人員計画

 経営を取り巻く環境の変化が激しい現代において、企業の重要な経営資源の一つである「ヒト」を人材をいかに活用するかは、企業の成長を大きく左右します。そこで注目したいのが「人員計画」です。

 人員計画とは、企業が事業計画を遂行するために、必要な人員の採用、配置などを計画することを指します。

 人員計画を立案する最大の目的は、あくまでも「事業計画の遂行」です。そのため、事業計画の遂行にあたり、「どれだけの人員が必要か」という数量的な観点のみならず、具体的にどのような能力を持った人材が必要なのかといった能力要件の定義や、どのように人材を確保・教育するのかといった具体的なプロセスも要員計画には含まれなければなりません。

 

人員計画の例

 ・事業計画を遂行するためにはマネジメント人材が10人必要
 ・即戦力人材を何人採用するのか
 ・今いる人材をいつまでにどのように育成していくのか
 ・外部リソースを活用するのか など

 

なぜ人員計画を立てる必要があるのか

 人員計画を立てるメリットは、大きく分けて以下の3つです。

1 合理的な採用計画を立案できる

 事業計画に紐づいた人員計画を立てることで、合理的な採用活動の展開へと繋がります。
 例えば、「今期5人の離職者が出たから、来期は新たに5人を採用しよう」といった場当たり的な計画でなく、「事業計画を遂行するためには何人を採用すべきなのか」「事業収益と照らし合わせた結果、何人を採用するのが妥当なのか」、といった視点で進めていくことで、無駄がなく合理的な採用計画を立案することができます。

2 適材適所への人員配置を可能にする

 人員計画を策定するということは、各部署がどのような人材を必要としているか、またどれくらい人員が過不足しているかという点を把握するということです。そのため、現場が求めている人材を適材適所に配置する、人員が不足している部署へ異動させるといった「社内リソースの最適な分配」に役立ちます。

3 中長期的な人材育成計画を立案できる

 人材の能力開発・育成は短期間で行えることではありません。要員計画に基づいて、将来的にリーダー人材やマネジメントが何人必要なのかを割り出すことによって、中長期的な人材育成計画を立案することができます。

 

人員計画を策定するためのステップ

ステップ1 現状把握

 まずは現状把握から始めます。具体的には、部署や事業所ごとの在籍人数を確認します。この際、従業員情報(氏名・年齢・役職・部署といった情報)を一元で管理できる「人事管理システム」を用いることで、業務の効率化を図ることができます。

 

ステップ2 人員調査

 続いて人員調査を実施します。要員調査とは、社内のニーズを把握し、必要な人材のニーズを把握する作業のことです。

 人員調査は、大きく分けて「ボトムアップ方式」と「トップダウン方式」の2種類があります。

 

ボトムアップ方式

 ボトムアップ方式とは、各部署や事業所の責任者に現場のニーズをヒアリングすることで必要人員を割り出す方法です。

ヒアリング内容例

 ・現状での業務量とリソースの過不足
 ・来期に向けて必要な人数
 ・いつまでに人員を補充する必要があるのか
 ・求める人材の具体的なスキルや志向

 また、上記で挙げたヒアリング内容の他にも、繁盛期と閑散期の業務量の違いや、本当は注力したいものの手が回っていない業務があるか といった点もヒアリングすることで、より解像度が高い現場のニーズを把握することができます。

 

トップダウン方式

 一方のトップダウン方式とは、経営層にヒアリングすることで、人件費や採算といった経営的な観点から、必要人員を割り出す方法です。現場のニーズから必要人員を決めるのではなく、かけることができる予算からあらかじめ人員数を決定します。

トップダウン方式で人員を割り出す際には、以下の2つの方程式が利用されます。

トップダウン方式の方程式

(1)必要人員=(年間売上高 × 付加価値率 × 労働分配率)÷1人当たりの人件費

(2)必要人員=(目標売上高 × 適正人件費率)÷1人当たりの人件費

 付加価値率:売上高に対する付加価値の割合
 労働分配率:付加価値に占める人件費の割合
 適正人件費率:売上高に占める人件費の割合

 トップダウン方式を用いることで、売上に対して人件費の割合が多く、経営状態の悪化を招くといったことを防ぐことができます。一方、トップダウン方式のみでは、現場に必要な人材つまり事業成長を支える人員が不足するといったことになりかねません。

 ボトムアップ方式とトップダウン方式は、どちらかのみを採用し、要員計画を策定するのではなく、どちらかを基準に要員計画を策定しながらも、もう片方の方式をチェック機能として用いることが大切です。

 ボトムアップ方式で現場が求めているニーズや人員を把握した後に、トップダウン方式で売上高などと照らし合わせ、現場の声をそのまま採用した際に、人件費が適正になるのかを確認します。

 

ステップ3 人員の調整

 ステップ2で算出した人員の調整を行っていきます。

 算出した人員をどのように補填していくのかという点を考えます。新卒採用を行うのか、中途採用を行うのか、既存の従業員の能力開発を進めるのか、また、アウトソーシングをはじめとする外部リソースを活用するのかなどを決めていきます。

 この際に大切なのは、来期の必要人材といった短期的な視点に捉われず、事業計画に基づいて中長期的に視点を重視することです。即戦力が欲しいという理由だけで中途採用の比率を大きくすると、将来的に会社の中心となる若手人材が不足する、育たなくなるといったデメリットがあります。

 事業計画に基づいて将来的な経営目標を達成するためには、どのように要員調整を行うべきなのかといった点を十分に考慮しましょう。

 

STEP4 人員計画の策定・運用

 最後に人員計画を策定し、実際に運用していきます。この要員計画をもとに、「採用計画」「人材育成計画」を立てていきます。

 

人員計画を効果的に運用するために

 立案した計画をもとに具体的な施策を実行し、最終的な事業計画の遂行へと結び付けるためには、人員計画の定期的なモニタリングが必要になってきます。要員計画のモニタリングとは、実際に採用した人材が社内でパフォーマンスを発揮しているのか、育成している人材が求めている能力を取得しているのか、といった点を定点で観測することです。

 もし、仮に計画通りにいっていないのであれば、再度要員計画を見直す必要があります。また、離職など想定外の変化が生じることがあります。この際にも、経営計画を基準に要員計画を見直していくことが求められるでしょう。
 人員計画を立てて終わりにせず、計画をもとに施策を実行すること、施策の結果を分析すること、そして、人員計画の見直しをスピーディーに繰り返すことが大切です。

 

 人員計画は、経営戦略・事業計画に基づいて立案されなければいけません。そのため、策定を行う際には、事業理解や経営に対する深い知見が必要になってきます。

 人員計画を誤ると、中長期的に「自社に優秀なタレントが不在になる」「事業を遂行するための人材が不足する」といった問題を招き、市場での優位性を失う要因にもなりかねません。このような事態を回避するためにも、経営・人事領域に深い知見を持った外部コンサルティングサービスを活用するのも一つの手法として考えられます。
 また、「採用にかかる業務量を軽減したい」「そもそも自社の採用ノウハウに自信がない」といったケースでは、採用活動を外部パートナーに委託する「RPO」を活用することも選択肢のひとつです。

 人員計画は、来期に必要な人員を明らかにするだけの計画ではありません。事業計画を円滑に進めていくため、また、事業目標を達成するために企業の人的リソースをどのように調整していくのかを決める大事な工程です。
 まずは、現場の担当者やマネジメント層へのヒアリングを通して、現状求められている人材を「質」「量」の2つの側面から正しく把握することが求められます。そのうえで、必要な人員を確保するためには、どのような手法を採用するのが適切なのかを中長期的な視点から考えていく必要があるでしょう。

 

 販売・生産・設備投資計画などを作成した段階で、事業(プロジェクト)に必要な人員数の計算を行います。

 人員の選定にあたっては、キャリアパス(仕事能力向上のための職場の異動経歴)、スキル(事業の各業務内容に見合った経験や能力)、その仕事に対する適性などを考慮して決定し、人員計画をまとめることになります。
 ここで注意が必要な点として、それらの人員の選定を全て新規採用メンバーで行おうとすると、既存組織との軋轢が発生しかねません。

 そこで、新規事業(プロジェクト)として社内に特別プロジェクトが編成された場合には、既存組織などへの業務連携や業務引き継ぎを円滑に進めるため、既存組織の事情に精通した人員も確保しておくと良いでしょう。

 

人員計画作成のポイント

 人員計画のポイントとしては、まずは当該事業(又はプロジェクト)の遂行には、どんな業務が必要なのかといった考えで、仕事の見積もりを行い、そこに必要な人員を割り付けるという順序で計画を作成します。

 まず、各業務の内容に関する定義と必要と思われる業務に関するリストを作成し、誰がどの業務を担当するかを決定します。

 この時点でのポイントは、業務の定義の厳密さよりも網羅性に重きを置くことです。
 業務に対する人員の割り付けにあたっては、必要なスキルを検討するとともに、必要とされる人材像のイメージをある程度明確にし、人数の見積もりを行います。

 予定人数については、事業の進展の如何によって必要となる人数やスキルなどが変わってきますので、大体3~6ヵ月単位で計画自体の見直しを行うと良いでしょう。

 当該事業(またはプロジェクト)の遂行に複数の既存組織が関わる場合には、そうした業務を組織部門単位に割り付けることが必要です。
 このときに大切なことは、プロジェクトチームから既存組織部門への仕事(必要と考えられる業務)の引き継ぎをどのタイミングで行うかといったことです。

 その際は、1つの考え方として、企画段階からの参画度合いなどを検討材料にして割り付けを決定すると比較的円滑にいくでしょう。

 ただ、そうした場合でも、くれぐれも各組織部門への説得や根回しは怠りなく行ってくことが肝要です。

 

人件費予算と人員数

 新規事業の遂行などにおいては、特に事業全体の予算計画は大切なことですが、人件費に関する予算のあり方も その成果を左右する大切な要素となります。

 しかし、現実的な面で事業全体ですら十分な予算で遂行することができないため、人件費予算も得てして不十分なものになりがちです。

 そうした場合での判断基準としては、必要なプロジェクト業務や職種に、重点的に適材を投入することが必要となるため、派遣社員などの外部人材の活用も視野に入れ、人件費の変動費化を進める弾力的な意思決定で臨むことが肝要です。
 人員計画を立てるうえでは、変動要員を、業務の繁閑に応じて確保するかがポイントとなります。

 人員計画には新規採用の人数を見積もる目的の他に、現有人材のローテーション(部門内・部門間含む)と人事戦略面の検討も加えることが肝要です。

 人員計画で参考となるデータとして、労働生産性と労働分配率を算出する以下の計算式が参考となります。

・労働生産性=(生産高(売上高)/従業員数)×(付加価値/生産高(売上高))

・労働分配率= (人件費/従業員数)÷(付加価値/従業員数)
      =1人当たりの人件費÷付加価値生産性

 労働生産性とは、労働力(単位時間当たりの労働投入もしくは、社員1人当りの付加価値)1単位に対してどれだけ価値を生めたかを指す指標です。

 労働分配率とは、付加価値に対する人件費の割合をいいます。
 「労働生産性が高くなる→労働分配率が低くなる」「労働生産性が低くなる→労働分配率が高くなる」という、労働生産性と労働分配率の相互関係が成り立ちます。
 人件費を増加させるためには、付加価値を増やすか分配率を高くするか、のいずれかになりますが、分配率を高くすれば収益が悪化するため、人件費予算策の基本戦略としては、分配率を上げないで付加価値を増やす対策を考えることが肝です。

 また、人を増やさず生産高を上げる手段としては、生産設備の増強投資などによって生産能力を高めることも検討に値しますが、それには結果として売り上げの拡大が見込めるようでなくてはなりません。

 

業務、人材のアウトソーシング(外部委託)
 アウトソーシング(外部委託)とは、限られた経営資源を重点分野に集中するため、 外部企業へ委託することをいいます。

 アウトソーシングは、業務の企画や計画からマネジメントまでを包括しており、組織体制の不備を補えるため、特にベンチャー企業からのニーズは高いといえます。

 また、現在では従来難しいとされていた営業や経理業務などにも委託業務が広がり、企業として必要不可欠な業務を内部に設置するよりも、コストを抑えて活用できるといったメリットもあります。
 アウトソーシングの活用にあたっては、外部委託とはいえ自社の経営機能を補完して円滑な業務推進を図る目的で行うわけですから、会社全体で計画を理解すると共に、委託先との業務内容における解釈や責任範囲などに十分配慮することが必要です。

 また、派遣社員では必要に応じて人材の確保の一環として考えることが肝要です。場合によっては、コアになる人材にも正社員以外に派遣社員などの外部人材の登用を考えるべきでしょう。

経営と真理 へ

「仏法真理」へ戻る