自社の「強み」を発見するためのCVCC分析

CVCC分析の基本的な考え方
 新事業開発パターンは、企業が持つ「顧客」「製品・サービス」「独自能力」といった3つの要素に関連します。そのため、企業が新事業開発を検討する際の切り口として、自社が持つ3つの要素(「顧客」「製品・サービス」「独自能力」)の分析・把握を行い、その可能性を探っていくことが重要となります。

 自社が「顧客」「製品・サービス」「独自能力」の3つの要素でどのような強みを保有しているかを検討するための分析手法を「CVCC分析」と呼びます。
 この分析手法は、以下の3つの切り口で行います。

顧客構造(Customer)分析
 自社の得意とする顧客セグメントを発見する

提供価値(Value)分析
 自社が市場(顧客)から評価されているポイントを理解する

独自能力(Core Competence)分析
 競合他社との事業オペレーション面での独自能力や優位性を発見する

これにより、自社の本質的な競争能力の源泉を発見し、それを基に新たな事業領域(事業ドメイン)の構築を進めていきます。

顧客構造(Customer)分析
 法人向けの生産財を取り扱う企業は「パレート分析」を利用します。
 パレート分析とは、例えば「企業の利益の80%は優良な20%の顧客によってもたらされている」といったことを基本とする考え方です。
 パレート分析を行うことで、自社の売上高や利益におけるシェアホルダーが明確になります。
 なお、パレート分析を行う際は、必ず事業単位ごとに実施しなければ役立つ分析結果が得られません。
 これは、事業分野あるいは取扱製品・サービスにより、顧客単位別の売上高の多寡、利益率の高低が必ず存在するため、全社での単純な「上位客何社」であるとか「優良顧客何名」というような分析を行うと、事業ごとの実態を十分に把握することができないからです。

 パレート図の中で、構成比65%までを占める範囲をAクラス、65%から95%の範囲をBクラス、95%から100%までをCクラスとして規定します。この分析によって明確になったAクラス顧客層を自社の中心的かつ代表的顧客として設定し、以降で紹介するような切り口でプロファイル(顧客像)を検討していきます。

業種・業態
 垂直的な業界構造を持つ場合には、顧客がどこに属しているのかを把握することが重要 

 

事業規模
 売上高、利益率、従業員数、年間出荷量などの全社的な数値、工場・営業所などの事業所数、工程ライン数など個別の条件的数値も検討することが重要

用途分野
 どのような事業工程を持つ企業で、どのような工程部分で採用されているのか、また、どのような使われ方をしているのかを把握することが重要

地域特性
 自社の営業拠点と必ずしも一致しない場合が多いことに留意が必要

 これに対して、一般消費者向けの消費財を取り扱う企業の場合は、顧客カードやポイントカードの申込書に記載されている顧客情報データやPOSデータから得られる購買履歴などを基に分析していきます。
 自社に顧客データが集積されていない場合には、店頭での目視による顧客タイプ調査を実施することで代替することができます。
  

顧客タイプの分類は、以下の4つの切り口でグルーピングし、自社に特有の顧客タイプを発見するという方法です。
 1.人口統計学的基準(年齢、性別、家族構成、所得水準など)
 2.心理的基準(ライフスタイル、パーソナリティー)
 3.購買行動基準(使用率、特定ブランドへのロイヤルティーなど)
 4.地理的基準(地域、気候風土、人口密度など)

 なお、この顧客構造分析の際に注意しなければならないのが、分析を行う企業側の予見をできるだけ排除しなければならないという点です。
 営業担当者などの日ごろ顧客と直接接触している人物が分析を担当すると、実際のデータと営業担当者自身の予見とのギャップが大きい場合に、予見に基づきデータを意図的に間違った方向でグルーピングするといった事態が発生します。
 これは生産財・消費財ともに発生しやすい現象です。
 また、分析担当者が事前に営業担当者に対するヒアリングなどにより予見を植え付けられている場合にも、このような現象は起こりやすくなります。
 分析着手段階で必要以上に仮説を構築することは、実態を見誤る原因となりかねません。

3 提供価値(Value)分析
 顧客が自社の製品・サービスを採用することで実現できる価値の本質を見極めます。
 これは、顧客からすればメリットであり、企業からすれば製品・サービスを提供する価値(提供価値)ということができます。
 提供価値を検討する際には、顧客側の視点に立ち、なぜ自社製品・サービスは採用されているのかを分析しなければなりません。
 この分析がなければ、顧客の購買決定要因と企業が考えるそれに関する理解の相違(あるいは企業側の思い込み)を払しょくすることができないからです。
 自社の提供価値に関しては、顧客満足度調査などのアンケート、あるいはヒアリングを定期的に行うことでデータを収集します。
 自社の製品・サービスの採用理由に関し、複数のキーワードを基に選択してもらい、その回答を整理して分析します。
 提供価値の分析に関しては、収集されるデータはどうしても定性的なものになってしまいます。
 このため、分析担当者の予見などが入りやすくなるため、アンケート項目は慎重に設定しなければなりません。
 アンケート調査の項目は、まず「自社もしくは自社ブランドを認知しているかどうか」といった設問から始めるとよいでしょう。
 これによって、心理的に調査に協力する方向に誘導することができます。
 仮に、「購買」という設問グループであれば、次に購買経験の有無、購買した製品・サービスの種類、購買時期と次第に詳細に入っていき、購買決定要因として調査する企業側が想定している仮説を列挙し選択してもらうようにします。
 この際、回答の選択肢の配置には注意を要します。
 似通った仮説や対立する仮説(例えば価格と品質)を併記することは避けましょう。
 その理由は、顧客に、どちらかを選ばなければならないという先入観を与えることで、顧客が本来思っていなかったものまで選択させてしまう可能性が高いためです。
 また、設問の最後には、必ずフリーコメント欄をやや広めに置き、定性的かつ自社が想定しなかったような回答を得るように工夫しなければなりません。

 提供価値分析で注意したいのは以下のポイントです。

(1)顧客からの視点で価値を探る
 企業側が提供したい、あるいは提供していると認識している価値と、顧客が購買決定の前提としている価値とは必ずしも一致していません。
 アンケートやヒアリングの際の質問設定を企業側の予見に基づいた二者択一、あるいは三者択一などに単純化したり、定量的な判断を行いやすくするためにYES-NOタイプの設問にしたりすることは避けましょう。

(2)生産財の場合は用途分析と導入効果を明確化する
 生産財の場合、提供価値は必ず顧客の業務工程上で発生し、導入効果として定量化されているはずです。
 自社の生産財が、顧客自身の価値創造活動(生産性向上、品質向上、安全性や安定性など)において、どのような期待を受け、また、それをどのように実現しているのかを検証していきます。

(3)消費財の場合は購買決定要因から分析を行う
 消費財の場合、消費者が自社の提供する製品・サービスを採用することによって、何を実現しようとしているのかを主軸に分析を行います。
 そのためには、調査時に特に消費者の購買決定要因を分析する必要があります。

(4)調査は定期的に実施する
 顧客の自社に対する評価の変化を追尾する必要があるため、調査・分析は定期的に実施していくことが求められます。
 通常、生産財での顧客満足度調査は年に1回、消費財の場合は季節的要因が購買行動に影響を与えるケースが多いので、年に4回以上実施することが理想です。

4 独自能力(Core Competence)分析
 自社が競合他社と比較して優位性を有しているのは どのような能力であるかを検討します。
 独自能力に関しては、どうしても恣意的・主観的になりがちなため、これを避けるために、次のような切り口で可能な限り定量的に判断することを心がけます。

(1)特許などの知的所有権に代表される技術的独自性・優位性
 技術的側面で独自能力を検討する際には、自社の特許申請・出願件数の推移を把握した上で、その特許などの技術的な優位性が業界でどのように評価されているか、競合他社やベンチマーク対象企業と比較してどのような地位にあるかを検討します。
 実務上は、特許などにより防衛されている権利範囲の比較が必要です。
 また、研究開発予算や研究設備・人員の推移などについては、競合他社との比較も行い、可能な限り客観的な評価を心がけます。

(2)店舗運営などにおけるマニュアルなどに整備された独自ノウハウ
 店舗運営などでの独自ノウハウであれば、出店数の推移、1店舗当たりの売上高や収益率の推移を競合他社と比較して、市場での評価や業界内での地位を定量的に把握するように努めます。
 そのほかの指標としては、従業員数の伸び率なども重要となります。

(3)生産設備の生産性、独自性
 生産設備面に関し、生産性については従業員1人当たりの利益や労働生産性などについて、業界平均並びにベンチマーク対象企業との比較を行います。
 設備の独自性に関しては、その設備によって生産される製品の市場シェア推移などを参考にすると客観的判断を行うことが可能です。

(4)資材仕入などに発揮されるサプライチェーンの運営能力
 サプライチェーンの運営能力については、原価率の業界平均との比較などを基に仕入能力の差異を検証していきます。

(5)営業拠点数や営業担当者1人当たりの生産性に反映されるマーケティング能力
 マーケティング能力については、自社の営業拠点数の推移、売上高推移、営業担当者1人当たりの売上高並びに営業利益額の推移などを、業界平均や競合他社と比較し判断します。

(6)価格決定の際などに発揮されるブランド力
 顧客満足度調査や顧客へのヒアリング調査などによって、ブランドイメージ、顧客ロイヤルティーの源泉の把握を行います。

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