社長の強いリーダーシップ

 グローバル化の進展による競合相手の増加、強力な競合相手の出現による売り上げの落ち込み、環境問題への対応など、近年各企業を取り巻く経営環境は一昔前とは比べものにならないくらい厳しいものになっています。 
 現在は、高度成長を遂げていた時代(60年代)とは違い、「モノは作れば売れる」時代ではありません。
 社長は、同業他社との競争に打ち勝つため、他社との差異化をこれまで以上に推し進めていく必要性に迫られています。そのために、経営者は、まず自社の置かれた現状を冷静に分析し、それを反映させた経営目標や戦略を策定します。
 その後は、社長が社員を指揮・監督し、自社の経営目標や戦略を確実に実現させなければなりません。 
 そして、その際に求められるのが社長の強いリーダーシップです。 
 例えば、日産のカルロス・ゴーン社長は、最高執行責任者(CEO)であった1999年10月、当時業績不振にあえいでいた同社の再生を図るため、「日産リバイバルプラン(NRP)」をまとめ、すぐに実行に移しました。
 同プランでは、業績不振の原因を詳細に分析、その結果、「国内5工場の閉鎖」「約2万人の人員削減」「部品サプライヤーの削減」などの革新的施策を推し進め、同社の業績をよみがえらせることに成功しました。ただ、NRPの実施には、一部社員などから根強い反発があり、必ずしも全社員がNRPを支持していたわけではありませんでした。しかし、最終的には、ゴーン社長の強いリーダーシップが社員の意思をまとめ上げ、NRPの達成を1年前倒しで実現(2002年3月)することに成功しました。

 このほか、松下電器産業では、2000年に就任した中村邦夫社長(当時)が、早期退職者を募るなど2万人以上の人員削減を行ったほか、同社で長年続いていた事業部制を廃止し、意思決定の速い組織作りに注力しました。さらに、2004年には、松下電工の子会社化を推し進めるなど、強いリーダーシップを発揮しました。この結果、不振が続いていた同社の業績は、2006年3月期には営業利益約4000億円にまで達するなど、「V字回復」とも呼ばれる業績回復を達成しています。
 以上の例からも分かるように、企業が生き残りを図っていけるかどうかは、「トップ(社長)による強いリーダーシップの発揮にかかっている」と言っても過言ではないのです。

 

組織内における社長の役割

 組織内における社長の役割とは どのようなものであるかについてみていきます。
 組織内で社長が果たすべき役割は、一般的に以下の3つに大別できます。

1 目標の設定
 企業のトップ(社長)は、自らが統率している組織によって、何を実現しようとしているのかということを明確にしなければなりません。
 そのときに留意すべきことは、現状ではどう頑張っても不可能な目標を設定しないということです。
 社長のすべきことは、組織の構成員、つまり、社員が実現したいと思うような目標で、なおかつ努力すればつかみ取ることのできるような目標を設定し、それを社員に周知徹底させることです。 
 ただし、目標は「自社の利益のみを追求したもの」であってはなりません。
 過去には構造計算偽装問題など企業の不祥事が相次いで表面化した事件もあり、「企業の倫理」に関する消費者や株主の目は厳しいものとなっているからです。 
 このことから、目標は「自社の利益増にもつながり、かつそれが社会のためにも役立っている」、という観点から設定するのが理想的でしょう。

2 経営戦略の策定
 目標が決まったら、次にどのようにして その目標に近づいていくかを考えなければなりません。 
 現在の日本では、多くの業種において市場成長率が低いのにもかかわらず、外資やベンチャー企業などの参入によって競争環境は厳しいという最悪の状態にあります。
 このような時代において、「経営戦略の策定」は非常に重要な作業となります。経営戦略を不用意に策定してしまうと、場合によっては「企業の倒産」という事態に容易に陥ってしまうからです。 
 そうならないためにも、社長は社内の優秀な人間だけでなく、社外の人々(取引先や異業種の知人など)の意見にも真摯に耳を傾け、自社の経営戦略を練っていく必要があります。

3 経営資源の配分
 目標・戦略が決まったら、目標を実現するための社内体制作りを行います。
 社内にある経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を適切に配分することです。 
 例えば、「同業他社にはない新商品を開発・販売すること」を目標に据えた場合、社長はそれを実現するため、新たな部署の設置や社員の異動、場合によっては中途採用により商品開発の知識に秀でた人員を調達することになります。
 なお、社長は、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を配分する際、最も留意しなければならないのは「ヒト」の配分です。長期的視点に立った場合、価値や富を創り出す源泉は人的資源だからです。

 

社長に求められる基本的な能力

 経営者の役割を的確に果たすために、必要な経営者に求められる基本的な能力についてみていきます。

1 洞察力・観察力
 社長には将来を見通す「洞察力」が要求されます。
 自社を取り巻く環境の変化(新しい事業者の参入、さまざまなリスク、業務に関連する法規制の改正など)に絶えず注意を払い、これまでの自身の経験などから数ヵ月後、数年後の状況を的確に読み取らなければなりません。 
 また、自社の社員の性格や適性(得意分野、不得意分野)などを、社員の日ごろの行動を観察することにより読み取ることも必要です。

2 情報分析力
 ここ数年、インターネットなどの急速な発達により、我々はこれまで以上にさまざまな情報を容易に入手することが可能になりました。
 とはいえ、インターネット上には、それほど重要でない情報や正しくない情報も結構あるのが現状です。
 社長には、世の中に氾濫する情報に対して、「この情報はわが社にとって有益なものかもしれない。「もう少し詳しく調べてみよう」「この情報はいま一つ当てにできないし、わが社にとって関係ないものだ」などといった、「情報分析力」がこれまで以上に求められます。 
 また、部下から得られる報告(情報)についても、情報分析力を働かさなければなりません。
 特に、問題が発生した際の部下からの報告は、部下がパニックに陥っていることが多く、情報が正しく入手できないケースが往々にしてあります。
 その際は、まず、経営者が部下を落ち着かせ、事実関係の正しい把握に努めてから情報を分析していく必要があります。

3 論理的思考力
 社長が組織をリードしていくためには、自社の目標や戦略について、社員や株主に説得力を持って説明することが大切です。それが、ひいては社員のモチベーションの高揚や株主の企業への信頼増大へとつながるからです。 
 その際に必要となるのが、物事を筋道立てて考える「論理的思考力」です。論理的思考力を身につけていない社長は、自社の目標や戦略を説得力を持って説明できないため、社員や株主からの信頼を得るのは難しいでしょう。

4 意思決定力・行動力
 自社の目標や戦略を決定するまでに、社長はさまざまな情報を目にし、部下からの意見に耳を傾ける必要があります。
 ただ、最終的に決定された目標や戦略に責任を負うのは社長であることから、社長には強い「意思決定力」や「行動力」が求められます。
 意思決定を行う際に、社長が留意すべきことは、
 ・少数意見にも耳を傾ける
 ・一度決定したことを修正・撤回することを恐れない
ことです。
 人間は、ついつい多数意見に流されてしまう生きものですが、社長は常に多数意見に潜むデメリットを注視し、かつ、一見実現可能性の乏しいような少数意見に潜むメリットについても検証を行う必要があります。 
 また、時代の流れが急速に変化する現代社会において、「今日正しかったことが数ヵ月後にも正しい」という保証はどこにもありません。
 そのため、社長は、目標、戦略決定後も常に時代の流れを注視し、仮に誤りと気づいた決定事項については、早急に修正ないしは撤回しなければなりません。 
 一番怖いのは、自らの権威の失墜を恐れて、決定事項が時代遅れや誤りであるにもかかわらず放置しておくことです。

5 高い倫理観
 手段を選ばずに利益の追求のみを求める企業は、消費者からの厳しい評価を受けることになり、やがては淘汰されてしまいます。
 企業が社会的存在として認知されている以上、「倫理的価値を追及する」ということは今日の企業活動には欠かせない要素となっています。 
 社長は、高い倫理観を持って企業の目標や戦略を決定していかなければならないのです。

 

リーダーシップを発揮できる社長の資質

 いくら社長が素晴らしい目標を掲げていても、それに部下がついて来なければ話になりません。実際に目標に向かって仕事を行うのは、社長ではなく部下だからです。 
 強いリーダーシップを発揮できる社長の条件として、一番必要なものは、立派な人格を備えていることですが、それ以外にも以下の事項が挙げられます。

1 「夢」を詳細に語ることのできる人
 社長は、自らが掲げた企業の目標について詳細に説明できなければなりません。
 社員は社長の語る夢を詳細に聞くことにより、社長に対して共感を抱き、ひいてはそれが社員のモチベーションを高めることになるのです。 

 ただ単に「売上高を上げよう」とか、「新規取引先を開拓しよう」などといった漠然とした目標しか語らない社長は、社員の共感を得ることは難しく、真のリーダーシップを発揮するのは困難といえるでしょう。

2 自ら手本を示せる人
 中小企業など社員数の少ない企業においては、社長自ら業務経験の浅い社員に対して、業務の処理手順を目の前で示してやることは非常に有意義です。
 経験の少ない社員は、それを見ることにより、業務処理方法の習得がしやすくなるとともに、社長に対して尊敬の念を抱きやすくなります。
 逆に、自身が働かずに、口先だけで部下を使おうとする社長は、社員からの人望は得られないでしょう。そのため、企業の業績をアップさせることが困難なだけでなく、貴重な人材の流出につながりかねないのです。

3 部下にチャンスを与えることのできる人
 「部下(特に若い部下)にチャンスを与える」というのは、簡単なようでいて難しいものです。
 チャンスを与えられた部下は、その任務を遂行するため最大限の努力をするでしょうが、もし与えられた業務が部下にとってあまりにも荷が重すぎる場合、失敗して自信喪失に陥ってしまう危険性もあるからです。
 この辺りのさじ加減を正確に行うためには、社長が常日ごろから部下の言動を注視し、どの程度の業務までならこなせるかというのを把握しておくことが必要です。

4 部下に考えさせることのできる人
 ここでいう「部下に考えさせる」とは、経営上の問題が起こった際などに、社長のみで問題処理を行うのではなく、部下にも解決策を考えさせるということを意味しています。 
 よく会議などの場において、問題点は提起するものの、それを解決するための手段については語らない社員がいますが、それは決して好ましいことではありません。
 社長は、企業の将来的発展のため、部下に自主性を持たせ、「問題提起型」から「問題解決型」へと部下を導く必要があるのです。
 部下に考えさせ、判断を下させるのは、社長にとってはかなり勇気のいることですが、それを実行に移すことにより、部下の自主性を育んで「問題解決型」の人間へと導こうとしていると考えられます。
 また、その結果がうまくいった場合、部下にとっては大きな自信となり、なおかつ、社長との絆もより深いものへと発展していきます。

5 部下を褒めることのできる人
 「部下を褒める」というのも難しいことです。特に、現場経験を豊富に積んで社長になった人は、「自分ならこうするのに、なんで彼はあんなやり方をするのだろう」といった具合に、部下の悪い点はすぐ目について、怒る材料には事欠かないものの、良い点を見つけだして褒めるというのは容易ではないかもしれません。
 しかし、部下の多くは社長から褒められることによって、仕事に対するモチベーションを高めることができます。
 そして、次の仕事に対する意欲や経営者に対する信頼感がより一層高まっていくものです。 
 部下に対し強いリーダーシップを発揮するには、時として「部下を褒める」ことも大切な要素なのです。

6 部下や相手の話に耳を傾けることのできる人
 人は、自分に対する苦言や反論よりも、よいことのほうが素直に聞くことができるものです。
 会社の経営においても、部下や取引先などの意見が自分と反する場合などに聞く耳をもたずに、自分だけで進めて行くのでは、誰もついてこなくなるでしょう。
 時代の流れが急速に変化する現代社会において、「今日正しかったことが数ヵ月後にも正しい」という保証は全くありません。これは、社長が若かった頃に通用した手法が、現代では通用しないことがあるということを意味します。そのため、社長は「謙虚な姿勢も持つ」ことが必要です。
 定期的に部下や異業種で活躍している友人などの意見に対して耳を傾けるのは有意義なことでしょう。 
 社長は、それらの意見を聞くことにより、これまでの自分にはなかった発想を得ることができ、さらに、部下とのコミュニケーションを密にすることもできるのです。

7 問題が起こっても慌てない人
 社長には「謙虚な姿勢」が必要です。経営上の問題が起こった際には、慌てず泰然自若として問題処理に当たれる器を持っていることも必要です。
 部下は、そのような社長の姿勢を見ることにより、「頼れるリーダー」という印象を持つことになり、その結果、社長は部下に対しリーダーシップを発揮しやすくなるのです。 
 また、問題は放置せずに、すぐに部下への役割分担を決め、早急に処理させることが必要です。
 なお、その際に、部下に対し「問題処理に当たるのは君だけど、最終責任は私にある」との姿勢を明確にしておくことが大切です。
 これにより、部下は安心して問題処理に当たることができ、リーダーへの信頼感も増幅するのです。社長が強いリーダーシップを発揮するためには、以上のような資質を持ち合わせていることが必要です。
 もし、これらの中に自分には欠けていると思った要素がある場合、早急に是正していくことが必要でしょう。

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