市場調査の基本
企業のマーケティング活動と市場調査
市場調査は、企業がさまざまな意思決定を行うときに、重要な情報を与えてくれるものです。
1 企業のマーケティング活動と市場調査
マーケティングとは、もっとも広い概念でとらえれば、「企業から市場への働きかけ」全体を指すといえます。
マーケティングとは、企業が消費者のニーズを充足させるために実施するあらゆる創造的活動であるということができます。
そして、このようなマーケティング活動を効果的に進めるうえで、市場調査は重要な手段になります。
現在の消費者は、物理的にはかなりの水準まで満たされています。
必要なモノはいつでもどこでも、誰もが購入できるような環境が整備されています。
このような環境にあって、多くの企業は消費者のさまざまなニーズを探ることに力を入れています。
その理由は、
・ありきたりの商品やサービスでは消費者が関心を示さず、新たな顧客を獲得することが困難である
・既存の顧客も他社のより魅力的な商品・サービスに流出してしまう可能性が高い。
そのような事態を回避するために、十分な市場調査を実施し、自社経営の方向付けを行っていく必要があります。
2 市場調査から入手可能な情報
市場調査と一言でいっても、その方法は多種多様です。
最も広く行われている方法は、質問紙調査と面接調査です。
たとえば、自動車メーカーが新製品モデルの開発を行うケースを考えてみましょう。まず、社内・社外の情報を基にマクロ的な分析を行った結果、スポーツカー市場の潜在的な需要を見出したとします。そこで、製品コンセプトを決めるために、市場調査を実施し、調査の結果から、既存商品と消費者ニーズを分析したとします。これを製品ポジショニングといいます。
A~Gまでは既存ブランドであり、消費者のニーズがZであったとします。この場合、比較的コンパクトで馬力がある車を消費者が欲している、ということであり、「新製品のコンセプトはZに置け」という情報が市場調査から明らかにされたことになります。
これは単純化されたひとつの例ですが、このように、市場調査を行うことでマーケットの構造と消費者のニーズが明らかになり、自社の戦略の方向性を決定することが可能となるのです。
エリアマーケティング
市場調査は、小売業、飲食業であれば、その立地に出店した場合にどの程度の売り上げを見込めるのか、また、その売上高で収支が合うのかを事前に検証するために行うものです。
例えば、小売店の新規開業を計画しているが、100メートル先に同じ業態の既存店があるとします。
その場合、開業後に果たして十分な収益を上げることができるか疑問が残る。
一般的に、交通量調査やライバル店調査、地域住民のアンケート調査などをフルコースで実施すると数百万円程度に費用がかかります。
市場調査は、あくまで推測であり、100%その通りになるという保証はありません。
「どれだけの精度があるのかわからないものにそれだけの料金を払うわけにはいかない」という見方もできます。
市場調査の費用対効果は未知数なのです。
しかし、自分で市場調査をしようとしても、いったい何をどう調べたらいいのかという問題になります。
立地と商圏の考え方
まずは、市場規模(マーケットサイズ)に着目します。
市場規模の大小を知るだけでも、新規参入のメリットがあるかどうかが分かります。
また、市場規模大小のほかに、参入企業(事業所)の数を知ることで、需給関係を把握することができ、それにより参入メリットの有無の判断材料にもなります。
売上高予測は、商圏内市場規模×シェア で求めることができます。
同じ商圏に競合店があれば、その競合店とはシェアを分け合うことになります。
また、各店の規模や販売力が同様の場合、2店舗間競争ではシェアは50%、3店舗間競争ではシェア33%となります。
実際には、店舗規模や品ぞろえが集客力に影響を与えますので、単純に1/2、1/3にはなりませんが、確実に地域シェアを獲得するためには、競合店以上の店舗規模、品ぞろえにする必要があります。
小売業は立地産業とまでいわれています。
商圏内各地域からの集客、さらには、競合店との関係を考えると、どこに出店するかは最重要課題となります。
街は変化しているので、現状だけでなく、将来展望も考慮に入れなければなりません。
特に、大規模店が同地域に出店してきたりすると、人の動きに大きな変化が生じます。
望ましい立地条件としては、
・人口増加地域であり、将来発展が見込める場所であること
・交通事情がよく、分かりやすい場所であること
・競合店舗が集中していない地域であること
・店舗開設に支障がなく、比較的安価に出店できること
などが挙げられます。
また、立地は大きく3つのタイプに分けられます。
・ダウンタウン(繁華街)
・アーバン(都市部の住宅密集地域)
・サバーバン(郊外の新興住宅地域)
「ダウンタウン」は繁華街という意味ですが、人は昔から自然に港などの低地に集まり自然発生的に市が立ち、繁華街へと発展してきました。
日本では、ダウンタウンもアーバン地区も非常に地価が高いのが実情です。
よほど坪効率のよい売場・商品構成にしないことには採算が合いません。
そこで、地価の安い出店立地を求めて行くと、必然的にサバーバンとなります。
立地と商圏の変化
小売業は、立地産業といえます。
通信販売、訪問販売は別として、店舗販売の場合、来客があって初めて販売に結び付きます。
例えば、量販店やその他チェーンストアでは、スクラップ&ビルド(不採算店の閉鎖と新規店の開店)は当たり前になっています。
出店当初は、好立地としてスタートしても、時節の移り変わりで環境が変化し、閉店ということが往々にしてあります。
直接の原因としては、他店との競争、他地域との競争が考えられますが、要は当初見込めた商圏が侵食された結果といえます。
商圏が大きく様変わりするのは、大規模小売店の進出だけではなく、交通網の発達や住民の行動様式の変化などによる消費行動の変化も大きな要因です。
商圏は、大きく
1.近隣商圏(食品など、最寄り品の商圏)
2.地域商圏(洋服など、買い回り品の商圏)
3.広域商圏(百貨店や各地域の中核都市の繁華街の商圏)
に分類できます。
特に地域商圏、広域商圏で成り立っていた商店街が、ほかの商業集積地やショッピングセンター、量販店に商圏を侵食された場合、その影響は大きくなります。
地域商圏、広域商圏で成り立っている商店街は、遠いけれども、そこに行かないと購入できないので、そこまで出かけているのです。
わざわざ、遠くから訪れていた買い物客の足が遠のくと、それだけ客数が減少します。
来店客として見込めるのは「近くて便利だから」という近隣商圏の消費者に限られてしまいます。
また、従来、商圏人口3万人を見込めていた商店街が、交通事情の変化やショッピングセンターなどの進出により商圏人口が1万人以下に減少した場合、その商圏でも採算の合う最寄り品を扱う店舗は生き残れるでしょうが、より広い商圏を必要とする買回り品を扱う店舗では採算割れになるでしょう。この場合、業態転換、閉店を余儀なくされます。
エリアマーケティングの手法
ショッピングセンターや商店街に出店する場合は、関係者に聞けば商圏の範囲が分かりますが、自分でできる市場調査の手法についてまとめてみます。
近隣商圏の場合には、食料品、日用品、実用衣料品などは最寄り品です。
消費者が最寄り品を購入する場合、より近く、より品ぞろえが良く、手頃な価格で販売している店舗で購入するというのが一般的です。
商圏は半径500メートル~1キロメートル程度です。
最寄り品の店舗を出店するのであれば、この半径500メートル~1キロメートルが目安になります。
もし、その範囲内に、鉄道や高速道路などの広い道路が走っていたり、川が流れているようでしたら、そこが商圏の境界線になります。
地域商圏・広域商圏の場合には、大規模店舗でもない限り、単独の店舗で地域商圏、広域商圏を獲得することは困難です。
ただし、ショッピングセンター内、あるいは地域で最も大きな商店街に出店すれば、それも可能になります。
社内データ蓄積の重要性
大手チェーン店の場合、パソコンに出店立地の住所を入力すれば売上高予測ができるシステムが確立しているところがあります。
これはデータの蓄積があるからできることなのです。
このデータは、大きく外部データと内部データとに分けることができる。
外部データとは、地域人口、性別人口、年齢別人口、所得格差、消費性向、事業所数などの公的データです。
一方、内部データとは、性別売上高、年齢別売上高、通行量対入店率などの企業内部で蓄積されるデータです。
1号店を出し、成功したらその成功事例(データ)を基に2号店の出店場所を検討することができます。
成功例が増えると、実験的な出店も可能になります。
繁華街への出店がメインであったチェーン店が、初めて郊外ロードサイドに出店するというのは実験的出店の1例です。
最初は手探り状態であっても、成功例と失敗例の積み重ねが社内データとして蓄積され、それが将来の店舗展開に生かされるのです。
通行量調査の例
通行量調査をするにあたっての社内データの重要性について説明します。
たとえば、A立地並びにB立地の前の通行量は人通りの数を表しています。ある時間帯のA立地(左枠内)の人数は17人、B立地(右枠内)の人数が11人であったとします。通行量では明らかにA立地のほうが多いのですが、店のメーンターゲットである20代前半の女性の数を数えると、A立地(左枠内)の人数は4人、B立地(右枠内)の人数が6人であった場合、出店立地としてはA立地よりもB立地のほうが適していることになります。
来店客の性別・年齢が重要な場合、通行量調査は、単に通行人の数をカウントしただけでは有用な情報とはなりません。
メーンターゲットとなる性別・年齢に合致した通行人の数をカウントする必要があります。
また、自動車の通行量を調査する場合、ファミリーをターゲットにするならば、トラック、商用車、スポーツカーの数ではなく、ミニバンやセダンの数をカウントする必要があります。
各立地の通行量を調査する場合、内部データの蓄積がなければ、せっかくの調査データも活かされません。
1号店を出店する場合は、内部データは存在しませんが、例えば、○○のような店というように手本となる店があれば、その店と同様の立地を探して出店するということができます。
同様の立地とは、同じような来店客が望める立地という意味です。
しかし、他に競合業態がない店の場合は そうはいきません。
試行錯誤による予測は可能でしょうが、その精度は低いものにならざるをえません。
外部の専門調査会社に調査を依頼した場合も、同様で費用対効果は低いものとなるでしょう。