自社をチェック

会社の存続と成長に重要なもの

 ほとんどの経営者の最重要関心事は今期の利益目標でしょう。したがって、今期の利益獲得のために今何をしなければならないかについては日頃から考えており、鮮明な意識をもっています。しかし、「我が社の長期的な存続と成長を保証してくれるモノは何か」というような問いかけを自分に発し、そういう目で物事をみて考えるという習慣はもっていない方が多いようです。

 では、「毎年の利益目標を達成するのに必要なもの」と「会社の長期的な存続と成長を保証してくれるもの」の違いとは何なのでしょうか。

たとえば、ある会社が、さらなる成長のためには商品力、営業力強化のための投資が不可欠であると感じたとします。その会社は毎年利益を計上していますが、投資を行うことにより、今期の利益はほとんど出なくなります。この会社の社長の選択肢は、「今期の利益優先、投資中止」「今期の利益は諦め投資実行」のいずれかです。どちらが社長として正しい判断といえるのでしょうか。

 企業にとってより重要なのは、毎期の利益よりも長期的な成長・存続です。短期的な視野からすれば、利益獲得を目的とした行動と会社の存続・成長を目的とした行動は、多くの場合 相反します。毎年利益を計上するという延長線だけでは会社は必ずしも成長しないというということです。

 つまり、毎期黒字を計上して会社を「維持」することと会社を「成長」させるということは、まったくの別物なのです。会社の成長ステージを一段あげるためには相応の投資が必要です。現状のやり方で限界に近づいていると感じたならば、短期的な利益は犠牲にすることも考えねばなりません。

 経営者は、常に長短両方の視点でバランスよく経営戦略の舵を切っていくことが求められます。

 

資産、技術、人材があれば、将来は安泰か

 一般的に、経営の三要素は 人・物・金 などといわれます。そのような視点からすれば、企業の存続を保証してくれるのは、「豊富な資産」「高い技術」「優れた人材」といったところでしょう。

 ところが、資産・技術・人材のすべてにおいて、十分に優れたモノを有していた企業が存続の危機に瀕し、倒産していった例は枚挙にいとまがありません。

 たとえば、戦後のアメリカの映画会社を例に考えてみましょう。かつて黄金時代を築いたハリウッドの映画会社が、軒並み赤字を出し、没落していった理由は、一般的にはテレビが出現し、普及したことによって映画の魅力が失われたからであると考えられています。ところが、アメリカでは、映画会社が没落したのは、映画会社自身の経営政策上の失敗によるものであるとする論もあるのです。映画会社は、テレビの出現に対して2つの柱となる政策をとりました。その第一は、大作主義と呼ばれるものです。「テレビのようなちっぽけな画像に映画の魅力が負けるはずがない。我々が、本当によい映画(=テレビには作れないようなよい映画)を作りさえすれば、お客は必ず映画をみにきてくれるに違いない」と映画人たちは考えました。そこで、本当によい映画、すなわち内容が重厚で、制作費を十分にかけ、一流の監督、俳優を使った映画(大作)を作ったのです。ところが、大金を投じて作った大作映画が、それに見合うだけの観客を動員できず、十分な興行収入を上げられずに赤字を出し、映画会社の足を引っ張ったのです。映画人たちが考えた本当によい映画とは、玄人の目からみたものであって、観客がみたがる映画ではなかったのです。これは、多くの業界で見受ける現象です。専門家が本当によい商品を作ればと考えて、苦労をして作った商品は、玄人受けはするが一般大衆には売れないのです。その商品は、顧客の求めるモノを作ろうとしたのではなく、ただよいモノを作ろうとしたにすぎないからです。映画会社がとったもうひとつの政策は、テレビを敵視し、テレビの成長を妨害するというものでした。具体的には、送信すべき映画を制作するということについて、まったく未熟であったテレビ会社に対して、映画製作のための一切のノウハウ、人材、技術を、貸さない、使わせないように妨害工作をしたのです。どんな映画、テレビ番組でも、人気俳優が出てこそ観客は観たがるものです。

 しかし、テレビ会社は、映画会杜の妨害のために、当時のスターたちを使えなくなってしまったのです。それにもかかわらず、テレビはどんどん普及し、テレビ会社は成長発展をしていきました。この現象を、革新的な技術進歩が新しい産業(テレビ産業)を生み出し、その発展段階において古い産業(映画産業)を駆逐していった過程であると解説するのは簡単です。しかし、そのことが、古い産業に属していた企業(映画会社)の没落原因であると考えるのは早計です。

 斜陽化していく産業のなかにあって、新しい事業機会を見出し、現事業分野からの脱皮を取ってこそ、企業活動と呼ぶに値するからです。もし仮に、映画会社の経営者が、テレビの出現に際して、テレビを敵視するのではなく、絶好の提携先が出現したと捉えることができたとしたら、事態はどう変化したでしょうか。テレビの映画製作を妨害する代わりに援助し、指導し、請け負うという姿勢をとっていたとしたら、事態は決定的に変化したのではないでしょうか。当時の映画会社が もしその気になって努力すれば、テレビ放映の制作フィルムは、ほとんど映画会社が提供するという状況を作り出すことも不可能ではなかったかもしれません。

 映画会社が没落していった例は、大変重要な事実を私たちに示唆してくれます。当時の映画会社は、黄金時代を経て、極めて豊富な資産を有し、当代随一の映画制作技術と、優れた監督や一流のスターたちを抱えていました。すなわち、「豊富な資産」「高い技術」「優れた人材」のすべてを保有していたのです。しかし、企業の成長どころか存続さえ図ることができない映画会社が続出したのはなぜでしょうか。これらの企業に正しい経営職略が存在しなかったからなのです。

 自社の存続と成長を保証してくれるのは、正しい経営戦略以外にはないのです。あなたの会社には、存挨と成長を保証してくれるに足るだけの確固たる経営戦略が存在するでしょうか。こうした視点から、会社経営を考えてみることが必要です。

経営と真理 へ

「仏法真理」へ戻る