ビジネスチャンス

 消費者が商品を購入するのは、自身の持つさまざまなニーズを充足するためです。商品が消費者の持つニーズを完全に充足している姿が理想的な関係となります。
 しかし、商品と消費者ニーズの現実の関係をみると、特定の商品が消費者ニーズを完全に充足しているケースはわずかです。むしろ、消費者は、「若干の不満はあるものの、自身のニーズに一番近い商品なので購入する」といったケースが一般的です。

 例えば、「『購入した商品をすぐに使いたいのに、手元に届くのは3日後になる』『価格が高い』といったように『時間』や『価格』については不満があるが、ほかの商品よりはよいので これを購入しよう」というように購入を決定している消費者が多いのです。

 近年の消費者ニーズは非常に多様化・複雑化しています。このため、商品の持つ機能や特性などは、複雑化・高度化する消費者ニーズに追いつかず、商品と消費者ニーズの間に多くのギャップが存在しているのが実情といえるでしょう。

 しかし、この商品と消費者ニーズの間にあるギャップにこそビジネスチャンスがあるのです。このギャップを発見し、ギャップを解消する(消費者ニーズをより充足させる)ような商品を提供することができれば、消費者からの支持を集めることが可能です。商品を販売し、売り上げを上げることができます。
 例えば、「のどが渇いたので、今すぐ冷えたオレンジジュースをコップ1杯飲みたい」と考えている消費者に対して、その場でコップ1杯の冷えたオレンジジュースを販売している企業が存在していれば、商品と消費者ニーズの間にギャップはありません。しかし、アップルジュースを販売している企業しか存在しなければ、商品と消費者ニーズの間にギャップが生じます。そこで、自社がオレンジジュースという商品を販売することで、消費者ニーズとの間のギャップを解消することができます。
 また、ほかの企業がオレンジジュースを販売していても、1リットルのボトルサイズで販売している企業しか存在しなければ、コップ1杯分のオレンジジュースを販売することで、自社商品を購入してもらうことができます。

 自社が収益を獲得することができるだけの市場性があるのか、ビジネスとして成立し得るのか、競合他社の動向はどうであるのかなど、さまざまな側面から発見したビジネスチャンスについて検討することが必要です。

 しかし、商品と消費者ニーズの間にあるギャップこそがビジネスチャンスであり、そのギャップを埋めるような商品を消費者に販売することで売り上げを上げていくという視点が、企業のビジネスチャンスを生かす取り組みの基本となるのです。

 

ビジネスチャンスの発生要因

 ビジネスチャンスである商品と消費者ニーズの間にギャップが発生する理由を考えてみます。

 大きく分類すると、「消費者ニーズの把握の困難性」と「商品に関する制約要因の存在」に分けることができます。

消費者ニーズの把握の困難性

 消費者ニーズを的確に把握することができず、結果として消費者ニーズを充足するような商品を開発・販売できないケースがあります。

 消費者ニーズは常に変化し続けています。こうした状況では、消費者ニーズに関する情報収集を十分に行っていない場合はもちろん、独自の市場調査を実施している企業でさえ消費者ニーズを的確に把握することは非常に困難です。

 例えば、マーケティングの専門部署を設け積極的に情報を収集している大企業でさえ、「消費者ニーズの読み違え」といった理由から事業に失敗するケースがあることを考えれば、消費者ニーズを把握することの困難性は容易に理解できるでしょう。 

 消費者ニーズを的確に把握できなければ、消費者ニーズを完全に充足するような理想的な商品を開発・販売することはできない。つまり、消費者ニーズの把握の困難性という要因が、商品と消費者ニーズの間にギャップを発生させているのです。

商品に関する制約要因の存在

 消費者ニーズには気づいていても、そのニーズを充足するような商品を何らかの理由によって開発・販売できないケースがあります。そうした場合も、商品と消費者ニーズの間にギャップが生じることになります。

 制約要因には さまざまなものがありますが、代表的なものとして、技術面の制約要因があります。

 新規開発された機器などに多くみられる例ですが、その機器に必要となる技術を確立し、実際に商品(プロトタイプなど)の開発には成功しているものの、その商品を量産する技術が確立されていないため、商品として販売できないケースもあります。

また、コスト面の制約要因がある場合もあります。商品として販売することは可能であるが、それには膨大なコストがかかり、商品の販売価格が高くなるため、仮に商品として販売したとしても ほとんどの消費者がそれを購入しないようなケースです。

 これらのケースにおいては、企業が商品と消費者ニーズの間にギャップがあることに気が付いていても、商品などが持つ制約要因の存在がビジネスチャンスをものにすることを妨げているのです。

 

ビジネスチャンスの見つけ方

1 商品と消費者ニーズのギャップを知る

 ビジネスチャンスを発見するためには、市場調査などを通じて得た消費者や合他社などの外部環境に関する情報、自社の商品や商品の製造プロセスなど内部要因に関する情報などを総合的に勘案しながら、商品と消費者ニーズの間に潜むギャップを発見することが必要となります。

 しかし、こうしたプロセスを経ても、ビジネスチャンスを発見するのは容易ではありません。

2 「ビジネスチャンスの発生要因」に注目する

 ビジネスチャンスを発見する基本は、「消費者ニーズの把握」と「商品の制約要因」の2点に注目することにあります。

(1)消費者ニーズの影響要因に注目する

 消費者ニーズに変化をもたらす影響要因が分かれば、消費者ニーズの動向を的確に把握できる可能性が高まります。しかし、消費者ニーズに影響を与える要因はさまざまであり、それらすべてを明確にすることは困難です。また、仮に把握できたとしても、影響要因は複雑に絡み合っていることから、個々の要因が消費者ニーズをどのように変化させるのかといった因果関係を明らかにすることはほぼ不可能です。
 しかし、影響要因やそれが及ぼす影響を比較的容易にとらえることができるものもあります。代表的なものは、法律の改正といったさまざまな制度変更などです。制度変更には強制力をともなう法改正や業界団体などが策定する「ガイドライン」などのように、法的拘束力はないものの、対象となる企業や個人の行動を事実上規定してしまうものもあります。こうした制度変更があれば、関連する企業や個人は変更された制度に従わなければならないわけですから、消費者ニーズの動向を容易に予測できる場合があるのです。

 消費者ニーズの動向を容易に予測できるこうした動きを早期にとらえることで、ビジネスチャンスとすることができます。

(2)商品に関する制約要因の動向に注目する

 商品に関する制約要因を把握する際のキーワードは「ボトルネック」にあります。

 ボトルネックとは、生産現場や、コンピューター業界などで よく使われる概念で、生産プロセスなどにおいて、全体の円滑な進行・発展の妨げとなるような制約要因のことをいいます。

ボトルネックは大きな問題ですが、逆の見方をすると、ボトルネックさえ解消することができれば、生産性を劇的に改善することができます。
 ボトルネックという考え方は商品の開発などにおいても同様です。技術の進展などによりボトルネックが解消されることで、商品の質や性能などが飛躍的に向上し、従来の商品では充足できなかった消費者ニーズを充足できるようになる可能性があるのです。ビジネスチャンスを検討する際には、「ボトルネック」というキーワードを常に念頭に置くことが必要といえるでしょう。

3 「時間・場所・量」に注目する

 企業の「消費者ニーズをとらえた商品づくり」といった取り組みをみると、商品の持つ機能や特性といった「商品面」や、消費動向に大きな影響を与える「価格面」にのみ注力しているケースが散見されます。その結果、商品面や価格面以外のさまざまな消費者ニーズが見落とされている場合が少なくありません。

 例えば、「『必要なときに、必要な場所で、必要な量』の商品が欲しい」といった消費者ニーズです。一見、当たり前の要素とも考えられがちですが、「時間・場所・量」といった要因に注目することで、ビジネスチャンスを発見できるケースも少なくありません。
 「時間」でいえば、宅配便業者が行っている荷物の配送時間帯を指定できる「時間指定配送」というサービスが代表的な例です。

 「量」という観点でいえば、近年増加している単身者や夫婦2人暮らしの高齢者層の需要に対応した小分けの総菜や1食分ごとにパッキングした豆腐などがあります。

 このように、「時間・場所・量」に注目することで、新たなビジネスチャンスを発見できる可能性があります。

4 「業界の常識」に注目する

 「業界の常識を打破しろ」とは、新たなビジネスチャンスをつかんだ企業の経営者などがよく口にする言葉です。

 確かに、業界内だけで通用するような商慣行や暗黙のルールといった「業界の常識」を打ち破ることでビジネスチャンスが広がる場合があります。

 例えば、近年、葬祭業界では料金体系とそこに含まれるサービスを事前に明確にした「葬儀パック」などを提供して人気を集めている企業がみられます。「消費者に対して料金を明確に伝える」ことは、普通に考えれば「商売のいろはの『い』」に相当する基本的な条件です。しかし、葬儀には、棺・祭壇・霊柩車や送迎用のバスなどさまざまな費用が別々になっている上、それぞれにグレードがあり、そのグレードに応じて料金が異なるなど、料金体系が非常に複雑になっています。こうした料金体系は長い間「業界の常識」とされてきました。
 一方、消費者(利用者)側からみると、葬儀会社を利用する機会はめったにないため、料金体系や費用相場に詳しくないこと、突然の出来事の中でゆっくりと費用などを確認している時間がないことなどの理由から、「料金が分かりにくい」「当初の説明よりも費用が多くかかっている気がする」というように料金面に不満を持つ消費者は少なくなかったのです。こうした中、業界の常識を打ち破り、料金を明確にしている企業が消費者からの人気を集めているのです。
 こうした視点から、ビジネスチャンスを発見する際に問題となるのが、業界の常識に気づきにくい場合が多いことです。一つの業界内に長く属していればいるほど、業界の常識に慣れてしまい、それを当たり前のことと考え、見落としてしまうのです。そんなときに有効なのが、ほかの業界と自らの業界を比較してみることです。そうすることによって、「業界の常識」が持つ盲点に気づくきっかけとなることがあります。葬祭業界の例も、ほかの業界と比較してみると、不明確な料金体系という「業界の常識」に容易に気づくことができるでしょう。

5 トレンドの「深掘り」を行ってみる

 消費者は、ある商品によって自身の持つニーズが満たされると いったんはそれで満足します。しかし、そうした商品を使用するなどして「経験」してしまうと、消費者ニーズはより高度なものへとシフトする傾向があります。

 オレンジジュースの例でいえば、最初は、「オレンジ味のする飲み物が欲しい」と考え、果汁10%のオレンジジュースで満足していたものが、今度は「より健康的なものがよい」と考え、果汁100%のオレンジジュースへとニーズがシフトする。最終的に、「果物本来の持つ、新鮮さが味わえるものがよい」と考え、絞りたてのフレッシュジュースへとニーズが変化するようなケースです。

 また、消費者ニーズが高度化する過程で多様化が進むことも少なくありません。例えば、フレッシュジュースへのニーズが高まる一方で、「コップ1杯じゃ物足りないので、もう少し量の多いジュースが欲しい」というニーズや「○○産のオレンジを使ったジュースが欲しい」といったニーズが出てくることが考えられます。
 こうした高度化・多様化する消費者ニーズをとらえ、ビジネスチャンスにつなげていくためには、消費者ニーズのトレンドを「深掘り」した商品を販売することが有効です。

 例えば、コピー機の分野においては、近年、従来の商品と比較して「コピーのスピードが速い」「カラーコピーがきれい」「コピーにかかるコストが安い」といったさまざまな特徴を「深掘り」した商品が、多様化する消費者ニーズをとらえています。

6 「逆バリ」を行ってみる

 逆に、市場で主流とみられる消費者ニーズに逆らうような商品を開発することによって、ビジネスチャンスを見いだすケースもあります。

 「逆バリ」で成功を収めたケースとしては、NTTドコモが1999年10月に発売を開始した携帯電話端末「らくらくホン」シリーズがあります。当時、NTTドコモは「iモード」を99年2月にスタートさせるなど、サービスの多様化を急速に進めていた時期であり、それにともなって携帯電話端末も多機能化が急速に進んでいました。こうした中で、NTTドコモは、iモード機能を付けないなど機能の単純化を進めた「逆バリ」の携帯電話端末「らくらくホン」シリーズを販売しました。この「らくらくホン」シリーズは、機器類の操作が苦手な高齢者層を中心に人気を集め、2007年4月には累計販売台数1000万台を突破するほどのヒット商品となっています。

 また、発泡酒やエンドウ豆などを使用した第3のビールが登場するなど、価格の低下が著しいビール業界において、通常のビールに付加価値を付けた高額なプレミアムビールが人気を集めているのもこうした例の一つといえるでしょう。
 「逆バリ」商品が人気を集める背景には、消費者ニーズの多様化があります。一つのカテゴリーの商品群の中で、質の高い商品を好んで購入する消費者もいれば、安価な商品を好む消費者もいます。

 また、同じ消費者でもその商品を購入・利用する状況によって選択する商品は異なります。例えば、ビール系飲料でみると、平日は安価な発泡酒で済ませるが、週末はゆっくりと食事を楽しみながらプレミアムビールを飲む人がいます。
 「逆バリ」の商品は当該市場におけるメーン商品となることは少ないものの、一定の市場を確実にキャッチすることができるのです。ただ、簡単にビジネスチャンスを発見できるわけではありません。あくまで「基本」に沿って消費者ニーズや市場動向などの情報を収集した上で、こうした視点を参考にしながら新たなビジネスチャンスについて検討してみるとよいでしょう。

経営と真理 へ

「仏法真理」へ戻る