マネジメントの時代からリーダーシップの時代へ

 著しい成果を上げ、カリスマ的な経営者と呼ばれる経営者の多くは、人間のヒューリスティックな側面、そして直感に訴えかけることができる人物である。

 優れた経営者が知性と論理で優れた事業計画を示し、それを高いマネジメント能力で推進できるのは不思議ではない。だが、そのうえで現代の経営者に求められているのは、組織全体の方向性を一つにし、その構成員の自発的な行動と自由な発想を育むリーダーシップ能力であろう。

 経営戦略の前史の時代、フレデリック・テイラーの時代は、労働者が従事する作業の内容も労働者自身の社会的な生活の質も限られた時代であった。マネジメントという概念が広く広まった黎明期には、個々人の持つ世界観の多義性を深く考慮する必要性は限られていると理解されていた。

 しかし、テイラーが『科学的管理法)』(1911年)を出版してから110年以上が経つ。既に世界はピーター F. ドラッカーが「ポスト資本主義社会」と呼んだ時代に移り変わっている。その時代とは、最も重要な生産要素が知識となり、サービス労働者が付加価値創造の中核となる世界である。専門知識を持つ個人が それらを結合させ、協働し合うことが付加価値創造活動の中心となりつつあるのである。

 こうした時代においては、階層的組織構造の中で上から下に意思決定を伝達するような旧来型のマネジメントではなく、構成員一人ひとりの専門性や人間性を最大限に発揮できるよう、チーム全体の方向性を示し、関係者の利害を調整し、関係者の意欲を高めることができるリーダーシップが重要となる。

 もちろん、組織の計画性、組織化、管理といったマネジメントの側面を無視して、リーダーシップのみを語ることはできない。リーダーシップ研究の大家であるジョン P. コッターによれば、マネジメントとリーダーシップは対比関係にあるという。

 今日、経営企画やマーケティング、そして、デザインや製品規格、研究開発や新規事業の創出など、現代の付加価値を創出する多くの経営機能では、効果的なマネジメントだけではなく、リーダーシップが求められる時代になった。

 人間は必ずしも合理的に行動しているとはいえない。そして、そうした行動は、より不確実性の高い環境で発生しやすい。知識生産とサービス産業が付加価値生産のかなりの部分を占めるようになった現在、組織のミッションやビジョンを提示し、優れた物語性を与えることができるリーダーは、まさに組織の目標達成のカギを握っている。

 今後、さらに情報処理技術やセンサリング技術、そして、ロボティクスが進化していけば、急速に進化しつつある深層学習や強化学習の知見と合わせて、情報処理のための中間管理職は不要になるだろう。これまでマネジメントのために必要であった数多くの枠組みが不要となり、人間はより創造的な作業にその活動の焦点を移していくのである。

 こうした劇的な技術変化によって大量の職が失われることが、破滅的な政治的危機や国際紛争につながらないのであれば、情報を合理的に処理して判断を下す作業の多くを人間ではない存在が担うようになる。そして、人間はより高次元の枠組みを考案することや、予期し得ない状況に対応すること、よりそれぞれの個性に根ざした活動から付加価値を社会に提供する存在となるはずです。

 そのような世界では、いっそうリーダーシップが重要となる。それは人間の人間的な側面を理解し、それを導き、束ね、前に進める存在である。その存在が経営戦略を実行に落とし込み、成果につなげていくのでしよう。

 実行と成果につながる経営戦略の立案には、人間とその集団である組織の理解は欠かせない。経営戦略を効果的に実行するためには、合理的に行動する人間を一つの前提としながらも、ときに非合理に見える判断や行動をとる人間の特性を最大限に活用した組織運営が必要なのです。

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