ワームホール

 アルベルト・アインシュタインの「一般相対性理論」では、ある領域内の物質が極めて高い密度を持つようになると、特異点(あらゆる物理量が無限大になってしまう点)が生まれるというように、ブラックホール の超高密度の中心部について言及されている。アインシュタイン理論では、特異点はゼロの体積であるが、エネルギーと物質の密度は無限大になる。この概念は、さまざまな方面から得られた間接的な証拠によって支持されてきた。

 しかし、この パラドックス は、現在の科学者を悩ませるものでした。ビッグバン理論によると、この宇宙はある特異点から始まった。しかし、そのような特異点がどのように形成されたのかという点について、満足のいく説明ができなかった。

 最新の研究によると、私たちの住む宇宙は、別の大きな宇宙の ブラックホール 内部に埋め込まれている可能性があるという。そして、ブラックホールも、極小サイズから大質量のものまであって、別世界につながる可能性があるという。

 ところで、ブラックホール は、宇宙と宇宙の間をつなぐトンネル、すなわち、時空を高速で移動できる ワームホール の一種と位置付けることができる。ブラックホールに引き寄せられた物質は、ブラックホールの中心(特異点)で押しつぶされるというのが通説だったが、ブラックホールの裏側にホワイトホールを想定してそこからあふれ出ていくと考えられるのです(「Physics Letters B」誌4月12日号掲載)。

 この研究を行ったインディアナ大学の物理学者ニコデム・ポプラウスキー氏は、「ブラックホールに落ちていく物質の螺旋運動に関して新しい数学モデルを提示した」と言う。ブラックホールに吸い込まれ、破壊されるかのように思われる物質は、実は吐き出されて、「別の現実世界の銀河や恒星、惑星の構成成分になる」というのです。そこで、ブラックホールをワームホールと考えることで、現在の宇宙論の謎を解明できるという。ポプラウスキー氏は、ワームホール を、アインシュタインがブラックホールの中心にあると予測した「時空特異点」に代わる存在とすることで、「私たちの住む宇宙が特異点ではなく、ホワイトホールから誕生したとすれば、ブラックホールやビッグバンの特異点に関する問題も同時に解明される」と言う。

 ポプラウスキー氏が「ブラックホールの内部に別の宇宙が存在する」という説を唱えたが、その可能性を指摘していたアリゾナ州立大学の理論物理学者ダミアン・イーサン氏は次のように話す。
 「私たちの研究では、解が存在する可能性を示しただけだったが、ポプラウスキー氏は一般相対性理論の枠内の方程式で、ブラックホールが宇宙間の出入り口となる現実解を発見している。」
 「ただし、あくまで理論上のアイデアだが。素粒子レベルを扱う量子重力の研究が今後進めば、この方程式も洗練され、ワームホール説が支持できるか棄却されるか判断できるだろう。」

 ワームホールとは、時空の異なった2点間を結ぶ抜け道である。理論上では、時空の異なった場所にできたブラックホールをつなげて、ワームホール を作ることができる。しかし、それぞれの入り口は、ブラックホールなので、再び外に出ることはできず、ワームホールを通り抜けることはできない。そこで考えられたのが、負のエネルギーを持った物質でワームホールを通ることである。負のエネルギーの物質では、ブラックホールにならず、ワームホールを通り抜けることができるのです。

 ところで、「ガンマ線バースト」と呼ばれる現象もあります。ガンマ線バーストは、この宇宙で ビッグバン に次ぐ強力な爆発現象である。発生原因が依然として謎に包まれていたのですが、別宇宙からワームホールを通過して来た物質の放電と解釈できるのです。

 ポプラウスキー氏の理論は検証可能か否か。方法が少なくとも一つあるという。ブラックホール には回転しているタイプがあって、この宇宙自体が回転するブラックホール内部で生まれたと説明できる。  

 将来、私たちの住む宇宙が予測可能な向きで回転しているとわかれば、ワームホール説を支持する間接的な証拠となる。

 さらに、ワームホール説は、「なぜこの宇宙は物理学理論の予想と食い違うのか」という点についても、解明の手掛かりになると考えられる。

 標準的な物理学モデルに基づくと、ビッグバン以降、この宇宙の曲率は時間の経過とともに増大している。つまり、大きさは有限だが果てはない。137億年が経過した今では、私たちがいる場所は閉じた球形の面を持つ宇宙ということになる。しかし、これまでの観測結果によると、この宇宙はどの方向を見ても平らなようです。この謎はビッグバン理論において「平坦性問題」と呼ばれていた。また、非常に初期の宇宙で誕生した光を解析したデータにより、ビッグバン直後の物質はすべてが均質な温度だったことがわかっている。「宇宙の地平線」の両端にあり相互に作用したはずのない天体が、なぜ一様の性質を持つのか。この謎は「地平線問題」と呼ばれていた。  

 このような矛盾点を説明するため、「宇宙のインフレーション」という概念が考案された。「インフレーション理論」では、宇宙の誕生直後、指数関数的に光よりも速い速度で膨張したと考えられている。インフレーションが進み、宇宙は原子より小さなサイズから1秒もたたないうちに、天文学的な大きさに広がっていった。そして、この理論が宇宙の地平線問題と平坦さの問題を一挙に解決した。  

 しかし、インフレーションが実際にあったとしても、そのきっかけについて、専門家も説明に苦しんでいる。そこで、新たに「ワームホール説」が登場したのであった。

 一部のインフレーション理論では、通常の物質とは異なる理論上の「エキゾチック物質」を想定している。重量に応じて引きつけるより、むしろ退ける負の性質を帯びている。  ポプラウスキー氏は、「エキゾチック物質の誕生、それは初の大質量星の一部が崩壊してワームホールになった時と私の方程式は示している。」と話した。ワームホールを形成するエキゾチック物質と、インフレーションの引き金となったエキゾチック物質の間には、なんらかの関係があるとみているのです。

 ところで、ワームホールという言葉は、アメリカの物理学者ジョン・ホイーラーが考案した言葉である。ブラックホールという言葉も彼が考案した。

 「ワームホール」は、SF小説でおなじみのタイムトラベルや、離れた場所に瞬間移動するワープ航法につながるとされる時空の抜け道なのです。

 

ワームホームを使ったタイムトラベルの方法  

 まず、ワームホールを生成する。この時点を0時とすると、A地点とB地点は、同時刻でどちらも0時である。次に、B地点のワームホールを光速に近い速度でC地点へ移動する。光速に近い速度で移動すると時間が遅れるため、たとえば、A地点が3時だったとすると、C地点のワームホールは2時になる。次に、C地点のワームホールを光速に近い速度でB地点へ戻す。B地点のワームホールの時刻はさらに遅れ、A地点が6時だったとすると、B地点のワームホールは4時になる。  

 タイムマシンで、A地点から出発し、B地点でワームホールに入り、A地点へ戻ってくると、B地点のワームホールは、2時間前のA地点とつながっているので、2時間前のA地点へタイムトラベルすることができる。