、「主張が飛躍している」ということになります。日常業務の判断から経営戦略の策定まで、考えるあらゆる場面で、三角ロジックを徹底させることが大切です。

3 問題解決プロセスを理解する

 問題を解決するためには、その間題が起きている本当の理由を探り、その解決のための課題を緻密に設定していかなければなりません。

 ここでいう問題とは、「本来あるべき姿とのギャップ」のことであり、課題とは「そのギャップを解消するために何をすればよいか」ということです。

 たとえば、「売上不振」は問題ですが、単純にそれを裏返しただけの「売上拡大」は課題ではありません。

 問題を解決するために、具体的に どうすべきか という具体策である「販促活動の改善」などが課題になります。

 問題解決を考える際には、頭の中で問題と課題を使い分ける必要があります。

4 「メタ思考」を意識する

 複雑なことを考えていると、頭の中で堂々巡りが始まり、そもそも何のためにそのことを考え始めたのかわからなくなることがあります。

 問題と課穎が混同することも多いでしょう。深い思考をするときには、「自分は なぜ今そのことを考えているのか」、「そもそもの目的は何だったのか」といったことを常に確認しておく必要があります。そのためには、思考している自分とは別の自分を登場させ、その思考が目的に沿ったものかどうかを客観的にチェックする習慣を身につけることが効果的です。

 このように、自分の思考プロセスを違う視点から客観的にチェックしていくことを「メタ思考」といいます。メタ思考によって、考えていることが目的に沿っているかどうかだけではなく、前述の問題解決プロセスのなかで、自分が今どの段階のプロセスにいるのかもチェックすることが大切です。「本筋の思考を深めていく自分」と「その思考の仕方が正しいかどうかをチェックする自分」を使い分けていきましょう。

5 ロジックツリーで分解する

 たとえば、スーパーマーケットを経営している会社で「3ヵ月連続で売上額が前年比を割り込んでおり、このまま放っておくとさらに売上が減少しそうだ」という事態が発生したとします。

 このような場合に、単純に販売責任者に対して「もっと努力しろ」というだけでは、事態は好転しません。

 まずは、「なぜそのような事態に陥ったか」という原因を探らなければなりません。

 しかし、「商品の品質が悪化したのか」「販売力が落ちているのか」など、考えられる原因は無数にあります。これらを手当たり次第にチェックしていくのは あまりに非効率です。また、想定できないイレギュラーなことが原因である可能性もあります。このようなときには、問題をさまざまな視点で段階的に分解していくことが有効です。

 時間がかかりそうに思えますが、この方法が最も効率的に高い確率で本当の原因を特定することができます。

 「売上が減少している」を分解する最初の段階として、「客数減少」か「客単価減少」のどちらか(あるいは両方)に分けることができます。調べた結果、客単価は減少しておらず、客数が減っているとします。これをもう一段階分解すると、「新規顧客の減少」か「既存顧客の減少」のどちらか(あるいは両方)となります。さらに調べてみると、新規顧客獲得のペースは変わらないが、既存顧客がどんどん減少しているとします。このあたりまで分解してみると、徐々に本当の原因が想像できるようになります。たとえば、「常連客向けのポイント制度が陳腐化した」「商品陳列に変化がなく、常連客が飽きてきた」などが原因として考えられます。

 もし新規客も既存客も両方とも減っているとしたら、「強力な競合店が出現した」などの原因も考慮しなければなりません。

こうやって、一見解決が難しそうにみえる問題でも、順序立てて丁寧に分解していくと、本当の原因にたどり着きやすくなります。

 このように、因果関係を漏れなく分解した図を「ロジックツリー」といいます。

 ここであげた分解の仕方以外にも、「平日売上」と「土日売上」などの曜日別、「昼間売上」と「夜間売上」などの時間帯別などの分解もできるでしょう。

 そして、ロジックツリーで本当の原因が特定できたら、たとえば、「既存顧客フォローのための継続キャンペーンを行う」などの効果的な対策が考えられます。

 また、スーパーマーケットのような小売店以外の業態でも、この考え方は応用できます。

たとえば、法人向けの継続的なビジネスで、既存の取引先が多数離反しているようなケースでは、顧客のフォロー体制について、「訪問頻度」や「訪問時の面談内容の濃さ」などについて細かく分解していくと、どのような点に原因があるかにたどり着きやすくなるでしょう。

 自社の業態に適したロジックツリーを設計しましょう。

 ここで大事なことは、問題が起こってから慌てて対策を考えるのではなく、あらかじめ起こりそうな問題について想定しておき、問題の原因を突き止めるためのデータをとっておくことです。

 たとえば、スーパーマーケットの例でいえば、新規顧客と既存顧客がどのくらいいるのかというデータがなければ、それ以上深く分解できず、やむなくすべての顧客向けの施策を打ち出すことしかできません。

 また、法人向けビジネスの例でいうと、訪問した際の報告書が継続的に作成されていることが条件となります。

 

わかりやすく伝えるために

1 聞き手のことを理解する

 人間は相手に何か伝えるときは伝えたいこと(メッセージ)をいったん言葉に置き換え、相手に伝えます。

 受け取る側は、その言葉からメッセージをくみ取ります。伝える側は「伝える側の感覚」でメッセージを言葉に置き換え、受け取る側は「受け取る側の感覚」で言葉からメッセージを推察しています。それぞれの感覚のズレが大きいほど、伝える側のメッセージは相手に理解されにくくなります。したがって、「何を伝えるか」という内容そのものと同じくらいに、「どのような人に対して」伝えようとしているのか、メッセージの受け手のことを理解することが重要です。

 部下に自分の考えを伝える場合も同様です。経営幹部のなかには、創業以来 社長と苦楽を共にしている人もいるでしょう。そんな彼らにはメッセージが比較的伝わりやすい土台ができているといえますが、それでも社長と比較すると、「経験」「知識」「考え方」「能力」「使命感」など、さまざまな点で大きな差があるのが普通です。

 その差を意識して、経営者自身の頭の中では「言うまでもない」と思えるようなことも補足しながら話すというスタンスが必要になります。

2 要点や全体構成を整理しておく

 わかりやすく話をするためには、あらかじめ話す要点を整理しておく必要があります。

 自分の話したいように話すのではなく、少しでも相手が理解しやすいような工夫をすることが大切です。

たとえば、冒頭で、「これから話すことのポイントは3つあります。第1は・・・」と話し始めることで、聞き手は最初に「今日は3つのことが話される」ということがわかります。また、「第1は・・・」で話されていることを聞いているときに、「今聞いていることは、残りの第2、第3と並列の関係がある」ということを意識することができます。

 また、聞き手の理解を妨げるような余分な情報は伝えるべきではありません。たとえば、「自分はA案、B案、C案のなかからA案を選んだ」ということを伝えるときには、A案を選んだ理由の補足として、B案、C案について簡単に触れることは効果的ですが、その話が長すぎると聞き手は混乱してしまいます。余計な情報は思い切って省くことが大切です。

3 相手の理解度を確認しながら話す

 話をしている最中に相手の顔つきや目線などを追うことで、ある程度聞き手の理解度を把握することができます。

 それを確実にするためには、話をいったん止めて、聞き手にここまで話したことへの感想や意見を聞くことも有効です。

 理解度が不十分であれば、補足したり、話し方を工夫します。

 できるだけ双方向に話を進めることが大切です。一般的に、自分の思い入れが強い主張になればなるほど、一方的に話し続けてしまうものです。聞き手不在のまま話を進めないように注意しましょう。

4 できるだけ具体的に定量化して伝える

 わかりやすく伝えるためには、自分の主張をできるだけ具体的に定量化して伝えることが大切です。

 さらに、業務指示を与える場合には、「いつまでに」という期限も明示しなければなりません。

 この部分が不足していると、相手は経営者がいつまでにどの程度のレベルを期待しているのかが理解できません。

指示を定量化して伝える

 ×新規顧客開拓に注力せよ
 ○今後1ヵ月間で見込み客を10件開拓せよ(「見込み客」といえる定義も必要)

 ×新商品開発に注力せよ
 ○今後1年間で新商品候補を5件作れ(「新商品候補」といえる定義も必要)

 ×残業時間を削減せよ
 ○今後半年間で残業時間を50%削減せよ
 
 このように、数値や期限、言葉の定義も含めてできるだけ具体的に伝えることで、社長がいつまでに何をしてほしいという指示が正確に伝わりやすくなります。

5 自分の思考プロセスも含めて伝える

 相手に伝える際に、結論だけではなく、自分自身で考えた際の思考プロセスも含めて説明することも重要です。

 たとえば、部下に対して「今後1ヵ月問で見込み客を10件開拓せよ」という指示を出す際に、指示内容だけでは、部下は「社長が無茶なことを言っている」「社長の思い込みではないか」という受け取り方をしかねません。

 指示を伝える際には、「なぜそうすべきという結論に至ったのか」「そうすべきと思った根拠は何か」、といった自分自身の思考プロセスも説明します。

 三角ロジックやロジックツリーの考え方なども含めて説明すると効果的です。

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