市場調査
市場調査は、企業が市場のニーズを把握するために実施するものですが、現状のニーズを分析することだけがその目的ではありません。
市場調査は、事実の発見、理由の明確化、企業の行動指針の提供という3つの段階があります。
1 事実を発見
市場調査の第一段階は、事実を発見することです。
市場調査のもっとも基本的な目的は、現状はどうであるのか、できるだけ正捷に把握することにあります。
例えば、スポーツカー市場の現状分析では、既存のブランドをすべてコンセプトマップ上に位置づけることで、市場の構造そのものを明らかにしています。
事実の発見は、マーケティング・リサーチの初期段階でありながらも、多くの情報をもたらしてくれるという重要な役割を担っています。
2 理由の明確化
市場調査の第二段階は、第一段階で判明した事実の理由を明確化するものです。
つまり、消費者はなぜそのように行動するのか、その行動の背景にある理由を発見しようとする段階です。
すべての消費者の行動には何らかの理由があり、それを多面的に分析して明らかにします。
この第二段階までは、過去の情報を基に分析している点で共通しています。
3 企業の行動指針の提供
市場調査の第三段階は、企業の行動指針を明らかにするというものです。
この段階では、市場調査は現状分析にとどまらず、企業は今後いかに行動すべきであるのか、という重要な意思決定を行うときの判断材料提供することになります。
市場調査をより有益なものにするためには、この「今後どうすべきか」という視点がとても重要です。
新しい商品やサービスを提供するにあたり、現状を分析したり、あるいは消費者行動の要因を把握したりすることは必要不可欠な事項です。
しかし、それだけで十分なマーケティングが可能となるものではありません。
消費者のニーズが多様化かつ高度化している現状にあっては、消費者のニーズに加えて「ウォンツ」という概念が登場しています。
ウォンツとは、まだ顕在化していないニーズ、消費者自身が明確に認識していないニーズを指します。
このような消費者の欲求を把握し、また、ウォンツまでを市場調査の実施によって掘り起こすというのが、これからの企業にとっての大きな課題となります。
調査計画の立案
市場調査の計画を立てるときに留意すべき点について検討していきます。
1 調査目的の明確化と系統的な計画の立案
市場調査を行うにあたり、その出発点となるのは、調査の目的を明確にすることです。
調査を実施すること自体が目的になっている例が少なからず存在します。そのような形式的な調査では、市場に関する有力な情報を入手するのは困難です。
したがって、「何のために調査を実施するのか」という点について十分に検討する必要があります。
自社がとるべき経営活動を多面的に分析していき、本当に調査が必要になった段階でその実施を考えます。
調査目的が明らかになれば、系統的な調査計画の立案を行います。
市場調査の実施においては、調査の目的を達成するために何をすべきか、というように目的からさかのぼって調査計画を立てていく、というステップを踏まなければなりません。
2 仮説の検証がすべてではない
一般的な市場調査は、仮説検証型の調査と呼ばれることがあります。
仮説検証とは、あらかじめ正しいと判断される仮説を立て、それを検証するためのデータを市場調査から収集し、その結果を確認することです。
仮説検証型の調査では、最初に設定される仮説そのものが、きわめて常識的である場合が少なくありません。
そして、その常識的な仮説の正しさを立証するために、調査の結果を使用することがあります。このような仮説検証も重要です。
直感的に正しい仮説であると判断しても、その裏付けをとるのは意義のあることです。
しかし、仮説の検証がすべてではありません。
市場調査によって、予想もしなかった真実を発見する場合もあるものです。
このような仮説に基づかない調査を「ゼロベース型調査」といいます。
ゼロベース型調査では、とりあえずの方向性を見いだすために、世の中の環境変化、消費者ニーズの変化など幅広い情報を集めます。
そうするなかで、新たな仮説めいたものが見えてきたら、改めて仮説検証型の調査に移るということになります。
特に消費者のウォンツを探るためには、さまざまな視点からのゼロベース型調査が有効になります。
3 調査計画に盛り込むべき事項
調査計画に盛り込むべき主要な事項は以下のとおりです。
・調査目的
・調査方法
・調査対象
・調査実施地域
・調査対象者の選び方
・調査対象者数
・調査項目
・分析計画
・作業日程
・調査費用
調査の目的が最重要視されますが、それ以外では調査全体に要する時間と費用が重要です。
市場調査は比較的小規模のものであっても、かなりの時間・費用が必要となります。
その点を再確認したうえで、調査計画を作成します。
市場調査の実施
市場調査の方法は、大きく 1.質問紙調査法、2.面接調査法、3.観察調査法、4,実験法という4つに分類することができます。
1 質問紙調査法
質問紙調査法は、質問事項を用紙に取りまとめ、それを調査対象者に回答してもらうというスタイルをとるものです。
これは、さらに(1)留め置き法(2)郵送法(3)訪問面接法(4)その他の方法(インターネット調査など)に分かれます。
(1)留め置き法
留め置き法は、調査員が被調査者を訪ねて調査票の記入を依頼し、一定の期間後にふたたび訪問して調査票の回収を行うものです。
留め置き法の長所は、調査の目的を直接口頭で説明できるため、被調査者の協力を得やすいという点です。
さらに、回答者は調査書への記入を始める前に疑問点などを調査員に聞くことができます。
短所は、調査員を確保するためのコストが大きいことと、被調査者宅を訪問する手間がかかるということです。
(2)郵送法
郵送法では、質問用紙を調査対象者に郵送し、回答後に返送してもらいます。
質問事項が少ない場合には、はがきを使用します。
郵送法の長所は、調査コストが比較的安く、広い地域を対象に一斉に調査を実施できるところにあります。
一方、短所は回収率が低いことです。
調査票を送付しても、それを見た人が必要事項を記入して返送してくれる率はどうしても低くなってしまいます。
また、回収に時間がかかる点も短所といえます。
(3)訪問面接法
この方法は従来よく行われていた方法で、調査員がすでに構成された調査書をもって、あらかじめサンプリング(抽出)された調査対象者を訪問し、質問文を読んで相手の回答をとるものです。
多くの場合、回答の選択肢が用意されています。
訪問面接法の長所は、被調査者に直接に調査依頼ができる点や、質問に対する回答を確実に記録できる点です。
しかし、多くの時間とコストがかかること、訪問されることを拒絶する人も多いこと、在宅率の低い若い人たちの回収率が低下してしまうことなどの欠点があります。
(4)インターネット調査
インターネットによる調査も広く実施されています。
この方法の長所は、質問票を発送するための実質的なコストがほとんどかからない点にあります。
回答者の負担も少なく、回収期間も非常に短くて済みます。
調査は、原則として調査会社にあらかじめ登録している人を対象に行われます。このため、自社がターゲットとしている層と登録している人の層が一致していることを確認する必要があります。
また、調査会杜に登録している人はアンケートに答えることでポイントなどのメリットを得ており、ポイント獲得のために自分の関心がまったくない分野のアンケートにも参加する傾向もみられます。
実際に利用するにあたっては、これらの点について調査会社に事前に確認するほうがよいでしょう。
なお、インターネット調査会社は、「アンケート結果の提供のみ」から「結果を踏まえた分析」なども含めて、さまざまなレベルのサービスを提供しています。自社にアンケート結果を分析するノウハウが不足している場合は、分析も含めた依頼をすることができます。
2 面接調査法
面接調査法(インタビュー)は、調査員と被調査者との面談形式で行われ、調査員は面談で入手した情報を記録していきます。
多くは質問紙調査による訪問面接法のように、あらかじめしっかりと構成された調査票を用いることはしません。むしろ、自由な面談のなかで明らかになった新たなヒントを掘り下げていくことに重きが置かれます。
面接調査法の代表的なものは、(1)グループインタビュー、(2)デプスインタビューです。
(1)グループインタビュー
グループインタビューは、数人の被調査者を集めて座談会形式で行われます。
司会役である調査員がいくつかの質問をし、それをもとにグループで自由に意見を出してもらいます。
グループインタビューの長所は、各メンバーの反応を観察することができ、グループ全体の議論から派生的に生じる新たな事実を発見できることです。
しかし、グループの構成メンバーを慎重に検討しなければ、集団内の効果的な相互作用は生じにくくなってしまいます。
価値観の異なる人を含めるなど、議論が活発化するような工夫が必要です。
(2)デプスインタビュー
デプスインタビューとは、ごく少人数(面談者と1対1の場合もある)を対象にして、深層心理にまで踏み込んでいく方法です。
デプスインタビューの長所は、非常に踏み込んだ情報を被調査者から引き出せることです。
短所は、調査コストが大きくなることに加え、調査員に高度な専門知識や、かなりの熟練が要求される点です。
3 観察調査法
観察調査法は、質問紙調査法や面接調査法とはやや異なる視点から実施されます。
この調査の目的は、現実の事象を観察して実態を正確に把握することです。
(1)街頭観察調査
街頭観察調査(タウンウオッチング)は、街に出て大勢の人たちを観察し、目的とする情報を収集するものです。
たとえば、若者が身につけているものを調査したり、深夜の人間行動を観察したり、と目的によってさまざまな調査が実施されます。
街頭観察調査は、特別な費用を必要としないため手軽に行うことができますが、明確な目的意識をもって実施しないと有効な情報を得られません。
これが街頭親察調査の長所・短所です。
(2)店頭・店内観察調査
店頭・店内観察調査は、調査員が小売店の店頭に立って消費者の行動を観察するものです。
たとえば、消費者が注目した商品・手に取った商品・実際に購入した商品という具合に分類してカウントしたり、消費者の店内での動きを観察したりします。
そして、この調査から得られた情報を店舗運営に役立てていくのです。
店頭・店内観察調査の長所は、消費者の行動をダイレクトに観察できることです。しかし、調査結果から得られた多様な情報を集約するのに手間がかかるという短所もあります。
4 実験法
この方法は、因果関係を明確にするために、条件を統制することによって調査対象者に働きかけてその反応をみるものです。
具体的には、複数のグループに対し異なる扱いをし、影響を与えうる変数をコントロールしたうえで、扱いに対する結果を調査します。
たとえば、Aグループには事前に商品の説明をしたうえで使ってもらい、Bグループには説明なしで使ってもらって、AとBの満足度の違いを比較することなどがあげられます。
調査設計は複雑になりますが、新商品開発などにおいて有力な情報を手に入れることができます。
調査結果の集計、分析と活用
1 調査結果の集計
市場調査の実施後、集計の段階に入ります。
調査結果は、数字で把握できるデータとそれ以外のデータがあり、前者を定量データ、後者を定性データといいます。
質問紙調査法においては、各質問事項に対して数字で回答する形式が多用されます。
量的な取り扱いができるようにしておくと集計作業が簡単になるからです。
こうした集計は、パソコンの表計算ソフトなどを使って行うことができます。
面接調査の結果は、定性データであるため、一定の分類基準にしたがって集計します。
手間がかかりますが、集計結果の有効活用のためにも慎重な作業が望まれるところです。
2 調査結果の分析と活用
集計が終わると、調査結果の分析段階に入ります。
定量データであれば、質問項目ごとに平均値を出したり、分布を確認したりします。
また、年齢や性別などの属性項目と各質問事項との関連を明らかにすることもできます(これをクロス集計といいます)。
さらに、必要に応じて統計解析のソフトを使用し、専門的な分析をすることも可能です。
定量・定性データの分析では、調査の実施段階では予想もしなかったような事実を発見できる場合もあります。
調査結果を正確に読みとり、実際の経営にいかしていくことは簡単ではありませんが、そのためのノウハウを少しずつでも社内に蓄積していくことが大切です。
その技量を高めることによって、中小企業が大企業よりもマーケティングで優位に立てる可能性もあるからです。