事業戦略策定

1 経営理念・ビジョンを具体化

 まずは、自社の「経営理念」「ビジョン」を具体化します。経営理念・ビジョンを具体化することで、戦略目標を設定するための思想的な土台ができます。

 「経営理念」は、企業の存在意義や使命を普遍的な形で表したものです。経営者は、「会社や組織は何のために存在し、どういう目的で、どのような仕組みで経営を行うのか」についてステークホルダーに示し、従業員に対して行動や判断の指針を与える必要があります。

 一般的に、経営理念は、経営者の意志や社員の夢など、時代の流れを超えた長期的な視点で考えます。

ミッション・ステートメント

 ミッション・ステートメントとは、「その事業は何のために行うのか」というミッション(使命)を表す記述のことで、企業経営における企業理念に該当するものです。
 ミッション・ステートメントには事業を行う上での基本原則が示されます。事業戦略もミッション・ステートメントに則って策定されなければなりません。事業戦略の策定するためには、最初に、指針となるミッション・ステートメントを作成することが必要になります。

 ミッション・ステートメントには、以下の3つの要素が必要です。

・事業を行う意義

 事業を行う意義とは、「何のためにその事業を行うのか」ということで、「その事業の目的は何か」ということです。ただし、「お金を稼ぐ」とか「利益を上げる」などの経済的な目的ではありません。事業を通じて「世の中にどのような価値や利益を提供するのか」という社会的な目的を明確にします。

・事業ドメイン(事業領域)
 事業ドメインとは、事業活動を行う範囲や対象とする市場を定義するものです。

・行動指針
 行動指針とは、事業活動を行う上で心掛けるべき意識と行動のことです。顧客志向や遵法精神、倫理観など、基本となる考え方や行動のあり方を明確にします。

(ミッション・ステートメントの例)

 高齢化社会が到来した我が国において、シニアおよびその周辺市場を対象に、経営戦略・事業戦略に関するナレッジを活用し、充実したシニアライフを提供する事業を行います。
 その事業活動を通じて活力ある高齢化社会の実現に寄与することを使命とします。
その使命を遂行するために、以下の項目を守ります。
 ・プロとして行動する
 ・顧客の信頼に応える
 ・いかなる状況でも法令を遵守し、誠意ある行動を行う

 「ビジョン」は、経営理念で規定された企業の存在意義や使命に基づき、ある時点までに「こうなっていたい」という到達点です。自社が目指す中期的なゴールイメージを投資家や従業員や社会全体に向けて示したものになります。

 ビジョンは、将来の姿なので、何をどう表現しても自由ですが、戦略策定上、以下の「定性目標」と「定量目標」を示すことが必要です。

 定性目標・・・市場ポジションや対外イメージなど数値化できない目標

 定量目標・・・売上高、利益率、市場シェアなど数値化できる目標

 ビジョンに設定した将来の姿が、ミッション・ステートメントの「事業の意義」や「事業ドメイン」と整合していることが必要す。

 

2 事業戦略の目的・定量目標の設定

 事業戦略策定において、その場合において何を達成したいのか、どのような業績を目標にやっていくのかなど、「目的・定量的な設定」を行います。この定量的な目標が事業の「ゴール」となります。

事業戦略の目的を設定する

 事業戦略の策定においては、どのような理由であれ、目的が必要となり、この目的がなければ戦略立案を行う必要もありませんし、戦略立案の意味がありません。逆に、目的が決まっていれば、おのずとその目的を達成するための戦略を立案していくことになります。そこで、次に考えなければならないことは「達成」についてです。何をもって目的を達成したかどうかを判断するのか ということです。この場合、達成度合いがわかりやすい定量的な目標を定めておくことがポイントとなります。「いつまでに」「何を」「どこまで」進めておくことを目標にするのかを、数値で定義することで、事業戦略の意味を明確にすることができます。 

定量目標として「期間」を定義する

 基本的に中長期(3~5年)の視点で検討することが多い。戦略策定は、企業において重要な位置付けにあり、数週間から1ヵ月程度で決められるものではありません。そのため、戦略策定している間に数ヵ月が経過してしまいます。その結果、短期(1年)で戦略策定した場合、実行に移す期間が短くなってしまいます。一方、長期の5年やそれ以上(10年程度)といったスパンで検討すると、経済環境や変化の激しい事業環境からすると、長期視点では将来的な予測が立てにくいということがあります。

定量目標として「状態」を定義する

 次は達成状態を定義します。

 例えば、売上高や市場シェア、利益率などのKPI指標において達成割合を定義します。

 KPI指標とは「Key Performance Indicators」の略で「重要業績評価指標」です。具体的な業務プロセスをモニタリングするために設定される指標です。

 競合企業との競争において、「現在の市場シェアは自社が10%、競合企業が20%だった場合に、3年後に25%まで伸ばす」といった達成数値を明確にします。指標については、1つに絞り込む必要はなく、複数の指標を用いて目標を定義することも多くあります。

 

3 現状分析

 次は現状を分析します。経営理念に従っているか、ビジョンに近づいているかを客観的に分析しましょう。

分析する際には、自社を取り巻く外部環境分析と自社内についての内部環境分析を行います。社内外に視野を広げると、今まで見えていなかったことも見えてくるでしょう。また、フレームワークを活用すると客観的に現状を分析できます。

 

現状分析の基本は SWOT分析

 環境分析の漏れや重複を防ぎつつ、必要な要素を押さえるフレームワークに「SWOT分析」があります。SWOT分析を行うことにより、当該事業を成功させるためのKSFや自社にとっての事業機会を導きだしやすくなります。

SWOT とは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)のことで、それぞれの頭文字をとってSWOT(スウォット)と言います。
 事業者が経営戦略や経営計画を策定するためには、自己の内部環境(経営資源)と外部環境(経営を取り巻く環境)の分析が不可欠ですが、SWOT分析はその両者を統合的に行う手法です。強み(Strength)と弱み(Weakness)は内部環境分析、機会(Opportunity)と脅威(Threat)は外部環境分析になるわけです。

外部環境分析

 SWOT分析は、機会(O)と脅威(T)の外部分析から始めるべきです。

 機会とは「うまく活用すれば業績が拡大する外部環境の変化」で、脅威とは「そのまま放置すると業績が悪化する外部環境の変化」のことです。注意しなければならないのは、「業績にプラスになる外部環境の変化=必ずしも機会ではない」ということです。
 業績にプラスになる外部環境の変化は、当然、競争相手にとってもプラス要因になります。その環境変化が機会になるかどうかは、環境変化に対する対応力が競争相手よりも勝っているか、あるいは、競争相手よりも先に環境変化に対応できるかによります。
 例えば、「高齢化社会の到来」という環境変化を機会とするならば、高齢化社会の到来への対応力となるシニア商品開発力などが競争相手よりも勝っていなければなりません。

 脅威についても、同じように、業績にマイナスになる外部環境の変化が必ずしも脅威になるわけではありません。

 機会(O)と脅威(T)については、5フォース分析ポジショニング分析、競合分析、KSF (成功要因)分析、顧客分析 が基本となります。

5フォース分析

 5フォース分析は、自社が属する業界の魅力度を分析するためのフレームワークです。マイケル・E・ポーターが提唱しました。5フォース分析の5つの力とは、「新規参入の脅威」「代替品の脅威」「業界内の競合」「売り手の交渉力」「既存競合者同士の敵対関係」です。

ポジショニング分析

 ポジショニング分析は、市場の中で自社と競合がどこに位置づけられるのか、それぞれの立ち位置を知るための分析です。あわせて、競合の強み・弱みを分析するとともに、当該市場における戦い方のパターンを明らかにすることも重要です。

 ポジショニングや競合分析のポイントは、その市場におけるプレーヤーが、「市場の中のどういった領域に軸足を置いて戦っているか」「どういった戦い方をしているか」ということを明らかにすることです。

機会と脅威という観点から見れば、主に以下のような論点について分析を行うことが必要です。

・新たな事業領域(=空白地帯、競争環境が緩やかな領域等)がチャンスとして見えてこないか

・見えてきたあらたな領域は、本当にチャンスか(空白地帯には顧客がいないこともある)

・自社のポジショニングに攻めてこようとしている競合や新規参入者はいないか

・自社のポジショニング・提供価値に独自性・優位性はあるのか、それは将来にわたり維持できそうか

・競合の強み・弱みが自社にとって機会・脅威となりえるか

・当該市場での戦い方のパターンにはどのようなものがあるのか。他社の戦い方のパターンに自社にとっての事業機会はないか

・ポジショニングや競争環境は今後どのように変化していく可能性があるか

 特に、競合企業をベンチマークすることは、将来の打ち手を抽出するための極めて有効かつ不可欠な分析です。競合のポジショニングや戦略を分析することによって、業界における生き残り・成長のための方向性や戦い方のパターン(=事業機会の可能性)を抽出することが可能になります。

競合他社分析

 競合他社分析のポイントは、現時点での競合他社の戦略を分析し、そうした企業が将来とりうる戦略展開を予測し、それに準備・対応することにあります。

分析を実施する対象企業は4つに分類できます。

 ①戦略グループ競合: 同じ戦略グループに属する企業や組織間での競合

 ②産業内競合: 同じ業界に属する企業や組織間での競合

 ③新規参入競合: 同業界内に新規参入する企業や組織間での競合

 ④代替製品競合: 代替製品として競合となり得る企業や組織間での競合

 特に、③と④は、現実的に最も市場に影響を与えるにもかかわらず、対応が遅れがちになるために注意が必要です。

 競合他社の分析に必要となる基本要素は以下の4つです。

 ①競合の事業目標

 ②競合の将来への事業戦略

 ③競合の現在の競争方法・方策

 ④競合が持つ強み・弱み(戦略能力)

 競合他社の分析は、各企業・組織のこれらの要因を分析し、競争相手に対する自社の競争優位をつくっていくことが重要です。

 情報源としては、公的機関が公表している調査データや公開されている企業データ、新聞・雑誌などの各媒体からのデータに加え、営業や開発、生産、物流など各部門で蓄積され保有しているデータ、市場関係者からの競合他社に関する商品・サービス情報などがあります。

販売チャネル分析

 販売チャネル分析の大きな目的は、既存の企業においては、卸や小売店などを経由して行われる自社の商品・サービスが、セグメントした対象顧客までしっかりと届けられているか、あるいは、新たな事業を始める際には、セグメントした対象顧客までその自社の商品・サービスを届けるには、どういうチャネルが最も有効かを この分析(調査)によって見極めることです。
 販売チャネル分析は、さらに、個々の具体的な目的(例えば、営業戦略や営業計画策定を目的とする「マーケティングチャネル管理(戦略策定、実施、管理統制)」や、「競合製品に関するマーケティング情報の収集」など)によって、その作業にかける労力や時間などが違ってきます。

 「事業戦略や事業計画の策定」を目的とする販売チャネル分析のポイントは、既存の販売チャネルの棚卸しや、可能性があると思われる新規販売チャネルのリストアップから始めるのが基本です。
 そして、それらの調査と分析では、戦略的に有効と思われる基準をもって新たにセグメンテーションして行うことです。

 また、分析にあたっては、自社の利益創出のためのビジネスモデルの再考はもとより、販売チャネルとなっている企業の利益創出のメカニズムについてもしっかりと把握し、自社の商品・サービスがそうした企業にどの程度の利益を与えているのか、あるいは利益が向上しているのかなども検討します。
 このことで、今後有効な支援策を考えることができるようになるからです。

 自社と販売チャネルがお互いにパートナーシップに基づいて、WIN-WIN の関係が維持できるようにすることも、この分析のポイントと言えます。

新たな事業機会の発見や事業成功の要因(K・S・F)を見つけ出す

 市場や競争環境における事業を成功させるための成功要因・KSF(Key Success Factor)を抽出します。

事業のKSFを抽出するには、主に既存の事業をベースにその事業特性から、あるいは、いくつかの事業特性の組み合わせから導き出すことができます。

 例えば、携帯電話向けコンテンツ業界では、「特に若年齢層での利用の拡大」という顧客特性と「機能の高度化」という技術特性とを組み合わせたKSFの一例として、「高い質の画像や音声を用いた本格的なゲームサービスの開発」が考えられます。

 そして、次に それを達成するための方策や戦略課題を検討します。

 急成長している企業、長年業界トップを走り続けている企業には必ず成功要因があります。成功要因とは、業界において勝利している企業が勝利に至った要因、成功のカギのことを言います。成功している企業には競争優位性や成功しているメカニズムがありますが、その優位性の源泉や戦い方のツボこそがKSFであり、それはその業界におけるKSFということになります。

 ここで重要なことは、現時点でのKSFだけでなく、業界構造の変化、競争ルールの変化がKSFにどのような影響を与えるのか という先読みです。こうした変化を見据えることが、将来の機会・脅威を浮き彫りにし、優れた事業戦略構築を実現していくために極めて重要になってきます。

顧客分析

 外部事業環境分析の中で最も重要なものがこの顧客分析です。

 顧客は事業を支える収益の源であり、事業存続の要であるからです。

 したがって、顧客満足や顧客創造に関する分析を常に行っていく必要があります。

 また、顧客分析の目的には、顧客は収益源であると同時に情報源でもあることから、

 ①顧客の変化を捉え、新たな顧客満足を創造する

 ②顧客の視点から自社の商品・サービスを客観的に見て、企業側が考える商品価値とのギャップを認識する

などがあります。

 顧客分析の具体的な方法には、同じ性質をもつグループ(セグメント)に切り分ける「顧客セグメンテーション」という作業とセグメント別の顧客調査によって行われる。

その際に行われる顧客セグメントの基準としては、
 ①自社が参入しやすい(自社の強みをべースに選択した)市場を抽出する

 ②購買心理の変化など、顧客変化の要因を基準にする

 ③競合相手のセグメント方法をべースにする

といった方法があります。

 顧客分析の結果によって得られたデータは、既存の顧客層をさらに特化させて絞り込んだり、優先して新規の顧客拡大を図ったり、絞り込みを行いながら新規顧客の拡大を図ったりする際の裏付け資料として活用されます。それらの結果は、事業戦略、事業計画を立案すること すべてのべースになります。

 顧客の観点から見るべき機会と脅威は、大きく4つの観点、さらに それらを分解していくと、9つの観点に分けられます。常にこの9つの論点を基本に置きながら、顧客の実態および変化について分析していくことが有効です。

(機会)

(1)新しい顧客を獲得できるか(どこに魅力的な顧客がいるか)

 ・離反顧客を取り戻せないか

 ・競合からスイッチさせられないか

 ・まったくの新規顧客(自社の商品も競合の商品も購入していない)を獲得できないか

(2)既存顧客に よりもっと買ってもらえるか

 ・顧客のマインドシェア・財布シェアを上げられないか

 ・顧客がその商品(競合も含め)に対して消費する金額自体を上げられないか

(脅威)

(1)既存顧客が離反する恐れはないか、顧客がいなくなる恐れはないか

 ・競合(代替品、新規参入含む)に取られないか

 ・その商品(自社も他社も含め)の購入そのものを停止してしまわないか

(2)既存顧客の購入頻度や金額が減少する恐れはないか

 ・顧客マインドシェア・財布シェアが低下する恐れはないか

 ・その商品(自社も他社も含め)に対する消費金額が下がる恐れはないか

機会・脅威の判定

 「業績にプラスと思われる変化」が機会、「業績にマイナスと思われる変化」が脅威というわけではありません。自社の業績にプラスと思われる環境変化は競争相手にとってもプラスになります。従って、環境変化に対応する力が競争相手よりも勝っているか、あるいは競争相手よりも先に環境変化に対応しないと機会にはなりません。
 例えば、「高齢化社会の到来」が「業績にプラスと思われる変化」として抽出された場合、「高齢化社会の到来」への対応力となるシニア商品開発力などが競争相手よりも勝っていれば機会となりますが、劣っていれば脅威となります。環境変化への対応力の強弱によって機会・脅威を判定します。

環境変化に必要な対応力を検討します。対応力は一つではありません。複数抽出します。その対応力が競争相手よりも強いか弱いかを検討します。

機会・脅威と判定されたものを「SWOT分析表」に記入します。

内部環境分析

 SWOT分析における内部分析とは、「強み(S)」と「弱み(W)」を調べることです。

 強みと弱みは競争相手と比較した相対的なものを言います。いくら自己の強みだと思っていても、その能力を競争相手の方が勝っていれば強みにはなりません。
 また、強みは技術革新による陳腐化などで瞬時に強みではなくなってしまうこともあります。今は強みだが、将来は強みではなくなる可能性があるものは本当の強みとは言えません。

 強み(S)と弱み(W)に関しては、業績・パフォーマンス分析、ポジショニング分析、マーケティング(4P)分析、バリュー・チェーンビジネスモデル分析、有形資産・無形資産・組織分析 が基本となります。

業績・パフォーマンス分析

 自社の強み・弱みを分析する第一歩は、業績の推移や各種の業績指標を徹底的に解明することです。企業の強みや弱み、特徴は、表面的にはこうした数字面に現れてきます。

自社商品・サービスの現状分析

 自社商品・サービスの現状分析の目的は、ターゲットとしている顧客層がどのように感じているのか、あるいは、満足しているのか不満があるのかを調べることで、より顧客層のニーズにマッチした商品・サービスが提供できるようにすることにあります。

 新商品・サービスを今後展開していくのであれば、仮説で設定した商品・サービスの どこを、どのように、具体的に改善すればターゲット顧客層のニーズに応えられるのかを明確にすることです。

 そのため、調査結果として、単に「中年男性に受け入れられやすい」などの漠然としたレベルではなく、以下のような評価項目別に分析する必要があります。

自社商品・サービスの現状分析での主要項目

 ①品質商品・サービスの機能の充足度

 ②機能商品・サービスが持つ働き、役目

 ③価格:コスト要求機能に対しての価格、コストの妥当性

 ④納期:デリバリー商品やサービスが提供されるまでの時間と供給の安定度

 ⑤オリジナリティ市場における商品・サービスの独自性

 ⑥ブランドイメージ商品・サービスの評価やイメージ

 なお、商品・サービスの分析は どうしても主観的になりがちなため、ポイントはできるだけ評価を定量化することにあります。

 定量的な評価のしにくい嗜好などに関する評価も、どの程度なのかを具体的にイメージできる表現で記載ができれば、プロジェクトメンバー間の意思疎通に支障を来たすこともなく、貴重な検討資料となります。

財務分析

 財務分析の目的は、自社の商品・サービスが金銭的価値に変換され簡潔な数値として表わされた「財務諸表」や「損益計算書」を分析することで、自社は顧客にどのような評価を受けてきたのか、どのような仕事の進め方をしていたのか、その仕事の進め方は妥当であったのか、といった点を客観的に判断することです。

 事業内部環境分析の一環として財務分析を行う場合は、一般的に次のような視点で行います。

・収益性

  企業が利益を生み出す構造になっているか

・安全性

  健全な財務構造なのか

・効率性

  無駄なく業務が遂行できているか

・成長性

  社内活力の表れとして自社の発展度合いはどうか

・生産性

  有限な資源をいかに有効に活用し、金銭的価値に転換できているか

・キャッシュフロー

  自由に活用できる手元資金がどのくらいあるか

 内部環境分析を効率的に行うポイントは、まずは、財務分析により自社の状況をおおまかにつかんだうえで、問題点を絞り込んでからほかの分析に入るとよいでしょう。

ビジネスモデル分析

 ビジネスモデルとは、どのように儲けるか という儲け方のモデルです。

 同じ市場であっても、ビジネスモデルのプレーヤーが存在し、それが差別化や競争優位性、独自のポジションの確立につながっていることが少なくありません。ビジネスモデルの観点から、自社と競合の違いを分析し、それぞれの強みや弱み、課題を明らかにしていくことも大切です。

マーケティング/バリューチェーン/組織分析

 強み・弱みの要因や原因を捉えていくために、事業に必要な各要素・機能ごとに競争力を分析していきます。

 事業の種類や特性に応じて見るべき視点は異なりますが、最も有効な分析手法は、マーケティングの4Pの各要素とバリューチェーンの各機能の視点から事業を評価していく手法です。

 マーケティングの4Pとは、商品(Product)・価格(Price)・プロモーション(Promotion)・チャネル(Place) です。

 バリューチェーンとは、企業が顧客に価値(商品・サービス)を提供するまでの一連の企業活動の流れです。研究開発、調達、生産、マーケティング、物流、販売・サービス、アフターセールスなどです。

 差別化された独自の価値提供を実現していくために、マーケティングの4要素をいかに最適に組み合わせるか、また、そのためにバリューチェーンをいかに最適に組み上げていくか、企業の競争優位性に構築につながります。マーケティングの4要素、バリューチェーンの各機能について、自社と競合とを相対評価していくことで、自社の強み・弱みが見えてきます。

 ここでは、特に業界における成功要因(KSF)が重要になります。業界のKSFに直結する要素や機能において強みを有していれば優位性につながりますし、劣っていれば致命的な課題としてとらえることが必要になります。

 また、組織など、事業運営を実行していくための体制や仕組みについても、同様に評価が必要です。どんなに優れた戦略だったとしても、それを実行する人材や組織、仕組みがなければ機能しません。きちんと機能する戦略を作るためにも、組織や人材、経営管理やITシステムなどの いわゆる「経営インフラ」の観点からも、強みや弱み・課題を明らかにしていきます。

 

社内業務プロセスの現状分析

 業務プロセスとは、顧客に自社の商品やサービスを提供する過程の一連の活動であり、その善し悪しは顧客満足の程度や財務業績に大きく影響するものです。

 そのような点から、業務プロセス分析においては、ターゲット顧客層の満足度の向上やリピート率向上に結びつく品質(Qua1ity)、コスト(Cost)、適正な納期・時間(Delivery)が自社の業務プロセスで実現できているか、あるいは、事業を実施した際に実現できるかを把握します。
 具体的な手順としては、まずは当該事業に関わる自社の業務をプロセスに分解します。

 各プロセスに対しては、品質、納期・時間の、それぞれの観点から定量的な評価指標を設定して、測定します。

 たとえば、品質なら不良率やミス発生率、納期・時間ならリードタイムなどです。業界標準などの基準値が設定しやすい指標を選ぶことにより、自社のレベルが把握しやすくなるでしょう。

人員分析

 人員分析とは、従業員の経験・スキル・知識などの「能力」や採用・業績評価・報償などの人員管理に関する「仕組み」を分析することにあります。

 従業員の能力や管理するための仕組みは、顧客を満足させる商品やサービスの提供、効率的な業務プロセスの遂行、その結果としての売り上げや利益率の向上など、会社経営のすべての土台となるものです。

有形・無形財産分析

 企業は様々な有形・無形の資産を保有しています。有形資産とは、企業が経営や事業運営に投入する資源のうち、資金や不動産、設備などのように形のあるものです。

 無形資産とは、資源の中でも文字どおり形のないものであり、ブランド力、取引関係、顧客基盤、知的財産、人材などを言います。

 それぞれについて、自社が競合と比較して優位にある点、劣っている点を明らかにしていきます。

 

 自社の「強み」が把握できれば、自社の コア・コンピタンス(他社に真似できない核となる能力)を認識する際に役立ち、さらに、事業戦略の立案や事業計画の作成にも役立つ情報となります。
 一方、自社の「弱み」の根源が把握できれば、当面の課題としてその解決策を見出して克服する努力をしていくことで、その過程でほかの派生的な弱みも自動的に克服されていくことになるでしょう。

 「強み・弱み分析表」を用意し、想定できる競争相手を競争相手欄に記入します。競争相手は同業だけとは限りません。自分のビジネスに脅威を与えると思われる事業者を記入します。

 強み・弱み と判定されたものを「SWOT分析表」に記入します。各項目について当社および競争相手の強み・弱みを検討し、記入します。強み・弱みは相対的な評価で判定します。

   SWOT分析表




強み

 

弱み

 




機会

 

脅威

 

SWOT分析から論点を読み解く時のポイント

・現状事業の延長上(ビジネスモデル、ポジショニング等を大きく変えずに)での成長余地(売上拡大)があるか

・現状事業の延長線上での成長余地が限られる場合、成長機会はどこにあるのか(あるいはないのか)

・(成長機会がある場合)既存事業のビジネスモデルやポジショニングの見直し、変更等で、その成長機会を獲得できるか

・あるいは、その成長機会を獲得するためには新たな事業の展開を考えるべきか

・収益性改善余地はあるのか

 

4 事業戦略の方向性策定

 続いてのプロセスは、環境分析に基づいた事業戦略の方向性を設定することです。

 外部環境の分析から、自社が提供できそうな価値を特定し、それを実現するために必要なリソースの調達・活用する方針を定めます。

 この際、方向性を1つに限定せず、いくつかの選択肢を持っておくことが重要です。1つの方針にこだわっても、その戦略で必ずしも成果が出るとは限りません。第一の方針で成果が出なかった場合は、速やかに第二の方針へ舵を切れるよう、常に複数の戦略を確保しておく必要があります。

 外部環境である事業の機会と脅威、内部環境である自社の強みと弱みを基に、SWOT分析を中心に検討し、自社の事業の戦略方向性を検討します。

 このステップのポイントは、戦略の方向性を一つに絞り込む必要はなく、複数(代替的)の戦略方向性を準備しておきます。フィジビリティスタディで複数準備した戦略の実現性、妥当性、効果をそれぞれ見極めていきます。そして、自社にとって最良と考えられる戦略を選択することになります。

フィジビリティスタディ

 フィジビリティスタディとは、事業戦略が実現可能なものなのかどうかを評価することです。コストやメリット、さらにリスクも踏まえて総合的・客観的に評価します。

 検討した いくつかの戦略について、現実的に実現可能性が高いものを選別し、最も可能性の高い戦略を選ばなければなりません。

 このプロセスにおいて重要な点は、実現するために必要な費用とその効果やリスクについて徹底的にシミュレーションをし、客観的に検討していくことです。

 事業戦略を立案するにも、推進するにも、経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)がかかってきます。

 全社戦略のときと同様、事業単位の中で保有している経営資源が有限のため、目的・定量目標を満たす最適な施策を選択する必要があります。事業戦略の方向性を検討する中で、複数の施策が立案されることになります。それらを総花的に行うのではなく、実現可能性を加味して、優先順位をつけて取捨選択することになります。この実現可能性を評価することを「フィジビリティスタディ」と呼びます。フィジビリティスタディを行う上で重要なことは、事前に評価項目を定義しておくことです。

 評価項目は、一般的に、「戦略のインパクト」「競争優位性の持続力」「経営資源の充足度」「事業損失のリスク」を扱うことが多い。

 

5 戦略オプションを策定

 KSFを導きだし、KSFに対する自社の機会が見つけ出せたら、事業目標に到達するための戦略オプションを複数考えます。

 戦略オプションとは戦略の選択肢のことで、日本語では戦略代替案といいます。実行すべき戦略は、複数の案の中から選択して決定されますが、その選択肢となる複数の案が戦略オプションです。

 戦略オプションとは、自社としてどの分野を選択するのか、取りうる複数の選択肢を洗い出していくことです。

現状分析によって様々な成長の機会や脅威が浮かび上がってきた上で、どの機会を狙うのか、どの脅威に対して優先的に対処していくのかを考える。また、自社が今後成長していくために どこに力をいれるかという選択肢(=オプション)を検討していく。

(1)成長オプション

 成長する機会のオプションとして、対象市場の拡大、新たなニーズの出現、競合の弱体化など様々なオプションが考えられる。

成長オプションの考え方

 ・既存事業での売り上げ拡大余地があるのか

 ・新たな事業領域への展開余地があるのか

 ・収益性を向上させる余地があるのか

(2)脅威への対応オプション

 脅威への対処オプションを考えるときに、存在する脅威が具体的にどう自社の経営にインパクトを与えうるかを考える必要がある。

現状分析として想定される脅威の例

 ・市場規模が縮小傾向

 ・消費者のニーズ、ライフスタイルが変化

 ・新規参入の脅威

 ・代替商品の脅威

 ・既存顧客のリピート率が減少

 選択肢としてあげられた脅威への対応オプションを表にまとめます。「脅威はチャンス」という視点も重要です。

(3)強化・補強すべき強み・弱みのオプション

 「成長オプション」「脅威への対応オプション」の選択肢がまとまったら、自社がどの強みを維持、強化もしくは生み出し、どの弱みについては補強するのか という選択が必要になってくる。「成長オプション」「脅威への対応オプション」のリストから自社の強みが生かせるオプションを絞り込みます。

 

戦略オプションにまとめる

 ここまでの検討の結果、現状分析結果の機会や脅威に基づく対応オプションと それぞれのオプションにおいて、差別化・競争優位性確率の方向性、維持すべき現状の強み(生かすべき強み)、新たに創出すべき強み、補強すべき弱みがリストアップできました。これらをすべてまとめたものが「戦略オプション」となります。

(1)オプション一覧に整理

 一つの方法として、成長オプションと脅威への対応オプションを縦に並べ、それぞれのオプションに対応する機会・脅威とそのオプションを実行していく場合のKSFを横に書いていく方法です。さらに、横に続けて、差別化・競争優位性確立の方向性、活かすべき自社の強み、新たに創出すべき強み、補強すべき自社の弱みをそれぞれ書いていく。これが戦略オプションのベースとなるリストです。

 次に、オプションの中から、同じようなもの、類似するものを整理していきます。

 

(2)SWOTのクロス分析を活用

 あるいは、戦略オプション「SWOTのクロス分析」という手法を使って作成するとよいでしょう。クロス分析とは、「強み」「弱み」「機会」「脅威」をクロスさせて戦略オプションを検討する手法です。

 

 

強み(S)

弱み(W)

 

 

 

 

 

 

 

 

機会

(O)

 

 

 

 

 

 

脅威

(T)

 

 

 

 

 SWOT分析をもとにクロスSWOT分析を実施します。

(1)強み(S)× 機会(O)

 「強み×機会」領域は、自社の最大のビジネスチャンスとなるため、なるべく多く洗い出すことを心がけましょう。

 この領域では「進出する」ということが大きな方向性となります。自社の強みを活かしながら、市場参入やシェア拡大を狙うための方法を検討します。

(2)強み(S)× 脅威(T)

 「強み×脅威」領域は、「防衛する」ということが大きな方向性となります。具体的には、強みを活かして脅威の影響を抑えるための方法を検討します。

 ここでは、競合が存在すること想定されるため、強みを軸にした「差別化ポイント」を構築することがポイントです。

(3)弱み(W)× 機会(O)

「弱み×機会」領域では、「強化する」ということが大きな方向性として考えられます。具体的には、弱みを克服しつつビジネスチャンスを最大化するための方法を検討します。

 市場環境そのものは好条件であるため、「強み×機会」に転化できるよう、自社の事業の改善策を洗い出します。

(4)弱み(W)× 脅威(T)

 「弱み×脅威」領域では、「撤退する」ということが一つの方向性として考えられます。また、最悪のシナリオを回避するための方法を検討します。

 この項目を事前に多く洗い出して備えておくことで、安心感を持って事業に取り組むことができます。

クロスSWOT分析を活用した事例

・マクドナルド

 SWOT分析
  強み:世界的知名度を持つブランド、効率的な店舗経営
  弱み:低価格による利幅の小ささ、安全性への不安
  機会:高付加価値の商品の売れ行きが良い、個食化
  脅威:他ファーストフード店との競争激化、健康志向

 これらの項目を元に クロスSWOT分析を行います。その結果、例えば、世界的知名度を持つブランドという「強み」と高付加価値の商品の売れ行きが良いという「機会」を掛け合わせると、高価格帯商品の開発などが考えられます。また、安全性への不安という「弱み」と健康志向という「脅威」を掛け合わせると、食品の安全性に対する信頼の醸成が挙げられます。

・トヨタ自動車

 SWOT分析
  強み:強固な財務体質、ハイブリッド車市場で地位を確立、生産効率の高さ
  弱み:軽自動車生産への注力の低さ、国内販売の伸び悩み、ブランド力の低下
  機会:新興国市場の拡大、環境意識の高まりと低燃費車の需要拡大
  脅威:IT企業の参入、人口減少による市場縮小

 これらの項目を元に クロスSWOT分析を行います。その結果、例えば、強固な財務体質という「強み」と IT企業の参入という「脅威」を掛け合わせると、ベンチャー企業への投資による技術力の確保が考えられます。また、軽自動車生産への注力の低さという「弱み」と人口減少による市場縮小という「機会」を掛け合わせると、アライアンスによる軽自動車の生産・販売という方向性が挙げられます。

 

 「戦略オプション検討表」を用意します。

 「強み」「弱み」「機会」「脅威」の欄にSWOT分析の結果を記入します。

 各組合せで考えられる課題を検討し該当欄に記入します。

 検討のポイントは以下のとおりです。
  ・中期的な課題を中心に立案する
  ・案の評価はせずに、数多く出す

 

戦略課題の抽出

 戦略課題とは、実際に展開する戦略の具体的な課題のことです。ビジョンや目標値と現状とを比較して、自社として将来的に取り組むべき課題を抽出しましょう。

 はじめに、戦略オプションについて、「ミッション・ビジョンとの適合性」「効果性」「実現可能性」「緊急性」「欲求性」の5項目の評価を行います。
 次に、評価に基づいて戦略課題とすべきものを選択し、「狙い」「目標」「期限」「必要な投資」を設定して戦略課題に仕上げます。
 ひとつとして「戦略オプション評価表」を用意します。戦略オプション欄に内容を記入します。類似するものは1つにまとめます。

 各戦略オプションの「ミッション・ビジョンとの適合性」「効果性」「実現可能性」「緊急性」「欲求性」を記号で評価し記入します。

 評価結果に基づいて、実施すべき戦略オプションを5項目程度選択してください。絞りきれない場合は、合計で5項目程度になるまで、同じ分野・分類と考えられるものを一つにまとめます。ここで選択したものが戦略課題になります。

 ここで、ひとつとして「ミッション・ビジョン・戦略課題設定表」を用意します。

作成したミション・ステートメントとビジョンを記入します。戦略課題欄には選択した戦略オプションを記入してください。
 戦略課題の「狙い」「目標」「期限」「必要な投資(概算)」を設定します。

 各項目のポイントは以下のとおりです。

・狙い

  その戦略課題は何を狙うのか(その戦略課題を実施することで何を得るのか)

・目標

  その戦略課題の目標は何か(戦略課題を実施することで何がどうなるのか)

・期限

  いつまでにその目標を達成するのか

・必要な投資(概算)

  その戦略課題を実行するために必要な投資(人、モノ、カネ)の概算は

 各項目が決定したら戦略課題の作成は終了です。ここで「ミッション・ビジョン・戦略課題設定表」にまとめるとよいでしょう。

 

6 オプションの評価

 複数の戦略オプションのままでは、実際に戦略として実行していくことはできません。実行できる戦略は限られています。実際に実行する戦略を複数のオプションの中から絞り込む必要があります。そのためには、複数の戦略オプションの優劣、メリット・デメリットなどを評価する必要があります。それがオプションの評価です。この評価次第で、最終的に実行する戦略が決まるという 極めて重要なプロセスでもあります。

オプション評価の3つの視点

 オプションを評価し、絞り込んでいく上では、大きく3つの視点が基本となります。

(1)合理性

 合理性とは、売上の成長性、収益拡大可能性、投資対効果、強みの活用可能性、弱みの補強可能性、機会の刈り取り、脅威への対応、勝ち目など、客観的・合理的な観点から見た戦略オプションの優劣です。すなわち、「勝てるか、勝てそうか」ということです。

(合理性評価の項目)

・売上の成長性

  将来的にどの程度の売上を期待しうるか

・収益拡大可能性

  どの程度の収益性、利益額の向上を期待できるか

・投資対効果

  そのオプションの実行に必要な投資規模はどの程度か

  投資対効果はどの程度見込めるのか

・強みの活用可能性

  自社の強みや資産を どの程度活かせそうか

・弱みの補強可能性

  自社の弱みの補強、強化をどの程度期待しうるか

・機会の刈り取り

  規定される事業機会の刈り取りがどの程度期待できるか

・脅威への対応

  脅威やリスクへの対応が十分に可能か

・勝ち目

  そのオプションで勝ち目はあるか、競争優位性構築の見込みはあるか

(2)実行可能性

 実行可能性とは、自社の組織能力や投資規模・投資余力、実行の難易度、リスク・デメリット等から、実際にそのオプションを「やれるか、やれそうか」ということになります。

(実行可能性評価の項目)

・組織能力

 ア) 人材

  オプションの実行に必要な人員等を揃えることができるか

  求められるスキル・ノウハウを持った人材がいるか、獲得しうるか

  リードできる人材・マネジメントできる人材がいるか、獲得しうるか

  イ) 機能

      オプションの実行に必要な機能があるか、獲得しうるか

ウ)ノウハウ・経験

  組織して求められるノウハウや経験値、能力があるか、不足する場合は補完しうるか

・投資規模・投資余力

  オプション実行に求められる投資規模に耐えうるか

  財務面へのインパクトは許容範囲か

・実行の難易度

  オプションの実行段階における難易度はどの程度か

  補完すべき弱みがある場合、それは実現可能か

・リスク・デメリット

  そのオプションの実行に当たって、どのようなリスク、デメリットが考えられるか

  そうしたリスク、デメリットは、会社にどの程度のインパクトを持つか

  それは許容可能か、あるいはコントロールしうるものか

 「合理性」と「実行可能性」を組み合わせて総合評価します。

 各項目の何を重視するかで結果が変わってきます。

(3)当事者の意思・思い

  当事者の意思・思いとは、会社としての意思あるいは当事者としての意思のことです。すなわち、「やりたいか」ということです。

 「膝詰め議論」で納得感、腹落ち感を醸成する

 合理性と実行可能性の評価結果に基づいて、機械的にオプションを選択しても実効性のある戦略をつくることはできません。評価結果は あくまでも評価結果です。効果のある戦略とするためには、また、実行できる戦略とするためには、当事者が納得感、腹落ち感を持って、「これならできる」「これこそやってみたい」と真に思えるオプションを選ぶことが極めて重要です。

 

7 計画・アクションへ落とし込む

 事業戦略という大まかな方針として策定したものを、現場で実行できるレベルまで具体化していきます。

 戦略オプションが絞り込まれた後は、いよいよ具体的な計画・アクションに落とし込むステップです。ここでは、「絵に描いた餅」にしないために、いかに実効性の高い計画に落とし込めるかが問われます。

実行計画にまとめ上げる

 戦略が実行可能なレベルにまで詳細化されたら、これらを具体的に動かしていくための「実行計画」にまとめ上げていきます。

 実行計画は、全体を見据えた「マスタープラン」と、各施策を具体的かつ詳細な計画に落とした「アクションプラン」の2つによって構成されます。

マスタープラン・・・戦略実行に向けた骨太の計画

 「マスタープラン」は、戦略実行に向けた骨太な計画のことです。今後の戦略遂行の指針となるべき役割を担います。「マスタープラン」に盛り込まれるべき要素は、計画の先にある「目指すべき姿」と戦略実現への道筋(ロードマップ)です。「目指すべき姿」については、戦略遂行に関わる すべての関係者が その到達点をイメージできるようなものでなければなりません。戦略遂行の結果、どこに向かっていくのかを、この「マスタープラン」で改めて示すことが重要です。

アクションプランで実行レベルにまで落とし込む

 「マスタープラン」をさらに実行レベルに落とし込んだものが「アクションプラン」です。より具体的に動くための計画であり、施策ごとに詳細に作成する必要があります。実際に現場が動けるだけの計画に落とす必要があり、通常、1~2年といった単位で作成します。特に、1年目については、「最初のひと転がり」が確実に「アクションプラン」に組み込まれている必要があります。

 戦略の落とし込みを行う際には、論理展開が重要です。戦略とはあくまで方向性に過ぎないので、そこから具体的な実行内容へと落とし込みます。そして、複数の施策の重要度、緊急度、自社の避けるリソースなどを鑑みて、優先順位を決めてスケジューリングします。

 事業戦略は、実行されて はじめて意味のあるものになります。

 

PDCAサイクルの構築 走りながら軌道修正が出来る体制へ

 具体的な「目指す姿」を目指して、アクションプランを実行する中で、走りながら軌道修正ができるよう、プランの管理体制(PDCAサイクル)を作る。特に、マスタープランで定められた各マイルストーンにおいて、効果測定ができるように、KPI設計、目標値の設定も必要。こうして、PDCAをぐるぐる回しながら、軌道修正しながら、目指す姿を目指すことになります。

 

8 進捗を評価

 戦略管理は1回限りで完結するようなものではありません。また、会社の成熟によっても、戦略は変化を遂げます。戦略計画を3~5年ごとに評価する必要があるのと同様に、全体的な戦略管理計画も定期的に再評価しましょう。新たな潜在的脅威や機会の他、新興事業分野への進出も検討に含めましょう。

 

9 戦略の振り返り

 経営戦略を立てたからと言って、必ずしもその戦略が自社にとっての正解であるかはわかりません。目標へと進んでいるか定期的に振り返り、自社にとって適している戦略か判断する必要があります。

 「経営戦略の策定」の際に設定している定量的な指標を基に、経営戦略が推進できているか、成果を測りましょう。

 期待した効果が上がったか確認します。うまくいかなかった場合は、その原因を究明し、必要に応じて修正案を考えます。場合によっては、経営理念・ビジョンに立ち戻り、環境分析から再スタートすることも必要です。

 戦略を実行している最中でも、評価から成果をあまり得られないことがわかった場合は、戦略の改善を考える必要があります。
 すぐに成果が出なかった場合に、すぐに修正せず様子を見ることも考えられるため、戦略の評価や改善は定期的に行うことが必要です。

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