「経営計画」と「環境整備」

人間の価値は、異常事態のときほどよく分かる

赤字会社を立て直すのは自分の役目だという使命感があったのでしょう。『マネジメントへの挑戦』でも、一倉先生のマネジメントに対する真剣さと情熱が伝わります。

 人間の価値は、平穏無事のときより、社会の断層(急性の大きな異常事態)のときほどよく分かるという趣旨とのことを先生は言っています。今こそ社長の正しい姿勢とは何なのかを深く考える必要があるのでしょう。

一倉先生は、指導先企業に「経営計画書」の策定と 環境整備の実行を薦めていた。ただ、

一倉式「経営計画書」には気をつけなければならない点があります。それは、先生の社員に対する見方が、「社員はサボる者で、経営者になれないものが社員をやっている。社員に期待するのは間違いである」ということです。
 ダグラス・マクレガーのXY理論で言えば、一倉先生はX理論に立っていたということでしょう。それゆえ、先生の経営計画書では、型にはめて社長の指示命令を徹底的に実行させる方法が取られています。
 この方法は、今でも一部有効な会社があると思います。例えば、性格の荒い社員が集まっている職場や体育会系の職場には合うのでしょう。しかし、最近の若手社員や それほど気の荒い社員がいない会社では この方法論は合わないようです。
 これからのマネージャーは、部下に対して父や母や兄や姉のように接して、理解して認め

てあげて仕事を一緒にしていかなければなりません。X理論の会社では離職者が増え立ち行かなくなるでしょう。

 

「経営計画」と「環境整備」

一倉先生の指導は主に次の2つです。「経営計画」と「環境整備」です。

 環境整備は経営者と従業員の姿勢を変えるものです。経営計画を作り、環境整備を始めると、社長と社員の心に革命が起きる。人の心に革命を起こすくらい社長が「鬼」にならないと会社は変わらない。経営計画書は「魔法の書」と呼ばれていますが、当初、一倉先生は「革命の書」と言っていたのも、心に革命が起きるほど劇的な変化が起きることから、その言葉を使っていたのだと思います。

環境整備は、規律、清潔、整頓、安全、衛生の5つを対象にしています。
規律とは、「決められたことを必ず守る」ことと「指令が必ず行われる」ことです。

清潔とは、「いらないものを捨てる」「いるものを捨てない」と先生は定義しています。

清掃は清潔の一部という位置づけです。
 整頓は、「物の置き場所と置き方を決める」ことと「置き場の管理責任者をきめて表示する」ということです。

安全、衛生に関しては、規律、清潔、整頓ができれば自然にできるから特に考えなくてもよいと先生は言います

清掃ですが、毎日勤務時間中に担当場所を分担して全員で実施するのがよいのです。
1ヵ月単位で、今月のトイレ掃除は誰それ、窓ふきは誰それ、床拭きは誰それと、全員が毎

日清掃するようにします。15分くらいで終えるようにするとよいでしょう
環境整備の状況は社長が毎月チェックするとよいです。点数化して、部門、個人別に点数を

つけて、賞与や昇級の評価に加えるのも一つです。

赤字企業を黒字化するくらい、朝の掃除は効果があるのです。一倉先生は、最も優れた社員教育は環境整備だという考えでした。「環境整備には、いかなる社員教育も、どんな道徳教育も足下に及ばない」と実体験から述べられています。

一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より

須梨槃特(しゅりはんどく)は仏典の登場人物で、生まれつきの障害からか非常に物覚えが悪く生活にも困窮するほどでした。しかし、出家したのちにお釈迦様から授けられた「塵を払わん、垢を除かん」という2つの言葉を、他の修行僧たちのわらじの汚れを取り除きながら唱え続けるうちに悟りを得たのです。

このような記述から、一倉先生は、「塵を払い垢を除く」環境整備は、意識革新にいたる早道だと考え、自身の経営学の中心に据えたのだということがわかります。

一倉先生による清潔の定義を引用します。

清潔とは、きれいにすることではない。清掃することでもない。
それは、
①いらないものを捨てる
②いるものを捨てない

ということである。
一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より

清潔とは、きれいにすることでもなければ清掃することでもない、という否定から始まります。初めて読んだ人は驚いてしまうでしょう。

「清潔にする」ということは、「きれいにすることであったり、清掃することではないの?」と、そのように認識している人も多いと思います。だからこそ、一倉先生は、「勘違いしちゃいけないよ。一倉式環境整備の『清潔』は、きれいにすることを目的にしているんじゃないんだ」と、初めにクギを刺しているわけです。

そのうえで、①いらないものを捨てる、②いるものを捨てない、と「清潔」を定義している。また、このいらないものを捨てて、いるものを捨てないということも、読んだ限りではアタリマエのことじゃないかと思うかもしれません。しかし、このアタリマエのことができないわけです。いらないとわかっていながら捨てられない、いるのに捨ててしまうのです。

 

捨てられない状態は便秘と同じ

このような状態について、面白いたとえをもとに語った文章が一倉先生の『経営の思いがけないコツ』に載っています。

そこでは、「捨てられないということは、人体にたとえると便秘の状態だ」というのです。逆にいるものを捨てたら、下痢であると。これは不健康であるということですね。このような状態が続いていけば、人は病気になってしまいます。

さらに、「会社や家庭、公共の場であっても、いらないものを捨てずにおいたら、不潔であり、邪魔であり、腐れば悪臭を放つ。同時に悪い『オーラ』が発射されて、不愉快だけでなく、健康にも悪く、人々をイライラさせる。百害あって一利なしである」と、たたみかけています。

 

先生は、一倉定の社長学『経営戦略』の中で、「社長の決定で最も難しいのは「捨て去る」という決定である」と言っています。

論より証拠、優秀会社は例外なく「捨てる名人」であり、破綻(はたん)した会社は例外なく「切捨音痴」である。

社長の決定の中で最も難しいのは「捨て去る」という決定だと言い切っています。さらに、一倉先生のコンサルティングのうちで、最も難しく、最も急ぐことこそ「捨て去る」ことを納得させることなのだ、という告白をさらりとしています。多くの赤字会社を救ってきた一倉社長学の神髄の1つがここに披露されています。

赤字会社を救済するためには、社長の間違った考え方を捨てさせる「説得」こそ、瀕死の会社を救済するために最も急がなくてはならないことなのです。環境整備において、毎日捨てることの実践をしていく中で、リーダーとしての捨て名人としての道を歩んでいく必要があるのです。

 

「会社が存続している限り」毎日1時間環境整備を

一倉式環境整備について、環境整備を、「何日続ければよいのか?」「休みを入れてよいのか?」「どのくらいの時間やればよいのか?」。

必ず、正規の勤務時間に毎日一時間行う。大切な活動だから、勤務中にやらなければダメだ。時間外にやるのは、“搾取”である。これをやると、社員はたちまち反撥してくる。
 そして、毎日一時間というのは、「会社が存続している限り行う」ということである。
きれいになったから、三十分に縮める、というようなことをやったら、必ず元の木阿弥(もくあみ)になってしまう。”(一倉定の社長学第10巻『経営の思いがけないコツ』より)

ここが、ほかの環境整備や5Sと大きく違うところです。

一倉先生は、どんなコンサルタントよりもさまざまな業種を指導してきた結果、例外なく、勤務時間内に「会社が存続している限り」、毎日1時間行いなさいと言っています。きれいになったからといって30分に縮めてしまっては駄目だとクギを刺しています。

慣れてくると私たちは30分にしがちです。きれいだからと言って30分に縮めたら、きれいになれば10分に、さらに1日おきでよし とエスカレートしていって、最終的に環境整備自体が終了してしまいます。

勤務時間内に環境整備の時間を1時間取らなければなりませんが、考えてみてください。社員に給料を払って1時間、環境整備をさせられますか? 例えば、時給1000円だと、10人社員がいたら、毎日1万円です。そう考えると経営者にとって、勤務時間内の1時間は大変貴重です。さて投資できるでしょうか?

この1時間についての一倉先生の回答です。

貴重な仕事の時間を、一日の休みもなく、全社をあげての環境整備にさくのである。
知らない人が見たら、「何ともったいないことをしているのだ」「狂気の沙汰だ」と呆れてし

まう。先生の考え方がよくわかります。

ある会社では、熱心な税理士が、「貴重な時間を掃除にあてて、年間250時間もムダをしている。年間の人件費に換算すると、1千万円以上になる」と、計算書までそえて社長に提出した。社長は、まったく聞く耳などもっていなかった。その税理士は、怒ってやめてしまったが、社長は、これでセイセイしたというような顔をしていた。1日1時間の環境整備で、社員の仕事ぶりがまったく変わり、お客様の信頼も高まって、売上げが増加したからである。
 このように、環境整備を行っている会社では、その威力を知っているので、環境整備の時間ほど貴重な時間はないのである。

社長にとって、一見、狂気の沙汰と思える毎日1時間の環境整備を行えば、社員の仕事ぶりが変わり、お客様の信頼が高まり、売り上げが増加します。会社にもたらす利益は無限大なのです。

環境整備こそ、すべての活動の原点である
環境整備とは、規律・清潔・整頓・安全・衛生の五つを行うことである
環境整備には、いかなる社員教育もどんな道徳教育も足元にも及ばない

 

経営が傾く会社は清掃ができていない

 環境整備とは、規律、清潔、整頓、安全、衛生の5つの活動を行うことですが、一倉先生は、環境整備を会社のあらゆる活動の原点に位置づけています。

 決められたことを守り、指示や命令を必ず実行し、要らないものを捨て、要るものを残し、ものの置き場所と置き方を決めるという 基本を毎日徹底することで、強い組織ができるというのです。逆に言えば、このような基本がおろそかになっているところは、業績も悪いということです。

 

幸福の科学大川隆法総裁は、以下のように説かれました。

「経営成功学部では、一倉定というコンサルタントの経営学もかなり取り入れており、中小企業レベルの経営学だと、この人の言っていることは ほとんど当たっているのですが、「経営が傾いている会社は、要するに、その会社の建物に入ったらすぐ分かる」というようなことを言っています。

そういう会社では、清掃や整理整頓がまったくできていません。また、メーカーなど、何か物をつくっているところでは、工場を見れば会社の状況がすぐ分かるのです。

片付けができていなくて、いろいろな所に道具などが散っていたり、ゴミがあったり、ネジが落ちていたりするので、工場を視察したら その会社が大丈夫かどうか すぐ分かるわけです。

銀行であれば、「この会社に融資してもよいかどうか」ということは、工場の清掃状態を見れば分かりますし、経営者が見ていないところについても分かります。そういう部分には、従業員の志気や仕事に対する情熱、使命感が表れてくるわけです。

よくできる会社では、驚いたことに、社長自らが作業着を着てトイレの掃除をしています。「朝早くから、おじさんが作業着を着てトイレのタイルを拭いているので、社員が『誰が何をやっているのか』と思ったら、それは社長だった」ということもあるのです。社長が朝の8時や7時半から来て、トイレの掃除をしていたら、そのあと のんびり出てきた社員たちは引き締まります。「うわあ、社長がトイレを掃除している」と言い、翌日にはもう少し早く出てきて、自分たちがやらなくてはいけなくなります。このように、社長が率先垂範をする場合もあるのです。

それから、工場にゴミがたくさん落ちていたりすると、不良品が多く生まれ、不良品率が高くなります。」(『未知なるものへの挑戦』P-130~132)

 一倉先生は、環境整備を半年も続ければ、会社が生まれ変わったようになると言っています。それも、「社員の人間性がまったく変わってしまう という普通では考えられないような奇跡的なことが次々と起こってくる」とまで述べています。

 凡事を徹底することで、よい習慣が自然と身に付き、本業の部分でも丁寧でミスのない仕事につながっていく部分があるのだと思います。

また、整理整頓がしっかりしていれば、些細な異常があってもすぐに気づくことができます。

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