年金は大丈夫? (3) 賦課方式

公的年金は世代間扶養の仕組み

 個人が納めた保険料を積み立てて、その運用益とともに個人に返す仕組み(積立方式)ではなく、現役世代の納める保険料で高齢者世代の年金給付を賄う世代間扶養の仕組み(賦課方式)で成り立っている。

 今の現役世代が将来次の世代に支えられるときの財源に充てられることになります。一部積立方式を採用しているからです。

公的年金のインフレ対応機能

 現在の年金制度は、1961年に大幅改訂されたが、当初積立方式だったのが、途中で「その時の現役世代が年金受給世代を養う」という賦課方式に切り替わった。 1950年代は現役世代10人に対し、年金受給世代は1人だったので、賦課方式は作動した。

 問題は、当初は「積立方式」で、自分で出した年金保険料が老後に戻ってくる仕組みだったところを、いつの間にか「賦課方式」に転換してしまったことです。

 1954年、厚生年金保険法の全面改正(現実に老齢給付の開始)、「定額部分+報酬比例部分」という給付設計、修正積立方式を採用、賦課方式への道をつくった。「賦課方式」とは、現役世代が払い込んだ年金保険料を、そのまま高齢者の年金として横流しする仕組みのことを言う。

1940年生まれの人たちは、生涯で納めた保険料より 3500万円多くもらえる。その一方で、2010年生まれの子供たちは、生涯で 2800万円少ない金額しかもらえない。こんな莫大な「格差」が生まれてしまっている。

 一方、積立方式とは「現役時代のうちに、自分の老後に使うための年金を積み立てておく」という方式。「自分の老後は自分で面倒を見る」というものであり、その根本には「セルプヘルプの原則」がありました。

 高度経済成長の中、物価は急上昇。いわゆるインフレ傾向が続きました。しかも、年金制度が始まった時より平均寿命が延びました。そのため、働いていた時に積み立てていたお金を額面通り受け取っても、十分な生活はできず、払った以上のお金が給付されるようになりました。ここで積立方式は事実上崩壊しました。

 賦課方式とは、「自分が老後に受け取る年金は、そのときに生きている現役世代が払う保険料によって支えてもらう」という財政方式。

 言い換えれば、「若いころに他人の老後の面倒を見たかわりに、自分の老後も他人に面倒を見てもらう」というやり方である。こちらは セルフヘルプ ではなく、「世代間扶養の原則」と言うことができる。

 私たちが納めた保険料は、その時点の高齢者の年金に使われて消えてきた。ところが厚生省が「修正積立方式」という紛らわしい呼び方をしてきたため、あたかも積立方式であるかのような誤解を招き、ネズミ講であることが気づかれにくかった。

 支払った保険料は自分の「口座」に積み立てられるわけではありません。そのまま今の高齢世代に「仕送り」されているのです。今の引退世代に支給する年金を、そのまま現役世代から徴収しているのです。「割り当てて徴収する」ことを「賦課」と言います。そのため、この「仕送り」方式は「賦課方式」と呼ばれています。

 この「仕送り方式」は、「仕送りする現役世代」が「仕送りされる引退世代」に比べて多ければ成り立ちます。小遣いレベルの負担で済むからです。しかし、「仕送りする現役世代」が「仕送りされる引退世代」に比べてあまりにも少なくなれば続きません。何人もの『親』に仕送りをしていては、家計が破綻してしまいます。この制度を維持するためには、仕送りする側は身ぐるみはがされてしまうからです。

 政府はなぜこんな結果を招く仕送り方式(賦課方式)にしたのでしょうか。「昔は人口も増えていて、人々の給料も高かったから、『仕送り方式』でも回ると思った。」ということでしょう。ただ、子供から親への「仕送り」が成立するためには、当たり前のことですが、子供がいることが前提です。さらに、自分の生活を成り立たせながら、親にも仕送りできるだけの十分な収入が子供になければなりません。これを国家レベルでいえば、人口が増え続け、経済成長し続けることが、賦課方式が成り立つ前提です。

 ところが、次第に以前のようには人口が増えなくなり、むしろ減り始めました。さらに、経済成長は鈍化し、今ではインフレどころかデフレです。そうした状況なのに、政府は一度始めた「賦課方式」をやめることができず、微調整するだけで維持してきました。そのため、高齢者世代の多くは払ってきた以上のお金を受け取り、現在の若い世代は払った分のお金すら戻ってこないかもしれない、という状況になったのです。

 現状では、社会保障費の半分を占める年金に関しては、「賦課方式から積立方式への移行」というような抜本的な改革は行われる気配はありません。

 医療・介護に関しても、健康を維持・増進して医療費を削減するような試みは実施されず、大企業や高所得者への負担を増やすだけの施策にとどまりました。

 「安心」を確保しながら、負担を増やさないためには、現在の「常識」を一旦、白紙で見直すことが必要です。

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