分析型戦略論とプロセス型戦略論

ポジショニング派 と ケイパビリティ派

 アメリカにおいて、1980年代前半まで、多角化戦略やPPM等に代表される経営戦略の「分析型戦略論」が経営戦略研究の中心をなし、さまざまな理論モデルや手法が開発されてきた。この分析型戦略論では、トップマネジメントないしは戦略策定スタッフが戦略を策定し、この戦略に合わせて実行する手段として組織を設計するものです。

分析型戦略論における戦略は、環境がもたらす機会(opportunities)と脅威(threats)を分析し、資源がもつ強み(strengths)と弱み(weaknesses)を分析することによって、問題を抽出して解決すべき代替案を列挙し、合理的な代替案を戦略として選択したものです。そして、戦略が組織の上層部によって策定されると、実行が組織の中層部や下層部によって速やかになされる。しかし、実際の企業では大量の詳細な分析を要するモデルや手法に対して、戦略策定スタッフに過度な依存をし、いわゆる「分析マヒ」状態に陥るといった弊害をもたらしたり、どうしても過去のデータや経験に対する分析をしがちになってしまった。

これに対して、実際の経営戦略の形成過程を考察するのが「プロセス型戦略論」である。そこでは、企業における戦略の策定と実行が、相互作用しながら漸進的に進化するプロセスとして捉えられる。

プロセス型戦略論においては、戦略意図、誘導戦略、戦略計画、創発戦略、戦略実現、戦略未実現、戦略学習が、その要素である。

戦略意図とは、理念やビジョンがトップによって構築されることである。

誘導戦略とは、戦略意図を受けてさまざまな戦略を誘発するようなドメインを決めることである。

戦略計画とは、誘導戦略に基づいて論理的、分析的に戦略を形成することである。分析型戦略論の考え方が、プロセス型戦略論には包含されている。

創発戦略とは、戦略計画になかった偶発事態を戦略に取り込むことである。ミンツバーグによれば、明らかな意図なくして、あるいは意図に反して現れる戦略のことである。

戦略実現とは、創発戦略も含めて実現された戦略は誘発戦略へとフィードバックされ、さらなる誘発戦略が生まれる。そして、誘発戦略がさらなる創発戦略を生む引き金となる。

戦略未実現とは、戦略計画がさまざまな原因によって実現されないことである。失敗も誘発戦略へとフィードバックされる。

戦略学習とは、組織における知識の蓄積、さらに意識的な棄却の過程である。

分析型戦略論においては、戦略の策定と実行が区別されるが、プロセス型戦略論においては、戦略の策定と実行を区別せず、組織のさまざまなメ ンバーで策定から実行まで議論を交えながら進めていくことになる。そうでなければ、戦略のコンセプトとコンテントはばらばらになってしまい、誘発戦略から創発戦略が、創発戦略から誘発戦略 は生まれないし、戦略学習は損なわれる。

 

この数十年の経営戦略学史を観察すると、「ポジショニング学派」と「ケイパビリティ学派」の対立構造が際立っています。「ポジショニング学派」は、「テイラーの科学的管理」に源流があり、「定量的分析や定型的計画プロセスで経営戦略は理解でき解決できる」という立場とります。

一方、「ケイパビリティ学派」は、「メイヨーの人間関係論」に源流があり、「企業活動は人間的側面が重く定性的議論しか馴染まない」という立場をとります。

ポジショニング学派は、「外部環境が大事!儲かる市場で儲かる立場になれば自ずと儲かる」、ケイパビリティ学派は、「内部環境が大事!自社の強みがあるところで勝負すれば儲かる」と、それぞれ唱え、相手を否定します。

 

ポジショニング派は「重要なのは外部環境。儲かる市場で儲かる立場を占めれば勝てる」と言い、ケイパビリティ派は「大切なのは内部環境。自社の強みがあるところで戦えば勝てる」と言います。1960年代から1980年代はポジショニング派が優勢、それ以降はケイパビリティ派が優勢といったところでしょう。

ポジショニング派で知っておくべきはマイケル・ポーターでしょう。まさにポジショニング派のチャンピオン。「儲けられる市場」を選び、競合に対して「儲かる位置取り」をしていないと、どんなにケイパビリティを磨いても無駄だと説きました。実際、ハーバード・ビジネススクール(HBS)の古株の教授陣を駆逐し、我が城としています。

 

一方、ケイパビリティ派の大家がジェイ・バーニーです。イェール大学で博士号取得後、UCLAにて教鞭を取る。定量的分析を重視し、「SWOT分析」「ファイブ・フォース分析」といったさまざまな分析ツールを生み出してきたポジショニング派に対して、ケイパビリティ派は「企業活動は人間的側面が重く定性的議論しかなじまない」としていました。バーニーは、そこに統計分析的な手法を持ち込みました。その理論は未完成な部分が多々ありましたが、多くの学者に影響を与え、次の経営戦略論につながっていきました。

こうやって、経営戦略論に一本の「流れ」を示すことができたのは1995年くらいまででした。それ以降のさまざまな経営戦略論は、多くが同時並行的に進むようになっています。

 

ポジショニング派は「儲かる位置取り」が重要だというが、なぜ同じ業界でも、企業間で収益などのパフォーマンスの違いが現われるのか。バーニーは、その理由を企業の「資源」によると主張。その判断基準として「経済価値」「希少性」「模倣困難性」「組織」の4つを挙げ、これはVRIOフレームワークと呼ばれることになった。

 

ポーターは、業界の収益性(儲けられる市場か)を知るために、経営学に経済学的手法を持ち込みました(5フォース分析)が、バーニーらは、個別企業の収益性の差(儲けられる組織か)を理解するために経済理論を使ったのです。

彼らは、同じ業界にいながら企業間でパフォーマンス(収益など)に差があるのは、各企業が持つ経営資源の使い方の効率に差があるからだと考えました。

 

資源=有形資産(立地など)+無形資産(ブランド)+ケイパビリティ(サプライチェーンや経営判断能力など

 

資源の使い方がよければ「持続的な競争優位性につながる」と言うのです。

 

 

2つの軸による分類

『競争戦略論』(2012年)においては、経営戦略論の全体像を描き出すために、2つの分類軸による4分類の考え方を示している。

分類軸の1つは企業組織の「内部」と「外部」の区別である。企業利益の源泉が企業内部の資源・能力にあるのか、それとも企業外部の業界・市場の構造にあるのかという分類である。

もう1つの分類軸は、いわゆる「要因」と「プロセス」の区別である。利益をもたらす要因を重視するか、それとも利益をもたらす過程を重視するかという分類方法である。

さらに、上記の2つの分類軸によって、既存の経営戦略の研究を「ポジショニング・アプローチ」「資源アプローチ」「ゲーム理論・アプローチ」「学習アプローチ」の4つに分類しており、これまでの経営戦略論の研究に関する主な流れと方向性を明確に示したと言えよう。

 

経営戦略理論の関係

経営環境の変化

戦略の焦点

 

静態的

 

動態的

外部適応

 

・ポジショニング理論

・戦略計画理論

・ゲーム理論

内部適応

 

・資源ベース理論

・組織学習理論

・創発的戦略理論

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