人材活用の3つの論点

「抜擢人事」  「定期的人事異動」  「外部人材のスカウトの限界」

抜擢人事

 「抜擢人事」は、優秀な若手をきちんと昇進させるということです。

 特に中小企業の場合は、経営者とその一族が要職を占めてしまい、いくら頑張っても昇進はないという組織になりがちです。厳しい試練を乗り越えて会社を運営してきた経営者から見れば、どんな社員も頼りなく見えるものですし、「あれが足りない これも足りない」と感じるものです。しんし、一倉先生は、「若いということは、抜擢をためらう理由ではなくて、抜擢を決める理由である」と述べています。

 特に、将来の経営幹部の候補として期待できる人材については、早めに抜擢する必要があります。経営能力というのは、通常業務の延長上にあるわけではなく、部下としての業務とは別に経営者としての能力を磨く必要があるからです。技術力が社内一であれば経営ができるわけではありません。営業成績がトップであれば経営ができるわけでもありません。「経営能力そのものは、実際に経営をしてみなければわからない」と言われるように、抜擢されて はじめて その才能が出てくるものです。誰でも抜擢すればよいというものではありませんが、優秀な人や磨けば光ると思われる人は、抜擢されるほどその力を発揮するものです。活躍の場を与えることで、将来会社を背負って立つ人材が育ってきます。

 

人事異動は人を育てる

 定期人事異動も大事です。

 同じ部署で仕事を延々としていると、熟練してくるというメリットもありますが、マンネリ化するというデメリットもあります。定期的に異動させると、せっかく仕事を覚えた頃に別の部署に行って、新しい部署で一から仕事を覚えることになるので、効率が悪いように感じます。しかし、様々な部署を経験することで、会社全体を見る目を養うことができ、将来の経営幹部が育つという大きなメリットがあります。

 

幸福の科学大川隆法総裁は、以下のように説かれました。

「どうしても全体の経営者に育てていきたければ、やはり、幾つかの重要な部門を歩かせなければなりません。そうしなければ、全体が見えるようにはならないのです。

その部分では資源の無駄が生じます。経営全体としては一時的にはマイナスが出るのです。給料の面でもマイナスですし、その人のキャリアにとっても人材養成の上でもマイナスです。いろいろな面でマイナスが一時的に出るのです。

このマイナスに耐えられるか。人を経営管理者に育てていこうとするローテーション、あるいは訓練に耐えられるか。

組織がさらに成長・発展していけるかどうかは、ここにかかっています。

トップあるいは それに準ずる人たちが、それだけの見識を持っているか。それだけの胆力を持っているか。そういうシステムによって一時的に無駄が発生するが、それに耐える必要があることを理解しているか。

また、養成されている側の人は、「不慣れな仕事に挑戦しなければならない」という厳しさに耐えられるか。今の部署で課長ができたのに、全然違う部署に行くと課長ができない。しかし、「それをやれ」と言われる無茶なことに耐えられるか。そこに3年いて、「慣れた」と思ったら、また替えられる。これに耐えられるか。

それに耐えて残った人、および、そういうシステムに耐えさせて、人を引き上げていく組織をつくりえた人のみが、組織を発展させて永続性の道に入らせることができるのです。」(『未来創造のマネジメント』P-272~274)

 定期的な異動は、経営幹部を育てることができるが、セクショナリズムの防止にもなります。営業の人はずっと営業部門、製造の人はずっと製造部門になると、両者の部門間の溝は深まるばかりです。業績不振になると、営業は「製造部門がよい商品をつくらないからだ」と言い、製造は「営業が売らないからだ」と言い合うようになります。互いの立場を理解するには ある程度の人材の交流が必要になります。スペシャリストを育てることも大切なので、すべての人が両方を経験すべきというわけではありませんが、一定の割合でゼネラリストを育成する必要があります。

 また、定期的な異動は、「隠れていた人材を発見できる」というメリットもあります。たとえば、腕利きの部長が異動になったことで、それまで隠れていた補佐役の課長の実力が発揮されるようなことがあります。

 

 個人として優秀なリーダーは人知れず部下を殺していることがある。一倉先生は、この現象のことを「人材の下には人材が隠れていても育たない」と表現しています。こうした悲劇は定期的な人事異動で防ぐことが可能です。様々な意味で、人材の流動化は会社の活性化に必要だと言えます。

 

スカウトの落とし穴

 ある程度会社が発展してきて、組織としての体制づくりが必要な段階に入ってくると、生え抜きの社員だけでは限界が来るようになります。そこで検討を始めるのが「外部人材の活用」です。

 よくあるのが次のパターンです。

 ・銀行や会計事務所出身の人を経理の責任者に据える

 ・大企業で工場長をしていた人を生産部門のトップに据える

 ・業界の監督官庁にあたる役所を定年退職した人を経営幹部として招く

 

 残念ながら、一部の例外を除いて、中小企業の場合はうまくいかないことが多いようです。

 経理の仕事で言うと、中小企業の経理というのは、単に帳面をつけていればよいという気楽な仕事ではありません。経営者の右腕として、日々の資金繰りに頭を悩ませながらお金をやりくりしなければなりません。倒産間近の会社で自殺をするのは社長か経理担当者かというくらい、胃に穴が開くような仕事なのです。

 銀行マンや会計士は、会計の知識に関して言えば、中小企業の奥さん経理とは比較にならないほどレベルが高いのは確かです。しかし、その経験は、あくまでも客観的に帳簿を見て正確に決算書類をつくるなどの仕事をしてきたというものです。客観的に死にもの狂いの資金繰りなどはやったことがないのです。会計の知識があれば資金繰りができるわけではありません。

 また、大企業出身の技術者が町工場レベルの会社に来てもうまくいかないのは、組織の大きさが違うと 求められる仕事の能力が異なるからです。

 1本100mもあるような大きな生産ラインを稼働させることと、小さな旋盤を使って工夫を凝らすのとは まったく別の能力です。大きな自動車メーカーなら、エンジンだけ、内装だけ、電装だけ、塗装だけと、専門分化していき、それぞれ深い専門知識が必要です。しかし、町の自動車整備工場であれば、その全てについて一通り知っておく必要があります。組織の大きさに落差があり過ぎると、中小企業に来てもうまく対応できないのです。

 監督官庁などからの天下りは言うまでもありません。官庁とのコネクションがあれば、業務上都合がよいという計算が成り立つかもしれませんが、公務員出身の人で経理能力があるかは疑問です。

 「専門家だから」「大企業出身だから」うまくいくという単純な話ではないことだけは知っておくべきでしょう。

 

幸福の科学大川隆法総裁も、外部人材のスカウトについて次のように注意を促しています。

「「幹部に能力がなくなったから」という理由で、外部から人を採り、すぐに重要な立場に就ける場合もありますが、ある会社でキラキラと輝いていた人でも、別の会社に入ると それほど仕事ができないことはよくあるのです。

それはそうです。今スタープレーヤーとして仕事をしていても、その会社での知識や経験があるからこそ輝いているのであり、よその会社に移れば いきなりには仕事ができないのです。

他の会社の人を採って幹部に就けても、成功率は3割か4割と言われています。6割から7割は失敗するのです。

よその会社で大いに頑張っている人を、「この人は当社でも活躍するだろう」と考え、自分の会社に転職させて重要な立場に置いた。ところが、「よそではあんなによく仕事ができた人が、なぜこれほどできないのだろうか」と思うぐらい満足のいく仕事ができない。そのため、高い報酬を払ったにもかかわらず、その人に2、3年で辞めてもらわなくてはいけなくなる。残念ながら、こうしたことが繰り返し起きています。

会社が発展しているときに、救いを求めて外部から人を呼び、その人を何かの部署の長に就けても、そう簡単には成功しないことがおおいのです。したがって、会社の成長速度と人材の成長速度のバランスをよく見ないといけません。

外部の人をヘッドハンティングする場合には、その人が成長するまでには時間がかかると思って、いきなり重要なセクションには就けず、鍛える時間を少し取らないと駄目なのです。その部署のナンバーツーの立場に置いたり、もう少し易めの立場に置いたりして、地ならしをしてから使わなくてはいけません。いきなり重要なところに投入すると、バリンと割れてしまいます。」(『未来創造のマネジメント』P-73~75)

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