標的市場の選定
フレームワークを活用して環境分析を終えた後、マーケティング課題の特定を行えば、マーケティング活動の全体像が見えてきます。マーケティングによって何を実現したいのか、あるいはどんな市場にどのようにアプローチしていくのか。そういった情報を正確に把握しておくことにより、マーケティングを取り入れた経営の輪郭がつかめるようになるのです。
マーケティング戦略策定のプロセス
おおむね次のような工程となります。
環境分析→マーケティング課題の特定→標的市場の選定(セグメンテーション、ターゲティング)→ポジショニング→マーケティング・ミックス→マーケティング戦略の完成→計画と実行→効果測定
標的市場の選定
「標的市場の選定」とは、人や属性、あるいは購買嗜好など、さまざまな種類の消費者や競合他社がいる大きなマーケットのなかから、市場を分類し(セグメンテーション)、自社が勝負できる市場に的を絞る(ターゲティング)ことです。
つまり、「自分たちの顧客はだれか?」に答える作業です。
このとき、前段の分析結果や課題を反映させて考えなければ誤った市場を標的としてしまうおそれがあります。そうなれば、マーケティングを実践することにならず、問題を解決することはできないでしょう。とくに、資源が限られている中小企業の場合には、経営資源を無駄にしないためにも、できる限り慎重に判断したいところです。
その後、認知度を高め、より優位に戦略を推し進めるために差別化を行います(ポジショニング)。
これらの過程を経ることで、どの市場、どの顧客、あるいは、どの競合他社に対して経営資源を投下すればよいのかが明らかになるのです。
どんな企業でも使える資源の量は決まっています。だからこそ、より効率的に経営資源を配分することが重要になるのです。
マーケティング課題を確実に解決するためには、そのような戦略的な思考が欠かせません。
ベネフィット
お客様があなたの商品を買うのは商品自体が欲しいのではありません。商品がお客様にもたらす何か良いこと、それを買っているのです。
ドリルを買うのは、ドリルという器具ではなく、穴が欲しい
コーヒーを飲むのは、黒くて苦い液体ではなく、リラックスや眠気覚ましが欲しい
高級車を買うのは、1tの精密機械ではなく、見栄がはりたい
ゴルフクラブを新調するのは、金属の棒が欲しいのではなく、飛距離や良いスコアが欲しい
お客様は、あなたの商品が欲しいわけではなく、自分にとって良いことが欲しい。当たり前のことですが、ついつい忘れがちなことです。
これが「お客様に価値を提供してお金をいただく」の「価値を提供」という部分です。「穴」「リラックス」「見栄」「スコア」がそれぞれ価値なのです。
差別化と強み
しかし、そのベネフィットを満たそうとしているのは あなただけではありません。競合商品が存在します。その競合商品よりも、あなたの商品を買わなければいけないことをお客様に納得していただく必要があります。
競合商品と全く同じであれば、安い方を買うでしょう。あなたがコストリーダーであればそれでも良いかもしれませんが、これはなかなかきつい話です。価格競争力を持つのは素晴らしいことですが、価格だけで勝負すると、体力勝負になってしまいます。天下のマクドナルドだって、価格だけでは勝負していません。英会話教室のシェアトップ、NOVAも低価格だけではやっていけなくなり、値上げしました。
競合商品ではなく、あなたの商品を買う理由、競合商品との違いをお客様に訴える必要があります。
小売店の場合、扱っている商品が競合店と同じこともあるでしょう。それでも、あなたの店から買う理由を納得していただく必要があります。そうでなければ、泥沼の価格競争になり、負けた方は退場、買った方も傷だらけ となります。
では、何を持って差別化すると言うかと、あなたの会社の強みを使うのです。普通、弱みで差別化することはありませんから、「差別化ポイント=あなたの強み」ということになります。あなたが競合他社より強いところで差別化しようとしなければ、負ける、追いつかれるだけです。
強みについては、3つの方向性で考えるといいです。
1)手軽軸:
より低価格で、より便利に買いやすくする
2)商品軸:
最新の技術の製品、最高のサービスを提供する
3)密着軸:
お客様のことをよく知り、望み・わがままをかなえる
通常は、この3つのどれかで差別化することになります。
例えば、美容院の場合
1)手軽軸
安くて早い理容店。例えば、10分1,000円のQBハウス
2)商品軸
最新技術・流行を駆使するカリスマ美容師。表参道などの繁華街にある。
3)密着軸
お客様のことをよく知り、おしゃべりもうまく、「いつもと同じね」と言えばいつも通りに切ってくれる というような差別化戦略になります。個人顧客対象、法人顧客対象を問わず、ほぼ全ての業種・業態でこれは起きています。
お客様は正直です。よりお客様にとって便利な方、より役立つ方、よりたくさんの情報を提供してくれる方、より見やすい方、より愛想のよい方などから買うわけです。それぞれが強みの例です。強みがないということはありません。必ず何かはあるはずです。
標的市場の選定に必要な3つのステップ
標的市場の選定は「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」という3つのステップを経て行われます。
そもそも、マーケティングの目的がある特定の課題を解決するためにあるとすれば、その問題を解決するためにすぐにでも行動を起こしたほうが良いと考える方もいるでしょう。
しかし、環境分析とマーケティング課題を特定しただけでは、マーケティング活動の輪郭しか見えていません。より詳しい調査・分析を経てからでないと、望むような成果は得られないのです。
もちろん、行動しながら学ぶことも多いのですが、とかく人間は これまでの経験や勘を頼りにしてしまいがちです。
マーケティングの本来の効力を発揮することができず、通常の経営方法となんら変わりはなくなってしまいます。
課題があるのは、これまでの経営に問題があったからだと理解し、まずは正しい手順を踏むようにしましょう。
あなたの強みがわかったら、それを評価してくれるお客様はどんな人かを探りましょう。
あなたの強みを評価してくれないお客様を長期的に維持するのは難しい。もちろん、評価してくれなくても、買っていただければそれでよいのですが、それを頼りにすると売上が安定しません。そのお客様が評価する強みを提供する顧客に簡単に奪われてしまいます。
あなたの強みが きめ細やかなサービスなのであれば、それを評価してくれるお客様を定義するのです。
セグメンテーションというのは お客様を分けることです。ターゲティングは、その分けたお客様のどれかに絞って狙いをつけることです。
セグメンテーション
セグメンテーションとは、市場を一定の指標にそって細分化することです。
たとえば、年齢、性別、職業、年収、家族構成などがその指標の一例です。
セグメンテーションによって、次のターゲティングのもととなる母集団を割り出し、マーケティング戦略をより効率的に進めることができるようになるのです。
具体的には、調査・分析を経て、個々の母集団のプロフィールを描いていきます。
市場にはさまざまな属性の人がいます。地域によっては、その市場のなかではっきりとした共通項がある場合もありますが、必ずしも理路整然と並んでいるわけではありません。また、競合他社の存在を考えると、市場全体をそのままターゲットとするのは非効率でしょう。だからこそ、市場全体に的を絞るのではなく、セグメンテーションによって細分化する必要があるのです。
ただ、その企業が取り扱う商品やサービスに関する項目においてセグメンテーションをしなければ意味がありません。
もちろん、必ずしも最初からどのように細分化すべきかは明確ではありませんが、「女性が好むだろう」「若年者には向かない」など、あらかじめ仮説をもってセグメンテーションした方が良いことは言うまでもありません。
市場には、さまざまなニーズやウォンツが顕在的・潜在的に ごちゃ混ぜの状態となっています。そのため、そのままではマーケティング戦略を有効に実施することができません。企業側としては、より多くの人をターゲットとして商品やサービスを売り出したいと思うかもしれませんが、それでは焦点がズレたものしか生み出せないのです。
付加価値や自社の強みを生かして差別化するための基準となるのが、市場をさらに細分化した「市場セグメント」なのです。
市場全体をみて商品やサービスを作るのではなく、市場を細分化しつつセグメントを分析して、よりピンポイントなニーズやウォンツに対応できるように商品やサービスを開発するのです。
セグメンテーションの実践
セグメンテーションを行う場合には、市場を細分化するための「変数」を活用します。
変数とは、どのような基準で市場を分類するかの判断材料のことです。たとえば、年齢、性別、職業、年収、家族構成、あるいは価値観など多種多様です。
これらの要素の中から、いかに顧客の心に響くようにセグメンテーションを行えるかが腕の見せどころと言えるでしょう。
それぞれの変数は、あくまでも市場を細分化するために使う指標ですので、どのような市場でも活用できるように一般化されています。
状況に応じて、カスタマイズしながら利用するようにしてください。
1 地理的変数 「地理的変数」とは、市場が存在する国、県、地域、エリアなど、地理に関する変数のことです。
場所によっては、1年を通して温暖なところもあれば、寒冷な地域もあるでしょう。もちろん、交通の便や住民の移動手段などにも違いはあります。文化やその国ならではの規制にも注意しておかなければ、ビジネスに支障をきたす可能性もあります。
2 人口統計的変数 「人口統計的変数」とは、年齢、性別、家族構成、職業、年収など、もっとも一般的なセグメンテーションの指標です。
教育レベルや治安、人種や宗教など、地理的変数と密接に関わっている要素もあります。
データを利用すれば比較的簡単に収集できるのが特徴ですが、同じセグメント内でも、異なるニーズやウォンツをもつ人が存在する可能性があるので注意が必要です。
3 心理的変数
「心理的変数」とは、社会階層、ライフスタイル、性格、あるいは価値観などの違いによる分類のための指標です。
人口統計的変数で分類されたセグメントの中にも、心理的変数によって異なるセグメントに分類される場合があります。
ライフスタイルで分類したセグメントから、そのままニーズを掘り起こせる場合もあるため、マーケティングでは重要視されています。
4 行動的変数
製品に対する知識や使用頻度、購買パターン、利用シーンなどから分類するための指標です。
新しいものを積極的に取り入れる人もいれば、既存の同じ商品を購入し続ける人もいます。
消費者の購入態度をもとにした「イノベーター理論」の5つのタイプなどは、行動変数を割り出すのに参考となります。
なぜ絞らないといけないのか
絞らなければ絞った競合に負けるからです。お客様を絞らずに多くのお客様を取ろうとすると、絞ってきた競合に負けるのです。あなたがある市場を独占していればよいのですが、通常は競合(広い意味での競合も含めて)が存在します。ですから絞るわけです。
セグメンテーション と ターゲティング はセット
絞らない、狙わないのであれば、分ける(セグメンテーション)必要はありませんし、狙うためには分けることが必要です。セグメンテーションとターゲティングは常にセットなのです。
そして、各メーカー間のマーケティングの考え方は2通りになります。
マス・マーケティング
低コストモデルで大衆のニーズに応えるマーケティング方法です。遡ると、20世紀にアメリカのフォード車が採用していた方法となります。
ただし、消費者の価値観が多様化している現代ではこの方法はマッチしません。
セグメント・マーケティング
自動車業界で例えると、価格帯別に車を分けて、顧客のセグメント毎に求められるグレードの車を提供していく方法になります。
この方法はアメリカのGM(ゼネラルモーターズ)が採用していました。
こちらは、規模の効果を損なわない程度のバリエーションを保ち、他社が参入できないくらいの製品をラインナップする方法となります。
また、定期的にモデルチェンジを行うことで消費者の購買意欲を喚起します。
あなたの強みがわかったら、または、決まったら、それを評価してくれるお客様はどんな人かを探りましょう。
あなたの強みを評価してくれないお客様を長期的に維持するのは難しい。もちろん、評価してくれなくても、買っていただければそれでよいのですが、それを頼りにすると、売上が安定しません。そのお客様が評価する強みを提供する顧客に簡単に奪われてしまいます。
あなたの強みが きめ細やかなサービスなのであれば、それを評価してくれるお客様を定義するのです。
「セグメンテーション」はお客様を分けることです。
「ターゲティング」は分けたお客様のどれかに絞ることです。
なぜ絞らないといけないのか、というと、絞らなければ絞った競合に負けるからです。たとえば、私が、全ての会社を対象としたコンサルティングを提供しているとしましょう。競合のコンサルタントさんが、メーカー向けのコンサルティングを提供したら、メーカーさんはそちらに行くでしょう。別のコンサルタントさんが、小売業向けのコンサルティングを提供したら、小売業さんはそちらに行くでしょう。お客様を絞らずに多くのお客様を取ろうとすると、絞ってきた競合に負けるのです。
あなたがある市場を独占していればよいのですが、通常は競合(広い意味での競合も含めて)が存在します。ですから絞るのです。
セグメンテーションとターゲティングは常にセットです。絞らない、狙わないのであれば、分ける(セグメンテーション)必要はありませんし、狙うためには、分けることが必要です。ですから、セグメンテーションとターゲティングは常にセットなわけです。
やり方については色々ありますが、セグメンテーションの本質は、ニーズが違うから分けるということです。
ターゲティング
セグメンテーションによって市場を細分化し、その全体像を把握することができたら、次は「ターゲティング」を行います。
ターゲティングを行うには、最初に、それぞれのセグメントについての評価を定めましょう。
たとえば、規模、成長性、収益性などの「市場の魅力度」と、自社の目指す地位や活用できる資源などとの整合性を総合的に勘案し、最終的な判断をします。
いくら規模が大きくても、いくら成長性があったとしても、そのセグメントをターゲットとしている競合が多数存在している場合には、あまり魅力的な市場とは言えません。
また、自社が目指す目標(シェアの拡大、売上の最大化、知名度の向上など)が叶えられそうになければ、同様にターゲットとするメリットは低いでしょう。
さらに、そのセグメントをターゲットとした場合に、事業が円滑に行えるかというポイントも見逃してはなりません。
場合によっては、顧客の要望に応えなければならないことや流通経路が固定化しているなど、それぞれのセグメントごとに特徴が異なりますので、あらかじめ慎重に調査・分析することが大切です。
ターゲティングとは、どの市場セグメントを標的として定めるのか決定することです。どんな企業でも活用できる経営資源には限りがあります。戦略的にターゲティングを行わなければ、競合がひしめき合うなかで競争を優位に進めていくことができないのです。
ターゲティングにおいては、いかに適切な標的市場に焦点を絞れるのかが重要となります。
そのためには、自社の強みや特徴、ビジョンや理念はもちろんのこと、市場や競合、顧客についても把握しておかなければなりません。
そのうえで、セグメンテーションによって細分化された市場のなかから、どこにターゲティングを行うべきかの議論を進めるのです。
市場攻略のアプローチとして代表的なものは、「非差別化マーケティング」「差別化マーケティング」「集中化マーケティング」の3つがあります。
企業の規模や投入する商品の性質などによって、いずれのアプローチ手法を選択するのかは変わっていきます。
1 非差別化マーケティング
非差別化マーケティングとは、市場を差別的にとらえず、その全体や最大のセグメントを標的として、ひとつの商品を投入する、いわゆる「マス・マーケティング」の手法です。
かつては、日用品などにおいて市場全体でひとつの商品が購入されるということがありました。そういった商品の場合、非差別化マーケティングが有効となります。
企業側としては、大量生産による製造コストやマーケティングコストの削減につながるというメリットがあります。
ただ、あくまでも、市場全体の平均的なニーズしかとらえることができないため、現代のようにモノがあふれている時代においては、必ずしも消費者の満足を得られるとは限りません。
そこで、「差別化マーケティング」や「集中化マーケティング」が生まれました。
2 差別化マーケティング
差別化マーケティングとは、市場を差別的にとらえて細分化し、商品をはじめとするマーケティング・ミックス(4P:製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)を、その細分化した市場ごとに用意する手法です。
差別化マーケティングを実践することによって、市場全体のどのセグメントに対しても、適切な商品を提案することができます。その結果、トータルの売上高が最大化されるというメリットがあります。しかし、多大な経営資源が必要になるということもあり、いかにコストと売上のバランスを保てるかが重要となります。そのため、比較的規模の大きい企業向きと言えるでしょう。
3 集中化マーケティング
3つ目は集中化マーケティングです。
集中化マーケティングとは、ある特定のセグメントに対して すべての経営資源を投入するというものです。ひとつの顧客セグメントに集中するというマーケティング手法です。
差別化マーケティングが大企業向けだったのに対し、こちらは中小企業でも活用できる戦略です。
集中化マーケティングにおいては、特定の商品で戦う「一騎打ち」や販促や人員投下に関する「一点集中」など、ランチェスター戦略もあわせて応用することが可能です。
なお、ひとつのセグメントに対して自社のマーケティング・ミックスすべてを投入することになりますので、より慎重にセグメントを選定しなければなりません。
ターゲティングの実践
「非差別化マーケティング」「差別化マーケティング」「集中化マーケティング」のいずれかを選択し、市場に対してどのようにアプローチするのかを決定したあとは、ターゲティングの最終決定のための詳細な判断を行います。
細分化した市場から、どのセグメントがよりベストなターゲットなのかを判断するには、次の9つの指標が活用できます。
・市場規模(Realistic Scale)
・成長性(Rate of Growth)
・競合状況(Rival)
・顧客の優先順位(Rank)
・到達可能性(Reach)
・反応の測定可能性(Response)
(上記6つの指標を「6R」と呼びます)
・自社の経営資源
・環境要因
・5フォース分析
市場規模(Realistic Scale) 規模が大きければ大きいほど、その市場・セグメントの魅力は高まります。一方、競合がすでに多い場合や新規参入社が増えやすいというマイナス因子があるため、総合的に判断することが大切でしょう。
いずれにしても、企業の経営を安定させるに足りうるだけの市場規模がなければ、ターゲットとして選定することはできません。
成長性(Rate of Growth) 市場規模が小さくても、成長性が高ければ可能性は大きくなります。
将来、確実に成長することが見込めるのであれば、早期に参入して先行者利益を得られることもあるでしょう。
ただし、成長性を完璧に見極めることはほぼ不可能なため、注意が必要です。
競合状況(Rival) 新規参入がしやすかったり、大きなシェアを有する先行企業がいる場合には、その市場・セグメントの魅力度は下がります。
また、多数の競合がいる場合にも、参入へのコストがふくらむことが多く、市場の魅力度は下がります。
顧客の優先順位(Rank) ターゲティングを行う場合には、標的顧客に対する優先順位を明確にしましょう。
市場への影響力が大きい顧客を優先してターゲティングを実施することにより、マーケティング活動を容易に展開できる場合もあります。
到達可能性(Reach) いくら市場・セグメントが魅力的でも、顧客に商品やサービスが到達できなければ意味はありません。
インターネットによる周知や販売も可能ですが、ターゲットによっては効果が薄い場合もあります。
反応の測定可能性(Response) マーケティング活動は、効果測定によって随時高めていかなければなりません。そのためには、広告効果や顧客満足度などの反応を計測する必要があります。効果が明らかにならなければ、改善や方針転換が難しくなるでしょう。
他にも、「自社の経営資源」「環境要因」や「5フォース分析」を駆使した6Rの総合的な判断を加え、市場・セグメントを評価してみてください。
ターゲティングは、その後の経営活動を大きく左右する意思決定です。
9つの指標すべてを検討するのは時間も労力もかかることですが、できるかぎり慎重に行うべきでしょう。
将来的には、ターゲットの変更や消費者動向も勘案しておくべきです。
ポジショニング
ポジショニングとは、ターゲット市場において自社が他社よりも優位に立てる位置づけを見出すことです。
セグメンテーションを終え、そのなかからターゲティングを行ったら、その後は「ポジショニング」を通じて差別化を図っていきます。
来店が基本であった電化製品の販売を、訪問型や配送型に切り替えることで、移動が困難なお年寄りの需要に対して的確に対応できるようにするという戦略です。
また、地域に密着すればリピートも期待できます。
もっとも、どんなに良いサービスや商品を打ち出しても、顧客に認知されなければ意味がありません。そのため、最初のうちは利益を度外視した手厚い訪問サービスを展開する必要があるかもしれません。あるいは、チラシ配布やイベントの実施など、地域に働きかけることも必要となってくるでしょう。その場合にも、企業本位ではなく、お客さまに喜ばれることを念頭におかなければなりません。
通常、適切な市場を選定して、優良な商品やサービスを提供すれば、それだけで売上があがると思ってしまいがちです。かつてはそういった時代もありましたが、現在では、それほど甘くありません。現代は、数多くの企業が存在し、それに比例して商品やサービスもたくさん市場に投入されているのです。
日用品や飲食業など、参入障壁の低い市場では、むしろ供給過多になっているぐらいで、まさに飽和状態といえるでしょう。そういった市場において、他社を出し抜くためには、ポジショニングによる差別化が欠かせないのです。
具体的には、対象商品やサービスにおいて、顧客が購買する基準として重要だと思われる指標を選出し、その指標をもとにポジショニングマップをつくります。そうすることで、自社の置かれている状況を視覚的に俯瞰することができ、どのような点で差別化を行うべきかが分かるようになるのです。
「製品」「サービス」「社員」「イメージ」などの分野で差別化が可能とされています。
注意点
ポジショニングの際の注意点について確認しておきましょう。
社内の制約
1つめは「社内の制約」です。
これは、たとえ最適な市場が見つかったとしても、必ずしもその市場をターゲットとすることが「社内的に」できない場合です。
たとえば、社内に軋轢がある場合や人員がいないために実行力が不足している場合などです。
社外の制約
2つめは「社外の制約」です。
こちらも、最適市場をターゲットとできない場合なのですが、その理由が「社外的な」要素に関わっている場合です。たとえば、取引先企業の事情や主要銀行への配慮などです。
これら2つの制約は、場合によっては「大人の理由」として判断されることもあります。
しかし、いかに大企業といえども、顧客を無視した経営を行っていれば淘汰されてしまうでしょう。だからこそ、真摯にマーケティングを行うことが大切なのです。
優れた製品やサービスを開発すれば、それだけで売上があがるわけではありません。そこには、決定的に欠けているものがあります。「顧客に対していかに認知させるか」という要素です。それも、「競合製品に対してどのくらい魅力的か」や「最終的に購買にいたるだけの性能を備えている」など、より具体的に理解されなければなりません。そこで、次のステップとして「ポジショニング」を行う必要があるのです。
ポジショニングとは、ターゲットとして定めた顧客に対して、自社の製品やサービスがいかに魅力的なのかを認知させるための活動です。
マーケティング活動を通して開発された製品やサービスは、たしかに競合他社のものよりも優れているかもしれません。しかし、それが顧客に正しく認知されてこそ、商品としての価値を得られるのです。
もちろん、ポジショニングは、既存の製品やサービスだけでなく、これから開発を行う段階でも有効に作用する手法です。
将来的な マーケティング・ミックス(4P:製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)を決めるためにも、ポジショニングによる分類が役に立つことでしょう。
とくに重要なのが、「いかに差別化を行うか」という視点です。
既存の商品が市場にある場合、同じレベルのものを投入しても、新しい顧客を獲得することは難しいでしょう。また、いくら優れた製品やサービスでも、顧客の最終意志決定要因(購買動機)となりうる「価格」や「機能」に落ち度があれば、購入にいたることはありません。
だからこそ、ターゲット顧客が重要視する要素を意識しつつ、差別化を行うことが重要となります。
ところで、どのように差別化を実施すればよいのでしょうか。
具体的に差別化するべき要素を判断をするためには、次の4つの指標が活用できます。
・「製品」の差別化
機能、価格、特徴、性能のばらつき、品質、耐久性、信頼性 など
・「サービス」の差別化
速やかな配送、設置、顧客対応、コンサルティング、修理 など
・「社員」の差別化
スキル、対応力、丁寧さ、安心感、反応の迅速さ、対話力 など
・「イメージ」の差別化
メディアへの露出、各種イベント、シンボル、建物や空間 など
大抵は、どの市場にも既存の製品やサービスがあふれているものです。イノベーティブな製品を生み出そうと考えるのなら、ポジショニングを工夫してみると良いでしょう。
同じ製品でも、どのように顧客に認知させるかによって、とらえ方は大きく異なります。場合によっては、使い方や利用シーンを新しく提案するだけでも、画期的な発明だと認識されるかもしれません。
ただし、いかにその製品が優れているかを主張したいがために、売りとなる要素をただ単に羅列するだけでは、顧客の心をつかむことはできないでしょう。
場合によっては、その製品の訴求ポイントにぶれが生じてしまい、ブランド価値をいたずらに傷つけてしまうということもあるかもしれません。
顧客にどのように認知されたいかという視点とともに、軸となるコンセプトも意識しておきましょう。
新商品の開発においては、机上で議論しているだけではいけません。現場の声をしっかりと聞き、どのような商品を開発すれば、顧客の需要を満たすことができるかについても考え続けなければならないのです。
顧客のニーズを丁寧に収集すれば、商品をどのようなポジショニングで提供すればよいのかが見えてきます。
最適なポジショニングを行えば、自社や競合他社の商品と差別化できるだけでなく、新しい市場をも開拓できる可能性があるのです。
マーケティング・ミックス につながるポジショニングの役割は重要と言えます。
顧客の認識
ポジショニングの役割は、あくまでも「顧客の認識」です。既存の商品でも、どのようにジショニングするかによって、認知度、ひいては売上が大きく変わる可能性があります。
競合の追随
すでにヒット商品を開発している企業であれば、競合他社の追随に注意しましょう。
顧客に訴求できるポイントをさらに強めて打ち出すなどの対策を随時行う必要があります。
他の自社製品との共存
いくら需要があっても、自社の他の商品にマイナスの影響を及ぼしてしまうポジショニングは好ましくありません。打ち出し方を工夫するなどして、共存できるようにしましょう。
検証と見直し
ポジショニングは、一度行えばそれで終わりではありません。顧客のニーズを満たしているか、あるいは差別化ができているかなどを検証し、くり返し見直すことが大切です。
顧客のニーズを満たしているどうかを確かめるためには、商品が顧客にどのように認識されているのかを表す「パーセプションマップ」を活用しましょう。
パーセプションマップとは、ポジショニングマップのように縦軸と横軸をとり、それぞれに「顧客がその商品をどのように認識しているか」を表す要素を加えたマップです。その度合いから、他社商品とも比較しつつ、改善点を見いだしましょう。
ポジショニングの実践
ポジショニングを実践する際には、開発した商品、あるいはこれから開発する商品の優れた点やアピールポイントをただ列挙するだけでは不十分です。
顧客がとくに重視するポイント(最終的な購買動機となるもの)を、おおむね2つ程度にまで絞り込み、より直接的に訴求できるようなポジショニングをしなければならないのです。
もちろん、企画段階で設定したコンセプトから大きくはずれてしまうようなポジショニングは、商品開発の軸がぶれてしまうことにつながりますので好ましくありません。
しかし、もともとのポテンシャルを十分に引き出し、その点を顧客の心に響かせることができなければ、ヒット商品へと育てることはできないでしょう。
ポジショニングにおいて顧客の認知が最重要なのです。
どのような軸を設定してポジショニングを行うかについて、社内で意識を共有するためには、視覚的に活用できる「ポジショニングマップ」が有効です。
大きく、次の3つのステップから成り立っています。
手順1 属性のリストアップ
最初に、ポジショニングの軸となり得る属性をリストアップします。
この段階では、どのようなアピールポイントがあるのかを ひたすら列挙してしまって構いません。
この後のステップにおいて絞り込みを行いますので、思いつくままに挙げてみましょう。
企画・開発担当者だけでなく、営業や広告関係者の意見も参考にすると良い。
手順2 属性の絞り込み
次に、列挙したアピールポイントから属性を絞り込んでいきます。おおむね2つまで絞り込んでください。
ポジショニングマップの作成は縦横の2軸で構成されていますので、それ以上の属性は活用することができません。
顧客の意思決定がどの要素でなされているかを考慮しつつ、絞り込んでいきましょう。
手順3 マッピング
属性を2つにまで絞り込めたら、あとはマッピングをするだけです。
縦横に矢印を引き、属性を書き込んだら、自社の既存商品や他社の商品をマッピングをします。そうすることで どの分野にポジショニングするべきかがみえてきます。
最適なポジションが見つからない場合には、軸を変えるなどの工夫をしてみましょう。