部下への時間管理指導

時間管理の重要性

 時間管理の大切さは、新入社員のときからいわれることですが、新入社員など社会人経験の少ない頃には、時間管理の本当の大切さ、難しさを実感できる機会は意外と少ないものです。

 上司や周囲の人は、社会人経験の少ない人でも、就業時間内に無理なくこなせるように、業務量を少なくして、比較的簡単で定形的な業務を中心に担当させるなど配慮しています。
 また、社会人経験の少ない人の時間管理には、上司は常にきめ細かに指示しています。そのため、自分自身が時間管理に注意を払わなくても、問題が発生することはほとんどないのです。

 しかし、中堅社員になると、こうした状況は徐々に変わってきます。
 担当業務は自分で考えなければならないものが増え、次第に難易度が高まると同時に業務量も増加します。また、突発的な仕事も多くなってきます。

 上司も、「一人前なのだから」と、時間管理を本人に任せるようになってきます。そのため、中堅社員になるに従って、時間管理ができる人、できない人というのがはっきりしてくるようになります。
 時間管理が苦手な人の中には、書籍やセミナーなどで、時間管理に関するさまざまな考え方や手法を学び、実践している人もいるかもしれません。しかし、時間管理が苦手な人は、そうした手法以前の部分に問題があることも少なくないようです。

 

部下への時間管理指導

1 若手の育成は組織成長の要

 部下を育成するのは上司です。上司は、日々、部下と密に接しながらその成長を願って指導を続けています。しかし、上司の指示を一度で正確に理解し、正しい方法でビジネスを進め、決まった期日までに結果を出すことのできる部下はそう多くはありません。

 人材の育成は長期的な視点で取り組むものであり、すぐに結果が出るわけではありません。
 部下が新入社員でも、入社3~5年の若手社員でも、課長など管理職になっていても、上司の立場からみると、その成長度合いに満足できないのが実情かもしれません。

 上司は新入社員の段階では焦ってはいけません。よほどのことがない限り、人を評価するには短くとも1年間は必要でしょう。ここは気を長く持って育成する必要があります。
 一方、若手社員の育成はとても重要であることは言うまでもありません。年齢にして20歳代半ばから後半になりますが、ここで良質な教育を受けられないと、その後の成長が止まってしまうだけではなく、組織全体の戦力低下につながります。その若手社員はいずれ管理職になりますが、十分に仕事ができず、部下に対しても間違った考え方や仕事の進め方を教えてしまうことになるからです。

 しかし、社内の教育体制は今問題を抱えています。それは、中小企業の多くが場当たりで無計画な教育が横行していることです。その原因に教育担当者の人数と能力の不足が挙げられます。この問題を解決しなければ、社内教育制度の内製化は不可能です。

 人材育成は目的によって重視すべきポイントが異なります。例えば、足元の戦力強化を図るなら、管理職の研修を行うことになります。一方、中長期的な視点で組織の「世代交代」を見据えるならば、若手社員の教育に力を注がなければなりません。

 

2 部下には時間を決めて指示する
 部下に仕事の指示を出したのに、一向に手を付ける気配がないとイライラする上司は少なくないかもしれません。ただし、もし指示の中で「○時○分まで」という明確な時間を示していなかったのであれば、上司にも問題があります。部下に指示を出すときには、「明日中」ではなく、「明日の14時00分まで」と時間を決めなければなりません。
 それでも放っておくと、約束の時間になっても何も報告してこない部下がいます。そこで、上司のほうから尋ねてみると、「終わりそうにありません」と言ってきたりします。こうした状況になってしまうのは、「部下は悪い報告をしたがらない」「部下に時間の感覚が無い」からです。

(1)部下は悪い報告をしたがらない傾向がある
 悪い報告をしたくないのは人として当たり前の感覚であり、初めのうちはそれほど問題視する必要はないかもしれません。上司や周りの姿などを見たり、経験を積むうちに悪い報告こそ重要であることが理解できてくると、勇気を振り絞って報告するようになります。人並みの責任感があれば、これと同じ変化が部下にも起きるはずです。この場合、上司がすべきことは、叱りたい気持ちをぐっと抑え、冷静に次のことを諭さなければなりません。

 ビジネスにおいて、「結果として遅れてしまうこと」よりも、「事前に遅れると分かっていながら報告をしないこと」のほうがよほど悪いのです。これを数回繰り返していくうちに、部下の態度は改善されていくはずです。
 もし、改善されず、一向に悪い報告をしてこないようであれば、上司は次の対策を講じなければなりません。

・その部下に任せるのは、チームなど小さなユニットで完結する仕事にする
・上司のほうから進捗状況を確認する

(2)部下に時間の感覚がない
 「部下に時間の感覚がない(納期の重要性が分かっていない)」のは、ビジネスパーソンとして重大な問題ですが、これを正すことは容易ではありません。若手社員やそれ以上に勤続年数を重ねている部下が、こうした状態にある場合、それは当人だけの問題ではなく、それまでの直属の上司の指導がまずかったのかもしれません。
 「若手」と呼ばれているうちはまだよいのですが、時間感覚に乏しい社員が上司になると、対外的な仕事でミスを犯し、顧客や取引先との関係を悪化させてしまう恐れがあります。

 部下に時間感覚を身に付けてもらうためには、上司が根気強く、一つひとつの業務について「○日の○時○分まで」という納期を設定し続けることです。この指導を徹底することで、最初の1週間程度で部下は上司が本気で時間を重視していることに気付き、きちんと「○日の○時○分までにはできます」と報告するようになります。

 しかし、それで安心してしまい、上司がこの指導をやめてしまうと、あっという間に部下は元の状態に戻ってしまいます。個人差はありますが、1年程度は指導を続けないと、時間を重視する感覚は部下の中に浸透していかないものです。
 「1年は長い」と感じる上司がいるかもしれませんが、企業では人事異動によって上司と部下が定期的に変わることを忘れてはならない。自分の下に付いているときに、部下が「○日の○時○分までには完了します」と報告できるようになることは当たり前。肝心なのは、自分の下を離れ、たとえ時間にルーズな上司の部下になってもそれに流されずに「○日の○時○分までには完了します」と報告できる部下を育て上げることです。

(3)部下にはシンプルかつ手短に指示する
 指示はできるだけシンプルに出します。

 個人差はあるが、一度の指示で部下がヌケモレなく把握できるのは3つ程度です。丁寧に指導したいからといって、あれもこれも伝えようとすると、部下はかえって混乱し、上司が本当に伝えたいことが伝わらない。

 また、上司が部下に指示するときには、「基本的に・・・」「ケース・バイ・ケースだが・・・」などの言葉を使うのは必要最低限にするべきです。
 何も知らない部下は、基準となる考え方や数字を求めています。上司の仕事はそれを明確に伝えることです。その後に、必要に応じて「今伝えた考え方はケース・バイ・ケースであり、こうしたケースでは・・・」と補足するとよいでしょう。 

 こうした指示を心掛けるには、指示の内容⇒(そのような指示を出す)理由⇒補足(例外となるケースなど)、こうした指示を出すことで、部下は一番集中力の高い話の聞き始めで指示の内容を知ることができるので理解しやすくなります。

 なお、上司が「部下に自分の指示(話)を聞かせる」ときには、部下の時間を「消費」しているという側面があることも忘れてはならない。

 よく「○○さん、5分だけいいかな」などと部下を呼び止めて話を始める上司がいるが、ほとんどの場合は5分で終わりません。そればかりか、上司の思考が整理されておらず、出口が明らかになっていないままダラダラと話が続いたりして、部下が「結局、上司は何が言いたかったのだろう…」と消化不良で終わることもあります。

 時間感覚は部下の手本となる上司にこそ必要です。コミュニケーションを取りたいなど、特別な意図がある場合を除き、上司はシンプルかつ手短な指示を心掛けましょう。

(4)部下を社長と思って報告を聞く
 部下の報告を「主語と述語が入り乱れていて、時間軸もバラバラなので何を言っているのか分からない」と感じ、途中で話を遮ってしまう上司も少なくないでしょう。そうした上司は、社長が自分に話をしているシーンをイメージしてみてください。

 部下の報告は支離滅裂で理解できないことがありますが、社長の報告も壮大過ぎる面があったり、複数の事業部に関連する話であったりと、部下とは 違った意味でよく理解できないことがあります。
 ここで、上司は社長に対して、「社長、失礼ですが社長のお話の中で私にはよく理解できないところがあります。もう一度、説明していただけないでしょうか?」などと伝えるでしょう。そして、社長が話しているのだから重要なことに違いない。何とかして理解しなければならないと思い、さまざまな角度から考えてみたり、質問したりしながら、社長と認識を合わせようと努めることでしょう。この社長に対する上司の思いや行動こそが、部下の話を聞くときにも上司に求められる基本的な態度です。まず、部下に対して「君の報告は主語と述語が入り乱れているし、時間軸もバラバラなのでよく分からない」と伝えることが重要です。これを聞いた部下は自分の報告で改善すべき点を知ることができ、次から生かしてくれるでしょう。
 また、何とか部下の言っていることを理解しようと さまざまな角度から考えてみたり、質問することが大切です。この過程を省略して自分勝手な結論を導き出してしまう上司がいますが、上司が導き出した答えと部下が伝えたかったことに相違があることが珍しくありません。

 部下は現場の最前線にいます。そうした部下の報告は、場合によっては社長の報告よりも重要な内容であることを忘れないことです。

(5)部下の話は限定質問で絞り込む
 コーチングでは、「Yes」か「No」で答える「限定質問」よりも、相手が深く考えた上で答えを導き出す「拡大質問」を重視することが多くあります。

 部下育成においてコーチングは重要な手法ですが、常に実践できるわけではありません。

例えば、本日の14時00分まで完了するように部下に指示していた資料作成が、当日の11時00分になっても上がってこず、何ら報告もない状況で上司が考えるのは、「このタイミングで引き継がないと間に合わない。部下に任せた状態で資料作成が完了するのかしないのか」ということです。このときの上司に、「なぜ、資料の進捗状況について報告してこないんだい?」などと拡大質問をしている余裕はありません。聞きたいのは、「本日の14時00分までに資料作成が完了する見込みはあるのか、ないのか?」厳しいように感じるかもしれないが、これは上司にとっては非常に重要な質問です。ここで、部下が「完了する見込みがある」と答えたならば、「あとどれくらいで?」「一緒に現状を確認しようか?」とお互いに確認しながら資料作成を進めることができます。一方、部下が「見込みなし」と答えたならば、上司はすぐに資料作成のピンチヒッターとして活動しなければなりません。

 このような、部下の「Yes or No」で上司の次のアクションが大きく変わる状況では、初めに限定質問をして方向性を絞り込むことが先決です。
 なお、部下が資料作成に慣れていなかったり、混乱していたりすると、「見込みあり・なし」すら判断できないことがあります。ここで、悪い報告を避けたい部下が、根拠なく「見込みあり」と答え、上司がそれをうのみにすると、事態は取り返しのつかないほど悪化することがあります。このような事態が少しでも想定される場合、上司は、「見込みあり」と「見込みなし」の他に、「分かりません」という選択肢も用意するようにしましょう。

(6)上司は「率先垂範」する
 部下育成のポイントは、上手に質問したり、話を聞いたりして意思疎通を図ることですが、部下にだけ要求してはいけません。上司は組織から「率先垂範」を求められています。

 次のように自問自答してみてください。

 「部下が自分のまねをすれば組織と部下は成長するだろうか」 部下は上司が考えている以上に上司のことをよく見ています。
 上司は、いつ、どの場面を見られても恥ずかしくない行動をし、自信を持って「自分のことを、そっくりそのまま、まねてみろ。そうすれば君たちは成長できる」と言えるようにならなければなりません。

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