経営戦略の策定
「経営理念」→「ビジョン」→「経営戦略」→「戦術」
現代の不確実性の高い経営環境においては、企業の生き残りのために、適切なゴールの設定とゴール達成に向けたロードマップを描ける能力が必要とされています。
経営戦略は、ミッション(経営理念)とビジョンに密接にかかわります。
「経営理念」を達成するために「ビジョン」があり、ビジョンを達成するために「経営戦略」があり、経営戦略を達成するために「戦術」がある、といった関係性を持ちます。
企業経営においては、「経営理念」→「ビジョン」→「経営戦略」→「戦術」といったピラミッド構造を意識することが肝要なわけです。
上下の整合性を取ることが適切な企業経営においては重要です。下位の定めを充分達成すれば上位の達成に寄与し、4層全て達成すれば企業が持続的に維持・成長されるように、各々の階層が設定・運営されていることが重要です。
上位に行くほど長期的になり、下位に行くほど短期的になります。「経営理念」は、企業の存在理由に関わるものでもあり、一般的には時代を超えて継がれるもので、めったに変更されるものではありません。
「ビジョン」は、経営理念を維持するうえで、当面の時代背景の中で必要なポイントをまとめたものです。
「経営戦略」は、ビジョン達成の為に、1年から数年程度の企業の方針や行動を定めたものです。
戦術は、経営戦略を見据えたうえで日々実施すべき業務の在り方ともいうものです。
この4階層が適切に設定され、また、実行されることで、企業は持続な成長が可能となるといえます。
「経営管理」と「組織」の仕組み
戦略と配分された経営資源を戦術によって活用・運用されて、はじめて意味のあるものとなります。整合性が取れて立派な戦略であったとしても、後になって機能しなかった戦略というのが多く見られます。機能しない戦略となってしまう理由はどこにあるのでしょうか。大きく2つあります。1つは現実味のない戦略をつくってしまった場合であり、2つ目は戦略を実行する仕組みを持ち合わせていないことです。
戦略を有効活用するためには、「経営管理」と「組織」の仕組みが必要となります。
経営管理とは、資源を活用することのマネジメントを意味し、PDCA(Plan、Do、Check、Action)というサイクルを回していくことにあります。
Planでは戦略を動かすための日々の取り組み内容をリスト化し、日々の活動実績をチェックし、次のActionを検討しています。
そして、組織には戦略を実行する人やお金、モノ(設備など)を準備することが大切です。
戦略の策定
まず、自社や競合相手の能力や資源などといった内的要因を洗い出し、自社や競合相手を取り巻く外的要因を明確に分析・評価します。そして、洗い出された分析や評価に基づいて企業の目標を設定します。
目標は、企業の規模や市場における影響力などのレベルに応じて、長期的なものから短期的なものまで考えられます。設定したそれらの企業の目標を実現するために、不可欠な計画や手法をしっかりと定め、戦略を策定するのです。
経営理念
戦略は企業の意思決定の指針と重要なものですが、企業には経営戦略以外にも指針となるものがあります。それが経営理念です。
経営理念は、企業経営を行っていく上での活動のよりどころ、指針を与えるものです。また、経営理念は戦略策定の際の前提となるもので、戦略の上位概念として位置づけられます。経営理念は、企業経営を行う上での活動のよりどころとなる考え方、経営戦略策定の前提となるもので、海外では「バリュー(価値観)」と呼ばれます。
経営理念は、経営者が企業の運営にあたって、経営の目的を明確化し、その目的を実現するためにその組織が共有すべき価値観を文章化したものであり、「社是」「社訓」として示されている企業も多く見受けられます。
経営理念を考える際は、次の3つの視点から検討します。
(1)存在価値、使命
社会にどんな価値を提供したいか、それが社会にどんな意味があるのか、そもそも自社が何のために存在するのか。
「お客様の健康増進に役立つ」 「楽しい時をつくる」
(2)経営姿勢
経営を遂行していく上で重んじること(「社是」に相当)
「創意工夫を重んじる」 「スピードを重んじる組織行動をとる」 「環境にやさしい製品を提供する」
(3)行動指針
社員一人ひとりに心がけてほしいこと(「社訓」に相当)
「創造性」 「挑戦」 「相互信頼」 「自己責任」 「報・連・相」
事業コンセプト
まずは「事業コンセプト」および「ビジョン」を作ります。
事業コンセプトとは、「事業の存在意義」であり、「この事業は何のために行い、どのようなものなのか」を一文で表したものです。ビジョンは事業の目的地です。
よって、事業コンセプトはそのビジョン(事業の目的地)を「どのように達成するのか?」と言う枠組みのことを言います。
事業計画書では、まず「ビジョン」と「事業コンセプト」で全体像を伝え、その詳細を後に説明をしていきます。
事業コンセプトが決まっていなければ事業計画書もないですし、そもそも事業自体が成り立ちません。
もし、事業コンセプトが明確になっていないまま事業をしているのであれば、どの方向に進むのかも分からず、迷走してしまうことになります。
このように、事業コンセプトを明確にすることは大切です。
事業コンセプトは「事業の存在意義」であり、「この事業は何のために行い、どのようなものなのか」を書いていきます。
この詳細を書いていくこと自体が「事業計画書を書くこと」です。事業計画書=事業コンセプトと言い換えてもよいほどです。
この事業コンセプトを聞いただけで、「この事業は何をしていくのか」が分かることになります。
そのためには、まずは「この事業はどんな事業なのか?」を明確にします。
1.どの市場、どの業界なのか?
2.どんな製品、商品、サービスを提供するのか?
3.事業の強みは何か?
4.他社との差別化のポイントは何か?
5.それによってどんな存在意義が生まれるのか?
事業コンセプトの3要素
事業コンセプトは、「ターゲット顧客層」「顧客の想定ニーズ」「独自の能力」の3要素からなります。
新規事業を展開するには、事業対象とする顧客層とそのニーズを明確に想定したうえで、そこに独自能力によって形作られる製品やサービスの投入が検討されていなくてはなりません。
事業コンセプト3要素が規定しきれていない事業は、顧客に対して自社の特徴が十分にアピールできず、集中すべき経常資源の選択方法にも狂いが生じてしまいます。
事業コンセプト3要素のポイント
・顧客層:性別、年齢層、地域、所得、職業、趣味・噂好などによる区分
・独自能力:特定分野の技術・ノウハウ、販売方法、免許・資格など
・ニーズ:低価格指向、利便性・即時性追求、機能性・品質追求など
事業コンセプトを明確にすることによって、従業員、顧客、取引先などにどのような事業なのかを明示することができるようになります。事業計画書の最初にキャッチコピーで書かれていれば、興味を持って詳細の内容を読むようになるのです。
ターゲット顧客
ターゲットは、事業コンセプトでいう「誰に」にあたる部分です。提供する商品・サービスを使ってくれるお客さんのことです。ターゲットの記載で、そのお客さんのプロフィールを明らかにしていきます。例えば、お客さんの性別や年代、住んできる場所、職業、趣味、価値観やライフスタイルの考え方、提供する商品・サービス群の利用頻度などについて検討します。
ターゲットを、より明確にするやり方として、想定するお客さんを究極の一人に絞り、ペルソナとして、プロフィールの詳細を作り上げていく方法もあります。
事業計画にターゲットを記載する場合には、お客さんの数が算定できる書き方ができるとよいでしょう。例えば、「出店地から半径5km圏内に居住する幼児、小学校低学年の生徒」「年収800万円以上の家庭の母親と子供」といった具合に、お客さんになってもらえそうな人の分母の数がイメージできることが大切です。
もちろん、数値計画をつくる上でも、実際にどのくらいの数のお客さんを確保できれば、目標が到達できるかといったことが明らかになります。そのため、数値計画との整合性にも留意しながら記載するとよいでしょう。
商品・サービスの提供方法・仕組み
事業計画書の中で「商品・サービスの説明」をしていきます。
大企業の商品・サービスであれば、多くの人がテレビCMなどで知っているので簡単かもしれません。しかし、ほとんどの中小企業では、なかなか商品・サービスを知ってもらえていない場合が多いので、説明するのに以下のようなことを理解してもらう必要があります。
1 どんなコンセプトに基づいて生み出された商品・サービスなのか?
2 どんな自社の強みが生かされた商品・サービスなのか?
3 他社の商品・サービスと何が違うのか?(どこが差別化されているのか?)
これを説明することによって、事業計画書の売上や利益の予想の信用性が上がることになります。
昨今では、提供する商品・サービスは、競合相手と同質化しやすいことから、提供方法や仕組みについては事業者がそれぞれ創意工夫を凝らしているところかと思います。そのため、説明はなるべく簡潔に記載することが大切です。商品・サービスの提供方法や手順など、モノやお金の流れ、仕組みなどは、図表化や写真を使うとよいでしょう。
例えば、「和菓子」が商品だとして、その商品の「良さ」を文章だけで表すより、写真を掲載したほうが一目瞭然です。また、「和菓子」が商品だとしても、差別化のポイントが価格や配送であれば、図式化して説明した方がわかりやすいのです。
差別化ポイントがサービスの場合は、しっかりとした文章で説明するほうがよい場合もあります。サービスの説明を図や写真で行うと曖昧になりやすいためです。
また、商品・サービスの提供によるお客さんの気持ちの変化やメリットも、「フローチャート」を加えると さらにわかりやすくなります。例えば、飲食サービス、食料品販売、クッキング教室サービスなどを展開する店舗で、「最初に飲食施設のレストランで料理を知ってもらい、興味が沸いて食材を購入して自宅で再現してもらい、さらに興味が深まり、より美味しく調理する方法を学ぶためにクッキング教室に通ってもらう」仕組みがあるとすると、フローチャートで示すと一目瞭然でしょう。
経営ビジョンは、将来への展望を意味し、その企業の目指す将来の具体的な姿(将来の自社のありたい姿)を示すもので、経営者の想いでもあります。
1 経営ビジョンは経営者自身の目標である
高い「志」や「思い入れ」が社内で共有化されている企業ほど強い組織です。共通の価値観で組織が有機的に結合し、ベクトルが同一の方向に向いている企業こそ真に強い企業です。
日本では、この経営基本姿勢は「経営理念」といわれてきました。「経営者の夢・理想」「経営者が最も重要と考える姿勢」を社内外に対して表明するものです。
経営ビジョンは、経営理念、経営基本姿勢に基づき、より具体的に経営者の数年後の目標を示したもので、そこには「近い将来(3~5年)なりたい会社像」が明示されます。
現在勝ち組みになっている企業の経営者は、共通して一見実現不可能と思われるような高いビジョンを掲げています。
ビジョンはわかりやすく表現されることが望ましく、ビジョンを策定する根底にあるものは、「つぶれない会社」「強い会社」を作りたいという経営者の思いです。これは「旗印」であり、向かうべき「旗印」を立てられない経営者が勝ち残っていけるはずがありません。
2 経営ビジョンの策定は経営者の専担事項
中堅・中小企業において、この経営ビジョンの策定は経営者の専担事項と考えるべきです。今日のような時代だからこそ、経営者の強いリーダーシップが必要とされます。経営者の思い入れを このビジョンにしっかりと盛り込み、経営者自身が自らを奮起させる契機とすべきです。
この企業戦略が明確になれば、機能別戦略、事業別戦略への展開もスムーズに進みます。できる経営者は戦略家であり、「儲かる仕組み」を考える力に長けています。
3 経営ビジョンを表現
経営ビジョンは次の3点から表現します。
市場、社会でのポジションなど対外的評価
どのように思われたいか
「業界のリーダー」 「優良企業」 「格付けの高い会社」
事業運営の将来像
自社の事業をどのように展開していきたいか
「斬新な製品や技術が生まれるような経営を目指す」 「強靭な財務体質を築く」 「労働生産性を日本一にする」
組織と人のあり方
組織と人はどういう状態、状況が望ましいのか
「会社に依存しない自立した個人」 「潜在能力よりも発揮能力を評価する」 「選択の自由と結果に対する自己責任」、「仕事を通じた自己実現」
4 経営ビジョンを経営目標で具体的に示す
経営ビジョンの次にくるものは具体的な経営目標です。経営ビジョンは経営目標を設定する源泉となり、ビジョン到達に向けて、数年間でどのようなマイルストーンを置き、近づけていくかの作戦を立てることになります。
経営ビジョンでは、経営目標設定の源泉、戦略策定の指針となるものなので、はっきりとイメージできるように、具体的でわかりやすくなければなりません。ただし、必ずしも数値目標(定量目標)にこだわる必要はありません。
事業ドメインの確立
事業ドメインは、自社が本業として行なう事業分野のことで、経営理念に基づき自社の強みを発揮しうる事業領域を意味します。
経営環境の変化が激しいときは、これに応じ事業分野も変化し、事業ドメインである本業の再構築も不可欠となる。
事業計画書の中では、「どの事業ドメインで事業を行っていくか」を明確にします。
事業ドメインとは、「だれに」「どこで」「どうやって」事業を行っていくかを決めるものです。
事業ドメインが決まっていると、事業がスムーズに進むことになります。事業ドメインがあいまいですと、競合他社との差がつかず、売上に結びつかなくなってしまいます。
「どんなお客様を対象にしていくか?」を絞っていくことになります。
ただし、ここで注意が必要です。「事業ドメインを一度決めると簡単には変更できない」ということです。「あまりに絞り過ぎて、対象顧客が少なすぎた」とか「ビジョンやコンセプトと事業ドメインとの整合性を考えなかったので、事業ドメインの選択を間違えた」ということのないようにしていきます。
コア・コンピタンスは、この事業ドメインを創出する企業の源泉となるものです。
中小企業の基本戦略のひとつ目は専門化です。
専門化とは、顧客に提供する製品やサービスの独自性を強めること。ミニ(ニッチ)マーケットが乱立する市場は、専門家、すなわち多くの「オンリーワン企業」を容認するものであって、企業の棲み分けを可能にしています。
そして、この市場を狙った戦略が専門化戦略です。
ニッチ市場でオンリーワンの地位を築けば、必然的に競争は回避され、他企業に対し優位性を確保できます。
この実現は、自社特有の製品・サービスを創出する力が必要です。
企業に蓄積できる能力には限界があるため、どの領域で専門化していくのかを明らかにする必要がある。これは、コア・コンピタンス(中核的な能力・知識の塊)の確立を意味しています。
コア・コンピタンスは、顧客に対して、他社には真似のできない自社ならではの価値を提供する企業の中核的な力であり、個別のスキルや技術ではなくそれらを束ねた全体であり、組織における集団的な学習能力であるといえる。
中小企業においては、自社におけるコア・コンピタンスを確立し、専門化戦略をとることが大企業以上に求められています。
機能別に中期経営方針を設定
最高経営機能やマーケティング機能など、自社にとって重要と思われる項目について個別に中期方針を決めます。
経営目標を設定する
経営目標は、「業績目標」「事業目標」「組織構造目標」「企業規模・設備投資目標」などの目標で構成されます。
現状のまま何もしなかった時の3~5年後の予測と、経営ビジョンを踏まえた達成したい中期経営目標とを比較し、戦略を検討します。
1 業績目標
業績目標とは、経営ビジョンにおける自社の将来像を具体的な業績数値として明確化したものです。
この業績目標は、経営ビジョンを達成するために、日常業務を規定し、企業全体を1つの方向に導くものです。
業績目標の数値は、合理的根拠に裏付けられたものであり、また、最大限に努力して達成可能なものでなければなりません。高すぎて全くの画餅であったり、低すぎて従業員の意欲を低めるものであっては意味がありません。
業績目標設定の視点
業績目標は下記の視点から設定されます。
・資本利益率、売上高利益率などの業績指標で目標設定する
・売上高、利益金額、自己資本額などの実数で目標設定する
・労働生産性、1人当たり人件費など生産性で目標設定する
・市場シェア、業界ランクなど会計数値以外の指標で目標設定する
売上高(対前年度伸び率)
売上高は企業のパワーの源で最も基本的な指標です。
製品が成長期である場合、シェア重視で良いが成熟期にある場合、利益効率や資本効率を重視します。
営業利益(売上高営業利益率)
本業でどれだけの利益を得ていくかという目標値
経常利益(売上高経常利益率)
金融収支を合わせた利益指標です。
本業の利益効率だけでなく、資金調達・運用の巧拙も反映されます。
総資本経常利益率
収益性を見る最も基本的な指標
売上高経常利益率と総資本回転率に分解して目標設定します。
自己資本経常利益率
株主からの払込資本に対する業績指標として重要ですが、自己資本比率が低い(借入依存度の高い)企業では、短期的には経営目標とはなりにくいものです。
2 事業目標
中期目標の設定で重要なことは、自社がどのような市場分野で発展したいか、その分野でどのような商品(製品)を扱っていくかというように、市場・商品(製品)の両方の組み合わせから目指す事業領域や事業内容を明確化します。この事業領域や事業内容を明確にすることが事業目標の設定ということです。事業目標の設定過程において、現在の事業を引き続き、継続していくのか、それとも事業の幅を広げていくか、奥行きを深めていくか、あるいは新しい事業分野へ進出するのか等について検討します。
3 組織目標
組織活性化や企業を取り巻く環境への対応を可能とするために組織目標を設定する。
組織目標設定の着眼点
経営幹部層の育成や企業の後継体制を考慮した組織構造を目指す
組織活性化を促すようなフレキシブルな体制を志向する
1人ひとりの能力開発につながる組織編成を目指す
自社の市場・商品戦略を実現できる組織構造を構築する
自社だけでなく、得意先、仕入先などとのネットワーク組織を考える
事業部制、分社化など組織の細分化による活性化を考える
従業員数、組織構造
「従業員1人当たり売上高」「従業員1人当たり人件費」「労働生産性」などの目標値、社員構成、人材状況、財務状況等の観点から、無理のない適正社員数を部門毎に設定します。
業績目標等の経営目標を効率的に遂行するための組織のあり方を検討し、どんな組織構造にするか等を明らかにします。
営業(生産)拠点数、設備投資
外部経営環境を踏まえて、営業(生産)拠点数、設備投資等を検討します。
設備投資については、投資効果を測定(生産・売上高増加、原価・費用低減)し、設備投資額・資金調達額等について目標を設定します。
事業部制、分社、合併、買収
今後の組織のあり方は、経営目標を達成するために策定された経営戦略によって規定されます。「組織は戦略に従う」のです。
企業規模の拡大、取扱商品の多様化、海外進出や経営のスピード化等は、より迅速に意思決定ができる組織を求めます。このことから、分権的組織の構築が必要となり、事業部制や分社化等が検討されます。
また、競争への対応、事業展開のスピード化、外部経営資源の活用等の観点から、合併・買収(M&A)等も有効な経営手法であるといえます。
経営活動に影響を及ぼす要素を洗い出し、自社のおかれている現状や今後の経営の方向性を分析します。
経営環境は、おもに次の2つに分類できます。
外部環境:
企業の外から影響を受ける環境要素で、政治・経済環境、技術動向、市場動向、競争相手の動向などがある。
内部環境:
企業の内に存在している環境要素で、生産力、財務力、人材、マーケティング力、組織風土などがある。
・SWOT分析
内外の環境と自社経営に及ぼす であろう事項から、「強み」「弱み」「機会」「脅威」を明確化します。
この分析から、自社の強みを活かし、事業機会を捉えるような戦略を抽出します。
経営課題を設定する
経営課題は経営目標と現状とのギャップです。
自社の経営分析(外部経営環境分析+内部経営環境分析)により明らかになった経営実態と、経営理念・経営ビジョンに基づいて設定された中期経営目標から、自社の問題点を認識し、解決すべき問題点を経営課題として設定します。
経営戦略は、このようにして設定された経営課題を解決するために選ばれたシナリオ、方法です。したがって、まず経営課題を明確にすることが重要です。
1 戦略課題を検討
自社の問題点を、経営環境、経営力、企業力の3つの観点から分析し、優先順位を付けます。
次に、それが政策上の問題なのか、管理上の問題なのか、業務上の問題なのかを整理し、将来にわたって真っ先に取り組まねばならない最重要課題と、次のステップで取り組む重要課題とに分類します。
2 業績課題を検討
戦略課題のうち、企業力については深く掘り下げて分析する必要がある。全体の傾向を掴んだのち、商品の収益力(付加価値率)、財務収支の状況、資金調達・運用の状況から、自社の問題点を分析し、将来自社が取組むべき課題を整理します。
3 情報・管理システムの課題を検討
情報システム
情報は現代の企業経営においては不可欠なものですが、それが活かされるためには共有化され、効率的に利用できるようになっていなければなりません。また、適切な情報管理も必要です。
財務管理
経営管理をしっかりと行うためには、財務管理がきちんと行われていなければなりません。制度会計は当然として、管理会計の活用により業績管理が月次で実施され、その分析結果等が経営のコントロールに生かされなければなりません。
経営戦略を考える
(1)事業領域を決める
事業領域は、企業が事業を行うフィールドであり、市場(対象顧客)、自社が保有する経営資源(商品、サービス、技術、ノウハウ等)、業務活動、提供価値(快適、品質、安心、ゆとり、笑顔、価格等)等の要素から決定されます。
(2)商品(製品)、市場を検討する
どんな商品(製品)分野、どんな市場分野を自社の活動対象とするか、3~5年後にいくつかの商品(製品)や市場をどのような組み合わせで持つか、絞り込んだ商品(製品)をどのようにレベルアップするか等を検討します。
(3)業務活動分野を検討する
業務活動分野の検討とは、川上の原材料の調達から始まり、開発、生産、川下の物流までのプロセスにおいて、自社がどの分野を担当するかを検討することです。
これは、企業の成長にとって非常に重大な決定であり、その後の社員数、設備、既存取引先との関係に大きな影響を与えます。
(4)提供価値を検討する
企業には、事業活動に必要な さまざまな資源や能力(これらの総称を経営資源という)が存在し、それに応じて提供できる価値が制約されます。一方、提供したい価値もある。経営資源、経営ビジョン等から提供価値を検討します。
なお、現状の経営活動や経営資源を大幅に変更させることが必要な場合、リストラクチャリング、つまり、事業全体を再編成する必要がある場合があります。この場合には、下記の観点から事業の再編成計画を立案し、その後経営基本戦略の調整を行うことになります。
・本業の強化
・新事業の開発
・衰退事業の統廃合と撤退
基本経営戦略の構築
企業ビジョン及び中期経営目標と現状のギャップを把握した後、このギャップを埋める方法を検討することになります。
経営戦略は、基本戦略と個別戦略(機能別戦略等)からなり、代表的な基本戦略として、成長戦略と競争戦略が挙げられます。
いずれの経営戦略の策定においても、自社、競争相手、市場、製品の視点が不可欠となります。
中小企業の戦略技法と戦略策定視点
経常戦略を策定するとき、有効な戦略技法を活用していくことがポイントです。
ここでは、中小企業にとっての経営戦略策定上の視点を記述します。
1 成長戦略
企業の事業額域を拡大していくためには成長戦略が基本になります。そのとき「市場-製品」の組み合わせで、自社の成長の方向性を決定していくことかできます。
(1)市場浸透戦略
現在の「市場-製品」に対して、販売戦略などで市場占有率の増大を目指し、成長の方向性を見出す戦略です。
(2)市場開発戦略
現在ある製品を、新しい使い方などを探ることによって、新しい市場に投入する戦略です。
(3)製品開発戦略
既存の市場に対して新製品を開発し、新たな需要を喚起する戦略。
(4)多角化戦略
市場-製品の両面でまったく異なった分野に進出する戦略です。
企業の成長は、この4つのいずれかの基本的枠組みの戦略によって実現します。
成長の方向性を考えるとき、既存の経営資源(販売、生産、技術、経営管理など)のシナジー(相乗)効果測定を行ないます。
たとえば、多角化戦略において、市場と製品が新しくても、流通や技術の共通性がある場合は戦略としては有効性が高いものになります。とくに中小企業が成長戦略で事業拡大していくには、シナジー効果を最大限に考えた戦略策定が望まれます。
2 競争戦略(ポーター 3つの競争戦略)
経営戦略の大きな目的のひとつとして、競合他社との競争優位を確保することがあげられます。
競争優位の源泉となる競争戦略は、次の3つに類型できます。
(1)コスト・リーダーシップ戦略
業界全体の広い市場をターゲットに他社のどこよりも低いコストで評判を取り、競争に勝つ戦略です。
(2)差別化戦略
製品品質、品揃え、流通チャネル、メンテナンスサービスなどの違いを業界内の多くの顧客に認めてもらい、競争相手より優位に立つ戦略です。
(3)集中化戦略
特定市場に的を絞り、ヒト・モノ・カネの資源を集中的に投入して競争に勝つ戦略です。
これは、さらに2つの戦略に分類できます。
- コスト集中で、特定の市場でコスト優位性に立つことで競争に勝つ戦略
- 差別化集中で、特定の市場で差別化することで優位に立ち、競争に勝つ戦略
中小企業の場合、競争戦略の柱は専門化を志向した集中化戦略になりますが、業界・業種によっては、集中化戦略を取りにくい特性を有する分野もあるでしょう。
経営者は自社の経営資源と業界特性を考慮し、競争戦略を策定していく必要があります。
求められる中小企業の経営戦略
経営環境の変化でとくに注目されるところは、市場の成熟による顧客ニーズの多様化・高度化に伴い、ミニマーケットあるいはニッチ(すき間)マーケットが顕在化していることです。
しかも、これらの市場は流動的に変化し、さらに、そのスピードも速いものになっています。
したがって、これからの企業には、つねに変化する顧客ニーズに迅速に対応できる能力と自社独自の商品・サービスを提供できる能力とが求められています。
これらの動きは、中小企業の強みとする機動性と独創性に合致していますが、一方で中小企業の弱みである乏しい経営資源を補完していかねばなりません。
そこで、中小企業の経営戦略の方向性のひとつとして、
・独創的事業を創出できる自社固有の技術やスキルを醸成する
・外部との連携を通じて自社の中核部分以外の経営資源を補完する
ということが考えられます。
こうしたことから、中小企業のとるべき基本的戦略は、専門化戦略と外部連携化戦略の2つに絞り込むことができます。
(1)専門化戦略:
コア・コンピタンスの確立
(2)外部との連携化戦略:
アウトソーシングによる外部資源の有効活用
市場の変化や技術の革新が著しいと、中小企業の経営資渡だけで戦略的な対応をするには限界がある。
専門化を進めながら、外部との連携化戦略を展開することこそ中小企業の取るべき戦略のひとつであるといえます。
これは、自社の中核となる機能に経営資源を集中させる一方で、それ以外の部分はアウトソーシング(外部化)を行ない、経営資源の補完性を高めることを意味します。
外部連携化戦略は、中小企業の経営資源を補完すると同時に、企業連携(ネットワーク)を有機的に組み合わせ、環境変化に適応できる組織の機動性をより一層高めることを目指すものであるといえます。
戦略の実行
最初に、企業における戦略の実行に必要と考えられる資源を配分します。
一般的に、企業の経営資源は、ヒト・モノ・カネ・情報といわれます。あらゆる企業にとって、これら経営資源は限られたものであり、経営戦略に基づいてこれを最適に配分し最大の効果を得ることが重要です。
具体的には、事業組織の組み替え、事業の資金配分などがあげられる。
経営戦略は、「ヒト・モノ・カネ」の最適な配分がその根幹となります。目標を決めたりスケジュールを決めたり、事業の可能性を見定めたりという作業は、究極的にはこれら経営資源の配分の仕方を決めていくためにあるものです。
企業の運営上は、どうしても「カネ」の配分の仕方に意識が行きがちです。それ自体は間違ったことではないのですが、企業を末永く持続的に成長させていくためには、「ヒト」の扱い方が非常に重要になってきます。
企業は、いくら成長分野にカネやモノを投入したとしても、最終的には それらをうまく扱う人が断続的に配分されなければ、どこかのタイミングでその企業は成長が止まり、やがてはだめになっていきます。
したがって、経営戦略を成功に導くうえでは、「ヒトの最適配分」、そして、「ヒトの成長」の観点がとても重要になってきます。
続いて、命令系統(階層構造)あるいは それに代わる何らかの構造(たとえばプロジェクト・チーム)を確立し、求められる可能性のある権限と責任を企業内や組織内のグループやメンバーにそれぞれ割り当てるのです。
優れた経営戦略を実行していくには、経営と組織管理のあり方を根本的に見直し、実行性(実効性)のある組織風土を形成していくことが重要です。経営のあり方を見直すには、将来的な展望の下、徹底したロジカルシンキングができる経営体質を構築すること。それには、確固たるリーダーシップを持ったリーダーが必要です。場合によっては、社外からそれにふさわしいパートナー(社外取締役も含む)を登用することも視野に入れます。
また、良い経営戦略を実行していくには、良い「仕組み」が必要です。経営戦略を実行するための具体的な日々の活動を管理する「経営管理」の下、日々の活動の進め方を決定する「計画」と活動状況をチェックする「評価」、そして、活動を支える「組織」がしっかりと機能する仕組みを整備していくのです。そのためには、経営トップと各事業の責任者、経営企画・人事部門の責任者が、いかに協働して具体的で実効性のある行動に移れる体制を構築できるかが重要です。
「経営戦略」とは、企業が目的(使命)を達成するために、「何をどうやって行うか」(シナリオ)を定めたものです。しかし、経営戦略を策定しただけでは、「誰が何をするのか」(実行プラン)がよく見えません。そこで、経営戦略に基づいて、各部門の「事業計画」が作成され、その計画から各従業員の「業務計画」を設定する仕組みが人事管理の中に組み込まれることになります。これによって、各自のやることが明確化され、意味づけされていけば、経営戦略を実践することができます。
例えば、グローバル展開を進めるに当たり、生産拠点の現地化を進めることが経営戦略として決定されたら、それを受けて、人事は現地で活躍できる人材の育成を事業計画に盛り込み、そのための能力開発・研修施策を整備する必要があります。これが「戦略人事」のあるべき姿です。
会社の経営戦略を具現化するためには、経営戦略と人事戦略の連動(戦略人事)が必要不可欠なのです。そのために、人事部門は、経営戦略の実効性をいかに高くしていくかという強い「使命感」と具体的な「実感値」(実効性のある施策)を持って、人事業務に携わっていく必要があります。
戦略計画は以下の連続したプロセスである。
①リスクを伴う起業家的な意思決定を行う
②その実行に必要な活動を体系的に組織する
③それらの活動の成果を期待したものと比較測定する
まず、あらゆる種類の活動、製品、工程、市場 について、「もし今日これを行っていなかったとしたら、改めて行おうとするか」を問わなければならない。答えが否であるならば、「いかにして1日も早く止めるか」を問わなければならない。さらに、「何を、いつ行うか」を問わねばならない。「何を行うか」を問うだけでは、問題の一面を取り上げたにすぎない。「いつ行うか」という問いへの答えこそ、新しい仕事に取り組むべきタイミングを教えてくれるからです。
戦略計画は、将来において成果を生むべき活動に資源を割り当てて初めて意味を持ちます。従って、「今日この仕事のために、最高の部下のうち誰を任命するか」を問うことが不可欠なのです。
そして、プロセス遂行を管理します。そして、状況などから必要に応じて資源を配分したり、プロセスの変更を実施したりして進めていくのです。
計画の立案
企業における単一事業の計画である事業計画と一企業の複数事業の計画である経営計画があります。一般的に定義される経営計画は、後者である一企業の複数事業の計画を指します。
経営計画と経営戦略は戦略の構成要素として位置付けられています。
戦略を実行するための計画立案
優れた戦略を描いている企業では、従業員一人ひとりの日々の行動にまで計画が落とし込まれています。
経営戦略の内容は、従業員にとっては抽象的な内容になっていることが多く、日々の行動として何をすればよいのか、戦略と紐付かないことが多くあります。具体的な行動しやすい内容に計画立案することが肝要です。戦略を立案する際には実現したい姿を明確にしていきます。どのような状態にもっていくのか、現状と比べて何をどの程度改善・改革していく必要があるのかを意識して、戦略のゴール設定を行います。
戦略を日々の行動に落とし込むためには、計画立案するところから始めることが重要です。
計画立案の際には、戦略を実行することで実現したい姿(ゴール)を設定します。
企業が決定した目指すべきビジョンに到達するために、具体的なマイルストーンを設定し、その達成のための計画を立てます。
具体的には以下の3つが挙げられます。
・長期経営計画
・中期経営計画
・短期経営計画
それぞれ 経営戦略を決定した後に立てられるものであるため、経営戦術と同様、経営戦略の下位概念になります。
ただし、経営計画は投資家が企業に対し投資を検討する重要な指標にもなるため、上場を目指す企業は念入りに経営計画を立案することが多いのです。
長期戦略と中期戦略
企業が経営戦略を策定する際の重要なポイントの一つとして、長期的に企業をどの方向に導くのか という成長ベクトルを明らかに定義することが挙げられます。
これには、目的や対象、期間によってさまざまな種類に分類され、単に期間の長さの違いではなく、計画の内容に本質的な違いがあると考えられているのです。期間の違いによる設定は以下の具体策が挙げられます。
長期:5~10年 企業目標の設定・達成方策、トップダウン
中期:3~5年 長期計画のブレークダウン、トップダウン、ボトムアップ
短期:1年以下 具体的な業務の内容、ボトムアップ
経営戦略を時間軸で捉えると、長期戦略、中期戦略、短期戦略に分けられます。長期的に企業をどの方向に導くのか、という成長ベクトルの明らかな定義が経営戦略を策定する際の重要なポイントとされています
なお、範囲の違いにおいては、全体戦略(全社戦略)、事業戦略、部分戦略(機能別戦略)と分類できます。
戦略の評価
バランスト・スコアカード(BSC)やSWOT分析などを通じて、合理性や実行可能性、正当性などといった視点や観点から見出された戦略の有効性を評価します。続いて、上記で挙げられた戦略が企業や事業の戦略に有効であるかどうか判断するのです。
もし、市場状況が変化した際などは、必要に応じて戦略を変更・再策定、さらに分析していきます。