ビジネスマンに活かせるヒント

 世界においても日本においても、経済における競争の局面が、「商品の機能の差別化」から「情緒の差別化」へと変化している。社会の潮流を予測し、世界的なベストセラーになったダニエル・ピンク著『ハイ・コンセプト』は、2005年 そう指摘した。

 人々は、自分の美意識に合った商品や芸術性が高いものを所持し、精神的な高揚や満足感を得ることを求め始めている。

 こうした付加価値を生み出す商品やサービスは、今までMBAで教えていたような、論理や分析のみで創造することが難しい。ビジネスパーソンたちは、より高度な芸術性や創造性が求められる時代となっている。

 この傾向は、AI(人工知能)の発達で、さらに加速する。ロジカルな分析に基づく仕事は、コンピューターにシフトしていく可能性が高い。

 

ビジネスマンに活かせるヒント

(1)「営業」の現場に取材力を取り入れる

 営業の秘訣は下記の3ステップにあるという。

 「H」― Hearing = 問いかけて聞き出す

 「P」― Proposal = 提案する

 「C」― Closing  = 約束する

 特に、「H」(聞き出すこと)が重視されており、商談の時間の6割前後は「顧客のことについて深く問いかけ、困っていることややりたいことを聞き出す」ことが大切であるという。

 聞き出した内容に基づいて商品を「提案(P)」し「約束・契約(C)」するプロセスにもっていくことで成約率が格段に向上するという。

 実際、高業績の営業マンほど「聞き上手」である。

 

(2)チームの生産性向上に「聞く力」を活かす

 成功するチームは何をやっても成功し、失敗するチームは何をやっても失敗するということだった。しかも、チームの生産性の高下は、構成メンバー個人の能力の高下に関係がなかった。

 生産性の高いチームは、すべてチームの全員がメンバーの一人一人の話に耳を傾けるようにしていた。

 一つのチーム内で、一部の人だけが話しまくっており、他のメンバーは黙ってそれを聞いてばかりいる集団は失敗するという。その逆に、チームメイトの全員がほぼ同じ時間だけ発言するチームは成功していたのである。

 全員が発言できるチームでは、一人一人に対して敬意がはらわれており、発言しても馬鹿にされたりせず、耳を傾けてもらえるという安心感が共有されていたのだった。

 

(3)「商品開発」に取材力を活かす

 「クレームは宝の山」とよく言うが、円滑な改善に結びつけることは意外に難しい。責任を追及され処罰される恐怖によって、苦情を隠したくなるのが人情である。

 こうした弊害をとりのぞくためには、担当者の責任追及をせず、未来に向けて改善するための重要な経営情報としてクレームを即座に共有する組織文化をつくることが大切だろう。

 組織として聞く耳をもつためには、勇気と経営改善が必要な場合もある。

 現代はあふれる商品やサービスで、顧客の多くが「お腹いっぱい」である。しかもそれらをネットでたやすく検索でき、膨大な商品リストを吟味したうえで購入することができる。

 こうした状況にある顧客の心を動かすには、価格競争をしかけたり、商品の機能を高めて差別化するだけでは及ばないことが多い。

 「一人一人が本当に何を求めているのか」に耳を傾け、聴き出すところにこそ活路がある。そこに、「これこそ自分が求めていたものだ」と思ってもらえる商品やサービスとの出会いを提供できる道筋がある。

 経営学の父ドラッカーは、リーダーの基本的な能力において、第一に必要なものとして「人のいうことをよく聴く意欲、能力、自己規律があげられる」と述べている。(P.Fドラッカー『非営利組織の経営』ダイヤモンド社)

 今日から、今まで以上にまわりの人々の言葉に耳を傾けてみよう。そこに、新たな成功の道がみえてくるはずである。

参考

 マーケティングの力を活かす方法は、ビジネスパーソンでも以下のように活用できる。

1 具体的な誰かをイメージする

 マーケティングというと難しく感じる人もいるかもしれないが、まずは「具体的な誰か」をイメージして仕事をしてみることで成功した創作者は多い。

 『ローマ人の物語』などの作品で著名な作家の塩野七生氏は、「あなたは、どんな読者を想定して書かれますか」とインタビューされたとき、「カイロから来た男」を思い出したという。

 その男とは、ローマの国立美術館で偶然知り合った40代のもの静かな日本人のことである。彼はアスワンハイダムの工事を指導するため派遣されエジプトに滞在していた。二年の滞在期間が過ぎ、機械ばかりを相手に仕事をしてきたが、知らず知らずのうちに、美術や人間に興味が湧いてきたという。そのため、仕事を終えて帰国する前に、ローマまで足を伸ばし、若者のような心のときめきを大事にしながら美術館や歴史的な場所に足を運んでいたのである。

 塩野氏は彼と、ローマ国立美術館のヴィーナス像を前にして、思わず何時間も話しこんでしまったが、名も住所も互いに告げずに別れた。これをきっかけに、彼のような人を読者に歴史物語を送り届けたいと思うようになったという(『イタリアからの手紙』「カイロから来た男」より)。

 歴史小説家の司馬遼太郎氏は、「自分の小説は、20代の自分自身への手紙のようなものだ」と語っている。彼は、20歳の時に学徒出陣し九七式中戦車に搭乗する兵士となっていた。大東亜戦争末期の帝国陸軍の戦車は装甲が薄く、敵戦車に砲撃されれば一撃で貫かれ鉄の棺桶と化してしまう。極限のなか、彼は考えた。「なぜ、こんな愚かな戦争をはじめたんだ?」「日本人とは何か、日本とは何か」

 司馬遼太郎氏は、22歳の時のこの疑問に答えるため、自分への手紙として小説を書いているようなところがあるという(『文藝春秋』2016年3月特別増刊号「司馬遼太郎の真髄」より)。

 この疑問は、当時を生きた多くの日本人にとっても切実な問題であった。そのため、過去の自分を具体的な相手として作品を生み出すことで、歴史から学ぼうとする日本人に広く訴えかけることが可能となった。

 死後も作品が長く愛読され、小説『坂の上の雲』などがドラマ化もされるのは、こうした自分を含めた「具体的な誰か」への念いがあったからではないか。

 

対象を広げ、異なる相手や幅広い世代を喜ばせる

 「具体的な誰か」に喜ばれる仕事ができるようになったら、「親子フック」のように、その対象を少しずつ広げていくことで、さらに仕事を大きくすることができる。

 経営学を発明したと称されるドラッカーは、「マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。」(『マネジメント』)と述べている。

 仕事にあたって、まず、「誰をどのように喜ばせるべきなのか?」を考えてみる。そして、その相手を異なる対象へと広げていく。ここに、ロングヒット誕生の秘訣がありそうです。

参考

 普通のビジネスパーソンでも、以下のようなヒントを得ることが出来る。

 まずは、「自宅でも喫茶店でもいいので、孤独に本を読み、思索にふける時間を持つこと」が挙げられる。日中に人付き合いや、判断業務をしている人も、孤独の時間に、何かに感動し、想像力を働かせて顧客や部下の心を動かすアイデアが浮かぶ可能性が高い。音楽の力を借りることも有効だろう。

 さらに、自分の専門分野や、気に入った本や文学作品などを並べた書棚の近くで企画などを考えることが、効率がいいことも分かる。今直面している課題に対して、過去に学び、感動した何かを「異種結合」させることで、独創的なアイデアが生まれやすい。

 経営コンサルタントの一倉定氏は、「(社長たちは)環境整備に対する認識も関心もうすいのである。私にいわせたら、これほど奇妙な現象はない」「(環境整備に取り組むならば)十カラットのダイヤモンドがゴロゴロところがっている宝の山に入り、誰でも自由にこれを拾っていいのに、これを拾い上げようとしないようなものである」と述べている。

 たかが環境、されど環境。まずは形から、クリエイティブな生活を始めてみる手もあるのではないか。

参考

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