全社戦略を立案する

参考・引用

 全社戦略は、単一事業における事業拡大や競合との競争を扱う事業戦略とは異なり、組織全体の永続に向けた各種の取り組みを扱う。

 

全社戦略と事業戦略の違い

 アンゾフの『企業戦略論』で示された戦略的意思決定プロセスの概念図。これは、アンゾフ・マトリックスの成長ベクトルを選択する際、アンゾフが最も重要な戦略的意思決定と位置付ける、「多角化を選択するか否か」を検討するフローを表している。

 この考え方では、まず、みずからの組織の目的とゴールを設定する。そして、組織の内部と外部の機会を評価する。それらを勘案したうえで、戦略的意思決定(多角化するか否か)を行う。

 事業戦略を立案する際も、外部環境と内部環境に対する洞察から意思決定を行う流れまでは同一である。しかし、事業戦略がある産業における自社の競争行動を検討するのに対して、全社戦略は、組織全体の方向性に影響を与えるものであり、アンゾフの言う「戦略的意思決定」である。

 

戦略的意思決定

(1)製品と事業分野(自社がどの市場を事業領域とするか)
(2)成長ベクトル(自社の成長のためのアクション)
(3)競争優位(自社の競争優位の源泉をどこに持つか)
(4)シナジー(自社の事業領域間の相乗効果)

 まず、自社をどう定義するかである。それには、どの事業環境を選択するか(製品と事業分野)であり、いかなる強みを醸成するか(競争優位)という議論が出発点にある。その出発点から、ある程度の事業展開を進めると、持続的な成長をさらに継続させるために、自社の成長をどう実現するか(成長ベクトル)が俎上に上がる。その後、自社の事業領域が多数並存するまでに成長が継続すれば、それらの事業のあり方を再編成するため、自社の事業領域間の相乗効果(シナジー)を考えることが議論の中核となる。

 全社戦略が求める戦略的意思決定とは、まず、創業時点における組織目標の形成とゴールの設定、言い換えれば、製品と事業分野と競争優位を定める際に行われる。その後、しばらくは、事業戦略を推進するため、全社戦略は補完的な位置付けとなる。しかし、成長を持続するための岐路に差し掛かるときや、事業上の困難に直面し組織の再編が迫られるときには、多角化を含む成長ベクトルの検討や事業間シナジーの評価など、別の戦略的意思決定が求められることとなる。

 伝統的な教科書が教える全社戦略の主題は、アンゾフ以来の伝統として、事業の多角化と多角化した事業の管理が中核である。これは、巨大企業では日々行われているが、社歴が浅く事業多角化に至っていない企業では馴染みが薄い。新興企業にとっては、事業の数が限られているため、創業時点における事業戦略と全社戦略は大きく重なる。全社戦略が事業戦略とは別のものとして本格的に必要になるのは、ある一定以上の成長を実現した後である。

 経営戦略という言葉が普及した背景には、米国を先頭とした戦後世界経済の持続的、かつ、安定した成長があった。そして、多くの大企業が成長を継続するために、事業を多角化し、単一事業の運営を超えて、複数事業の集合体としての企業の方向性を決める必要性に迫られた。さらに、コンサルティング会社やビジネススクールなどの勃興とも合わせて、経営戦略、ここでいう全社戦略の概念が広く普及したのである。すなわち、全社戦略が多角化と多角化事業の運営手法を中核として普及し、現代もそれが中核的な議題として扱われることに不思議はない。

 

教科書に見る全社戦略の定石

 『戦略経営論』と『経営戦略をつかむ』は、出発点であるアンゾフの議論の潮流を汲み、多角化を中心に議論を進めている。これは、最も伝統的な全社戦略の形式に準拠した形式だろう。『戦略経営論』は、多角化の各種形態にまで踏み込んでおり、『経営戦略をつかむ』は多角化の経済学的な背景への言及が充実している。

 それに対して、『グラント 現代戦略分析』『MBA経営戦略』『経営戦略入門』では、事業ドメインや企業ドメインに関する議論を丁寧に紹介し、それに紐づいた事業の多角化と多角化した企業体の運営手法を解説する流れとなっている。これは、目標とゴールを定め、それに基づいて事業を選択し、その事業群を編成する という全社戦略の中核的な流れを意識した構成である。

 『企業戦略論』では、合併買収や戦略的提携などの関連テーマも合わせて採録している。しかし、その基本となるのは多角化戦略と多角化戦略を推進する組織体制である。資源ベース理論を通した解釈で議論が編成されているが、これも伝統的な全社戦略の議論を踏襲しているといえよう。

 全社戦略は、その議論の出発点にアンゾフの時代、すなわち、安定的な経済成長が続くなかで、事業の多角化が魅力的な成長戦略として推進された時代がある。その時期の全社戦略とは、多角化をどう意思決定し、どう行うかであった。

 その後、停滞する経済状況を反映して、BCGマトリックスのように、事業ポートフォリオ管理によって経営資源をいかに配分するか、すなわち、多角化のマネジメントという議論が発展する。そこでは、すでに多角化した企業の資源管理であり、事業管理、そして、再編が着目点であった。

 1990年代からは、C. K. プラハラッドとゲイリー・ハメルによる『コア・コンピタンス経営』のように、戦略事業単位を基軸に事業をポートフォリオとして捉えるのではなく、自社の競争力の源泉たるコア・コンピタンスを重要視する考え方が着目されるようになる。

 これは、戦略アーキテクチャー をどのように設計するかという議論である。企業ドメインや事業ドメインといった自社の強みの源泉の応用範囲を理解し、それをできるだけ広げ、その競争力を保持するための取り組みを継続する作業であった。

 このような背景があるため、経営学の理論的系譜に忠実な教科書であるほど、また、基礎的な部分を重視する教科書であるほど、議論は多角化とその運営手法を中心に行われる。新興企業や中堅企業の大半にとって、事業多角化の程度は高くはなく、ほとんどの場合は事業戦略を検討する範疇の議論で必要が満たされてしまう。

 結果的に、多くの実務家にとって、全社戦略は感覚的にはわかっていても、 それほど馴染みのない領域となるのである。

 学術的な蓄積を背景とすれば、多角化の議論を主体とせざるを得ないからである。学術的な知見に厳密になろうとするほど、成熟した研究分野である多角化の議論が中核となりがちです。

 ただ、多角化戦略で前提とされるような多数の事業領域を抱える大企業は、全体から考えればごく一部にすぎない。日本でも、一部の巨大電機メーカーや総合商社など、数百の関連会社を抱える事業体であれば、そうした議論が中心であっても納得感があるだろう。しかし、多くても3つか4つの基幹事業領域で勝負する 中小中堅企業や新興企業などの大多数の組織にとっては、全社戦略で議論すべき より重要な側面がある。

 全社戦略の要素は4つからなる。その骨格となるのは、「組織ドメインの定義」「周知」「更新」である。

 組織ドメインとは、組織の生存領域、生存目的であり、ビジョン、ミッション、バリューとも呼ばれるものである。これを定義するだけではなく、組織内に周知し、状況変化に応じて絶えず更新していくことが重要です。

 その際に見過ごされがちなのが「全社機能の戦略検討」であろう。全社の方向性を反映して、それぞれの事業の基盤となりうるインフラを構築していかなければならない。これは各事業の基礎体力を築く重要な取り組みであり、おろそかにしてはならない日常業務である。そのうえで、伝統的な多角化や水平・垂直統合の議論は、「事業領域の管理・再編」で取り扱われる。

 第1に、自社の事業をどう拡大していくのか、それを産業・市場における領域の拡大、価値連鎖における領域の拡大、地理的な領域の拡大の3つに切り分けて検討する。事業領域が多彩に広がったのちは、当然その無数の事業領域の管理が必要となり、絶え間ない選択と集中、再編が求められることもある。

 近年、特に重視されるのは「監査・評価・企業統治」であろう。企業の影響力が増大し、ときに それが国家の力を凌ぐようになるなか、組織がみずから管理・監督し、事業を独自に評価し、さらには、短期的な自己の利益だけではなく、社会厚生を加味した意思決定が行えるように組織整備を行うことが必要となる。これは、組織の骨格となる判断基準であり、独立して議論すべき重要事項である。

 

組織ドメインの定義・周知・更新

 組織経営において、「ビジョン(未来像)」「ミッション(企業理念)」「バリュー(行動基準)」が重要であるということは 半ば常識のように語られている。

 ピーター F. ドラッカーは、著書『ネクスト・ソサエティ』の中で、「未来の社会においては、大企業、特に多国籍企業にとっての最大の課題は、その社会的正当性、すなわち、そのビジョン、ミッション、バリューとなるだろう」と語っている。これは、組織が社会に存在する上での立ち位置であり、その存在意義でもあり、その方向性を決定づける礎となるものである。

 この3つの階層構造を例示すると、「ビジョン」が実現したい将来の社会像の提示であり、「ミッション」がその社会を実現するための自社の役割であり、「バリュー」がそのためにどのように行動するかを示したものである。この3つがすべて必要なわけではない。比較的規模の大きな企業の情報を参照すれば、少なくともミッションは明確に記載されているであろう。

 これらの検討に当たり、重要なのは それを定義してから先の話である。新入社員研修の訓示で軽く触れられたり、投資家向け説明資料の文言に引用されたりすることはあるが、それ以上に用いられることはあまりないという。本来であれば、創発的な戦略の形成を助け、また、組織内の多様性の緩衝材となりえる組織ドメインが十分に活用されていないのは大きな問題です。

 問題の源泉は大きく3つある。

 1つ目は、定義が曖昧すぎて明確なメッセージとして機能していないケースである。「社会をよくする」や「経済に貢献する」など、自社でなくても言える経営理念を理解はできても、行動には結びつかない。

 2つ目は、中途半端な周知にとどまっており、それを元にした人事評価基準の作成や社内言語としての浸透の支援、優秀者の表彰、社会貢献など、関連する活動との連携が行われていないケースである。

これらが日常業務の一つひとつの意思決定にまで浸透する企業では、その実践が評価に直結しており、意思決定の場における判断基準として明示的に参照される。

 3つ目は、適切なタイミングでのこれらの更新が行われないことである。

組織の構成員全体で、自社の組織ドメインの設定は適切か、時代を反映しているか、自分たちにとって最適であるのか、これらを絶えず見直す機会を設定していることが重要である。更新は手段であって目的ではないものの、それを見直すプロセス自体が組織の構成員にとって組織ドメインの役割と意義を再認識させる。結果的に、更新されなくても、構成員の理解も深まり、また、新鮮となる。

 自社の事業領域の変化に基づいて、それを適切に表現するミッション(経営理念)を柔軟に変化させていくのが理想です。1997年の時点で、アマゾンが「地球上で最も顧客中心の会社を目指す」と主張しても、それは大味であり、誰にも相手にされなかった。しかし、2000年代後半以降、同社の多分野における世界的な躍進を背景として、これほど大きなミッションも適切な指針として評価されるようになった。

 組織の構成員の自発的な判断と創造が重要となるからこそ、それらを束ねる組織ドメインは極めて重大となる。国際的に展開し、多様性を内包した組織に成長するほど、それは異なるバックグラウンドを持つ構成員同士が共有する基盤となり、組織ドメインは競争力の要となる。これは、全社戦略の骨格として最重要視する要素である。

 

全社機能の戦略検討

 個々の事業の支援を行う各種事業機能の方向性を検討することは、機能戦略と呼ばれている。この機能戦略は、伝統的には戦略の階層構造の下部に位置付けられていた。その理由も歴史的な経緯によってである。

 1960年代の経営戦略自体がそうであったように、それぞれの機能の役割に関する議論が未成熟の時期であれば、機能戦略が事業戦略に従属的に存在することは理解できる。この時代ではマーケティングの概念も浸透しておらず、大量生産される商材の多くは標準品が中心であった。そのため、事業機能が組織の競争優位を左右する足腰であるという見方は一般的ではなく、差別化をもたらす源泉とは考えられていなかった。

 しかし、現代においては、事業機能のそれぞれが、組織の競争力に直結するような重要性を持つ事実が広く認識されつつある。たとえば、「戦略的マーケティング」「戦略的人事」のように、各機能の名称に戦略や戦略的という修飾語をつけ、それらを個々の事業に従属した部品としてではなく、全社の競争優位に資する独立した経営機能として理解する動きが顕著である。

 最も重要な機能の1つは やはり人事であろう。どのような人材を採用するのか、どんなトレーニングを提供するのか、いかなる制度で報酬や昇進を決定するのか、こうした意思決定は、組織の考える未来像、経営理念、行動指針と直結しており、その実現のために中核的な役割を果たす。たとえば、「創発的で自由度の高い、技術が人を幸せにする社会を目指す」という経営理念にもかかわらず、礼儀正しい就活戦士だけを採用し、 勤怠管理をガッチリとしながら、年功序列の賃金と昇進で評価していては、目指すべき組織ドメインにはたどり着かない。

 人事以外にも、研究開発における基礎研究、全社員が影響を受ける情報システムの設計と運用、各事業が準拠すべき会計基準や経理プロセスの設計は、その優劣が如実に企業の足腰に影響をもたらす。顧客からの問い合わせを受けたとき、瞬時に在庫状況を判別し、価格の見積もりを算出し、配送可能な日数を提供できる企業と、そうではない企業がある。毎月締め日前になると、ほとんどの社員が1日がかりで経費精算や報告書類の執筆に追われる企業と そうではない企業がある。そして、両者の間には大きな格差が現れる。

 企業広告や広報渉外といった、より直接的に事業にインパクトをもたらす機能も存在する。企業全体のイメージは採用にも購買にも影響する。さらに、政府、監督諸官庁との関係性によっては、自社の事業は保護されることも、改革の波にさらされることもある。

 不祥事や天変地異における危機対応も、全社戦略の要素として勘案する必要があるだろう。特に、災害大国である日本に拠点を持つ多くの日本企業は、大災害への十分な備えをする必要がある。もちろん、社員の不祥事や製品の不具合に対して、どれだけ迅速に行動できるかは、事業戦略の領域ではなく、全社戦略として取り扱うのが適切なはずです。

 機能戦略は、長らく事業戦略に従属するか、あるいは独立した戦略として取り扱われてきた。しかし、これらは全社の方向性に直結し、全社の競争優位に直接的に影響を与えうる「戦略的意思決定」を多く含んでいる。そのため、機能戦略を全社戦略の重要な要素として取り扱うことで、それぞれの事業の足腰を確実に鍛え上げることができる。

 

事業領域の設定と管理

 事業の多角化、すなわち、産業・市場における領域の拡大は、新規事業への参入が典型である。自社が提供していなかった製品・サービス群の提供を開始することで、自社の事業領域を拡大する。大日本印刷が印刷技術を応用して半導体製造装置の開発に乗り出した歴史や、ヤマハが楽器や家具の製造から飛行機のプロペラ、そして、エンジン開発へと事業を広げていったのは有名である。また、アップルがパソコンからスマートフォン、タブレットへと商品群を広げていったのも典型例だろう。

 垂直統合、すなわち価値連鎖(バリューチェーン)における領域の拡大は、自社がすでに提供する商品・サービスの付加価値創造の連鎖構造に、関係する他の事業を自社に取り込むことである。古くは、ヘンリーフォードがT型フォードを生産する際に、ガラスの精製工場や製鉄所までを傘下に収めていた事例がある。現在でも、たとえば、アマゾンは物流網が十分ではない国と地域では自社の配送網を整備している。グーグルが発電事業に参入するのも、莫大な数のサーバー群の稼働に必要な電力を自社で供給することにメリットがあるからです。

 地理的な領域の拡大は、ときに事業戦略を超えて全社の検討事項となる。特に、国内の地理的な拡大だけではなく、国境を越えて国外に事業領域を拡大していく際には、単一の事業戦略上の要請だけではなく、全社的な資源配分の調整が必要となる。

 この3つの事業展開の方向性は、同時並行で行えないこともありうる。その場合、経営者は選択を迫られる。新たな産業・市場へ事業領域を拡大することは、不確実性の最も高い方向性だが、既存事業のリスクや市場ライフサイクルとは、一定以上切り離された事業領域への挑戦でもある。価値連鎖の領域の拡大は、既存事業の競争優位を一定以上活用した展開が可能となる一方で、特定の経営資源を内部に取り込むことで、本業の柔軟性が損なわれる可能性もある。地理的な領域の拡大は、この3つの中では不確実性が最も低い。

 経営資源は限られている。したがって、全社戦略は絶えず選択の連続となる。特に、事業領域は、自社が好調であり、成長を志向している限りは、絶えず資源配分の意思決定を継続し続けなければならない。単一事業の競争環境のみによらず、複数事業の集合体である自社の事業領域を再定義し続けることが肝要となる。

 事業領域の設定と管理において、最も難しいのは、超長期的な時代の変遷に合わせて どのように自社の事業ポートフォリオを入れ替えていくのかである。

 経営戦略の一般的な教科書であれば、「BCGマトリックス」など関連する戦略フレームワークに言及しながら、多角化した事業の管理手法を紹介するところである。

 

監査・評価・企業統治

 機能戦略の一部として取り扱われがちであるが、監査・評価・企業統治という側面も全社戦略の範疇で議論するべき内容と考える。

 企業がその活動全般を どのように監督し、また、評価するかは、企業の意思決定全般に大きな影響を及ぼす。現代社会において、国境を越えて活動する企業の中には、国家を超える力を持つと言える企業も存在する。そして、企業が国家を超えるならば、企業は国家の定める法規制のみに基づかず、自発的にそれを律することで、社会厚生に資する存在となる必要がある。

 何を評価し、何を評価しないのか。この価値判断基準の検討に当たって、伝統的な会計数字だけを追うのは不適切である。みずからの組織ドメインに基づいた評価基準で、絶えず自己を省みながら、多面的な尺度で自己評価を行うことが求められる。

 たとえば、コカ・コーラが自社で消費する最大の資源が水であることを認識し、水消費の効率性を2020年までに2010年の水準と比較して25%削減させる目標を掲げている。単純なコスト削減ではなく、自社がもたらす社会経済環境への影響を監査し、評価したうえで、それを改善するための目標を提示して実行する。これは、企業活動の自浄作用を促進し、広くは企業社会責任にも通じる。

 また、マッキンゼー・アンド・カンパニーの元全世界のトップであったイアン・デーヴィスが公の場で語っていたが、マッキンゼーのシェアホルダーズカウンシル(経営会議)では、同社の卒業生がフォーチュン500の経営陣として何名在籍しているかを継続的にモニタリングしているという。卒業生が活躍することを組織の健全性の長期的な尺度として それを評価する。単純な会計指標に基づいた企業活動評価とは異なる尺度を導入することで、その指標が改善するように、同窓会組織に継続的な投資を行うなど、短期的な成果に左右されない意思決定が支援されているのだろう。

 自社事業を評価する尺度の検討に当たっては、シンプルでわかりやすい尺度を用いることが唯一絶対の正解ではない。一部の企業では、依然として、比較的大きなプロジェクトでもNPV(正味現在価値)の計算が申し訳程度に添付されるにとどまり、事業価値評価が前時代的な状態のままの事態が散見されるという。たとえば、特に不確実性が高く、成功の場合にはアップサイドの可能性が極めて高い新規事業領域への投資では、DCF法(割引キャッシュフロー法)での試算よりリアル・オプションを用いた試算のほうが、(基本的には)事業特性に準拠した適切な投資価値が試算できる。さらに、有力な競合が数社しかおらず、顧客に提示するパラメーター(価格や品質など)が限られるならば、ゲーム理論などの経済学の方法論も応用できる。

 企業内部でどのような尺度を用いて事業を評価するのか。その物差しが前時代的なものでは戦略は形にならない。こうした評価基準を自社の特性に準じて適切に設計して浸透させることも 全社戦略の範疇である。

 自社独自の事業実態を監査する体制整備、事業や各種取り組みの評価基準の設定、それらに基づいた企業統治のあり方を議論することが、各種の事業を展開する枠組みとしての その組織の可能性を左右する。もちろん、監督諸官庁や証券市場など、利害関係者や関係法規制に基づいた諸規約や制度を整備するのは最低限の議論である。地道にも見える諸制度のつくり込みの積み重ねが、全社戦略という曖昧に見える存在に息を吹き込むのではないだろうか。

 

企業戦略のメリットとデメリット

 メリットですが、企業戦略で大きな方向性を決めることで、ミクロ単位の戦略である事業戦略や機能別戦略の方向性が決まり、それぞれの戦略を立てやすくすることができます。
 企業戦略は一つの指標的存在であると考えて大きな間違いはないでしょう。

 対して、デメリットとなるのは、企業戦略が誤ってしまうと、企業全体を大きく間違った方向へと導いていってしまうことです。そのため、企業戦略を考える際には特に慎重にならなければなりません。
 前の代から続いているような全社戦略をそのまま流用していくのではだんだんと時代遅れになっていってしまうことも考えられます。

 ただ、会社というのは一つの生き物でもあります。あまりに大きな変更を加えてしまうと、それはそれで反発を招きやすくなることも十分考えてかなければなりません。
 会社は人の集合によって成り立っているものである、ということを忘れずに、大幅な戦略を建てる場合には特に重要なポイントとなるでしょう。

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